イベント
「西美濃八十八人衆ピアノコンサート」レポート。風間望で笑い,花の生演奏で泣く――実況者だからこそ実現した音楽イベントの新たな形
本公演は,稲葉百万鉄さん(以下,稲葉さん)と,がみさんによる実況者グループ「西美濃八十八人衆」(以下,西美濃)がこれまで実況してきたゲーム作品をテーマに,メーカーやタイトルの垣根を越えてさまざまな楽曲が演奏された,“オムニバス形式”のコンサートだ。
ピアノ奏者は当人らではなく,プロの演奏家が務めている。
[インタビュー]西美濃八十八人衆に,“ボルゾイ企画”時代から秋のピアノコンサートに至るまでの道をたっぷり聞いた
ゲーム実況文化の黎明期から活動を続けている「西美濃八十八人衆」の稲葉百万鉄さん&がみさんに,インタビューをする機会を得た。「ボルゾイ企画」時代から「秋のピアノコンサート」まで,2人が歩む道のりは今も途上だ。
来場者についてはハッキリと「この実況者が好き!」という人しか来ていなかっただろう。だからどんなタイトルの楽曲が演奏されても,その人自身のプレイ経験は問わず,動画を視聴してさえいれば「お,この曲はあのとき実況してたあれだ」と再会できてしまう。
つまり,ゲームのジャンルや人気,メーカーの区分にもとらわれず,楽曲の選曲もバラエティ豊かなコンサートとなる。
それこそがオムニバス形式ではあるが,従来型のイベントと違うのは“好きな実況者が遊んだゲームの曲”という核があることだ。そこが非常に分かりやすく,強力な主題として据えられている。
これはゲーム業界における試みとしても新しい切り口だろう。一見すると,ファンではない人には間口がせまいように思えるだろうが,はたから見ていても興業として成立しているのは明白だった。
そんな不思議なコンサートについて,今回は当日のレポートをお届けする。さらに公演直後の稲葉さん,がみさんにインタビューして感想ももらってきたので,合わせてご覧いただきたい。
「西美濃八十八人衆 ピアノコンサート」特設サイト
アーカイブ配信のチケット販売(11月30日まで)
「バンバード」から「花」の生演奏まで
国境なき“ゆめ”のようなコンサート
昼公演の開演5分前。来場者で埋まる会場に,稲葉さんの「平素より,大変お世話になっております」の声が響く。聞きなれたいつものあいさつを耳にして,場内に笑顔と拍手が広がった。
そう。来場者は全員,確実に,西美濃のファンだけだ。裏を返せば,このやり取りにウケる人しか来ていない。ファンを集める催しというのは総じてそんなものだが,建て付け的になんとも不思議に思える。
公演開始を告げる1曲目は,この場を生み出した,まさに“始まり”とも言えるゲーム「ゆめにっき」より「ゆめのはじまり」。懐かしい日記をめくるかのような気持ちが会場内に広がっていく。
続く曲は「やさしいこだとおもってた 〜ポニ子〜」。温かい音楽からの,激しく恐ろしい旋律への移り変わりは,あの“ウボア”を受けた,がみさんの名シーンをついつい思い出してしまう。
次なる曲「NASU」は,ジャンプしてナスを取るSEまでもが忠実に再現されたコミカルな演奏に。会場の空気感で聴いていると,本当に“ホラーの合間にある心のよりどころ”のように感じるから不思議だ。
最後におなじみのフレーズ(調子に乗るからすぐ終わる〜♪)が流れたときは,稲葉さんの「じゃ,Escキーを……」の声を脳内で再生してしまった。書くのが遅れたが,私も西美濃のファンである。
思い出たっぷりなゆめにっきパートのラストは,同作のエンディング曲「 」。今でも脳裏に焼き付いている,主人公(通称・窓付き)が迎えた最後のシーンが目に浮かぶようで,楽曲というものが持つ記憶を引き出す力をあらためて認識させられた。
しんみりしたのもつかの間。舞台奥に設置されたモニターに,なにやら見覚えのあるエクセルが映し出された。始まった演奏は「三国志II」より「呉のテーマ」。そう,我らが元老院会議のテーマだ。
