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「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る
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印刷2008/08/14 10:00

イベント

「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る

画像集#006のサムネイル/「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る
 灼熱のシンガポール。北米最大手パブリッシャの一つ,Electronic Artsは,シンガポールのシンガポール動物園で,「Will Wright and Friends」を開催した。タイトルどおり,2008年9月の発売が予定されている大宇宙シミュレーション「SPORE」を制作中のプロデューサー,Will Wright(ウィル・ライト)氏をフィーチャーしたイベントだ。Wright氏がアジアを訪問してSPOREのプロモーションを行うのは初めてのこと。

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 会場となったシンガポール動物園は観光地として有名で,広さ28haの園内には3200匹以上の動物が飼育されており,その種類もオランウータンやライオン,さらにはネズミ,ウシ,トラ,ウ,タツ,ミなど……って,すいません,ちょっと適当。園内を歩いてみれば,造化の妙というかなんというか,そのままSPOREに登場してもまったく違和感のないような不思議な生物で地球は一杯なのだということに気がつく。EAがSPOREのイベントにこの場所を選んだのはまさに卓見だが,ホントは東京でやってくれると,我々としても移動が楽で助かるのだがなぁというのは言わない約束だ。

 なにしろ,Wright氏がシンガポールを訪れたのは,ご当地で明日(8月14日)から開催される「Global Brand Forum」出席のため。これはゲームイベントではなく,マーケッティング関係者や経営者が,ブランドを作り,育て,守っていくにはどうすればいいかというようなことを考えるフォーラムで,スピーカーには“Wikipedia”の設立者であるJimmy Wales氏や映画監督のSpike Lee氏などのほか,著名なブランドのマーケット担当者が集まるという真面目なイベントだ。見たところ,Wright氏の存在はかなり異色だが,シムズシリーズやシムシティーシリーズの大ヒットにより,Wright氏本人が一つのゲームブランドという感じなのだろう。
 ともあれ,会場となった園内のForest Lodge(フォレストロッジ)には,アジア各国からゲーム関係だけでなく,さまざまなジャンルのメディアが50名ほど集まり,定評あるWright氏の巧みなプレゼンテーションを見る機会を得たのである。

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SPOREは壮大な宇宙オペラ(epic space opera)である


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 EA AsiaのPresidentであるJon Nierman氏の挨拶に続いて登壇したWright氏だが,例によってSPOREの話はあと回し。まずは,SPOREの原点となった自分の体験からスタートするのである。

 基本的なアイデアは,Wright氏が6歳の頃(Wright氏は1960年生まれだ)に見た映画,「2001年宇宙の旅」に端を発している。そこには異星人とのファーストコンタクトや,HAL9000と呼ばれる思考可能なスーパーコンピュータが描かれており,彼は感銘を受ける。ちなみに筆者も幼い頃,同じ映画を見にいって居眠りをしている。そのへんが運命の分かれ道,ってのはどうでもいいですね。
 やがてWright氏はロボット工学に興味を持ち,プログラムを覚えてロボットを作り始めている。さらにSETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence=地球外知的生命体探査)にも心惹かれ,エイリアンとロボットをベースに科学技術をブレンドしたところにSPOREが生まれたという。
 もともとは,よく知られているように「Sims Everything―Your own personal Universe」というタイトルで開発が開始されたが,箱のデザインが終わったところで一旦停止し,ストーリーの重要性を考えたとのこと。
 氏の作り出してきたゲームを考えると意外なことに,Wright氏はゲームのストーリーを重要なものとして捉えているという。ストーリーは,設定や人物に独立して分解可能であり,別のキャラクターや背景と付け替えても存在する,そういうストーリーが世代を超えて支持されるというわけだ。

