連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第586回「クセの良し悪し」
一方で,今は一人一人が声を上げやすい世の中になってきた。SNSがあるから。思ったことを文字や画像や動画で可視化させやすいのよね。人生で思いどおりにいかなかった場合もまた,その思いを可視化させやすいのですよ。ただね。思いどおりにいかないこと,思ったことを気軽に可視化させられること。この二点の落としどころってどこなんだろうなって,最近よく考えるの。
例えば,どこかの会社に商品についての問い合わせをしたとしましょう。そこで会社側が「顧客の要望に添えない場合がある旨」を伝えたとします。問い合わせした側からすれば,自分の意にそぐわない回答だった場合に「あの会社の対応が悪かった」という思いを,気軽に可視化できるわけですよ。
そして,その可視化された思いを見た人は,「なるほど。あの会社の対応は悪いんだな」と思ってしまう。でも会社側からすれば,できないものはできないと言ったに過ぎなかったりする。
このケース,単に会社のイメージが落ちただけなのよね。ただ,問い合わせた側にとっては,思いどおりにいかなかったことを可視化させることで,ストレスを発散できるという側面がある。そこに共感してくれる人だっているかもしれないしね。
こう書くと,問い合わせた側が悪いように見えるかもしれないけれど,実際に回答する側の言い回しだったり態度だったりが悪く感じられることだって,もちろんあるわよね。そんな対応をされた日には,そのときの気持ちを可視化したくなる気持ちも分かる。
もうね,何が正解なのかが分からない。比較的ライトに思いをぶつけられる世の中である以上,我慢しろとも言えない。ただ,どこかで誰かが我慢しなければ収まらない。他人と違うってそういうことだから。ぶつかり合いの多い世の中だけど,我慢ばかりしていても良くないし,意見を押しつけ過ぎてもよくない。落としどころってどこなんだろうか。矛を出せる世の中だけど,みんなが矛を出し続けたら傷つく人が増えるのは分かる。振り上げた矛の収めどころ。それが本当に分からない。
ただ,私はなるべく物事を前向きに考えようと思う。思いどおりにいかないことは多々あるし,他人と違う部分もいっぱいある。酒は飲めないし,つらい経験はしたくないし,人付き合いは悪いし,連絡もあまりしない。結果,友達もいないし後輩からも慕われないし恋人もいやしない。それを武器にできないか,と考えてみる。そして考えた末に,今まさにこの連載のネタに使っている。ほーら! これで差し引きゼロ。……ゼロ? まあ,私は思いどおりにいかなくても,そこからどうするかを考えるようにしたいなって話です。
最初に言っておくけど,プレイしてみて決してストレスのない作品ではないの。ストーリーが展開されるアドベンチャー要素と,ダンジョンを探索しながら敵と戦っていくRPG要素が交互に展開していく流れなんだけど,どちらもクセが強い。
キャラクターの質問に対して主人公は八つの感情を入力していくことで相手のリアクションが変わるという要素もあるんだけど,正直分かりづらいのよね。一方でダンジョンのほうも移動できる方向が限られていたり,思ったように動けなかったりといった部分で,モヤモヤが残るの。
だけど誤解してほしくないのは,そういう部分があるから面白くないのかと聞かれると「でも面白い」と答えるしかない。いや,「面白い」ではないな。「ワクワクする」って表現のほうが近いかもしれない。
主人公はトレジャーハンターで,学園ドラマを楽しみながらいろんな仲間と冒険に出かける。シンプルな設定だけど,そこに対するワクワク感が半端じゃない。クセは強いけど,そのクセがあるだけでほかのゲイムと違う匂いを醸し出しているのよね。
そしてね。よくよく考えたらゲイムはこう言っているのよね。「人間って,質問に対して『はい』か『いいえ』って答えだけじゃないでしょう? 『はい』にもいろんな感情があるし,『いいえ』にもいろんな感情がある」と。それをゲイムに落とし込んだ結果,少々分かりづらくなったけれども,プレイヤーが想像するための余白にもなっている。
たぶん,作り手はある程度,プレイヤーにとって分かりづらいことは把握していると思うの。でもきっと,人間を描くにあたって必要だからこうしたんじゃないかと思うの。そして間違いなく,このケツ断がゲイムのクセとなって,ほかのゲイムとの違いを生み出しているの。
随所に見られるそういった姿勢の積み重ねが,“冒険のワクワク感”を生み出しているんでしょうね。逆に,それを生み出すためにこういうゲイムデザインにしたのかもしれない。直接聞いたわけじゃないから,見当違いかもしれないけど。ただ,ストレスを極限まで減らそうとするゲイムが多い昨今,ストレスと付き合っていくタイプのゲイムに新鮮さを感じたのも事実。ひょっとしたら,今この時代にHDリマスターされた意味というのも,そのあたりにあるのかもしれない。
ただのゲイマーの私からすると,正解は分からないわ。「コマンド選択時の操作性が悪い」と言ってしまえばそれまでだけど,それを私がこの場で言って可視化させることで,このゲイムが秘めている“ワクワク感の体験”を遠ざけてしまうのも違うと思う。ホント難しいわ。結局は「体験してほしい」というひと言に尽きるわけだけれど。
繰り返しになるけれど確実にクセはある。ストレスなく,するっと遊べるゲイムが好きな人に,無理にオススメしようとは思わない。ただ,ストレスになりかねない要素もまた,このゲイムの個性として楽しむ姿勢があるならば,ぜひとも体験してみてほしいゲイムよね。食べ物でもあるわよね。すごくクセは強いから苦手な人もいるけれど,好きな人はこよなく愛するような食材。そういうゲイムだと思うわ。
果たして,クセがあるほうがいいのか,ないほうがいいのか。クセを受け入れられない人が否定的な意見を言い,それが可視化される世の中ではあるわ。でも,そのクセがあるからこそ,ほかとの違いが際立つこともある。一方,クセが強すぎて,誰からも受け入れられなくなってしまっては,それはそれで残念な話。クセがあることに甘えてしまうのは妥協と言い,妥協には底がない。ただし,どこかで妥協しなければ現実的でもない。そこの見極めも大切なのよね。
そうしたことを含めて,世の中のいろんな部分で落としどころを定めるっていうのは大事なことだよなぁ……と,このゲイムをプレイして思った今週でした。そんな感じでまた来週。
今週のハマりゲイム
PlayStation 4:「ドアズ・アンド・ルームズ」
Nintendo Switch:「九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE」
iOS:「龍が如く ONLINE」
iOS:「ハンドレッドソウル」
iOS:「ウイニングイレブン カードコレクション」
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九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE
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