インタビュー
Steamに続々投入される国産STG。その背景や各種ゲーム市場への展望をケイブやグレフ,デジカなど7社に聞いた
さまざまなプラットフォームのSTGが一堂に集まるのは,いちプレイヤーとして嬉しい限りだが,なぜ急にこういった流れが出てきたのかは少し不思議に思える。そこで,今回はSteamに参入している国内STGメーカーや,2015年末にトランジションを開催したデジカのスタッフに集まっていただき,Steam参入の経緯や今後の展望,かつてSTGのメインプラットフォームだったアーケード市場への所感などについて伺った。集まっていただいたのは,キュート,グレフ,ケイブ,デジカ,トライアングル・サービス,ピラミッド,モス,以上7社の9名だ。
参加メーカー/参加者(社名50音順)
キュート
「ESCHATOS」Steamストア(1480円)
「JUDGEMENT SILVERSWORD -Rebirth Edition-」Steamストア(498円)
グレフ
「Strania - The Stella Machina -」Steamストア(1480円)
ケイブ
「首領蜂」シリーズや「虫姫さま」シリーズなどをリリースした弾幕STGの総本山。現在はスマートフォン向けの事業に集中しており,「ゴシックは魔法乙女〜さっさと契約しなさい!〜」(iOS/Android)などを展開中。Steamには「虫姫さま(Mushihimesama)」で2015年11月に参入。2016年3月11日にはSteam第2弾タイトルの「デススマイルズ(Deathsmiles)」をリリースした。
経営企画部長の小倉 大氏 |
プログラマーの清水則雄氏 |
「Mushihimesama」Steamストア(1980円)
「Deathsmiles」Steamストア(1980円)
デジカ
トライアングルサービス
「XIIZEAL」Steamストア(1180円)
「DELTAZEAL」Steamストア(1180円)
ピラミッド
受託開発を幅広く行っているメーカーで,ソニー・コンピュータエンターテインメントが展開していた「パタポン」シリーズの開発や,日本ファルコムが展開している「軌跡」シリーズのPS Vitaへの移植(Evolution版の制作),日本一ソフトウェアの「勇者死す。」などを手掛けている。STGは,ダライアスバーストシリーズを一貫して開発しており,同シリーズの最新作である「ダライアスバースト クロニクルセイバース」のPC版が,同社開発タイトルとしては初のSteam用タイトルとなった。
ディレクターの柏木准一氏 |
マネージャーのジェームス・ラグ氏 |
「DARIUSBURST Chronicle Saviours」Steamストア(5800円)
モス
「Raiden IV: OverKill」Steamページ(1480円)
「Raiden III Digital Edition」Steamページ(980円)
海外ファン層はしっかり獲得。国内プレイヤーも増加中
4Gamer:
まず,昨年末に開催されたトランジションがどのようなイベントだったのか,あらためてご説明をお願いします。
今井 晋氏(以下,今井氏):
トランジションは,おそらく国内初の「PC向けSTG」のイベントです。今回集まっていただいたメーカーの皆さまの協力をいただいて開催しました。
国内ではまだまだSteamの知名度が低いということで,プレイヤーの方々にSteamを知ってもらうべく,多数の試遊台を用意しました。また,PCゲーミングの最大の魅力であるカスタマイズ性を伝えるべく「ダライアスバースト クロニクルセイバース(以下,DBCS)」をデュアルディスプレイ環境でアピールしたところ,大きな話題となりました。
現在,アーケードやコンシューマで活躍されていたデベロッパ様の多くがスマートフォンアプリの開発に移行されていますが,そういった方々が力を発揮できる新しいプラットフォームとして,Steamを中心とするPCゲーム市場をアピールしたいと考えています。PCゲーミングやSteamの環境をより良くするため,今後も各社をサポートして環境を整えていきたいです。
4Gamer:
実際,Steam上での各社の展開は順調なのでしょうか?
