レビュー
11月29日に完全日本語版が発売される「クライシス」のプレビューを掲載
トロピカルミリタリーFPS「クライシス」,ついに登場
消息を絶った考古学者のチームを探すため,南シナ海の孤島に上陸した特殊部隊員。だが,彼らがそこで見たものは人類の未来にかかわる大事件だった。ゲーム前半はホラー映画(というか怪獣映画)のノリで,何か恐ろしいものがチラチラ見えるだけという演出が巧み。平和な島に何が起きたのだろうか? 知ってるけど |
2007年の欧米ゲーム業界は,過去にないほどFPSの大作/注目作ラッシュだったが,そんなFPSファン欣喜雀躍の年の掉尾を飾るビッグタイトルが「クライシス」であることには,どなた様もご異存ございませんですね。もちろん,本作以外にも「BioShock」や「Call of Duty 4: Modern Warfare」「Unreal Tournament 3」といった評価の高いタイトル,あるいはドーンと売れたゲームが数多くリリースされた年だったが,そのほとんどがマルチプラットフォーム展開。こと“PC専用”に限れば,このクライシスと「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」ぐらいしか思いつかない私(なんか忘れてたらごめんなさい)。だが困っているわけではなく,むしろその逆。つくづくPCゲームやってて良かったなあ,と思えるのはこのクライシスのようなタイトルをプレイできるときであり,次世代機? うふふ,なにそれ? である(←嫌われるタイプ)。
開発を担当したのはドイツのデベロッパ,CryTekで,2004年にリリースされた「FarCry」(邦題 ファークライ 日本語版)に続く同社二作めのタイトルとなる。パブリッシャがUbisoft EntertainmentからElectronic Artsに移ったため,FarCryとクライシスにはとくにつながりはなく,Ubisoftのモントリオールスタジオが現在,CryTekとは無関係に「FarCry 2」の開発を進めているのは先刻ご承知のとおりである。
「栴檀は双葉より芳し」(栴檀は双葉より芳しいという意味)と言われるように,クライシスはタイトルも未定だった頃からそのグラフィックスレベルの高さと,FarCry後継作としての期待感からFPSゲーマーの注目を集めてきた一本だった。リリース予定日はちょっと遅れたが,欧米では11月16日前後に無事リリースされ,現在のところ欧米各ゲームメディアの評価は高い。日本ではエレクトロニック・アーツから11月29日に音声,テキストとも日本語化されたバージョンが発売される。というわけで,今回はその日本語版クライシスのシングルプレイのプレビューをお送りしたい。マルチプレイに関しては,製品版の発売後,また稿を改めて紹介する予定だ。
その前にちょっとお断りしておかなければならないが,以前の記事で私は「英語と日本語が切り替えられる」と書いたのだが,製品版を見るとゲーム中の切り替えは不可能であり,インストール時に使用言語を選ぶことになる。切り替えというより「英語版の言語パックを同梱」というのがより正確なところで,期待していた人にはお詫びして訂正したい。
さて,FarCryは同年発売の「Half-Life2」と「DOOM 3」に話題をさらわれた感なきにしもあらずではあるものの,割と評価の高いゲームだった。もちろん無謬というわけではなく,中でも一番の不満は難度の高さだ。AIの頭の良さはむしろゲームのいい点なのだが,見通しの悪いジャングルでこちらが視認できないようなところから正確にバンバン当ててこられると,ちょっとイヤ。また,マップが広いため,一人が制圧射撃を行っているうちに,もう一人が背後に回ってくる,なんてことも平気でやってくるため,こちらの攻撃はどうしても単調な長距離射撃が主体となり(これは,使われているCryENGINEが近距離から遠距離まで一気に描画できることを示すためのものだったらしいが),スカッとさわやかな戦闘になりにくかった。
後半に出てくるモンスター軍団も取って付けた感が高く,ストーリーもそれほど印象的ではなかった。どうしてもグラフィックスの話ばかり前面に出てくるクライシスだが,このあたりのプレイアビリティがどう変化したのかが個人的には興味の中心である。
一度は着てみたい「ナノスーツ」であらゆる難局を打開
そんな“難度の高さ”という問題に対応するためにCryTekが導入したのがスーパーハイテク装備「ナノスーツ」だ。アメリカ軍特殊部隊が使用するナノスーツは,以下のような機能を持っているのである。