端から端まで西美濃な公演ということで,MCも元老院仕様だ。「生演奏のなかでのMC,これがやりたかった!」とは稲葉さんの談である。
※MC元老院自体は,収録音源の再生パート
ここであらためて,ピアノ奏者の藪野遥佳さんが紹介される。
MCでは「(藪野さんは)三重出身で,我々より断然,岐阜(美濃)に近い」とコメントされ,会場から大きな笑いが上がった。
それから西美濃よりイベント概要が再説明され(もちろん丁寧なエクセル付き),本公演の企画を持ちかけられたときの話に続く。
過去には両名に「学園祭に出てみませんか?」といった依頼もあったらしく,ファンには興味深いエピソードが披露されていった。
話の終わり際,がみさんが「カイロソフトメドレーでございます!」と曲フリすると,「ゲーム発展国++」より「タイトル」の演奏がスタート。そこからゲーム内の恒例イベント「ゲームデックス」,いいイベントが起きたときに流れる「ハッピー」,さらにお次のパート「海鮮!!寿司街道」より「店内BGM」へとつながっていく。
いずれもピアノ曲としてのイメージは薄いが,だからこそ新鮮に思えてくる。なかでも軽やかに,跳ねるように演奏された「ハッピー」は,音色で多幸感を叩きつけてくるかのようだった。
メドレーが終わり,ふと息をついた観客席に,穏やかな,しかしどこか悲しげな調べが届く。曲は「To The Moon」より「To the moon - Main Theme」。同作が演奏されるのはトリか,そうでなくとも終盤だろうと思っていたため,まさかというタイミングだった。
不意打ちをくらった情緒に追い打ちをかけるように,壇上での演奏は「For River」へと続き,観客席の感情を揺さぶってくる。
本公演では,サラとトミーが奏でるFor Riverと,ジョニーが奏でるFor Riverの2バージョンが披露された。同じ曲でありながら,藪野さんの演奏からはその違いがしっかりと伝わってくる。聴いている身としてはたまらない。開幕したばかりの場内でも,さまざまな席からすすり泣きの音が聞こえてくる。目頭をハンドタオルで押さえる人も多かった。
感動に押し寄られた聴衆を次に誘ったのは,とあるファミレス“ムーンパレス”。演目は「ファミレスを享受せよ」メドレーだ。
壇上では「過去を照らす月」「月の光」「フライ・ミー・トゥー・ザ・レストラン」……月夜に照らされたファミレスで,確かに聞いたあの曲たちが,絶妙なピアノアレンジで奏でられていく。
特徴的な場面で流れる「総当たり」は,すこし淡々とした原曲の印象とは違い,焦燥感を煽るような曲調になっていて新鮮だった。
7曲メドレーを享受した観客たちに,軽快なメロディーが襲いかかる。「そろそろ寿司を食べないと死ぬぜ!」より主題歌「SUSHI SOUL」。ファミレスから寿司屋へという(正確には“屋”ですらないが),オムニバスコンサートならではな遊びを感じられるセットリストだ。
さらに本公演ならではの仕掛けとして,同作にさまざまな名作たちを彩ってきたmozell氏のフリーBGMが使われていることにちなみ,フリーゲーム界の名曲「スカイスレイ」と「バンバード 〜Piano Version〜」(以下,バンバード)の2曲まで演奏された。
なんならバンバードは奏者を追加しての連弾で,会場にもクラップ(手拍子)を促し,原曲らしさを引き出すような演奏となった。
フリーBGMというのはその立ち位置的に,どれだけ名曲だろうと「特定の作品での使用例でもって,こうした場で演奏する」となると,第三者としてもいろいろと難しく考えたくなる事情が容易に想像できる。
しかし,本公演ではフリーBGMが主役級な扱いで演奏され,会場全体も一体となって楽しんでいた。こうした機会が生まれたのは,フリーゲームと蜜月をすごしてきたゲーム実況文化なればこそだろう。