丸山博幸氏(以下,丸山氏):
それならまず,デジカさんに売上の話を聞いた方がいいのかな(笑)。
今井氏:
実額は申し上げられませんが(笑)。世界的にも国内的にもニッチなジャンルなのは否めないので,全体の規模としては大きくありません。ですが,アジア版のXbox 360を輸入してまでSTGを楽しんでいたような海外のコアなSTGファンはしっかりつかめて,それが全体の1/3くらいを占めています。国内ユーザーは増加傾向にあり,後に出したタイトルほど割合が高くなっています。具体的なデータは公開できませんが,「虫姫さま」はかなりの割合が国内からの購入です。
また,ケイブさんのタイトルを買うことによって,トライアングル・サービスさんのタイトルやキュートさんのタイトルに気付くといった状況も生まれました。世界的な母数は一定数確保されていますが,それに加えて日本国内のユーザーの増加がしっかりと感じられるという状況です。
STGファンは年齢層が高くなっている分,金銭的余裕のある方が多い印象です。国内プレイヤーの購買力が下がっているとかファンが減っているとか言われますが,実情は「出たら買いたいけど……」という感じですね。
柏木准一氏(以下,柏木氏):
DBCSって海外からの購入と日本からの購入はどのくらいの割合なのか聞いてもいいですか? うちは開発会社なので,数字までは分からないんですよ。
今井氏:
ここで詳細はお話できかねますが,国内の比率は高いです。PS Vita版も店頭ではすぐに品切れになったと聞いています。DBCSに関しては,「ダウンロードだけでなくパッケージでも欲しい」というお客様や,「全プラットフォームで買う」というお客様もいました。
藤野俊昭氏(以下,藤野氏):
Twitterで,「DBCS買った自慢」がすごかったですね。うちのゲームも買ったら自慢してくれよって思いました(笑)。
清水則雄氏(以下,清水氏):
「これでSteam始めました」っていう人も多かったですよね。
今井氏:
逆に,セルフパブリッシングされている方や海外パブリッシャと提携されている方はいかがでしょうか。
森岡健太氏(以下,森岡氏):
弊社はH2 Interactiveという海外のメーカーにパブリッシングしていただいています。そのため,配信されているのは英語版です。この中で日本語版がないのは弊社だけではないでしょうか。
パブリッシャが別会社のため売上の詳細などは語れないのですが,トランジションの来場者の方やSteamの掲示板などから「日本語版も出してほしい」という声をいただいており,それに応えたいという想いはあります。
丸山氏:
うちは,この中では唯一セルフパブリッシングをしています。実は,海外の方から日本のニッチなメーカーやインディーズのスタジオに対して,去年の頭ぐらいから「Steamで出さない?」みたいな話が間接的に持ち掛けられていたんですよね。
僕はちょっと仕事が落ち着いたときに,「日本のSTG作ってるメーカーだけど参入していい?」ってメールをValveに直接送ってみたら,「いいよ!」って言われたので,そのまま参入しました。その後にデジカさんからお話をもらったのですが,もう参入した後だったという。
今井氏:
国内外の比率についてはどうでしたか?
丸山氏:
日本と海外で半々ぐらいです。ユーザーの人口比率的に考えると,日本が多かったとも言えます。
今井氏:
やっぱりそうなんですね。STGの購入者は日本人が多いです。
丸山氏:
Xbox 360版のストラニアは国内よりも海外からの購入が多かったんですよ。それを考えると,PCゲームのハードルは低いのかなって思いますね。Xbox 360は……と言うか,最初のXboxのハードルが高すぎたのかな。
藤野氏:
新作がリリースされるとき,「Xbox 360持ってないよ……」って困ってる人がいたりね(笑)。
丸山氏:
日本に関して言えば,Xbox 360を持っていない層がSteamに食いついたというのはあるかもしれないですね。ところで,デジカさんってSTGメーカーを集めていますけど,そのきっかけは何だったんですか?
