インタビュー
[CJ 2007#01]日本サービスも間近の「航海世紀」「機甲世紀」。社長 石海氏に聞くSnailの開発精神
そんな,技術的に一歩秀でた作品を作った游戯蝸牛(Snail Game)とはどんな会社で,どんな人物が運営しているのか。大雨の降る7月10日に,蘇州にある游戯蝸牛の本社を訪ね,総経理(General Manager=社長)の石海(Shi Hai)氏にインタビューを行った。写真をご覧いただければ分かるとおり,本社社屋は,螺旋(正しくは同心円)状に配置された机や,カタツムリの這った跡を思わせるオブジェに彩られた,実に個性的なデザインだった。そこらのホテル並の宿泊施設や格安の社員食堂のみならず,バーやバスケットコート,プールをも設置中,というまだ新しい社屋だ。
そんな社屋デザインにも大きな影響を与えていると目される石氏のパーソナリティは,実に興味深いものだった。同社が近い将来予定している新作の話題と併せてお伝えしたい。
■「儲かる作品」を作っているわけではありません
はじめまして,本日はよろしくお願いいたします。「開発スタジオではなく本社に来てください」と言われたとき,ごく普通のオフィスを想像していたのですが,いざ来てみると極めて個性的な社屋でした。そうしたわけで,にわかに石社長個人への興味が掻き立てられたこともあり,今日はいろいろ教えていただければと思います。
石海氏:
社員が増え続けている最中なので,新しい社屋を確保して,いろいろと手を入れているところです。ゲームを開発するに当たって,想像力とクリエイティビティを大切にしたいと思ったので,こういった建物にしてみました。
4Gamer:
いわば雰囲気を大切にしたと。このビルは,ゼロから建設中なんでしょうか。それとも何か違う建物を改装しているのですか?
石海氏:
もともとは工場でした。
4Gamer:
元工場の建物をとことん改装して色々な設備を追加するあたり,なんだかシリコンバレーっぽいですね。
ところでこの会社を起こしたのは,どういったタイミングだったのでしょうか?
石海氏:
会社を設立したのは2000年で,中国でも最も早い時期に属するオンラインゲーム会社だと思います。
4Gamer:
会社を起こす前,もともとは何をやっておられたのでしょう?
石海氏:
画家でした。
4Gamer:
……画家? ううむ,今まで色々な業界の人に会いましたが,元画家のゲーム会社社長をインタビューするのは初めてです。なるほど,もともと美術関係の方だから,社内のデザインにも明確なスタイルが打ち出されているのですね。
しかし,それがなぜ急にゲーム会社を作ろうと思ったのでしょう?
石海氏:
以前はデザイン会社をやっていたのですが,インターネットというものがどんどん発展していくのに興味を持って,いてもたってもいられなくなったのです。
4Gamer:
今著名な中国のゲーム会社というと,国外から作品を買ってきてサービスする場合がほとんどだと思います。しかしSnailは自分達で作品を作り,それを積極的に他国に出しています。そこが明確に他社と違うポイントですよね。
そうした事業は,石社長の経営方針によるものなんでしょうか。
石海氏:
会社が小さいうちから――いや小さいうちだからこそかもしれませんが(笑)――自分のゲーム会社に強い自信を持っていて,国際的な基盤に立脚したゲーム開発がしたいと思ったのです。
4Gamer:
最初から外に打って出ることを目標とした会社なんですね,Snailは。
石海氏:
ええ,そうです。会社の目標は,“インターネット界のアップルコンピュータ”になることなのです。いまあるマーケットに応じて売れる製品を出すのではなく,マーケットをリードしていく存在になりたいのです。
4Gamer:
なるほど,なんとなく分かってきました。
石海氏:
その前提として,我々が製品開発に当たって最も重視しているのは,製品の質です。製品の人気はそのあとの問題と考えています。しかしこのやり方で,必ずや人気があって質が高い製品を作り出せると思っています。
4Gamer:
なるほど。そうしたコンセプトがあるからこそ,自社開発が事実上のメインとなって,デベロップメントとパブリッシングの両方をやっているわけですね。
石海氏:
そうです。我々は,「たくさん儲かる作品」を一生懸命作っているのではありません。そこが明確に他社と違うポイントだと思っています。
■最強の同業者にもできないことを狙え
ところで,中国でデベロップメントとパブリッシングを両方やっている会社は,それほど多くないと認識しています。
石海氏:
うーん……ご存じかもしれませんが,今の中国社会の意識は少々浮ついているところがあります。何かを地道に作り上げるのではなく,手っ取り早くお金を儲けることにばかり関心が集まっているのです。
4Gamer:
どこも大差ないですね。
石海氏:
