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[GDC07#15]映画とは似ているようでまったく違う。Ubisoftのゲームデザイナーが語る,ゲームにおける映像の見せ方
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印刷2007/03/09 15:16

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[GDC07#15]映画とは似ているようでまったく違う。Ubisoftのゲームデザイナーが語る,ゲームにおける映像の見せ方

Adam Thiery氏。氏が最近制作に携わったゲームは,PSP用ソフト「Star Wars Lethal Alliance」
 3月7日(現地時間),GDCで,Ubisoft MontrealのデザイナーAdam Thiery(アダム・ティエリ)氏による講義「Interactive Cinematography」が行われた。なんだか聞き慣れないその言葉は,ゲームにおける映像の見せ方に関するものだ。

 これは,過去のゲームを振り返りながら,ゲームにおけるカメラワークの使い方などをあらためて見直し,今後のゲームデザインに生かそうという趣旨の講義だ。
 まずティエリ氏は,講義のタイトルであるInteractive Cinematographyの説明を行った。Cinematographyは,単体では映画の撮影技術/撮影方法を指す言葉である。ゲームには基本的に“撮影”という概念がなく,開発者が望めば,どんな角度からも映像をプレイヤーに見せられる。とはいえ,同じように映像を見せる部分があるとはいえ,映画と同じような手法で映像を見せていては,ゲームとしてあまり都合がよくないことある。そのためゲームに特化した映像の見せ方という技術を表す言葉として,Interactive Cinematographyという言葉を当てはめたという。
 氏は最初に,理想的なInteractive Cinematographyの大前提として以下の3点を挙げた。
  1. ハリウッド(映画)を真似しない
  2. ゲーム進行を中断しない
  3. カメラアングルに限界を設定しない
 1は,映画は観客に映像を見せるだけで進行するが,ゲームにはプレイヤーの行動が反映されるので,両者は似ているようで異なる,というのがその理由である。映画を真似ることでゲームの良さが消されてしまうと解説した。
 2は,ゲームは映像を見せるだけのものではないので,映像を見せるためにゲームを中断するということも,ゲームの良さを自ら失うことにつながるという意味だ。
 3に関しては,ゲームでは当たり前だがカメラを移動/設置する必要はないので,アングルに関しては無限の可能性がある。過去の作品や常識とらわれず,シチュエーションに合ったアングルを決定していくべきだと語っていた。

 これに続き理想のInteractive Cinematographyを構成する四つの要素の解説が行われた。
  • Control(制御)
  • Framing(枠組み)
  • Composition(構成)
  • Transition(場面転換)
 ここで挙げられた4要素について,それぞれ解説しよう。まずControlとは,プレイヤーがカメラの角度を変えられるような機能をゲームに持たせること。もちろん時と場合によるが,ゲームのアングルが常に一定だと死角ができてしまう場合があり,プレイヤーに余計なストレスを与えてしまうとのことだ。
 Framingとは元来枠を指す言葉だが,ここでは,ゲームの場面に合わせた適切な構図を決めるという,いわゆるカメラアングルの意となる。氏は「Neverwinter Nights」(邦題 ネヴァーウィンター・ナイツ 日本語版)を例にあげ,会話のたびに同じアングルの映像ばかりを見せられると,プレイヤーは退屈を感じやすいだろうとコメントしていた。
 Compositionは全体の構成を指しており,一つ一つの場面に気を遣いつつ,全体のバランスも考える必要があるという説明がなされた。シチュエーションごとに見せ方を決めつけてしまうと,映像をパッと見ただけでその先が予測できてしまうこともあり,プレイヤーの緊張が持続しにくいということだ。Compositionの優れた例として,薄暗い地下を抜けると青い空と緑の木々にあふれた場所がプレイヤーの眼前に現れるという,「FarCry」(邦題 ファークライ 日本語版)の1シーンを挙げていた。このようにコントラスト(明暗の差)をはっきりさせることも,プレイヤーを惹きつける重要な要素だと語っていた。

「FarCry」


「Tom Clancy's Splinter Cell」
 最後のTransitionは,状況に応じてカメラアングルなどを切り替えることで,例としては「Tom Clancy's Splinter Cell」(邦題 スプリンターセル 完全日本語版)を挙げていた。なにが優れているのかというと,3人称視点のゲームなのだがプレイヤーキャラクターの状況に合わせてアングルが微妙に変わり,遊びやすさをアップさせるとともに,見た目の格好良さを失っていないという。

 それでは優れたInteractive Cinematographyを持つゲームはいったいどれなのかという話になると,ティエリ氏は,現時点で理想に近い作品として「Resident Evil 4」(邦題 バイオハザード4)を挙げていた。氏は,一つ一つのカット割りとそのつながりなどが秀逸で,無駄なシーンがほとんどないと述べた。
 主人公キャラクターが下りのハシゴがある場所に到達した瞬間,それまでキャラクターを3人称視点で映していた画面が1人称視点に切り替わるシーンが好例である。このシーンはなくてもゲームにさしたる影響はないが,ワンカット入れるだけでハシゴの長さを強調し,自分がとんでもなく高い場所から降りようとしていることをあらためてプレイヤーに分からせる効果があるという。
 その後,再び3人称視点に切り替わって主人公キャラクターはゆっくりとハシゴを下りる。このとき,ゆっくりと降りるキャラクターを見ながら,「高いところにいるからゆっくり降りているのだろう」と,プレイヤーが想像を働かせる効果もある,と氏は分析していた。
 そのほかにも,ティエリ氏は同作で敵に飛び蹴りをするシーンを例に挙げた。このシーンは,蹴りを入れる瞬間だけカメラアングルが真横の見やすい視点に切り替わり,また元の視点に戻るというもので,アングルの切り替えがプレイを妨げるものになっていないとしている。氏は,Resident Evile4のカット割りには無駄がなく,各カット割りでデザイナーがプレイヤーに見せたいものが明確に分かるようになっているとコメントした。



講義終了後の雑談では,カット割りの勉強をするには漫画が向いているとティエリ氏は語っていた
 ティエリ氏は,Resident Evil 4が完成形なのではなく,Interactive Cinematographyはさらに進化していくと考えており,その理由としてハードウェアの進化によるグラフィックスのクオリティ向上を挙げている。また氏は,過去の作品の良い部分を積極的に取り入れ,新しい技法にチャレンジしていきたいと語って講演を締めた。

 今回の講演を聴いたゲーム制作者達の数は,ざっと数えても100人を超えていた。ゲームを遊ぶ立場の人間としては,これだけの規模でゲーム開発者達が,会社や立場を越えて,面白いゲームを作るために努力しているという事実を目の当たりにすると,心強さのようなものを感じずにはいられない。
 この講義のような内容の場合,往々にして明確な答えは導き出されないものだが,過去の作品で培われた技術/技法を学び,失敗例や成功例を知っておくことも,今後のゲーム制作技法の発展につながるだろう。(noguchi)

  • 関連タイトル:

    ファークライ 日本語版

  • 関連タイトル:

    スプリンターセル 完全日本語版

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