今井氏:
私が入社する前からの話なので,きっかけそのものは知らないのですが,藤野さんやMAGES.の盛さんをコネクションに「Xbox 360でタイトルを出しているメーカーさんは,今後PCで出していくのがいいのではないか」という話があったようです。
清水氏:
うちはデジタルハーツ経由でお話をいただきましたね。
今井氏:
色々な形で集まったのですが,我々は特定のジャンルに特化することでコミュニティをガッチリつかめると考えています。海外では掲示板や動画サイトなどにしっかりしたコミュニティが根付いているので,彼らと接触するうえでも有利だと思い,特定ジャンルの強化に取り組んでいます。
また,ここ数年で国内のインディーズや中小デベロッパーが続々とSteamに参入していて,コンテンツ数がすごく増加しています。Valveさんとしても日本市場を重要だと思っていますし,トランジションについても非常に喜んでいただけました。タイトルごとの売上にも,「日本人がこんなに買うんだ!」と驚かれています。また,弊社からはValveに日本語タグの修正やスコア桁数の増加など,改善の要望を出しています。
柏木氏:
去年の中ごろくらいからドキュメントの日本語化も進んでいますね。
丸山氏:
SDK(※)関連には不自由なく,分からない情報は,訳されていないのでなく,英語でも分からないという状況ですね。
※Software Development Kitの略。開発に必要なプログラムや文書などのパッケージ。
ジェームス・ラグ氏(以下,ラグ氏):
この2,3年で劇的に変わっていますね。
スマートフォン向けに「ダライアスバースト セカンドプロローグ(以下,DBSP)」を作っているとき,PC上のエミュレーションで動作を確認していたので,社内で「じゃあSteam版も出せばいいじゃん」という話になりました。2013年に開催された1回目のBitsummitでValveの方とお会いして,軽い挨拶や名刺交換はできたのですが,その後Steamでの売り方について質問のメールを送ったらスルーされてしまったんですよ(笑)。
柏木氏:
ただ,アミューズメント店舗では「ダライアスバースト アナザークロニクル」が営業しているので,僕らが「やりたい」と言っても許可が下りたかどうかは分からないですね。DBSPは比較的自由にやったところもあったのですが,PCに関してはいろいろと警戒されていました。
ラグ氏:
それに,そのころは国内におけるSteamの認知度が,まだそれほど高くなかったんですよ。「PCで出したら海賊版が出回るだけじゃん」という意見がある中で,こっちで「そんなことないです」と言っても,説得できる具体的な証拠がないので難しかったですね。
清水氏:
うちも数年前,PCで独自に出そうとしたとき,上から同じようなことを言われました。
ラグ氏:
僕もSTGメーカーの知り合いから,同じような話を聞いています。この数年で本当に変わりましたよ。
今井氏:
昔のPCゲーム市場は,日本人にとって本当にカオスだという認識だったんですよね。今はSteamが広まっていますし,どういうものかは認知されていると思います。
4Gamer:
P2Pソフトでの海賊版被害が深刻だった時期があるので,警戒するのは分かりますけど。
丸山氏:
「何年前の話をしているんだ」って言いたくなりますね(笑)。
今井氏:
まあ,PCゲーミングは日本にとって少し特殊なので……
米沢勇気氏(以下,米沢氏):
ここ数年は「FINAL FANTASY」シリーズなど大物タイトルもSteamで出始めましたし,しっかりしたDRM(※)が採用されているので,認知されてきた……ということなんですかね(笑)。
※Digital Rights Managementの略。デジタルコンテンツ用の著作権利管理システム。
複数回の移植から見える国内プレイヤーの“買い直し”傾向
4Gamer:
各社の多くが,アーケードから家庭用に移植されたタイトルの“再移植”という形でSteamにリリースされていますが,移植を重ねることでの売上への影響はないのでしょうか?