そうしたわけで現在多くのオンラインゲーム会社では,ターゲットに合うと思われる作品を「買ってくる」ことで,マーケットの要望に応えているのです。
4Gamer:
なるほど。
石海氏:
我が社は,それには大きく異を唱えたいです。アップルコンピュータと同じように,自分が良いと思う物しか扱わないのです。だから,設立から7年も経っているのに,作品点数が少ないでしょう? あれはそうした理由なのです。確かに顧客や投資家に認めてもらえないこともありますが,それでも我が社は生き続けてきました。
そうした意味で我が社は,単に運営と開発の両方を手掛けているということではなく,そもそも良い物を作ることに力点を置いています。それを認めてくれるお客さんも増えつつあるいま,私達の目標は,お客さんに認められ,自分達も良いと思う作品を送り出していくことなのです。
4Gamer:
いまどきのオンラインゲームマーケットには珍しい存在ですね。むろん良い意味で,ですが。
石海氏:
2000年の会社創業時点で考えたことがあります。「いま私達には10階建てのビルさえ建てられない。一方20階建てのビルは,私達にも他社にも建てられない。それならば,20階建てのほうを狙っていこうではないか」と。もし,世界最高の登山チームが,2000m級の登頂はできるけど4000m級は無理だと考えているならば,あえて4000m級を狙っていくしかないと。
4Gamer:
それはつまり……。
石海氏:
そう。いま最高のゲームメーカーを超えるためには,彼らにもできないことを目標とするしかないのです。
2000年時点での中国には,3Dでシングルゲームを作るメーカーすら,ほとんどありませんでした。ましてや,オンラインゲームを作っていたのは,ほんの1社か2社です。そこでSnailがあえて狙ったのが,3Dのオンラインゲームというわけです。
4Gamer:
2000年当時であれば,世界的に見てもまだまだ3Dオンラインゲームは少なかったですよ。そこで言う4000m級の山となったのが,「航海世紀」であると考えてよいわけですね。
石海氏:
そのとおりです。
4Gamer:
仕事柄,アメリカやらドイツやらいろいろなゲームショウに顔を出すのですが,航海世紀について正直に申し上げると,中国のゲーム会社があれほどのものを作り上げるとは,思ってもいませんでした。
石海氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
そういった高い理想を持って取り組んでいたからこそ,いまそれが達成できたのだということですね。今回ChinaJoyの開幕に先立ってお伺いしたのも,Snailがほかの会社と明らかに違うと思い,どんな人達がやっているのか,興味をかき立てられたからなのです。
石海氏:
この会社は今後も独自の発展を見せる力を持っている,私はそう思っています。
■日本サービスも間近。「航海世紀」「機甲世紀」
ではそうした,中国ゲーム界では一歩先を行く発想を持ったSnailの社長として,日本のゲームマーケットについてどう思いますか?
石海氏:
PlayStation 3やWiiを買ってプレイしていますので,分かっていることはいろいろあると思うのですが,中国のゲームメーカーにとって,日本市場向けのゲームは,まだまだ勉強課題という段階です。
4Gamer:
とはいえ,日本のコンシューママーケットもオンラインゲームにシフトしつつありますし,コンシューマゲーム機タイトルを楽しむ世代の目も,いまオンラインゲームに向けられています。その意味で,チャンスは十分にあると思っていますが。
石海氏:
うーん……私が言っていいのかな。「機甲世紀」と「航海世紀」は,そろそろ日本でサービスインされますよ。
4Gamer:
それはもう決定済ですか?
石海氏:
現在契約中です。もうすぐ日本でも発表されるでしょう。
4Gamer:
おお,それは良い話を聞きました。そのサービスは,日本語版/日本語サーバーでの提供となるのでしょうか?
石海氏:
もちろんです。ただ現時点でほかに私が言えることとしては,正直なところ「日本マーケットで必ずや大成功を収める」と思っているわけではないことでしょうか。まずは「中国にもこんなゲームを作れる会社があるんだな」と,日本で思ってもらえることが重要だと思っています。“ゴミ”と呼ばれる作品になるのではなくてね。
それと,ストリートダンスゲームの「5th Street」も,日本市場に向いていると思います。
4Gamer:
日本人向きと考える理由を教えてください。
石海氏:
音楽とファッションを重視している点です。
4Gamer:
なるほど。しかし,オンラインのダンスゲームはたくさんありますので,日本のゲーマーから見たとき,それだけではほかとあまり区別がつかないと思います。5th Streetはここが違うといったアピールポイントは,ほかにありますか?
