テストレポート
単体GPUを持たないRazer製Ultrabookは意外な優等生。「Blade Stealth」ファーストインプレッション
Razer Bladeシリーズといえば,比較的薄型のボディに14インチまたは17インチサイズの液晶ディスプレイと単体GPUを搭載したゲーマー向けノートPCという製品で,薄型ゲーマー向けノートPCの草分けといってもいいものだ。ただ,そもそも価格が高価なことに加えて,初期の14インチモデルが冷却機構の能力が不十分といった問題を抱えていたこともあり(関連記事),日本市場に受け入れられるには至らなかった。
それに対して新しいBlade Stealthでは,単体GPUを搭載しない代わりに,高速なI/Oインタフェースである「Thunderbolt 3」接続の別売り外付けグラフィックスボックス「Razer Core」にデスクトップPC向けのグラフィックスカードを差せるようにして,ゲームPCとしても使えるUltrabookという製品となっている。単体でゲーム用途にも十分な性能を持つノートPCという路線は諦めて,Ultrabookとしての実用性に重点を置いたのが,Blade Stealthであるともいえようか。
そこで今回は,UltrabookとしてのBlade Stealthがどのような製品なのか,ファーストインプレッションをレポートしたい。ゲーマーとしては,Blade StealthとRazer Coreを組み合わせたときの実用性や性能が気になるところだとは思う。だが,現時点ではRazer Coreの国内発売時期も決まっていない状況なので,今後の課題としたい。
シンプルなデザインのボディは悪くない
指紋や脂が少々目立ちやすい
まずは外観から見ていこう。
Razer Bladeシリーズは,比較的シンプルなデザインをしたノートPCであり,Blade Stealthのデザインも,従来の路線を踏襲したものだ。天板と背面はほぼフラットで,閉じた状態は1枚の薄い板を思わせる。全体はつや消し黒で塗装されており,手触りはなかなかいい。
実測のサイズは321(W)×205(D)×13.5(H)mm(突起部除く)で,重量は約1.25kg。筆者がこの記事を書いている13.3インチ液晶ディスプレイ搭載のUltrabook「VAIO S13」(サイズは322(W)×216.5(D)×17.9(H)mm)よりもやや小さく,重さ(同約1.06kg)はやや重いといったところか。クラス最薄最軽量というわけではないが,気軽に持ち歩けるサイズと重さだろう。
一方の底面は,前面側と奥側に横長のゴム足が貼り付けられていて,奥側左右に吸排気孔のスリットが開いているという作りだった。一般的なUltrabookに比べると,ゴム足はかなり大きめだ。これは,机上に置いた状態でゴム足により底面を浮かせることで隙間を作り,空気の流れを確保するためであろう。
Blade Stealthを触っていて気になったのは,ボディを触ると指紋や手指の脂がとても目立つことだ。同様の現象は,2014年モデルのRazer Bladeでも確認していたので,これはRazer Bladeシリーズ共通の傾向といえようか。同梱物に小さなクリーニングクロスが付属してはいるのだが,指紋や脂が気になる人は,拭きやすいサイズの布を用意して,こまめに掃除したほうがよさそうだ。
インタフェース類があるのは左右側面だけで,手前側側面には電源ランプのLEDが1つあるだけ,背面側にはなにもない。独立した電源コネクタもなく,付属のACアダプターは,Thunderbolt 3対応のUSB Type-Cポートにつなぐ仕組みとなっている。つまり,ACアダプターを接続した状態では,USB Type-Cポートでデータ転送ができない。
余談だが,Razer Coreを接続すると外付けグラフィックスボックス側から電源が供給されるので,付属のACアダプターは使わないで済む。
液晶ディスプレイは12.5インチサイズで,タッチパネル機能を持つシャープ製のIGZO液晶パネルを採用している。Blade Stealthの大きな特徴の1つだ。評価機材は解像度2560×1440ドットで,Adobe RGBカバー率70%というスペックとなっている。なお,上位モデルは,4K解像度でAdobe RGBカバー率100%という,高精細広色域が特徴の液晶パネルを採用している。
下位モデルであっても発色は良好で,ゲームやビデオ映像,写真を美しい色で楽しめそうだ。ただ,グレアパネルを採用しているので,外光の映り込みが気になるのは,痛し痒しといったところか。
キーボードは15キー程度の同時押しに対応
Blade Stealthのキーボードは日本語配列の85キーで,Ultrabookではよくある浮き石(アイソレーション)タイプとなっている。メインキーのキーピッチは約19mmを確保しており,1キーの縦幅に2つのキーを押し込んだ[↑][↓]キーを除けば,小さすぎたりするキーもないので,配列やキー形状に問題は感じない。