丸山氏:
ストラニアはありますね。もともとダウンロード専売ソフトですし,オリジナル版の発売から2年が経ってはいますが,海外ではまだXbox 360が現役でも動いていますので。
藤野氏:
うちは全然関係ないですね。「XIIZEAL」ってSteam版で4回めの移植なんですよ。まあXbox 360版は,海外では出していないのですが。
売上という話では,実は10年くらい前,国内のPC向けダウンロードサイトで配信をやっていたんです(関連記事)。海外からも頑張れば買えたと思います。そこの売上ランキングでは1位だったのですが,収益はゲームソフト1本を買えるか買えないかぐらいでした。
(一同笑)
藤野氏:
その時代を考えると,今はむしろ「すっげー売れるようになったな!」って思います。
うちのは,他の移植から少しずつ積み重ねている「再継続」みたいな形なので,「持っているけど,もう1つ」と買ってくれる人が多いです。
小倉 大氏(以下,小倉氏):
買い直しの方は多いですね。PS2版を持っていて,Xbox 360版やiPhoneも持っていて,それでも「ここまで買ってきたから今回も買う」とSteam版を買ってくれる人もいます。
オリジナルのリリースから日が経っているので,初期投資コストは回収できていますから,あまり力は入れておらず「清水1人で頑張れ」という体制です(笑)。PC版の虫姫さまにおける清水の人件費も発売初動で回収したので,後は「行けるところまで行ければいいな」という感じですね。
森岡氏:
「雷電III」,「雷電IV OverKill」ともに移植なのですが,「雷電III」はPS2版やPC用パッケージ版の生産が終了していたため,「また遊べるようになって嬉しい」というお声も多くいただきました。そういった買い直しの需要はあると考えています。
※雷電IV OverKillのPS3版は2970円(税込),Steam配信版は1480円(税込)。
藤野氏:
そういうのはありますね。ゲーセンやパッケージで出すときって,ハードカバーの新刊を出す感じなんですよ。で,Steamで文庫化。
(一同笑)
米沢氏:
日本のプレイヤーさんは,パッケージをまず買っていただいて,ゲームオンデマンド版を「ディスクレスでプレイできるから」と買っていただいて,さらにSteam版が出たから買っていただいて……というのが全体の半分くらいはいる感じですね。後はやっぱり,Xbox系を持っていない人が「自分の環境でも遊べる」みたいな形で買っていくケースが多いと思います。
丸山氏:
日本に関しては買い直しをしてくれる人が多いかもしれませんね。
ストラニアは,欧州ですごく売れた一方,北米であまり売れなかったのですが,今回はそれが逆転しました。これはValveが北米の企業だからとか,先ほど話したように「Xbox 360が現役だから」とかがあるのだろうと思っていたのですが,海外では買い直しをする人があまりいないということなのかもしれません。
PC対応に伴って可能となった4Kやデュアルディスプレイなどの新しいスタイル
今井氏:
「エスカトス」は単に移植しただけでなく,かなり手を加えられていますよね。
米沢氏:
PC版はロースペック向けからハイスペック向けまで,可能な限りグラフィックスを対応させました。
キュートはそもそもWindowsに強いんですよ。ゲーム開発を始める前から,WindowsでCRTディスプレイの立体視に関する仕事をやっていたので,“戻ってきた”気がします。最近のIntel製オンボードグラフィックスは据置ゲーム機に性能が近くなってきているので,「やっとウチらの時代だ!」と(笑)。
柏木氏:
DBCSはハードの機能がそれぞれ分かれていたので,ちょうどよかったですね。とくに,2画面でプレイできるのはPCしかありませんし。PS Vita版でACモードをやると弾や字がすごく小さくなってしまうというのはありますが,基本的にはどのプラットフォームでも楽しく遊べますし,Steam版では一番の迫力を楽しめます。
DBCSの3プラットフォーム同時開発は,DBSPからチームのサイズをほとんど変えずに始めたので大変でした。
実はDBSPを作った後“STG禁止令”を出されていて,それが解けたからDBCSに着手したんですよ。こういうことを言うと怒られるのですが,ダライアスバーストの開発は半ば趣味でやっている部分があります。社内でも,STGを作っていると「文化事業はやめろ」と怒られますし(笑)。