余談だが,当日の夜公演ではバンバードの連弾前に,藪野さんによるMCがあった。そこで「すごいですね。見渡す限りのザリTですね」という発言があり,会場中に笑いが巻き起こっていた。
言われてみれば確かに,異様な光景である。
連弾後は,続編「そろそろ寿司を食べないと死ぬぜ! ユニバース」より主題歌「Fly through」に続いた。SUSHI SOULもそうだが,どちらも本公演では数少ない歌モノとあり,聞いているだけで歌詞が思い浮かんでくる感覚が楽しい。ピアノで味わう寿司の世界は,また格別だ。
ここで公演前半が終了し,15分間の休憩に移った。それを知らせるアナウンスも稲葉さんによるもので,会場からはまた拍手が上がった。
休憩後は「Doki Doki Literature Club!」(ドキドキ文芸部!)で幕開けした。日常シーンで流れる「Doki Doki Literature Club!」や「Play with Me」をはじめ,ピアノ映えする曲がメドレーで披露されていく。ピアノ生演奏のよさを静かに,力強く味わわせてくれた時間だ。
とくに最後の曲として流された「Your Reality」では,思わず涙が頬を伝ってしまうほど感じ入ってしまった。
……しかし,そんな涙もすぐに引っ込んでしまうことに。舞台奥のモニターに,またも見慣れたあのエクセルが映ったからだ。
会場を笑わせたMC元老院の次なる生演奏BGMは,「信長の野望・覇王伝」より「青い波頭」。ファンには“西美濃eショップパトロールクラブのテーマ”としておなじみの曲である。
ここで公演後半のピアノ奏者であり,先ほどのバンバードで藪野さんと連弾していた,瀬戸一王さんが紹介された。
瀬戸さんはさまざまなゲーム楽曲の演奏動画を公開しており,稲葉さんも「めっちゃ聞いてます!」とのこと。とくに「逆転裁判」「逆転検事」の“追求・追究メドレー”が好きなのだそう。がみさんも「まさに今回のイベントにうってつけの方」と太鼓判を押す。
MCの話題が,次に送られる「リクエストコーナー」へと移った。同コーナーは,西美濃の膨大な実況タイトル数をすべて演奏するのは難しいことから,ファンに要望された楽曲をピックアップして演奏しようという時間だ。こちらの応募数はなんと2000通にものぼったらしい。
壇上ではリクエストを実施してよかったという話とともに,がみさんが「動画を見ていただいている方々の思いが見られた」と述べる。
アンケートの自由記述欄に書かれた文章から感じ取れた熱意に対して,2人は来場者たちへの感謝のメッセージを届けていた。
がみさんが「瀬戸一王さんによるリクエストメドレーです。お楽しみください!」と曲フリすると,まずは「薔薇と椿 〜お豪華絢爛版〜」より「華の淑女」が披露された。非常に濃い世界観のゲームの,エレガンスな曲調は,鍵盤楽器の旋律でもよく映える。
高貴な雰囲気から一転し,お次は「絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち-」より「名もなき記憶のプレリュード」。こちらはキャラクター選択画面などで使用されているBGMだ。耳にしているだけで,あの富坂市を生き抜いたキャラたちの顔が浮かんできてしまう。
あとに続くは「ウツロマユ-Hollow Cocoon」よりエンディングテーマ「繭籠り」。静かな立ち上がりはやがて,幾重にも音が折り重なるサビへと入り,聴く者の感情を震わせてくる。奏者の技術もすごい。
メドレーの最後を飾るのは,「グノーシア」よりエンディングテーマ「blue sky,blue star」。大団円の温かさに満ちた曲調には,どこか物寂しさや儚さも感じる。ピアノ演奏でも原曲の色は失われておらず,最後の余韻までじっくりと,あの個性的な世界の思い出に浸らせてくれた。