キーストロークは1mm程度と非常に浅く,打鍵感にも欠けるが,薄さ重視のUltrabookではしかたのないところか。
各キーは,約1677万色から任意の発光色を選んで光らせる「Razer Chroma」(以下,Chroma)機能に対応するLEDバックライトを搭載しており,Razer製品ではお馴染みの設定ソフトウェア「Razer Synapse」(以下,Synapse)を使って,色や発光パターンを設定できる。
また,Synapseの「ゲーミングモード」機能を使うと,[Windows]キーや「Alt」+「Tab」キー,[Alt]+「F4」キーといった,ゲーム中に不要なキーを無効化することも可能だ。ただ,ゲーミングモードで無効化できるのは上記の3種類のみ。[半角/全角]キーや[変換]キーの無効化は,各キーごとのキー割り当て設定で個別に行う必要がある。
さて,ゲーマー向けノートPCであるならば,キーの同時押しへの対応も気になるところ。Razerは,Blade Stealthのキーボードについて,複数のキーを組み合わせても問題なく入力できるAnti-Ghosting(アンチゴースト)仕様であると謳っているが,具体的な同時押し可能な数は明言していない。
そこで,Microsoft製Webアプリ「Keyboard Ghosting Demonstration」を使って調べてみよう。いろいろな組み合わせで試してみたところ,15キー程度までは問題なく同時押しができるようだが,それ以上になると,入力されないキーが発生していた。
両手指で同時に押せる10キーまでロールオーバーが可能なら,事実上のNキーロールオーバーといってもいいので,Blade Stealthでは,同時押しの問題は起こらないといってよさそうだ。
キーボードに触れたついでに言及しておくと,キーボード左右にあるメッシュ部分には,ステレオスピーカーが内蔵されている。映像コンテンツを再生してみたが,音質は可もなく不可もなしといったところ。ステレオの定位がおかしいようなことはないし,音量を最大に上げたりしなければ音割れもしなかった。
CPUはSkylake世代のCore i7-6500U
NVMe SSDの速さが全体の性能を底上げ
スペック面もチェックしていこう。
Blade Stealthが搭載するCPUは,Skylake世代の「Core i7-6500U」。2コア4スレッドでTDP(熱設計消費電力)が15Wという,高性能Ultrabookでよく採用されるCPUだ。統合型グラフィックス機能は「Iris Graphics 520」となっている。
メインメモリは,容量4GBのLPDDR3-1866メモリをデュアルチャネルで接続しており,総容量8GB。メインメモリの増設はできない。内蔵ストレージは,NVMe接続のSSDを採用しており,評価機は記憶容量256GBを搭載していた。
内蔵するバッテリーは,定格容量3950mAhのリチウムイオン充電池で,バッテリー駆動時間は公称で最大8時間となっている。国内メーカーの製品では,同クラスのスペックで重量1kgを切り,バッテリー駆動時間がより長い製品もあるので,Blade Stealthのバッテリー性能は,特筆するほど優秀というものではない。
今回はテスト時間の都合もあり,細かくベンチマークテストを行って性能を検証することはできなかったので,FuturemarkのPC総合ベンチマークソフト「PCMark 8」を使って,簡単なテストをいくつか行ってみた。比較対象として,Haswell世代の「Core i7-4500U」を搭載する筆者所有のノートPC「VAIO Fit 13A」(定格1.8GHz,最大3GHz,2C4T,メインメモリ容量4GB×2,ストレージ容量512GBのSATA 6Gbps接続SSD)を用意した。
家庭でのPC使用シーンを想定した「Home 3.0」テストを実施したところ,VAIO Fit 13Aが「2199」なのに対して,Blade Stealthは「2573」という高いスコアを記録し,意外なほど大きな差が付いた。細目別に見ていくと,グラフィックス性能が重要な「Casual Gaming」が2.3倍も上回っているほか,「Video Chat encoding v2 Conventional」「Advanced Photo Editing1 Conventional」といった項目も3割近く高い。グラフィックス性能とストレージ性能が左右する項目で,高い性能を発揮したようだ。
同じHome 3.0テストを使った,簡易的なバッテリー駆動時間計測も行ってみた。液晶パネルの輝度を約110cd/m2に設定した状態でHome 3.0をバッテリーテストモードで実行し,バッテリーを10%消費するまでの時間を計測する。この結果を10倍すれば,おおまかなバッテリー駆動時間が分かるだろうという簡単なものだ。テスト中は,無線LANも接続した状態にしておいた。
