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[GDC07#39]「The Godfather:The Game」に見る,マルチプラットフォーム対応ライセンスゲームの開発
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印刷2007/03/10 23:41

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[GDC07#39]「The Godfather:The Game」に見る,マルチプラットフォーム対応ライセンスゲームの開発

向かって左から順に,Michael Perry氏,Mike Olsen氏,そしてPhill Cambell氏
 「Survival of The Family: Creating and Shipping The Godfather: The Game」と題した講演が,現地時間の3月9日に行われた。これは,ゲーム業界最大手のパブリッシャであるElectronic Artsが,ライセンスものであり,マルチプラットフォーム対応のゲームでもある「Godfather: The Game」(邦題 ゴッドファーザー)を開発するにあたり,いかにして作業を進めたかをテーマとする講演。
 スピーカーは,本作のクリエイティブ・ディレクターであるPhill Cambell,Mike Olsen,そしてMichael Perryの三氏だ。

 本作のプリプロダクションはCambell氏が担当したが,その後のEAとの協議で,以下の5項目の目標が設定されたという。

・EAにとって新しいスタイルのゲームを作る
・新しいシリーズの最初のタイトルにする
・新ゲームエンジンを採用する
・新しいプラットフォームに対応させる
・これらを新しいチームで成し遂げる



 本作が題材とするのは,(言うまでもないが)映画「ゴッドファーザー」だ。検討の末,「Grand Theft Auto」のようなオープンエンドのゲームシステムを採用することが決まった。これは,犯罪をテーマとするゲームの場合,GTAと同じスタイルにしたほうがゲームファンにアピールするはずだという判断によるものだ。

 ゲームは映画のストーリーに沿って進行する。GTAと同じようにゲームの世界には時間が流れており,昼夜の変化も表現される。
 プリプロダクションを担当したChambell氏はまず,映画に登場する人物と出来事を,時系列で並べる作業から行った。
 ドンが殺し屋に襲われたとき,マイケルは何をしていたか,敵のソロッツォはどこにいたか,といった情報をまとめていったのだ。最初のうちは小さな表だったが,情報を書き加えていくにつれ,オフィスの机には広げられないほど大きなものになっていったそうだ。



 Chambell氏以外の二人のディレクターも参加し,プロジェクトは本格的に始動した。まずは,「ミッションの制作」を行った。ミッションは大きく分けて,「映画のストーリーに基づくミッション」「ゲームだけのミッション」「サブミッション」の3種類。シナリオライター達が,次々にミッションを作り出していった。
 グラフィックス担当者との意志の疎通を図るため,ミッションはコミックタッチのイラストとして描かれ,必要に応じてキャラクターの位置関係を示すマップやタイムテーブル,参考となる写真などが用意された。
 最終的にゲームに採用されなかったミッションも含め,すべてのミッションについて,このような資料が作成されたのである。



 ゲームの舞台となる,ニューヨークの街並みを再現する作業も進められた。マップはミッションと密接に関係するだけに,マップ作成とミッション作成の作業は並行して進める必要がある。
 数十名のグラフィックスデザイナーはまず,マンハッタン島の詳細な2Dマップの作成から行った。

 ゲーム内での時代の移り変わりに合わせて,ニューヨークの街そのものも変化することになっていたため,マップに配置される建築物の数は非常に多くなっていく。
 ランドマークとなるビルは200以上になり,それぞれについて詳細な図面やイラストが制作された。リサーチ専門チームが編成され,歴史的に見て重要性が高いものの,今はなくなってしまっているビルの古い写真や,図面などを探し回ったりしたそうだ。

 とはいえ,重要なのはニューヨークを完全に再現することではなく,あくまでも「コルレオーネ・ファミリーが暮らしたニューヨーク」を作り上げること。架空の建物や,ミッションの構成上,都合のいい場所を付け足したり,逆に実在しても,ゲームの雰囲気にそぐわないと判断したビルを削ったりしたという。

 マップの作成にあたり,すべての建築物の名前や,データの完成予定日などを記した巨大な表が用意され,一つのビルが出来上がるたびに,表の空欄が埋められていったのだ。



 キャラクターの作成は,このゲームの“表情”を決める重要な作業。資料として非常に多くの写真が用意され,また登場人物の“振り真似”が得意な俳優によるモーション・キャプチャーデータが作成された。こうして,ドン・ビトーやソニーの姿が画面上に再現されていった。
 ただ,マイケル・コルレオーネを演じたアル・パチーノ氏だけは,「ゴッドファーザーは過去の仕事である」として,交渉を重ねたにもかかわらず,写真の使用は許可されなかったという。「この点については,返す返すも残念です」と,Chambell氏は語る。
 また,故マーロン・ブランドの声は生前に収録されていたが,ストーリーの変更に伴う追加分などは,ほかの俳優が演じている。ちなみに,このThe Godfather: The Gameが,名優マーロン・ブランドの最後の仕事になったのは有名な話だろう。



 プリプロダクションの段階から,プログラマー達はゲームエンジンの開発を進めてきた。Olsen氏によると,新しいエンジンに求められたのは,PCや次世代コンシューマ機だけでなく,現行のハードや携帯ゲーム機にも対応できる,柔軟さと堅牢さであった。
 エンジンの開発にあたっては,グラフィックスのクオリティが多少低くなっても目をつぶるが,アクションシーンだけは妥協しないとの方針が定められた。

 ソニーが,義理の弟カルロを街頭で痛めつけるシーンをサンプルに選び,どのような動きを盛り込めば,このシーンをリアルに再現できるかを再三にわたって検討したそうだ。
 マルチプラットフォーム対応タイトルの開発では,機種ごとにコントローラが異なることも,とても難しい問題となる。多彩なアクションを繰り出せ,かつシンプルな操作方法を見つけるため,テストが繰り返し行われた。



 たとえ街が完成しても,そこにいるNPCがゾンビのようにうろうろしているだけでは,映画の雰囲気を追体験することはできない。NPCに“らしさ”を与えることは,簡単ではないが必要不可欠な作業だ。
 そこで物を言ったのが,EA/MAXISで14年以上も「The Sims」に関わってきたというPerry氏の経験だ。彼は,The Godfather: The Gameに,The SimsのNPCを組み込んだのである。
 技術的にはなかなか困難な作業だったが,彼の計画は功を奏し,ニューヨークを歩き回る人々に,生き生きとした表情を与えることに成功したと語る。ただ,もともとやや妙なクセのあるシム人だけに,例えばバーで歌手が歌わず,その代わりに背後にいるボーイが歌いまくるなど,おかしなことがいろいろと起きたそうである。



 いろいろなゲームにまつわる開発裏話を聞けるのは,GDCならではだ。今回の講演を聞き,本作がベースとする映画「ゴッドファーザー」と同様,完成に至るまでの間に人材やコストが惜しげもなく投入される,いわば“ハリウッド的な開発手法”があることが分かった。
 そのような手法で作り上げられた本作は,結果的に各ゲームメディアからある程度の評価を得られたものの,EAが望んでいたほどのヒットは飛ばせなかった。確かによくできた面白いゲームではあったが,手堅い作りで,あっと驚くような革新性には欠けていたのである。

 本作のように,大規模なチームによって制作されるゲームもあれば,カリスマクリエイターが率いる少人数のチームによって生み出され,業界全体にインパクトを与えるようなゲームもあるのだから,ゲーム業界は面白い。
 これは個人的な意見だが,「正しいゲーム開発手法」などというものは,おそらく存在しないのであろう。だからこそ,開発者達はGDCに集うのだ。(松本隆一)

  • 関連タイトル:

    ゴッドファーザー

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