- マキシマム・アーマー:銃弾などによるダメージを軽減する
- マキシマム・ストレングス:腕力,ジャンプ力が大幅アップ
- マキシマム・スピード:移動速度が大幅アップ
- クローク機能:いわゆる光学迷彩で,姿が消せる
これらの機能はゲーム中いつでも使用可能だが,スーツのエネルギーを消費する。アーマーは銃弾を受けない限りエネルギー消費はなく,またクローク機能は,その場に突っ立っている限り消費はわずかだが,移動するとあっという間に減っていく。残りの機能も同様で,使用していなければエネルギーは自動回復する。
こうした機能を持つナノスーツは極めて強力だが,そこを敵の数と携行できる銃弾数で調整している印象だ。一度に出てくる敵の数はかなり多く,クローク機能は銃を撃ったりグレネードを投げたりすると自動的に解除されてしまう(アーマーに戻る)ため,一人は首尾よく片付けたとしても,残りの敵に蜂の巣にされてしまうこともしばしば。
それぞれの武器の弾数も「もうちょっと欲しいなあ」という分量で,多数の敵を相手に立ち回りを演じていると不安になってくる。
もちろん,敵の落とした武器や弾薬を拾って使えるのだが(というか,中盤以降はほとんど北朝鮮軍の武器を使っている),踏んだだけではダメで,積極的に拾わなければならない。しかし,ジャングルの下生えに放り出された武器はなかなか発見しづらく,しかも敵の死体は時間とともに消える仕様(武器は残る)なので,それを目印に探すのも困難。双眼鏡で見れば,銃器類は青く浮かび上がって発見しやすいのだが,同時に拡大されてしまうため,だいたいどのへんに落ちたかが分かっていないと,やはり見つからない。キー。
ロケットランチャーも一基しか持てず,また携行できる武器も限られているので,最初はちょっと戸惑うものの,使うにつれナノスーツは魅力的なアイテムに思えてくる。ハイジャンプで敵の立てこもる建物の屋根に飛び乗り,マキシマム・ストレングスを使って屋根をぶち壊す。敵のジープさえ投げ飛ばせる。ぜひ私も一着欲しいくらいだが,ゲーム中に指示される操作法「マウスの中ボタン押下」はちょっと使いづらいので,キーボードを使ったほうがやりやすいだろう。また,オブジェクトをつかんで敵に向かって放り投げることもできるのだが,HL2のグラビティガンと異なり,ひょろひょろっと飛んでいくため迫力に欠ける気がする。
リンシャン島波高し! エスカレートする武力衝突
敵部隊の登場タイミング,数,位置はスクリプトによっているが,ところによっては無限にリスポーンしてくる場合もある。そういうときは無駄な戦闘を避け,クローク機能で目的地にさっさとたどり着いてしまおう,なんてことは言わずもがなですね。
敵AIの認識力はケースバイケースという感じで,例えば敵のボートやヘリコプターなどはえらく遠くからこちらを発見していち早く攻撃してくるのに対し,兵士の中にはかなり薄らボンヤリしたのもいて,クローク機能を解除して敵の眼前に立っても「ん?」と反応が遅れたりする。
とはいえ,いったん戦闘に入ると相変わらずなかなかの強敵だ。単純にこちらに攻めかかってこず,迂回したり包囲しようとしたりするので,とくに見通しの悪いジャングルでは相手の位置が把握できない。こちらを撃っている敵は赤いシルエットで表示されるのだが,それでも,わあ,どこどこ? とあわてているうちにやられてしまったりする。パスファインディングの関係か,とんでもないところまで逃げる敵もいて,ちょっといらだたしい思いをしたりする。前述のように,一度に登場する敵兵士の数は非常に多く,撃っても撃ってもという雰囲気だ。
もちろん,必ずしも撃ち合いに持ち込む必要はなく,大きく迂回して戦闘を避けるのも手である。だが,ほかの敵の一隊と遭遇した場合,やりすごした敵が駆けつけてきて二進も三進もいかなくなる場合があるので要注意だ。個人的には,「見敵必殺」でプレイするのが無難なような気がするが,どうですか。
こうしたことから,総じて本作の難度はやや高く。魅惑のナノスーツを使いまくり,あれこれ頭を使って戦わなければならないわけだ。プレイ中に難度の切り替えが可能になっているので,こりゃ無理だと感じたら難度を下げてみるのも手である。
やがて,アメリカ軍は島に重装備の部隊を揚陸させ,事態は北朝鮮軍との全面武力衝突にエスカレートしていく。たかが(失礼!)数名の考古学者チームの誘拐/拉致事件に対して,これは明らかなオーバーリアクションではないか,と思う間もあらばこそ,ノーマッド中尉もその渦中に投げ込まれ,砲弾が炸裂しミサイルが飛び交う戦場に立たなければならない。
