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[AGC 2006#11]MMORPG界を覆い始めた“メタバース”
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印刷2006/09/11 21:43

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[AGC 2006#11]MMORPG界を覆い始めた“メタバース”

テキサス大学ダラス校の新興メディア科のディーン・テリー博士(右)と,同校で博士号を目指しながら教鞭も執るモニカ・エヴァンス教授
 MMORPG開発者らが,業界の現実や将来について語っているAGCで,最も気になったキーワードが“メタバース”(Metaverse)だ。“バーチャル・リアリティ”(Virtual Reality:仮想世界)という言葉を覚えている人は多いだろう。この言葉は,その許容範囲を超えて多用されすぎたためか,はたまた元のコンセプトが曖昧すぎたためか,実現する前に死語になってしまった。そこで,このバーチャル・リアリティと同様のコンセプトを,さらに現実的な観点から見つめ直した言葉が,メタバースというわけである。
 メタバースとは,一般的には「宇宙の中に属する小宇宙」とでも言うべきもの。語源は,フィクション作家Neal Stephenson(ニール・スティーヴンスン)氏が1992年に上梓した「Snow Crash」(邦題 スノウ・クラッシュ)という小説にまでさかのぼる。ヒーロー(ヒロユキ)という名の主人公が, “スノークラッシュ”というコンピュータウィルスをめぐって,剣士のアバターを使ってシュメール文明の謎を追っていくという作品だ。この中でスティーヴンスン氏は,近未来の人々が電話ボックスのように公共利用できるコンピュータターミナルや特殊デバイスを利用し,誰でもアバターを駆使してメタバースにアクセスできるという次世代インターネットの世界を描いていた。

 バーチャル・リアリティが一企業によってメンテナンスされているもの(映画「トータル・リコール」ではリコール社)であるのに対し,メタバースはオープンソース化されていて誰にでもアバターやメタバースの一部を変更する権利が認められているものという点が,両者の違いといえるだろう。
 Snow Crashのあとも,Virtual Reality Modeling Language(VRML),Solipsis,Croquetプロジェクトなど,オンライン上の仮想世界をオープンソース化しようという動きは,地道ながらも続けられてきた。このあたりの流れを,少しクールな視線で観察してみると,陳腐化したバーチャル・リアリティという言葉を,これまで寝かせておいたメタバースという言葉に置き換えただけという見方もできる。
 ただ,やはり「オープンソースである」という部分に,MMORPG開発者達は自らの未来を感じているのであろう。
 Snow Crashには,このメタバースを広めるために,まず「アクティブ・ワールズ」(ActiveWorlds)という複数のプロジェクトを立ち上げる過程が描かれている。例えば現在,「Second Life」はプレイヤーにコンテンツの制作を委ね,所有権も認めるというPCC(Player-Created Contents)型のバーチャルワールドではあるものの,月額制の極めてクローズドな世界であるため,メタバースには至っていない。だが,メタバース前夜という意味では,アクティブ・ワールズとSecond Lifeや「There」には共通しているものがあるようにも思える。



 今回のAGCで,「Beyond Games: Considerations in Advance of a Metaverse」(ゲームの次にあるもの 〜メタバースの進化を念頭において〜)という講義を行ったテキサス大学ダラス校のMonica Evens(モニカ・エヴァンス)教授は,「現世代のSecond Lifeのような仮想世界をメタバースと呼ぶことは,まだできない」としながらも,「MMORPGはその理想に最も近い存在である」と語った。次いで,同校のDean Terry(ディーン・テリー)博士も「次世代MMOGが,必ずしも“ゲーム”という定義に当てはめられる必要はない」と話し,現在同校の最新メディア科で進行中のプロジェクト「UTD Online Worlds Lab」を紹介した。
 確かに,Second Lifeでなくとも最近のMMORPGの多くは,ゲームプレイそのものだけでなく,コミュニティレベルでの体験に“プレイヤーにとっての楽しさ”の重点が置かれている。エヴァンス氏によると,アメリカのコミュニティサイト「MySpace.com」の総アカウント数は1億を突破したというので,ゲームというバリアに縛られていては,新境地を開拓できないと開発者達は考え始めているのかもしれない。

 こういった,ゲーム開発者としての地位放棄ともとれる発言や風潮が,今回のAGCから強く感じられたが,実際にWebサイトを閲覧するかのように3Dのメタバースを自由に探索できるようになるまでには,あと15年から25年はかかるのではないかとも言われている。その過程で,MMORPG開発者がメタバース提供者へと変わっていくことになるのだろうか。
 別の講義では,Raph Koster(ラフ・コスター)氏も,「“ゲームデザイナー”という名称は横柄すぎたのかもしれない」と話していた。手品や占い,ソリティアのようなさまざまな遊びが作り出されるためには,遊びの考案者の想像を喚起させる素材となってくれる「トランプ」がまず必要だった。メタバースが生み出されるために必要なものがMMORPGだったとして,開発者達はどのような形で想像を喚起していくだろう。Microsoftがゲーム内広告企業Massive Entertainmentを買収したことは,次世代インターネットといえるメタバースを見越してと言う人もいるが,バーチャルな買収が開発者たちの見据える先にあるものなのだろうか。技術的な問題だけでなく,ビジネスモデルや企業倫理といった,現実に即した諸問題をも含めたならば,理想のメタバース誕生は,我々が思うよりもまだ先の話なのかもしれない。(ライター:奥谷海人)

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