(一同笑)
柏木氏:
プラットフォームというところでは,Steamがどんどん広がっていって,そこでメーカーはSTGを作ってプレイヤーに届けられて,私達はその礎の一部になれればいいな……と思ってやっています。
今井氏:
デュアルディスプレイに対応したDBCSは,Steamのアピールという点ではとくに優れていたかもしれないですね。
柏木氏:
それを考えると,PC版でマルチディスプレイ環境に対応するというのは,どんどんやっていくといいのかなって気になります(笑)。
米沢氏:
その分,環境の用意にコストはかかりますけどね。
柏木氏:
PCメーカーさんはすごく喜んでいるんじゃないですか? この間,DELLさんからベゼルが細いやつも出ましたけど,それを使って店頭でデモをやってもらうといいんじゃないかなと思っています。
今井氏:
ASUSさんは,プロジェクターでDBCSをプレイしていましたね。
PCメーカーさんも,Steamの盛り上がりによって「売れるPCはゲームPC」という認識になっています。DBCSみたいなタイトルは,マルチディスプレイ環境に対応したグラフィックスカードやディスプレイ自体を売りやすくなるので,きっかけ作りとしてすごくいいですね。
丸山氏:
じゃあASUSさんにハーフミラーディスプレイを作ってもらいましょう(笑)。
米沢氏:
自分で作っている人もいましたけどね(笑)。
あと,NVIDIAの3D VisionでやるとDBCSは凄く面白いんですよ。3D Visionを持っている方には試していただきたいですね。ちなみに,うちのタイトルも実は3D Visionと相性がいいので,合わせてよろしくお願いします(笑)。
ラグ氏:
バンドルにしたらいいんじゃない?
今井氏:
掛けあってみましょうか。ディスプレイのメーカーさんに,エスカトスとDBCSを付けてくれないかって。
今井氏:
僕は,株取引をやるわけでもないし「マルチディスプレイの環境はいいや」と思っていたんですよ。でも,DBCSを見せられると「おおっ!」と惹かれますね。ゲームの魅力をデバイスが引き出すことはあるので,今後はそういった試みもやっていきたいです。
デバイスと言えばSteam Controlerもあるので,色々な形で遊べます。あれをどうやって使うか,デベロッパーさんと話し合いながらゲームを作っていきたいですね。
清水氏:
うちは変な要望が多くて,「4:3でやりたい」という要望や「アーケード筐体のブラウン管に対応してるの?」という質問を受けますね。
米沢氏:
うちのゲームも,縦画面のアーケード筐体に入れて遊んでくれている方がいらっしゃいましたよ。
森岡氏:
雷電IV OverKillも,元々の家庭用から4:3対応していたので古いディスプレイを引っ張りだして調整していました。4:3のディスプレイって,海外ではまだ使われているんでしょうか?
ラグ氏:
国内外問わず,それはマニアの話です(笑)。
森岡氏:
「機能を削る」という選択はないと考えているため4:3も対応していますが,更にSteam用に対応解像度を追加して……とやっていると,機能がどんどん増えていきますね。それによって楽しんでいただける方が増えれば何よりなのですが。
ラグ氏:
この間,Steamの掲示板で「1920x1080のディスプレイを4台,縦横2台づつ並べているのですが,表示部位がフルスクリーンモードだと3840x2160の中央となり,ウィンドウモードだと最大3360x945までしか拡大できません。どうすれば3840x1080にできますか?」という書き込みがありました。僕も「うん……どうすればいいんだろう?」って思いましたよ。
4Gamer:
言うなれば「2画面だけフルスクリーンにしたい」ということですね……。
丸山氏:
いろいろなハードウェアへの対応は難しいですよね。たくさんの種類がありますし。うちも以前「サウンドボードによっては音が鳴らない」ということがありました。プレイヤーが報告してくれれば対応できますし,技術者としては面白いと思うのですが,個別対応にはかなりの労力を持って行かれますね。。
もし新作を出すとしたら――アーケードは困難だが魅力的
4Gamer:
もし新作を出すとしたら,プラットフォームはどのように考えていますか? PCをメインとしてマルチで開発するとか,まずはアーケードでリリースしてそこから移植するとか……。
丸山氏:まず,皆さんアーケードで出すって発想はありますか?