リクエストメドレーに引き続き,「学校であった怖い話」の語り部たちのテーマもメドレー形式で演奏されていく。
選曲は「新堂誠」「岩下明美」「風間望」「福沢玲子」……そして「日野貞夫」だ。まさかあの“日野さん”が登場するとは思わず,鳥肌が立つほど興奮してしまった。かの名言「よお、稲葉。気がついたかよ」が衝撃とともに思い浮かんだ人も多かったのではないだろうか。
おもしろかったのは,「風間望」に差しかかるタイミングで何人かの笑い声(クスッという小さなもの)がしたことだ。学怖随一の強いキャラクター性は,そのあとに実況された「晦-つきこもり」への影響や,動画へのコメントなどでたびたびネタにされていたことから,彼らの脳裏に刻まれてしまっていたのだろう。曲を聞いただけで思い出し笑いできてしまうのも,なんだかこの空間ならではな感じがする。
ここで瀬戸さんが一礼とともに退場し,さらなる奏者変更かと思い待っていると……壇上になんと「俺の屍を越えてゆけ」のゲーム内音楽を担当した樹原涼子さんと“ごきげんバンド”の3人,さらに「俺の屍を越えてゆけ2」の作編曲者・樹原孝之介さんが姿を現した。
まさかのサプライズ登壇に,会場が大いに沸く。
演奏曲はもちろん「俺の屍を越えてゆけ」の楽曲たち。まずは樹原孝之介さんにより,ピアノ連弾かつバンド演奏用にアレンジされた「京の春」「対決」「決戦」のインスト3曲がお披露目される。
ピアコンらしいムードに浸っていた場内に,原曲さながらの楽器編成によるハードな音楽が鳴り響く。体感のギャップはもとより,こちらの記憶にダイレクトに語りかけてくるような衝撃に気分もアガる。
しかも「京の春」では,脇下家を支えるイツ花の声が。「対決」では,奥義を放つ効果音が。「決戦」では,黄川人と対峙する“脇下一族”最終世代の姿が……と。各楽曲が流れていた場面とともに,動画で印象的であった出来事もありありと思い起こさせられる。
最後はもちろん「花」だ。本公演においては唯一の(樹原涼子さんによる)歌唱付きでの演奏。「お待ちかねの……“生「花」”ってやつをやります」と樹原さんがうれしそうに言った姿が,今でも印象深い。
美しいイントロから先,華やかで,伸びやかで,力強い歌声が会場中を包み込む。「花 花 どんな花」の歌声が響いたとき,観客席で鼻をすする音が増えていったのは聞き間違いではないだろう。
渾身の演奏後,壇上の5人には万雷の拍手が降り注いでいた。
直後,樹原涼子さんによるMCがあった。近年はコロナ禍もあり,ごきげんバンドが活動するのはゆうに5年ぶりだったそうな。
場内に響く拍手で,あらためて俺屍が歴史的な名作であることを感じられたと,西美濃ファンに向けて感謝の言葉を述べていた。
「これで終わりかあ……」としんみりした会場の余韻を拭うように,舞台奥のモニターに例のエクセルが映し出される。すでに3度目ながらも,会場にいるファンたちはそれを見て,つい笑ってしまう。
何度も書いてきたが,この場には「そんなエクセルを見ただけで笑う人たち」しかいないのである。
最後のMC元老院の話題は,やはり先ほどのサプライズゲストだ。2人とも,最初に樹原さんらの参加を耳にしたときはとにかく驚いたという。ここで稲葉さんが本公演を締めくくる,「きっと熱狂の赤い火が,大田区には灯っていると思います」というステキな一言を告げた。
そして最後に,稲葉さんが閉会のあいさつをがみさんに無茶ぶりする。唐突なフリに対し,エクセルに書かれた言葉を読み上げるがみさん。それを見て爆笑する稲葉さん。彼らを見て笑うファンたち。
私たち西美濃ファンは,動画を楽しんだタイミングや場所は違えど,きっとこういうやりとりを見て,みんなしていつも笑っていたんだろうなと。不思議な一体感を持てる会場を見ながら思っていた。
「大学のころさ,新宿の辺境とされる下落合のワンルームで」
