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[GC 2006#03]ピーター・モリニュー独占インタビュー:新規プロジェクトに求める,ドラマチックで達成感のあるコンバットシステムとは?
■透明度の高さから,批判されることとなったモリニュー氏
ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏は,販売元の圧力など跳ね返してしまうほどのカリスマ性で英国ゲーム業界の先頭に立ち,ゴッドゲームや経営シミュレーションなどの分野を開拓してきた人物である。日本でも,1989年に「ポピュラス」で鮮烈なデビューを果たして以来,「Powermonger」「The Syndicate」「Dungeon Keeper」「Black & White」などなど,普通とはまったく別の視点からゲームを眺めたような,イノベイティブな作品作りで注目を集めている。
2004年には,Xboxエクスクルーシブとなる「Fable」で,自身初のロールプレイングゲームに挑戦。年齢を重ねていくなど,キャラクターのカスタマイゼーションで魅せるソフトに仕上げた。しかし,それまで基調講演や雑誌のインタビューで語られていた,子供を作ることやライバルヒーローとの競争といった,製品版には実装されなかった仕様も少なくなく,ファンの間では「大きなことばかり言うが,出てくるソフトはこじんまりしている」などと批判されもした。
これに関しては,モリニュー氏は公式な謝罪を表明するまでに至っている。自分のプロジェクトについて目を輝かせながら話すのは,欧米の古いゲーム開発者達に共通した“魅力”であるが,もちろんモリニュー氏も同じようなタイプの人である。まだ実験中のことや,構想でしかないことまでメディアを通じて公言し,ファンを誤解させてしまったことを悔いたという。
しかし,好意的に解釈すれば,それは彼の「ゲームに対する情熱」であり,多少悪くとっても,「ファンサービス」が高じてしまっただけだろう。彼の講義に立ち見してまで耳を傾ける若い開発者が多いのも,現場の様子を隠すことなく,現在進行形で語るモリニュー氏から,インスピレーションを受けるためなのである。
今回,GCDC 2006で行われた基調講演の後,わずかな時間ながらモリニュー氏にインタビューする機会が得られた。講演では,まだプロトタイプでしかないデモを見せながら,次世代的なコンバットシステムにおける彼の取り組みを解説していたが,今回のインタビューでも幾つかの点で掘り下げているので,未読であれば,まず該当の記事を読んでほしい。(ライター:奥谷海人)
■「Fable 2」では,「アクション」の既存概念をも覆したい
お久しぶりです。まず,先ほど話されていたワンボタン・アクションに関する追加質問をさせてください。あれだけコンテクスト(オブジェクトなど)にセンシティブになれば,ボタンを押すだけで勝手にコンバットが進み,プレイヤーが実際にキャラクターを操作している感覚が稀薄になってしまいませんか?
Molyneux:
そこが,このプロジェクトの焦点の一つなんです。ゲーマーとしての感覚では,Aボタンでパンチ,Bボタンでキック,というような操作のパターンを,体験的に覚えている。しかし,現実世界ではそうではありません。目の前にテーブルがあれば,その上に登ったり,蹴り倒したりといった選択肢がある。例えば,暴漢とバーで戦うことになった場合,わざわざナイフのある場所に移動せず,自分の座っている椅子で殴りつけるのが自然ですよね? そういう,もっと本能的な人間の反応を,そのままゲームに取り込もうというのが,このコンバットシステムのテーマなのです。
ゲームデザイナーは,ただ現実的なマップを作ってプレイヤーに丸投げするのではなく,まるで映画のセットを組むように,すべてのオブジェクトに意味を持たせることになるわけですね。
4Gamer:
なるほど。しかし,プレイヤーの意思を適切な形で理解するのは,難しそうですね。例えば,敵を突き刺したい状況なのに,そこに椅子があったために,不本意にも椅子で殴りかかってしまう,というようなケースが多くなりそうですが。
Molyneux:
一つ分かってほしいのは,このプロジェクトでは,相手キャラクターにいかにアプローチし,何度剣を振り下ろせば倒せるのか,というような,既存のアクションのセンスとはまったく次元の違う問題を取り上げていることです。
相手に懐に飛び込まれることは死を意味する,というような当然の感覚を,ゲームにもたらしたい。相手を15回殴りつければ倒せるなどという数字の遊びにはしたくないのです。
マップ上のオブジェクトは,プレイヤーがインタラクトできる本当のオブジェクトであり,目的とプレイヤーの行動パターンを読んで配置していくことが,ゲームデザイナーのチャレンジになると考えています。
4Gamer:
もしそのチャレンジが成功したら,RPGの次のステージが見えてきそうですね。例えば,目の前に巨大な敵がいた場合,僕だったらそいつによじ登って,レゴラス(映画「ロード・オブ・ザ・リング」のキャラクター)のように,頭のてっぺんを矢で射抜きたい,なんて考えるかもしれません。
Molyneux:
そうそう。それは当然の感情だと思います。そういうアクションを具現化することが,ゲームデザイナーの仕事だと考えています。そのためには,プレイヤーがモンスターの上によじ登りやすいような,屋根や崖などのセット作りをマップ内で行う必要があるということです。
Fableでは,大きなモンスターに剣で立ち向かっても,ゲーム内で再現されるアクションは,巨大なモンスターのつま先を引っかいているようなもので,今言っていたような「征服感」が感じられない。決して新しい試みではないのですが,そのへんを反省材料にして,よりドラマチックでインパクトのあるアクションシーンを作り出したいんです。
■これまでの作品から学んでいくべきこと
Fableと言えば,制作中の言動で批判されていたようですが……。
Molyneux:
あれは僕の責任です。メディア関係者には,「これはまだ実験段階の話だ」と,きちんと説明すべきだった。僕は興奮すると,どんどんしゃべってしまう性格だから,ファンに過度の期待を抱かせてしまったことに対しては,反省しています。
4Gamer:
Fableでいうと,ゲーム内での経験や時間の経過によって,キャラクターの容姿が変化するのが魅力だったわけですが,そのあたりの要素は,新作ではどのように発展させるのでしょうか?