(一同笑)
藤野氏:
うちはありますよ。もともとアーケードのSTGを作るために立ち上げた会社ですし。ただ,「Steamで最初に出す」というのも面白いと思っています。
ゲームセンターでロケテストをやると労力が掛かりますが,Steamならすぐレスポンスがありますし,アップデートも早くできる。アーリーアクセスがあったり,不具合を出しても数時間後には直せたりする環境はいいですよね。そういうところでクオリティアップをしてからアーケードに出すのもいいんじゃないかと思います。
森岡氏:
細かくバージョンアップして調整するにはSteamが一番向いていますね。
丸山氏:
うちはたまたまアーケードでも出したストラニアでSteamに参入しましたけど,Steamで新作をやるとしたらアーケードで出すようなものとは別がいいと思っています。アーケードだったらワンコインでガッツリと遊ばせるSTGライクなものですね。もちろん移植は考えますが,それはPCだけでなくコンシューマー機も含めたマルチプラットフォームで考えます。Steamだったら,そこでしかできない気軽なものです。例えば……。
藤野氏:
「スターシーカー」(※)……。
※グレフが2001年にNAOMIでリリースした脱衣パズル「どきどきアイドルスターシーカー」。
丸山氏:
ああ,うん,そういうの(軽く狼狽)。まあ,Steamはいろいろと自由にできるので,同人ではないですが単純に「作りたいものを作るべき」と考えています。
柏木氏:
僕らは純粋なデベロッパなので,アーケードには信仰みたいなものがあって。最初に出すプラットフォームは,ことSTGについてはアーケードでやりたいんですよね。
丸山氏:
いらっしゃい(笑)。
柏木氏:
ただ,アーケードは「ワンコイン3分」みたいな独自の制約があるじゃないですか。アーケードで出すものとほかのプラットフォームで出すものは,構造的な部分から変えていかなければならないと思っています。
丸山氏:
まったく新しいものを出した方が,チャンスなのかもしれません。
あと,NESiCAxLive やALL.Net P-ras MULTIの店舗間対戦がそのうちできるようになると思いますけど,そこにPCからも絡めないか,ちょっと夢見ているんです(笑)。
米沢氏:
キュートは今までコンシューマだけなので,これからアーケードで出すという選択が事業としてありなのかすら分からない状態なのですが,どうなのでしょうか?
丸山氏:
利益はともかく,出したいと思ったときが出しどきです(笑)。
米沢氏:
エスカトスは,システムとしてはアーケードで出せるものだとは思っていますし,アーケードで出したいという夢もあるのですが,検討してもいいいのでしょうか(笑)。
今年はXbox Oneで「ナツキクロニクル」を出しますが,あと2年くらいするとPS4やXbox Oneに同価格帯ノートPCのスペックが追いついてくると思うので,その辺りからSteamでの新作も視野に入れたいとは考えています。で,そのときにアーケードで出せる余地があるのか気になっているのですが……藤野さんとしては,どうですか?
やったほうがいいですよ。楽しいですよ(笑)。
丸山氏:
儲けを一切期待しなければ大丈夫です!