「せまかったねえ」
「そこでひっそりと始めて,がみさんに声をかけて……喋りながらゲームを遊ぶっていうことがここまで続いてきて……」
笑顔が咲くイベントが,和やかなやり取りで終わりに向かっていく。2人は最後に,友人たち,イベント関係者,参加アーティスト,そしてこれまで応援してくれたファンに,全方位の感謝を送った。
そして最後の曲へ。始まりの話をした直後,ここで演奏されるべきはやはり,始まりの曲。2人の代表的な実況タイトル「ゆめにっき」より,タイトルを冠した楽曲「ゆめにっき」が満を持して披露される。
この夢のような日を忘れないよう,日記へと記し,セーブするかのように,静かなメロディが記憶に変わっていく。ピアノの柔らかな音が会場に溶け消えると,観客席いっぱいの盛大な拍手が生まれる。
私たちが手を合わせるその音は,出演者全員によるあいさつが終わり,みんなが退場するまで,ずっと鳴り響いた。
公演直後の西美濃八十八人衆に聞く
ピアコンを終えての感想や今後の展望
昼公演の終了直後,西美濃八十八人衆の稲葉百万鉄さん,がみさんに話を聞かせてもらった。計画は綿密にやってきたが,コンサートを実感したのは初めての今,2人はなにを思ったのだろう。
さらにだ。これは本当にたまたまなのたが,現地にやってきていた元ボルゾイ企画の「くわさん」にも同席してもらうことができた。今回はそんなスペシャルな3人のにぎやかな様子をお届けする。
4Gamer:
すばらしいコンサートを終えた今,率直な感想はどうでしょう。
稲葉百万鉄さん(以下,稲葉さん):
いやもう……言葉が出てこないです。全部よみがえってきた感じです。実況したゲームの内容もそうですが,2人で遊んできた思い出とか,そういったものを振り返りながら,ずっと聞いていましたね。
がみさん:
感無量というか,全部泣きそうでした。
稲葉さん:
ちょっと鼻すすってたよね? あれやっぱり泣いてたの?
がみさん:
それは蓄膿症のせいだと思う(一同笑)。
稲葉さん:
鼻炎でね(笑)。そっちかー。どっちかなと思ってたんだけど。
がみさん:
もちろん両方(笑)。
でも,まさか「そろそろ寿司を食べないと死ぬぜ!」の曲で泣きそうになるとは思わなかった。
稲葉さん:
あれカッコよかったしねー。
がみさん:
本当によかった。手拍子も含めて,全部すごかった。
4Gamer:
「バンバード」は会場の一体感もすばらしかったですね。
ほかに印象に残った曲はどうですか。
がみさん:
やっぱり「花」です。
稲葉さん:
樹原さんまで来ていただきましたしね。
「俺の屍を越えてゆけ」の4曲は……うん,ヤバかったです。
4Gamer:
ヤバかったですね……。
「対決」や「決戦」なんかは脳裏にSEが浮かぶようでした。
稲葉さん:
曲を聴きながら,うちの一族のことを思い出していましたよ。「あのとき,このメンツで行ったな〜」とか(笑)。
あと,ピアノベースの曲は「生で聞けた!」という喜びがありましたし,それとは別に原曲がピアノ楽曲じゃないもの,たとえば寿司系の曲……いや寿司系の曲ってなんだ。
がみさん:
意味が違ってくるでしょ。
稲葉さん:
“そろ寿司”の曲だね(笑)。
がみさん:
あとは「グノーシア」とかも。
稲葉さん:
「グノーシア」ねえ……これかなり心配してたんですよ。原曲的に,ピアノだけでは再現できないじゃないかと思っていて。だから僕らの選曲では外してしまい,リクエストのほうで拾ったわけですが。それでも「どうなるのかな……?」と当日までずっと気がかりでした。期待半分,「大丈夫かな?」の心配半分というか。
だけど実際に聴いてみたらもう……スゴくよかった。
4Gamer:
そうですね。絶妙なアレンジでした。
稲葉さん:
「ああセツ……」って思いながら聞いてました(笑)。
