レビュー
歴代最高クロックで動作するG92コアは,ハイエンドの矜持を保てるか
WinFast PX9800 GTX
ZOTAC GeForce 9800GTX
XFX PV-T98F-YDF
» シングルGPUとしては,発表時点におけるGeForce 9シリーズの最上位に置かれる「GeForce 9800 GTX」。フラグシップ型番を持つ新GPUの登場となれば期待が高まるが,8800 GTX以来の“800 GTX”は,パフォーマンスモンスターの座に君臨し続け,ハイエンド指向のゲーマーを満足させられるものになっているだろうか。
GPUクーラーの動作音に不満
3-way SLIに対応し,補助電源コネクタは6ピン×2
2スロット仕様で,ファン周辺がI/Oインタフェース側から一段下がったデザインになっているのは,「GeForce 8800 GTX 512」のクーラーと似た印象を受ける。カード後方から吸気し,ケース外に排気するのも同じだ。
ただし,ドライバのファン回転数制御が甘いのかどうか,動作中は風切り音がかなり耳につく。2008年に登場した“G92世代”のグラフィックスカードや,「ATI Radeon HD 3870 X2」と比べて,間違いなく一番うるさい。静音性を重視するユーザーからは不満の声が上がることになるだろう。
ハイエンドGPUということで,NVIDIA SLI(以下,SLI)用のエッジコネクタは二つ用意され,3-way SLIをサポート。補助電源コネクタは6ピン×2で,いうまでもなく両方とも接続しないと動作しない。
外部インタフェースはデジタル/アナログRGB(DVI-I)×2,高解像度アナログビデオ出力×1だが,WinFast PX9800 GX2にはDVI−HDMI変換アダプタが付属するため,HDMI出力も可能だ。
なお,グラフィックスメモリにはSamsung Electronics製GDDR3 SDRAMチップ「K4J52324QE-BJ08」(0.83ns品)を採用するが,これはGeForce 8800 Ultraのリファレンスカードが搭載していたのと同じ型番になる。
TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.1.7)でGeForce 9800 GTXの詳細を確認すると,(いくつかのステータスは取得できなかったが)コアクロック675MHz,シェーダクロック1.688GHz,メモリクロック2.2GHz相当(実クロック1.1GHz)で,見事にリファレンスどおり。
メモリチップはスペック上,最高2.4GHz相当の動作が可能なので,200MHz相当(実クロック100MHz)分のマージンがある計算だ。
ForceWare 174.53のGeForce 9800 GTX対応版を利用
G80世代との違いを中心に比較し,2-way/3-way SLIも
さて,今回はシングルカードと2-way/3-way SLIのパフォーマンスを,別々に見ていくことにする。まずシングルカードの検証では,G80世代のハイエンドである「GeForce 8800 Ultra」「GeForce 8800 GTX」と,デュアルGPUソリューション「GeForce 9800 GX2」「ATI Radeon HD 3870 X2」との比較を行う。SLIテストでは,GeForce 8800 GTXの2-way/3-way SLIおよびGeForce 9800 GX2のQuad SLIとポテンシャルを見比べたい。
GeForce 9800 GTXの2-way SLIテストには,PC Partner(のZOTACブランド)製「ZOTAC GeForce 9800GTX」(※国内型番:ZT-98XES2P-FSP),3-way SLIのテストには加えてPINE Technology(のXFXブランド)製「PV-T98F-YDF」を用いる。
ZOTAC GeForce 9800GTX メーカー:PC Partner(ZOTAC) 問い合わせ先:アスク(販売代理店)info@ask-corp.co.jp 予想実売価格:4万3000円前後(2008年4月1日現在) |
PV-T98F-YDF メーカー:PINE Technology(XFX) 問い合わせ先:シネックス(販売代理店) info@synnex.co.jp 予想実売価格:4万4000円前後(2008年4月1日現在) |
テスト手順は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠となるが,3-way/Quad SLIがWindows Vista環境のみのサポートとなることもあり,OSは32bit版Windows Vista Ultimate(+Service Pack 1)を用いている。
