業界動向
Access Accepted第685回:Epic GamesとAppleの法廷闘争がついに開始。提出資料から読み解くオンライン配信サービスの内情
米国時間2021年5月3日,Epic GamesがAppleを反トラスト法(独占禁止法)に抵触しているとして提訴した裁判のトライアル(対審)が始まった。ゲーム/IT業界内外で大きな注目を集める法廷闘争がついに始まったわけだ。もちろん,現時点で訴訟の行方は知る由もないが,公開されている提出資料からは,これまでのEpic Gamesストアの内情もつぶさに見て取れるので,今回はその模様を紹介しておこう。
いよいよ始まった業界大注目の裁判
あらためて簡単に説明すると,2020年8月にEpic Gamesが,人気バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch / iOS / Android)で,独自の課金システム「Epic ディレクトペイメント」をゲーム内に実装し,V-Buckの販売を行ったところ,プラットフォームホルダーと開発者間の契約違反として,「App Store」と「Google Play」から「フォートナイト」が削除されるという出来事から始まった“事件”だ。
契約には,売り上げの30%をApple側に支払うという項目があるため,それに違反したというのが理由であるが,Epic Gamesはその対抗措置としてAppleおよびGoogleが独占的地位を濫用しているとの訴えを,カリフォルニア州の地方連邦裁判所に起こし,強硬な姿勢をアピールしている。
Googleについては,Epic Gamesは今年3月になって,なぜかオーストラリア連邦裁判所において法的手続きを開始したばかりだが,因縁の深いAppleとは5月3日からひと足早く法的闘争に突入することになった。
カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所で行われた裁判(関連リンク)は,アメリカでは一般的に「ベンチトライアル」と呼ばれるもので,陪審員を介することなく,最終的には裁判官に判断を一任するというものだ。
5月24日まで第1回のヒアリングが続けられるが,初日は2時間の予定が6時間を超えてしまうなど,すでにヒートアップしている様子。AppStoreは55兆円という巨大なエコシステムに成長しているだけに,ゲーム業界だけでなくIT業界内外にまで注目される大きな裁判となっている。
興味深いことに,Appleはすでに2020年11月に「App Store Small Business Program」を発表し,2021年度から中小アプリ開発メーカー/個人向けに,売り上げが100万ドルに達しないアプリの販売手数料を30%から15%に引き下げた。そのため,原告側(Epic Games)の訴訟意義も薄れてしまいがちであるが,Epic Gamesはあくまでも開かれたプラットフォームを求めて戦っていく構えであるようだ。
「Epic vs. Apple」裁判でのジャブの応酬合戦
本連載執筆時点では,ベンチトライアルの初日と2日めの音声が公開されている。
その音声で,Epic GamesのCEOであるティム・スウィーニー氏(Tim Sweeney)は「第674回:ゲームが牽引するメタバースという近未来」(関連記事)でも触れた“メタバース”という観点から,独占的なAppStoreを「壁で囲まれた庭園」(Walled Garden)と表現し,「アプリのデベロッパよりApple自身が利益を得る構造」だと批判している。
冒頭陳述においては,2010年当時のAppleのCEOであるスティーブ・ジョブズ氏(Steve Jobs)が送ったという電子メールを入手して公開し,Appleが「顧客を我々のエコシステムの中に封じ込める」という独占的手法を選んだことを暴露した。
これに対するApple側の反論もなかなか秀逸で,「同じような収益モデルであるはずの,ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStationを訴えないのは,(ゲーマーから反感を得ずに行う)消費者へのアピールなのではないか」と攻め立てたり,「ブラウザに誘導すればAppStoreの契約内容に反することなく,V-Bucksを販売できたが,なぜそうしなかったのか」と質問し,スウィーニー氏を口ごもらせたりしている。
事実,Appleが提出した資料(関連リンク)によると,2018年3月から2020年8月までの「フォートナイト」の最大市場はPlayStation 4で46.8%,そしてXbox Oneが27.5%と続いている。iOSは7%に過ぎず,少なくとも同ゲームにおいて「iOSが独占的である」という主張は当てはまらないように見えるだろう。