画像集#008のサムネイル/「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る
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 SPOREはWright氏が理想とする,クリエイティビティの高いゲームと大好きなSFを結合し,それぞれ独立していながらも,つなげてプレイしても面白いストーリーで彩られた「壮大な宇宙オペラ」(epic space opera)なのだ。
 まあ,そう言っていたので書いているのであって,筆者が内容を理解していると思われると困るのだ。氏は,早口で話全体によどみはなく,一見脱線したようでちゃんと元に戻ってくるという気の抜けない話題の移り方など,なかなか文章にしづらく,ライター泣かせで知られている。

 そして,SPOREがなんでも作り出せるゲームであること,また,6月にリリースされた「SPORE クリーチャー クリエイター」でのクリーチャー登録数が1週間で10万以上に達したことなどが語られたのである。
 プレゼンテーションの後半の内容は,去る7月のE3 Media and Business Summit 2008におけるElectronic Artsのプレスカンファレンスで語られたものとほぼ同じラインに沿って進んでいったわけだが,ロサンゼルスに行く機会のなかったアジア各国のメディアにとっては,カリスマプロデューサーであるWright氏の話を直接聞くチャンスを得られたのは相応に価値のあることだろう。

 EAのプレスカンファレンスのときと同様,わずか18日間で現在の地球上の全生物種よりたくさんのクリーチャーがSPOREPEDIAに登録されたことは,7日間で世界を作ったという神様に比べて「38%だけ神様」だ,というくだりに会場はやっぱり沸いたわけだが,同じ冗談に二度笑っている筆者もどうかと思う。

文明の誕生と闘争,そして宇宙への進出が描かれる二つのフェーズ


画像集#010のサムネイル/「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る
 それはともかく,続いてWright氏自らによるデモが開始された。さて,いまさらながらSPOREとは,とある銀河系を舞台に,生物が単細胞から徐々に進化し,いつしか文明を築いて自分の惑星を統一し,やがて宇宙に出てさまざまな惑星を探査したり支配したりするという,いつもながら書いているほうも「本当かしら?」と思ってしまう独創的なシミュレーションゲームだ。
 開発にはすでに7年の歳月が費やされているが,Wright氏がその構想を得たのは10年以上も前のことで,彼のライフワークと呼んでさしつかえない気がする。

 ゲームは生物進化を追って「細胞フェーズ」(Cell),「クリーチャーフェーズ」(Creature),「集落フェーズ」(Tribal),「文明フェーズ」(Civilization)そして「宇宙フェーズ」(Space)の各段階に分かれている。それぞれに果たすべき目的があり,それをクリアすることで次のステップに進んでいくというダンドリで,いったんクリアすれば,どのフェーズでも好きにプレイできるとのこと。
 本日のデモで登場したのは後半の二つ,つまり文明フェーズと宇宙フェーズだ。


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 いずれも何度かデモされているが,今回はさすがにかなり作り込まれている様子で,グラフィックスも細かく美しく描き込まれている。
 まずは惑星全域の統一を図らなくてはならないのだが,Wright氏はとりあえずビークル用エディタを使って戦闘用の車両を作り上げた。ジェットエンジンを搭載し,武器のほかプロパガンダ用のスピーカーまで積んだハイテクムードの格好いい車両だ。エディタはSPORE クリーチャー クリエイターのパーツを置き換えた感じで,本当にあっという間,まさに我々の目の前でさっと作り上げてしまうのだ。そして,それらの車両を複数配置し,マウスでまとめて選択し,目標となる敵都市に攻撃を仕掛ける様子は,まるでRTS。都市の建物の配置なども,今までは「自由に置ける」となっていたのが,実際には(ちょっとシムシティっぽい)いろいろな制約があったりとRTSのようなルールになっている。
 もちろん,この戦いに負ければゲームオーバーというわけだが,なにが起きても終わらないシムズシリーズに慣れ親しんだプレイヤーの中には,「Will Wright氏のゲームでゲームオーバー?」と訝しく思うかもしれない。もっとも,たとえ負けても適当なところからゲームを再開できるようで,それらの「生命の記録」はいつでも参照可能だ。この記録はお馴染みのアチーブメントにもなっており,そのステージに何ができたかによって,アワードがもらえるとのことである。