結果は,10%消費するのに要した時間が23分。10倍すると約3.8時間となる。PCMark 8は,システム全体に持続的に負荷をかけるため,バッテリー消費の激しいテストであるが,Ultrabookとしては物足りない。持ち歩いて長時間使うときは,ACアダプターも合わせて持ち歩き,適宜充電しながら使う必要がありそうだ。
最後に,気になる放熱もチェックしてみよう。
PCに持続的な負荷をかけるテストツール「Heavyload」を使い,CPUとグラフィックス機能に負荷をかけた状態で10分間放置してから,放射温度計を使って発熱の高い部分を探すという方法で調べてみた。測定時の室温は約25℃である。
すると,キーボード面はメインキーの[4]キー周辺が約44℃,底面左側にある吸排気孔の右下部分あたり,本体中央寄りでゴム足の手前が約46℃にまで上昇しているのが確認できた。底面左側の吸排気孔周辺は40℃弱の熱を持っているが,低温やけどを生じる目安である44℃を超えている部分はない。最も高温な部分もゴム足のすぐそばなので,膝上で使っても直接肌に触れにくいところだ。
左側吸排気孔以外の底面は30℃台で,膝に載せて使うと温かくはあるが,やけどを心配するほどではない。ファンの動作音はそれなりに大きくなるものの,筆者が今までに使ったことのあるUltrabookと比べても,とくに騒々しいわけではなかったように思う。
内部の冷却構造を確認すべく,底面パネルを外して確認してみた。すると,筐体内には吸排気孔から見えるファンの隣,やや中央寄りに,もう1つのファンを内蔵しているのが分かった。動作中に空気の流れを確認したところ,右側の吸気孔から新鮮な空気を吸い込み,それを2基のファンで左側の熱源部に送り,左側の排気孔から排出するという構造のようだ。
従来型Razer Bladeのノウハウが,この冷却構造にどれくらい生かされているのかは分からないものの,少なくともBlade Stealthは,底面を無理に塞いだりしない限り,高負荷でも放熱に問題を生じることはないのではなかろうか。
価格対スペック比は抜群に高い
Razer Coreとの組み合わせに期待が高まる
なにより,Blade Stealthはスペックのわりに価格が安いのが魅力だ。液晶パネル解像度2560×1440ドット,内蔵ストレージ容量128GBの最も安価な製品は,単純計算した税込価格が12万9384円。評価機の構成なら15万984円で,4K液晶と512GBの最上位構成でも19万9584円。大手PCメーカーのUltrabookと比べても割安な価格と言っていい。この価格対スペック比には,「Razer,ずいぶん頑張ったな」というのが正直なところだ
個人的には,メインメモリ容量を16GBに増やせるとよかったのだが,分解したマザーボードの構造を見る限りでは,難しそうではある。
この価格対スペック比に加えて,Razer Coreという周辺機器の存在を考えると,ゲーマーが選択するUltrabookとして,Blade Stealthはなかなか魅力的な製品といえそうだ。Razer Coreと組み合わせたときに,どれくらいの能力を発揮できるのか,なかなか楽しみになってきた。
●Razer Blade Stealth(評価機)の主なスペック
- CPU:Core i7-6500U(2C4T,定格クロック2.5GHz,最大クロック3.1GHz,共有L3キャッシュ容量4MB)
- メインメモリ:PC3L-14900 DDR3 SDRAM 4GB×2
- GPU:HD Graphics 520(※CPUに統合)
- ストレージ:SSD(PCI Express M.2,256GB)
- 光学ドライブ:なし
- サウンド:オンボード
- 有線LAN:なし
- 無線LAN:IEEE 802.11ac(Bluetooth 4.1対応)
- 液晶パネル:12.5インチワイド,IGZO(IPS),
解像度2560 × 1440ドット(235ppi),グレア(光沢),タッチ対応 - 入力インタフェース:日本語キーボード(Anti-Ghosting対応),タッチパッド
- 外部接続インタフェース:Thunderbolt 3(USB Type-C)
× 1,USB 3.0(Type-A) × 2,HDMI 1.4b(Type A) × 1,3.5mmミニピンヘッドセット入出力 × 1 - 本体サイズ:321(W)
× 206(D) × 13.1(H)mm - 重量:1.25kg
- OS:64bit版Windows 10
- 保証期間:未公開
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