Molyneux:
(ここで,広報担当から,次回作について具体的な質問過ぎると制止が入るが)いやいや,これくらいなら大丈夫だよ。Fableでは,グラフィックスが変化するのが面白かったといっても,私もそれで満足していたわけではありません。若いうちは機敏だけど,年を取れば腰が曲がり,動作もスローになってしまう。その代わり,数々の戦いを経て,経験や知識が蓄積されているわけですから,決して侮れない。そういった要素を,いろいろと“実験”してみたいと思っていますよ(笑)。
4Gamer:
これまでのプロジェクトを振り返ってみても,グラフィックス以外の部分,物理シミュレートやAI(思考ルーチン)なども徹底的に考察されていました。
Molyneux:
ええ。新しいプロジェクトでも,一撃で必殺できるとか,1個のボタンでアクションもブロックも兼ねるなどの仕様を突き詰めていくと,最終的には「AIをどこまで成熟させられるか」が重要になってくる。やるかやられるかの状況だけがゲーム内で提示されるわけですから,もはや敵キャラクターにはヘルスバーなんて存在せず,「そのキャラクターがどのくらい賢いか」で,強弱が決定されることになるのです。敵を一回貫いたり首をはねたりするために,数分間も剣の打ち合いやブロックを行い,ようやく仕留めたときの達成感が表現できれば,実験は成功といえるでしょうね。
4Gamer:
ところで,話を聞いていると,ゲームパッドの使い方を随分と考慮している印象を受けるのですが,ウィンドウズ/次世代コンソール機に関しての展望を教えてください。
Molyneux:
(しばらく時間を置いて)うーん……。昔,「PCならでは」といえた仕様が,新世代コンソール機の登場で,次々と奪われていますよね。もちろん,Windows Vistaには期待しているけど,新しいゲームコンセプトを具現化するためのプラットフォームとしては,PCは難しい立場に立たされているのでは,と感じています。
■Lionhead Studiosとモリニュー氏の今後
4Gamer:
Lionhead Studiosがマイクロソフトに買収されたことで,Windows/Xbox 360への開発がある意味保証された形ですが,Nintendo Wiiのコントローラのようなコンセプトについては,どのような印象を受けていますか? 例えば「Black & White」の魔法のように,新規プロジェクトにも受け継がれているGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)をなくす試みとか,Wiiであれば面白くなりそうだと思うのですが。
ああいう実験的な試みは,実に興味深いですね。任天堂だから思い切ったことができるのだろうし,ほかのプラットフォームホールダーやソフト開発者も,もっと果敢に挑戦してほしいと思います。
しかし,Wiiのコントローラが,アクションにどれだけ対応していけるか……。講演でも話したけど,例えばFable 2にあのコントローラを応用するとして,夜中に大の男がコントローラを振り回している姿は想像したくないし,僕なんか15分で疲れてしまうかもしれない。僕自身は,我々が長年親しんでいるゲームパッドを,いかに簡潔に使えるのかを考察していきたいですね。
4Gamer:
なるほど。ところで去年のGDCでは,「The Room」というプロジェクトの構想も発表されていましたが。
Molyneux:
The Roomのプロジェクトは,今もまだ続行していますよ。確かに,一時期のLionhead Studiosは,プロジェクトが増えすぎて目が回りそうになっていたこともありました。しかし,その後プロジェクトをある程度整理しているし,マイクロソフトに買収されたことで,逆に開発者としての独立は保てたと思っています。このあたりの事情は,来週イギリスで行われる会合で詳しくお話しするつもりです。
4Gamer:
つい最近では,某オンライン誌で「The Syndicate 2」の話もされたようですね。
Molyneux:
「構想」としてあるという意味ですけどね。Dungeon Keeperをはじめ,いずれ新しい技術と発想でリメイクしてみたい過去作は多いですけど,実際にいつ具体的な作業に入るのかということは,まったく決まっていません。
4Gamer:
なるほど。そのような過去の話もじっくりとお聞きしてみたいですね。いずれ日本にも来ていただきたいところです。
Molyneux:
そうですね。日本にはしばらく行ってないな……。時間があれば,東京ゲームショウも覗いてみたいし。その頃には,また面白いお話ができると思いますよ。
4Gamer:
一ファンとして,日本で会える日を楽しみにしています。今日はありがとうございました。
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