曲を選ぶとき,「聴いてみたいけど,ピアノコンサートだったらほかの曲かな」という感じで優先度を下げてしまっていたので,リクエストメドレーに入っていたことを今になって感謝しています。
がみさん:
あと,僕は「学校であった怖い話」の曲がすごくよかったです。
4Gamer:
学怖ですか。
がみさん:
今日演奏されたもののなかで,僕が完全にとおってないのは学怖だけなんですよ。ほかは,動画にはしてないけど配信でプレイしたり,見たりしたことのあるゲームばかりだったんですが。そのせいで学怖は「聴いてもなにも思わないかも」と思ってたんですよね。
でも,全部カッコよくて。
4Gamer:
全曲すごかったですもんね。
がみさん:
楽曲由来で学怖をやってみよう,って人も出てくるんじゃないかなと思うくらい衝撃を受けました。だからといって,僕がホラーゲームに手を出すかというと分からないんですけど(笑)。
稲葉さん:
かっこいいですよね,学怖。今回のコンサートは新堂さんから始まりましたけど,実は“日野さんから始める”という案もあったんです。
4Gamer:
なるほど! 一発目からいきなり日野さんは確かにすごい。
稲葉さん:
最終的には「やっぱり新堂さんかな」って落ち着きましたけど。
4Gamer:
収録音源のMCは,実際に会場で聞いてみてどうでしたか。
稲葉さん:
ちょっと長く作りすぎたなって思いました(笑)。
4Gamer:
あ,反省から入るんですね。
稲葉さん:
運営の人に「これぐらいの尺で〜」と指示をもらっていたのですが,実際に録るとどうしても長くなってしまって。けっこう削るか,それともすこしハミ出させるか。わりと2択だったんです。
最終的には「せっかく録ったんだし,ハミ出す方向で」としましたが,いやー削るべきだった。袖で聞いててちょっと恥ずかしかったです。
がみさん:
僕も「我ながら緊張してるな」と思って聞いていました。耳にしているだけで気恥ずかしくなって,名曲演奏で目がウルウルしてきても,自分のMCが流れると両目がカラッと急に乾きだすんですよ(笑)。
稲葉さん:
現実に引き戻されるよね(笑)。
がみさん:
あとアレですね。ピアニストの方々のお名前を言うとき,場の空気感を想定して,口を開けるまでちゃんと間を作るべきでした。音源だと,会場で拍手が起こっている最中にしゃべりはじめちゃっていたので。
稲葉さん:
そうだねー,そこはねー。
4Gamer:
意図せず反省会になっていますが,会場にいた身としては,そこまで長いとは思わなかったとお伝えしておきます。
稲葉さん:
あ,ホントですか。ありがとうございます!
4Gamer:
むしろちゃんと尺があって,ファンの人たちはうれしかったんじゃないでしょうか。ファンと言えば,グッズを身に着けた来場者も多くいましたが,開場後の場内の様子は目にしましたか。
稲葉さん:
実は表には出られなかったので,実際の様子は分からなかったんですよ。そういった空気まで味わえなかったのは残念ではあります。
でも,楽しんでもらえたならよかったなと。
くわさん:
すごかったよ。売り場も盛況だったし。
※西美濃八十八人衆の結成前,「ボルゾイ企画」で一緒に活動していたメンバー。もう1人の「ぞの」さんは本公演にフラワースタンドを贈っていた(記事序盤の写真)。今もときどき4人で実況している
4Gamer:
体感ですが,7割の人はなにかしら身につけていたように思います。
がみさん:
観客席を後ろから見渡せるカメラ映像は見ていましたが,確かに,こんなに白・赤・黒・緑の服が並ぶことはないだろうなと思いました。
4Gamer:
ザリT,ザリパーカー,鶴舞う形のパーカーの色ですね。物販では「髭のおじさん着せ替えハンガー」を買っている人も見ました。
がみさん:
ありがたいけど,なにに使うんだろう(笑)。
稲葉さん:
買うだけで目立っちゃう(笑)。
(運営プロデューサーを見つつ)よかったですね!