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 さて,戦闘の途中,巨大な半透明の生物が都市の背後に出現し,こちらを応援しているのか敵を助けているのか,さかんに動き回っていた。「これはナチュラル・デザスター(自然災害)です」と簡単に説明されてしまったが,役割はちょっと分からなかった。
 いずれにせよ,Wright氏は惑星を統一し,それと同時に宇宙船エディターがアンロックされてゲームは宇宙フェーズに進んでいくのである。

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 ここでプレイヤーは,宇宙船を操縦して,700以上用意されているというさまざまな惑星を探査し支配することになる。訪れた惑星に植民都市を建設したり,火山を爆発させたり,隕石を落下させたりと,プレイヤーは実にいろんなことが行えるようだ。赤っぽい惑星の色が気に入らないので緑色にするなんてことは朝飯前。スカルプティングツールを使い,粘土のように地形を変えることも可能だ。
 だが,油断は禁物。どっかの惑星の住民がこちらを攻撃してくることもあるので,彼らと戦ったり,あるいは友好関係を築いたり,はたまた貿易を行ったして銀河の覇権を打ち立てていくわけである。はるかな宇宙に進出してからも,まだまだ生命の歴史は連綿と続いていくのである。

 デモ全体の印象としては,かつては雲をつかむようだったSPOREが,かなり「ゲームらしくなった」雰囲気が強い。RTSのようにも見えた文明フェーズや,集落フェーズでの戦いなど,カジュアルなゲーマー層に対して「分かりやすいプレイ性」を打ち出しているようだ。そうなると,コアゲーマーにとってはもの足りないのではないかが懸念事項になるが,そのへんはプレイしてみないとなんともいえない。

画像集#012のサムネイル/「SPORE」はこうして作られた。Will Wright氏,シンガポールで大いに語る
 デモのあとで行われた質疑応答での注目は,マルチプレイモードと拡張パックについての質問だろう。
 まず,マルチプレイに関してだが,プレイヤーが神としてなんでもできるところがルールの基本になっているので,ちょっと難しいのではないかとのお答え。もしMMO版SPOREが作られるとしたら,ゲームの内容はかなり変えなければならないらしい。
 やや気の早い話だが,拡張パックについてはまだ分からないとのこと。「ザ・シムズ2」ではアイテムや地域を増やすことで比較的簡単に拡張可能だった(というか,もとからそのように設計されていた)が,そのへんをすべてエディターに委ねているSPOREの場合,違った方向への拡張が求められるだろうとWright氏は語った。
 余談ながら,「SPOREはシムアースの影響を受けているか?」という質問に,「ああ,あったね」とつい笑ってしまったWright氏。1980年にリリースされた「シムアース」も惑星を育てるゲームだが,確かにSPOREはシムアースの遠い子孫のようなものかもしれない。ただ,真面目に環境をシミュレートしているシムアースに対し,SPOREはもっとお遊びの要素が多いのだと答えたのである。

 以上をもってWright氏のプレゼンテーションは終了した。“Will Wright and Friends”と名付けられたイベントは,今年2月のGame Developers Conference 2008で行われたものに次いで(記憶にある限り)二度目だが,いつもながら“Friends”って誰だろうなぁと気になってならない。いつも一人だし。
 それはともかく,SPORE発売まで残り1か月を切った現在,プレゼンテーションはもういいから,早いところ遊ばせてほしいというのが本音でしょ,ご同輩? SPOREが非常に知的できわめて個性的なゲームだという部分はよく分かっているし,SPORE クリーチャー クリエイターが想像を超えて面白かったのも記憶に新しい。とはいえ,いまだにほとんど誰もプレイしていないのも事実で,ゲームはやはり遊んでなんぼでもある。ああ,楽しみだ。
 ちなみに,現地時間の明日14日,Global Brand Forum終了後に,Will Wright氏とのインタビュー関連記事)が予定されており,できればそちらもお楽しみにしていただけると,灼熱のシンガポールまで出かけた筆者としても嬉しいところだが,イヤならいいです。
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