連載
『宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで』
著者:武部俊一
版元:朝日新聞社
発行:2007年8月
価格:1365円(税込)
ISBN:978-4022599285
年の始めということで,前向き,未来志向な宇宙開発の話題で行きたい。宇宙開発と素粒子物理学は短期的な収益見込みが立たない割に大規模な装置が必要とあって,昔から“パトロン”としての国の度量が問われる分野であった。
喜ぶべきか否か分からない話ではあるものの,次世代粒子加速器の国際プロジェクトILCから米英が手を引きかけるご時世にあって,各国の月探査計画は活況を呈しており,三菱重工は年明けすぐに,日本独自の有人月探査計画の可能性をレポートにまとめて発表したりしている。そんなタイミングで,宇宙開発の歩みについて振り返っておくのも悪くはないだろう。
そんなわけで,今回紹介するのは『宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで』。題名のとおりスプートニク・ショックから始まる人工衛星や有人宇宙飛行,月探査を含む宇宙開発の主要プロジェクト90件あまりの概要やエピソードを,ほぼ年代順に2〜4ページずつくらいでまとめた本である。
人類初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの「地球は青かった」は,別に本人がそう意図して述べたわけではなく,薄青い円光から空色,灰色,すみれ色から石炭のような黒というふうに,地球がまとう多様な色彩について述べた一節が切り詰められた結果であったとか,初の女性飛行士ヴァレンチナ・テレシコヴァの「私はカモメ」も,実は単に「こちらカモメ」という,交信符丁どおりの返答であったとか,細かな裏話がいろいろ出てきて面白い。
いまや常識となった感もあるが,米ソを中心とする宇宙開発競争時代は,取りも直さず冷戦の第二幕であった。月に有人探査船を運べるロケット技術とは,そのペイロード(積載重量)といい,誘導精度といい,ICBM(大陸間弾道ミサイル)開発技術の,持って回ったデモンストレーションでもあったのだ。またスパイ衛星となれば,これはもう即物的に宇宙開発の軍事利用である。著者はそうした負の側面からも目を背けず,各プロジェクトの狙いや内容を時代背景の中に適切に位置付けていく。
また,NHKのサイエンス番組などを欠かさず見ているような人には常識かもしれないが,現在のところ月には約60億tの水があると推定されているとか,火星の北極付近の地下に,厚さ1.8kmに及ぶ真水に近い氷の層が確認されたとかいった,最新の観測成果も話題に盛り込まれていて,実にワクワクする。そうした,宇宙進出の材料となりそうな話題が豊富にあるからこそ,ここへ来て宇宙開発が盛り上がりを見せつつあるわけだ。
もっともPCゲームでは,人類がすっかり宇宙に進出したあとを描いたSF作品がわんさとある一方で,宇宙開発をある程度リアルに捉えた作品はそれほど多くない。
とはいえ,工画堂スタジオの「火星計画」シリーズにおける火星のテラフォーミングという題材と,アメリカの火星探査機「2001マーズ・オデッセイ」の「将来の人間滞在に備えて放射線環境を測定する」という任務を引き比べて見たりするのは,例えばなかなか面白いと思う。もちろん滞在といっても最初は観測目的で,いきなり移民とかいう話のはずはないのだが。
また,あくまでバーチャルワールドサービスの背景設定にすぎないものの,テラフォーミングした火星が舞台という意味ではAvatar Realityの「Blue Mars」も記憶に新しいところだ。
同様に,今年(2008年)には日本の実験棟「きぼう」がドッキング予定の国際宇宙ステーション(ISS)に関し,各国が提供した居住棟・実験棟はその国の領土とみなされ,それぞれの法律が適用されるといった話からは,PopTopの宇宙開発/行政ゲーム「スペースコロニー」あたりが連想され,世知辛いなあと思いながらも,ちょっと微笑ましい気分にさせられる。こうして現に宇宙にも国境はあるのだから,宇宙世紀に独立戦争があっても,実はおかしくないのかもしれない。
平和問題を軸に「宇宙船地球号」という,聞き慣れたセリフで美しく締め括っている本書だが,2007年8月に出た本でありながらも,環境問題でなく平和問題の観点からこの言葉を使っているあたりは,科学記者として長年米ソの角逐を見守ってきた著者なりの感慨なのだろうか?
(北半球では)星空も美しいこの季節に,それが未来に向けた危惧でないことを祈るばかりなのだが。
Space Adventure社には,ISSで実績がありますからね。
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- 関連タイトル:
火星計画 DVD〜THE PROJECT MARS2+3〜
- 関連タイトル:
Blue Mars
- 関連タイトル:
スペースコロニー 日本語版
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