モトキ(Aetasの公演プロデューサー):
売れてくれないと,胃が痛くなっちゃいますので……。
くわさん:
いやー,いらないな〜。
モトキ:
あ,よかったらお送りしますんで(笑)。
稲葉さん:
一説によるとハンガー,大量に余ってるとか?
モトキ:
そ,そうですね。がんばって売ります!
4Gamer:
リカバリーはきくのかどうか。
ということで最後に,ファンの人たちにメッセージをお願いします。
稲葉さん:
最後のMCでも言いましたが,関係者の皆さま,そして普段から動画を見てくださっている方々のおかげで,こんなにもすごいイベントができたと思っています。本当に“ありがとうございます”の気持ちですね。
がみさん:
僕も感謝が第一,ではあるんですが。こうなるとけっこう欲が出てきまして。「次があったらこうしたいな」とか「別の形でこの曲を聴いてみたいな」とか,いろいろと考えてしまうんですよね。だからこそ,また次があるように,僕らの活動もがんばっていきたいなと思いました。
楽しかったです。すごく,幸せな時間でした。
終演後のインタビューを終え,(夜公演の取材待ちまで)会場外に出ると,そこでは多くのファンたちによる交流が行われていた。あらためて西美濃ファンたちの熱の高さを感じられる光景であった。
また,本公演を受けて「ゆめにっき」や「ファミレスを享受せよ」などのタイトルで,新たなグッズが展開された。
そうした“小規模な制作物でも,歴史に名を残すような名作たち”にハイライトを当てつつ,「俺の屍を越えてゆけ」や「学校であった怖い話」のような往年の名作も楽しめた本イベントは,ゲーム音楽のオムニバスコンサートとして,界隈に新たな楽しみ方を刻みつけたと思う。
そして,この日ほど「西美濃八十八人衆を好きでいてよかった」と思えて,口にできる日はなかった。彼らを通じたからこそ知ったゲームが,好きになれたゲームがたくさんある。これからも好きの輪が,いろいろな場所でつながっていけばいいなと,切に願うばかりである。
■西美濃八十八人衆ピアノコンサート
セットリスト(昼夜共通)
〇「ゆめにっき」
・ゆめのはじまり
・やさしいこだとおもってた 〜ポニ子〜
・NASU
・「 」
〇「三国志II」
・呉のテーマ
〇「ゲーム発展国++」
・タイトル
・ゲームデックス
・ハッピー
〇「海鮮!! すし街道」
・店内BGM
〇「To the Moon」
・To the moon - Main Theme
・For River - Piano(Sarah & Tommy’s Version)
・For River - Piano(Johnny’s Version)
〇「ファミレスを享受せよ」
・過去を照らす月
・月の光
・フライ・ミー・トゥー・ザ・レストラン
・総当たり
・夢中の密会
・テーブルを囲んで
・月に座るひとり/ふたり
〇「そろそろ寿司を食べないと死ぬぜ!」
・SUSHI SOUL
・スカイスレイ
・バンバード 〜Piano Version〜
〇「そろそろ寿司を食べないと死ぬぜ! ユニバース」
・Fly through
〇「Doki Doki Literature Club!」(ドキドキ文芸部!)
・Doki Doki Literature Club!
・Play with Me
・My Confession
・Your Reality
〇「信長の野望・覇王伝」
・青い波頭
〇「薔薇と椿 〜お豪華絢爛版〜」
・花の淑女
〇「絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち-」
・名もなき記憶のプレリュード
〇「ウツロマユ - Hollow Cocoon」
・繭籠り
〇「グノーシア」
・blue sky, blue star
〇「学校であった怖い話」
・新堂誠
・風間望
・岩下明美
・福沢玲子
・日野貞夫
〇「俺の屍を越えてゆけ」
・京の春
・対決
・決戦
・花
〇「ゆめにっき」
・ゆめにっき
「西美濃八十八人衆 ピアノコンサート」特設サイト
アーカイブ配信のチケット販売(11月30日まで)
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