クライシスというゲームを「ジャングルの中で北朝鮮兵士をこっそり撃っていくFPS」だと思い込んでいた私としては,こんなにスケールの大きい戦闘が次々に発生するのは予想外もいいところだ。戦車戦あり空中戦ありのパノラミックな戦場は,まさに息を呑むほどで,ここだけでも体験する価値がある。そんなマップの広さと作り込みは驚くべきほどだ。「こんなとこ,絶対に行かないだろう」という場所まで細かく作られており,手間ヒマのかけ方は尋常ではない。ノーベル努力賞を受賞してもいいくらいだ。
ミッションは「あそこへ行って,これをしろ」という形で与えられるのだが,そんなわけで進行ルートは一つではない。山頂のレーダー基地にたどり着くため,普通の道をひた走ってもいいし,ハイジャンプで崖を駆け上がってもかまわないのだ。
ミッションには,メインとサブがあるが,サブミッションは単に「おヒマだったらどうぞ」というものではなく,それによってゲームの進行がダイナミックに変化したりする。
例えば,敵の車両集積所を無力化するには,当然ながらそこへ突入して敵と斬り結んでもいいのだが,サブミッションの「対空砲の破壊×2」をクリアすれば味方爆撃機の侵入が可能になり,自分でやるまでもなく航空攻撃で車両集積所が破壊されるといった具合だ。サブミッションをこなしてもとくにポイントが得られたりするわけではないのだが,こういうシステムであるため,リプレイ性は高いといえるだろう。
とはいえ,マップが広く複雑であるため,歩いて回っているとやたら時間がかかるうえ,必ずしもゲームの進行にそって移動する必要がないのもクセ者だ。例えば,まず敵の拠点を制圧し,しかるのちに発掘現場へ行くというダンドリが用意してある場合,うっかり先に発掘現場(これがまたべらぼうに広い)へ行ってしまうと,そこの敵を倒し,それから敵拠点に向かい,そこで話を聞いてさらにまた発掘現場に戻るという行ったり来たりをしなくてはならない。これもまた自由度の高さなわけだが,まあとにかく広すぎ。
PCのスペックがクリアできるなら
なにはともあれプレイしてみよう
北朝鮮軍のキョン将軍はその未知のテクノロジーを自分のものにするため軍を送り込み,またあらかじめその存在を知っていたアメリカ軍も,北朝鮮軍の意図を挫くため大部隊を派遣したというわけだ。かくして,北朝鮮軍,アメリカ軍,エイリアンというゲーム史上前代未聞の三つ巴の戦いが展開される中,ノーマッド中尉はエイリアンの宇宙船に侵入したり,パイロットを失ったVTOL機を操ってエイリアンとの空中戦を演じたりと七転八倒の大活躍(?)をこなしていく。
やがて,押し寄せるエイリアンの勢いに恐れをなしたアメリカ政府は,ついにリンシャン島への核攻撃を決意するのだった……。
クライシスのハイレベルなグラフィックスについてはすでにあちこちで書かれているので言うまでもないだろう。海から昇る朝日,緑深いジャングルとそこを流れる透明な川,入り江の風景など,つい足を止めて見入ってしまうほどだ。長いこと私は“グラフィックスとゲームの面白さは別モノ”という意見を持っていたのだが,ここまでやられてしまうと考えを改めたほうが良さそうな気がしてくるのは単純すぎます? まあ,FPSジャンルに限った話ではあるものの,ゲームに対する没入感は圧倒的だ。それだけに,どうしてもハイスペックなPCが要求されてしまうのは仕方ない話だが,あなたがもしFPSのプレイヤーで,そろそろPCを買い替えようかなと思っているなら,今が良いチャンスだ。
あちらのフォーラムでは,「FarCryとロケーションが同じでつまらない」という意見も見られるが,これは,FarCryがある意味CryENGINEのテクニカルデモだったのに対し,CryENGINE 2.0はこうなった,という意味でのデモの側面を持つのがクライシスなので,あえてそうしているのだろう。
破壊した車両がいつまでも動いていたり,ストーリーにちょっと無理がないわけではないが,そうした瑕疵を差し引いても,技術面における一つのエポックであることは間違いないはずだ。いよいよ明後日(11月29日)に迫った日本語版の発売日。初回生産の限定特典として,マルチプレイ用の特殊車両が使えるキーコードも同梱されているので,ぜひ特殊部隊の隊員となってトロピカル気分を満喫してほしい。
- 関連タイトル:
クライシス 完全日本語版
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