(一同笑)
丸山氏:
リリース自体は簡単なので,“アーケードでのリリース”を夢として展開するというのはあると思いますよ。
米沢氏:
Steamで売れてくれれば気兼ねなく出せるけど……というところですね。
今井氏:
先ほどの調整という話だと,格ゲーでは「スカルガールズ」の前例がありますね。スカルガールズは2013年8月にSteamで出てから調整を重ね,2015年10月末ごろにM2さんの移植で「スカルガールズ 2ndアンコール for NESiCAxLive」としてアーケードに出ました。
アーケードで出す利点は,「それ以上調整が行われない」ことだと思うんですよ。ある種の決定版ということですね。スカルガールズは週に1回アップデートがあって,そのたびにコンボを覚えなおさなければならないゲームでしたが,アーケード版は安定しています。それを踏まえると,「Steamで先に出して,アーケードで決定版を出す」という流れが現状にはふさわしいのかな……とは思います。
丸山氏:
アーケードとSteamの連動という点なら,一番相性がいいのは格ゲーでしょうね。
今井氏:
そうですね。格ゲーやSTGのネット対戦はPCだとチート対策が大変ですが,アーケード版があれば大会が楽になります。我々は海外でもイベントを開催していますが,そこでの大会にはアーケード版を使うんですよ。コストが見合うかどうかは渋い問題ですが,プレイヤー的にアーケード向けエディションは魅力的ですよね。
丸山氏:
NESiCAxLive やALL.Net P-ras MULTI用に作ったものは,ネットワーク認証の関係で海外に持っていけないのが大変ですけどね。セガにある程度の額を支払えば,専用のNu基板を製造してもらえると思いますが。タイトーだったら使っていないType X2をタダでもらえる気もしますけど(笑)。
4Gamer:
新作という点ではケイブさまは難しいかと思われますが,例えば「METAL SLUG DEFENSE」のように,アプリの「ゴシックは魔法乙女〜さっさと契約しなさい!〜(以下,ゴ魔乙)」をPC向けに移植するといった可能性はありますでしょうか?
小倉氏:
「出したい」という声はあるのですが,なにぶんリソースを割けず,実現していません。
清水氏:
Steam版の開発とゴ魔乙の開発は別部門なので,もしやるなら,ゴ魔乙のチームが直接やることになるかと思います。正直を言うと,Steamでの展開は実験的な部分もあるので,そこに主力チームを投入するのは難しいのが実情ですね。
小倉氏:
ちなみに,ゴ魔乙のステージは今でも池田(池田恒基氏)が作っていますよ。敵の配置や弾をどう出すかなど,今日も悩んでました。
清水氏:
ゴ魔乙のSteam版やアーケードの新作は確かにやってみたいですが,うちの部署としては旧作のPC移植が中心なので……。池田は,そのうちアーケードで何か出そうとするかもしれないですが。
小倉氏:
ゴ魔乙の運用ペースが安定して,ステージも「もう誰かに任せてもいい」となったら,池田はやると思うんですけどね。現状ですと……矢川(矢川 忍氏)がやればいいと思うのですが(笑)。
縮小傾向のアーケードゲーム,考えうる新たな形とは
ちなみに,こういう現場の現実目線とは別に,当社の社長自身は「アーケードスティックでゴ魔乙やりたいんだよな」と言っています。
以前も,半ば冗談ですが「ゲーセン1軒作るといくら?」って聞いてました。
清水氏:
なんか物件を探してましたよね。
小倉氏:
軽い気持ちでも言われた以上は調べないといけないので,いちおう「秋葉原の路面で2階建てで,ワンフロアに15台置けますので,月々の賃料や内装費を考えると初期費用は1000万円くらいでしょう」という調査結果を出しました。
清水氏:
「ゲームセンターワタナベ(※)がそのまま使えればいいのに」って話もしていましたよ。
※TVドラマ「ノーコン・キッド 〜ぼくらのゲーム史〜」劇中のゲームセンター。ロケ地は浅草橋で,秋葉原に近い。ちなみに4Gamer編集部にもそこそこ近い。
小倉氏:
現実的かどうかは別としてですが,ソーシャルゲームに必要な広告宣伝の一環として「単体での投資回収がマストじゃない」という割り切りもできなくはないですね。
丸山氏:
プロ野球の球団オーナーみたいなものですよね。
清水氏:
すぐ上のフロアに開発室を置いて,“やってる感”を味わうのも面白そうです(笑)。
丸山氏:
実際,タイトーの熊谷ビルは1階がゲーセンで3階が開発室だったんですよ。
小倉氏:
冗談か本気か分からないですが,社長は「週に2,3日くらい池田をガラス張りのところで開発させれば人が来るんじゃない?」って言ってましたよ。
今井氏:
パンダですか!