石海氏:
この作品のダンス部分は,我が社が別途取り組んでいるコミュニティビジネスの試みの一部分にすぎません。そのコミュニティのなかにある「踊れる場所」「ダンスホール」になっているわけです。「踊ってアイテムが買える」といった商業的な作品として作っているわけではありません。
4Gamer:
背後にアバターチャットのような,より大がかりな構想がある,と。
だからほかのダンスゲームのように,単にロビーがあって集まって踊るだけの作品ではなく,自由気ままに勝手な場所で踊れるんですね。どうしてああいう構造なのかとずっと思っていたのですが。
石海氏:
そういうわけです。
■「航海世紀3」「機甲世紀2」,新機軸の武侠
話題は変わるのですが,先ほどいただいた会社案内に「2007年12月に新作登場」と書かれていたのは,どういった作品のことなのか,教えていただけますか?
石海氏:
先進的な武侠ゲームを作り出そうと考えています。武侠ゲームに対する認識を変えるような作品を。ゲームデザインの根本からして違いますので,既存作品とはかなり異なるものとなります。なるべく早い時期に,作品の内容をお伝えしたいと考えています。
4Gamer:
なるほど,分かりました。大航海時代,ダンス,SFと多彩な作品群を持っていますが,またもや違うジャンルですね。
石海氏:
ええ。日本や欧米の技術開発チームと交流がありますから,開発はもちろんのこと,運営理念についても最新の形を導入しています。そこが,多くの中国既存作品と違うところでもあります。
そして同じく開発中なのが「航海世紀2」です。いままでのものと違って貿易にも競争の要素を持たせています。
4Gamer:
それはどういったものですか?
石海氏:
例えば,2隻の船がある都市に物資を運んでくるとしますよね。片方の船が運んできたある物資は買い上げられるのに,三日前に着いた,もう片方の船が積んでいた同じ物資は買われないということが,ゲーム内で起こります。これは,先に着いた船の,その都市との「友好度」が低いために,販路が細いのが原因です。
4Gamer:
なるほど。単なるブーメラン貿易を始めるのも大変そうですね。
石海氏:
都市に水が十分にあったとして,とくに仲が良くない船が運んできた水を新たに買う必要はない。どのみち,仲の良い船が運んでくれるのですから。
友好度の上昇は,売買の実績に伴うものでもあります。たくさんの人が,同じ都市,同じ物資を相手にしているときは,こうした競争が激しくなります。だからこそ,新しい販路を開拓する方向に導かれるのです。自分がまったく新しく開拓した販路では,独占的な利益が上げられますからね。
4Gamer:
おいしい航路にばかり人が集まることを防ぐ意味をも持たせられそうですね。
石海氏:
さらに,「航海世紀3」の開発も進めています。
4Gamer:
「3」!?
石海氏:
ええ(笑)。とはいえ,「3」の開発にはもう2年ほどの期間が必要だと思っていますが。「3」の最大の特徴は,多くのプレイヤーが同じ1隻の船に乗れるということです。もちろん,みんなで協力して1隻の船を動かすことになりますし,板を渡して別の船に乗り込み,戦闘することもできます。
4Gamer:
大航海時代を扱ったオンラインゲームはいくつかありますが,複数のプレイヤーが1隻の船に乗り込むプレイの実現は嬉しいですね。多くのプレイヤーが望んでいた形が,初めて実現されるといいますか。
石海氏:
もう実験段階に入っていますし,間違いなくできると思いますよ。
4Gamer:
ところで,日本にはコーエーの「大航海時代 Online」という作品がありますよね。両方をプレイしてみた実感では方向が異なる作品なのですが,モチーフが共通するだけに,どうしても同じ軸で捉えられがちだと思います。その点を,どう考えていますか?
石海氏:
2003年,大航海時代 Online側が開発中の段階で「一緒にやりませんか」というオファーがありました。まあ,いろいろな問題がありまして,結局別々の作品として作られたわけなのですが,その結果は必然的なことでもあると考えています。
■憤慨。アメリカのSFに中国が出ない
では,もう一本の日本サービス予定作品である機甲世紀については,近々新しい動きがありそうですか?