Epic Gamesは,「第648回:PC向けの数年先を行くPlayStation 5のSSD」(関連記事)でも紹介したとおり,同社の次世代ゲームエンジン「Unreal Engine 5」の技術デモを,PlayStation 5を使って公開するなど,ソニー・インタラクティブエンタテインメントとの関係は蜜月な印象だ。同様に,MicrosoftもEpic GamesがAppleを訴えた際には,それを支持する声明(関連リンク)を裁判所に提出している。
Microsoftは最近,Free-to-Playタイトルのマルチプレイを遊ぶ場合には,「Xbox Live Gold」のメンバーシップを不要にするというサービスの変更をアナウンスしているが(関連記事),これはEpic GamesストアのXboxへの参入の布石ではないかというウワサもあり,この8月には何か大きな発表があるとGamesIndustry.biz(関連リンク)は報じている。このあたりの,プラットフォームホルダーと,Epic Gamesを含むゲーム業界との協力関係は,AppleやGoogleとアプリデベロッパの間には希薄に感じられるものである。
赤字を続けるEpic Gamesストアの金銭的な体力勝負
現時点では法廷闘争の行き先はまだまだ見えない状態だが,Apple側が裁判所に提出した公開資料に,Epic Gamesに関して面白い記述(関連リンク)があったので,その内容を紹介しておきたい。
Epic Gamesが,Epic Gamesストアのパフォーマンスとビジネス戦略について解き明かすもので,元々は非公開の内部向けだったらしいが,決してどちらかの裁判に有利に働く内容があるわけでもないようだ。
この資料が制作された時期は,ストアが公開されてから10か月目の,2019年10月。まだ,大作ゲームの「時限的独占(タイムエクスクルーシブ)」や,プラットフォームが分かれることによるPCゲームコミュニティの分断といった理由によって,一部のゲーマーからEpic Gamesが批判を受けていた頃だ。それでも,ゲームの無料配布などのアピールにより,Epic Gamesストアは初年度で1億800万人のユーザーアカウントを獲得し,6億8000万ドル以上の売り上げをもたらすとともに,そのうち2億5100万ドルが,サードパーティのゲーム開発に還元されたという。
この資料を見る限り,Epic Gamesストアは非常にアグレッシブに市場拡大を狙っており,2018年12月のローンチ以降,「Subnautica」から始まる隔週の無料ゲームソフト配布では,9か月間で1160万ドルが,デベロッパ/パブリッシャに支払われていたことがわかる。この間に対象となった38タイトルは,古いインディーズゲームであれば5万ドル,「Batman Arkham」三部作の際には150万ドルが,“バイアウト”契約により支払われている。バイアウトとは,Epic Gamesが消費者に成り代わって,一括でパブリッシャやデべロッパに前払いするというシステムで,すでに売り上げがほぼなくなっている作品にとっては有効な仕組みであるとも言える。
「Batman Arkham」は545万ダウンロードほどが行われたようだが,このうち10%が「無料でバットマンのゲームをプレイできる」という誘惑に引き付けられ,アカウントを作成した新規ユーザーだったという。こうした無料システムが功を奏してか,グラフからはアカウント数が滞ることなく順調に伸びている様子が伺えるだろう。
さらに驚くべきは,時限的独占に対する対価だ。「ゲーム開発者にとっては大きな利益」とされる時限的独占だが,2019年9月にリリースされた「ボーダーランズ 3」では,総計で1億1500万ドル(当時のレートでおよそ127億円)もの資金がEpic Gamesから2K Gamesに支払われていたという。内訳は,8000万ドルの最低保証と2000万ドルの契約料,そして1500万ドルの広告費負担となっている。PCゲーム市場の規模(の小ささ)を考慮すると,2K Gamesにとっては無視できないオファーなのは明らかだ。
この時限的独占という,以前からスウィーニー氏が「デベロッパを魅了できればゲーマーもついてくる」と話す強気の戦略は継続している。海外メディアのPC Gamer(関連リンク)によると,2020年度だけでも100作以上の時限的独占タイトルがEpic Gamesストアでリリースされており,総計4億4400万ドルが,デベロッパやパブリッシャの最低保証として支払われているらしい。
もちろん,この大盤振る舞いを支えているのは「フォートナイト」とUnreal Engineの成功に他ならないが,このまま成長を続けてEpic Gamesストアが黒字化を達成するのは6年後の2027年と見込まれているのだから,驚くほどの金銭的な体力勝負の中で,Epic GamesはAppleとの裁判を行っているのである。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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