小倉氏:
矢川がSTGの基板を150枚くらい持っているんですよ。もし本当にゲーセンを作るなら,彼とレンタル契約を結ぼうかとも思ってました。
柏木氏:
最近,ゲームセンターってレンタルで営業している形態のところもありますよね。
今井氏:
「自慢の基板を見せたい」というコレクターの人もいますからね。
小倉氏:
ゲーセン的な営業形態にこだわらず,会費制でフリープレイにするというのも面白いと思うんですよ。そうするとコンシューマやPCも設置できますし。
柏木氏:
ショーケースみたいなものですよね。
丸山氏:
アーケード筐体の比率を下げれば風営法にも引っかからないので,簡単にできますよ。(※)
※警察庁の定める風営法の解釈運用基準において,フロア面積に対して業務用ゲーム機の占める床面積が10%以下の店舗は,風俗営業の許可を必要としないこととなっている。
今井氏:
「いろいろな形態のアーケード」という意味では,北米では“Barcede”のスタイルに人気が集まっています。
要するに,お酒を飲みながら楽しめるゲーセンなのですが,これが若者のトレンディスポットになっているんです。アップライトの筐体があって,お客さん同士が「ストII」で対戦したりしてるんですけど,あの雰囲気って日本ではないんですよね。
それも風営法の問題ですよ。
今井氏:
お酒を出せないですしね。(※)
※都道府県条例のほとんどで,店舗での酒類提供および店内での飲酒が禁止されている。一例として東京都では,麻雀屋・飲食店とゲームセンター等の兼業を除く営業所で客に飲酒をさせないことを,風営法施行条例の第七条2項で定めている。
4Gamer:
Barcadeのラインナップは基本的にレトロゲームなのでしょうか?
今井氏:
基本的にはレトロゲームですね。ブラストシティ(※)辺りの年代の物までです。
※セガ・エンタープライゼス(現セガゲームス)が1996年にリリースしたアーケード筐体。
小倉氏:
ジャズバーの生演奏みたいに,お金を払って生プレイをデカいディスプレイで見られるなら,僕はそれで普通に酒を飲めますよ。
4Gamer:
わっしょい(※)的な感じですね。
※実況・解説付きでトッププレイヤーの実演プレイを見られるSTGのファンイベント。
丸山氏:
いずれそういった店舗も出てくると思います。個人的には,カジノ法案に絡んで,法律も再構築されると思っているので,そこはチャンスだと見ているんです。
風営法は窮屈ですが,あの法律があるから健全に営業できるっていう部分もあるんですよね。今のソーシャルゲームを見ていると,そういった規制は必要だと思いますし。
4Gamer:
海外はいろいろなところにゲーム筐体がありますね。自分はサンフランシスコへ行ったとき,バーガーショップでアップライト筐体を見ました。
ラグ氏:
そういうのって,イギリスでは昔からあったんです。ファーストフード店で注文した後,待っている間にプレイするんですよ。格ゲーブームの真っ最中は,どこから持ってきたかよく分からないストIIが稼働していました。
丸山氏:
日本ではゲーム喫茶があったんですけどね。いろいろと悪いことが起こってしまったので激減してしまいました。
今井氏:
海外ではアップライト筐体が増えていて,自分の倉庫に筐体をコレクションするという人もいます。ケイブさんの大ファンというフランスの人はすごかったですね。オシャレな音楽をプレイするハウスDJなのですが,自宅にケイブさんのゲームを集めているんです。
4Gamer:
今の日本でなら,バーガーショップの店頭にアップライト筐体を置いていくのも,ありかもしれませんね。
丸山氏:
駄菓子屋のネオジオみたいにね(笑)。アーケードゲーム世代が60,70代になったとき,昔のゲームがいろんな店に置いてあるっていうのは,夢のある話ですね。いや,そうなっていかないといけないとも思います。
- 関連タイトル:
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- 関連タイトル:
ESCHATOS
- 関連タイトル:
星霜鋼機ストラニア
- 関連タイトル:
虫姫さま
- 関連タイトル:
シューティング技能検定
- 関連タイトル:
ダライアスバースト クロニクルセイバーズ
- 関連タイトル:
Raiden IV: OverKill
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