石海氏:
「機甲世紀2」も計画していますが,これではローディングなしに別の惑星にジャンプできるようになります。
また,惑星の地形をきちんと球形として再現し,惑星を一周して元の地点に戻ることが可能です。そして実際に一周したときも,マップのローディングが生じない,一続きの土地として扱います。マップの一方の端からもう一方の端に,キャラクターだけ移動させるような処理ではないのです。
4Gamer:
それは,相当いろいろなところに応用できそうなテクノロジーですね。
石海氏:
元々その技術は,水平線の表示を実現する必要から生じたものです。遠くの船はマストの先しか見えないとか,そういった意味です。
4Gamer:
機甲世紀2での実現が,どちらかというと応用例であると。話は現バージョンの機甲世紀に戻りますが,つい最近のアップデートで「トランスフォーマー」や「ZOID」を思わせる要素が追加されましたね。
SFオンラインゲームは数あれど,機甲世紀ほどロボットそのものに着目したゲームは見られない気がします。ただ,それだけにロボットが大好きな日本のゲーマーから見たとき,同居していると実に座りが悪い要素も多くあります。
さまざまな要素を取り込んでいくことは,今後についても決まった方針なのでしょうか?
石海氏:
うーん……なんと言うと一番分かってもらえるでしょうか。例えばアメリカのSF映画を見たとき,そこには中国はほとんど出てきません。私達には,これが大いに不満です。だったら中国発の物語を作り出し,そこに長大な文化体系を載せていくというのが,私達がやりたいことなのです。
4Gamer:
言われてみれば,確かにほとんど出てきませんね。
石海氏:
私達の子供達がアメリカのゲームや映画ばかり楽しんでいるのは実に不都合なことで,中国製SF作品は開発する以前に,価値を認められることが非常に少ないと思います。企画当初には開発コストの回収も難しいという予測が立ちましたが,それでもあえて開発したわけです。
その過程で,いろいろな寄り道をしましたが,現在の状況から見るに,そう悪くない結果になったと思っています(笑)。現にアメリカでも売り出すことができました。
4Gamer:
そこにも社長の思想が強く働いているんですね。
……もうお時間が厳しそうですし,最後に一つ教えていただきたいことが。社名にあえてSnail(カタツムリ)を持ってきたことの意味についてです。
石海氏:
そこに込められた意味は二つ。小さな体に偉大な成長の可能性を持つということです。
4Gamer:
ふーむ。しかしカタツムリに対する一般的なイメージは,どこをどう考えても「小さい」「強くない」「遅い」というものだと思います。それらをポジティブに解釈できるように,もう少し詳しく教えてください。
石海氏:
そうですね,小さな体の中に,大きな夢が詰まっているというイメージなのです。ほかの生物と比べたとき,カタツムリにとってはどんな目標もはるか遠くのものに見えます。ですがカタツムリ本人は,ほかの人がどう思おうが,それをまったく気にしません。すべての努力と結果は,自分が背負った殻から発生するものなのです。
カタツムリが通ったあとには,軌跡が残って見えますよね。我々も,通ったあとに何か「跡」を残したいと思っています。歩みは遅いかもしれないけれど,確実な足跡を楽しみつつ残していくこと。そして殻に象徴されるとおり,誰あろう自分自身の重みを背負いつつも,自らの意志で進んでいくこと。そして,その歩みが止まることはないこと。それが「Snail」に込めた意味のすべてです。
4Gamer:
今日お聞きしたお話の全体と照らし合わせることで,そこに込められた深い意味が少しだけ分かったような気がします。本日はありがとうございました。
だが実際に社長の話を聞くにつれて,この社屋がちょっと気の利いた思いつきなどではなく,彼の強烈な主張のごくごく一部なのだということが,遅まきながら飲み込めてきた。
「やるならそもそも,自分より強力な競合相手にもできないことを目指すべき」「世界に通じる技術レベルで,自分達が良いと思うものだけを作る」「周囲の理解が得られなくても,それは第一の問題ではない」という趣旨の言葉,そして「いまの中国社会はお金儲けだけに浮ついている」「アメリカのSFには中国が出てこないことが不満」といった発言。……なんというか,どれも原則として正しいのだが,いま目の前にある現実に惑わされ,人が往々にして見失いがちな論点である。しかるに彼は,それを実にストレートに押し出してくる。アップルコンピュータに寄せる敬意を,決して表面的なものと思わせない自恃の精神のなかに,彼の「画家」は確かに健在なのだと思えた。
そんな強烈な個性に導かれつつ,いまや総勢600人にまで成長したというSnail。小さく弱いがゆえに余人の到達し得ない地平を目指すと語る彼の目が,この先に何を見ているのか。今後登場する作品ともども,見逃せない話題といえよう。(Kazuhisa/Guevarista)
- 関連タイトル:
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