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[GDC 2011]小回りの利く小さな開発チームの特性を活かした新しいゲーム開発――Zyngaのモバイル部門が学んだ教訓とは?
日本でZynga with Friendsというブランドを知っている人は少ないかもしれないが,現在1300万DAU(Daily Average Users/1日あたりの平均ユーザー数)を誇るクロスワードゲーム「Words with Friends」などのヒット作をアメリカで生み出しているスタジオだ。
タッカー氏は,もともと「Age of Empires III」(邦題:マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III)などで知られるEnsemble Studiosに在籍していた経歴を持ち,Zynga with Friendsに移るまでは,モバイルゲームの制作に関わったことはなかったという。
今回のレクチャーは,元々は大きなプロジェクトを動かすゲーム会社に在籍していたタッカー氏が,AAAタイトルの開発者視点で見たモバイルゲームの開発現場という趣向で,小さな開発チームゆえの小回りの良さを強調する内容となっていた。
ちなみに,GDC 2011で3月1日に行われたZyngaの講義を担当したマーク・スカッグス(Mark Skaggs)氏やタッカー氏のように,何十億円もかかる大型プロジェクトの開発に携わっていた熟練のデベロッパー達が,モバイルゲームやソーシャルゲームの現場へと流入する例は後を絶たない。
タッカー氏は,「大型のゲームというのは,投資もそれに見合った巨大なものになっているため,迅速かつフレキシブルに開発をする能力を失っている。また,開発の遅延や作品の失敗というリスクに対する恐怖から,新たなアイデアを試す土壌が失われている」と話す。
Zynga with Friendsでは,ゲーム開発に関わるすべてのメンバーが,自分のアイデアをほかのメンバーとシェアする権限を持っており,どんなバカなアイデアでもじっくり聞いて真剣に考えてみるという,社風のようなものができ上がっているとのこと。
このあたりは,前日にスカッグス氏が話した「1人のデザイナーが主導する」手法とはまったく正反対の方向にある。だがタッカー氏は,「我々はZyngaから多くのことを学んでいるし,Zyngaもまた我々から学んでいるものはある」と,社風の違いはまったく気にしていないようだった。
面白いのは,通常は皆が顔を向き合わせる,つまり円形であれば中心を向くように机を配置する会社が多いものだが,Zynga with Friendsでは全員が外を向く形になっていることだ。
全員が外を向くことで,メンバーがより集中してゲーム開発に取り組めるだけでなく,コミュニケーションが取りやすくなっているという。例えば,デザイナーとプログラマーが話しているところに,アーティストがキャスター付きの椅子を転がしてきて会話に参加する,といった感じだ。
通常アジャイルは,大型化して小回りの利かない大企業の開発チームの工程を迅速にさせるために行う手法なのだが,タッカー氏はモバイルゲームの開発現場でもアジャイルは有効なのだと何度も強調していた。
アジャイルによって,開発者がダラダラと暇を持て余すような期間が少なくなり,8時間の充実した就業時間と,残り16時間の自由時間を確保しやすくなる。結果として,プロダクティビティもおのずと向上していくというわけである。
大規模な開発チームにおけるダラダラした時間やクランチタイム(開発終了間際,家に帰れないような状態)の繰り返しに慣れていたというタッカー氏は,当初Zynga with Friendsの健全なスケジュールに戸惑ったらしいが,今では仕事と生活スタイルの双方で無駄がなくなったことに満足しているそうだ。
ゲーム市場のあり方が急激に変化しているような現状において,「自分の失敗は成功への第一歩であると受け止め,自らも変化に対応しやすい心構えにしておく」ことが最も大切で実践的なテクニックだとタッカー氏は促す。
またタッカー氏は,「これが現在における我々の開発スタイルですが,あと半年も経てば変化しなければならなくなるかもしれません。小回りを利かせて,開発環境の変化に対応できるよう,いつでも用意をしておいてください」と,会場に集まった開発者達に呼びかけていた。
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