正式発表の数日前には,NDA(機密保持契約)に基づいて「ForceWare 174.74 Beta」のレビュワー向けバージョンも入手しているが,「安定性の向上を図ったもので,パフォーマンスで両バージョンに違いはない」と説明されたこともあって,スケジュールの都合からForceWare 174.74 Betaを用いたテストは省略した。なお,ドライバとゲームタイトルに関してはお断りしておくべきことがいくつかあるので,以下のポイントに注意しておいてほしい。
- FPS「Crysis」のDirectX 10環境でテストする限り,ForceWare 174.53とForceWare 174.74 Betaの間に平均フレームレートの大きな違いはなかったが,後者を使ったときのほうがスコアは若干低めになる
- GeForce 8800 GTXの2-way/3-way SLI構成時は,ForceWare 174.53だとCrysisのiceプレイデモが正常に動作しなかったので,ここだけはForceWare 174.74 Betaを用いる
- ForceWare 174.53およびForceWare 174.74 Betaを利用しても,GeForce 9800 GTXでは「Half-Life 2: Episode Two」が正常に動作しなかったので,テスト対象から外した
- 「Unreal Tournament 3」は負荷が軽すぎてスコアがばらついたため,テスト対象から外した
WinFast PX9800 GX2 リファレンスデザインの9800 GX2カード メーカー:Leadtek Research 問い合わせ先:アスク(販売代理店)TEL:03-5215-5650 実勢価格:8万円前後(2008年4月1日現在) |
ZOTAC GeForce 9800GX2 「Lost: The Video Game」が付属 メーカー:PC Partner(ZOTAC) 問い合わせ先:アスク(販売代理店)info@ask-corp.co.jp 実勢価格:8万1000円前後(2008年4月1日現在) |
EN8800GTX/HTDP/768M 8800 GTXカード,リファレンス仕様 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:8万3000円前後(2008年4月1日現在) |
ELSA GLADIAC 988 GTX 768MB こちらもリファレンスデザインモデル メーカー:エルザジャパン 問い合わせ先:エルザジャパンサポートセンター TEL:03-5765-7615 実勢価格:8万円前後(2008年4月1日現在) |
このほか,
- SLI構成のテストに当たっては1024×768ドットのテストを行わず,代わりに2560×1600ドットで行う
- CrysisはDirectX 9モードのスコアを採用。ただしマップ「ice」の4Gamerオリジナルプレイデモを用いたDirectX 10モードのテストも参考までに行う
詳細なテスト環境は表のとおり。以下とくに断りがない限り,本文,グラフとも「GeForce」「ATI Radeon HD」を省略したGPU名で表記を行う。
シングルカードでは8800 GTXとほぼ互角
メモリバス幅に起因する弱点も目立つ
シングルカードでのテストから始めよう。グラフ1,2は「3DMark Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。「標準設定」で9800 GTXのスコアは8800 Ultraのそれをわずかに上回るが,「高負荷設定」では8800 Ultraを下回った。メモリバス幅とメモリ容量のいずれも8800 Ultra/GTXを下回ることを考えると,9800 GTXはかなりがんばっているが,やはり高負荷環境では256bitメモリバス&グラフィックスメモリ容量512MBが足枷となっているようだ。
続いてはCrysisの,DirectX 9.0c環境における「Benchmark_GPU」実行結果だ(グラフ3,4)。標準設定の60fps超えというスコアは優秀の一言。高解像度まで安定して8800 Ultraを上回り,3870 X2よりも高い。
しかし,高負荷設定ではやはりメモリ周りの弱点が露呈し,低解像度で大きなリードを築けないまま,高解像度では8800系の後塵を拝している。
同じくCrysisから,DirectX 10環境のプレイデモ実行結果がグラフ5,6である。基本的にはDirectX 9.0c環境のテストと同じ傾向だが,DirectX 10モードでは描画負荷が高くなるため,グラフ3において低解像度で存在していた9800 GTXのリードが失われている。
TPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)から,実際のゲームプレイに近いスコアが出やすい「Snow」の結果をまとめたのがグラフ7,8だが,ここも3DMark06と同じような傾向に落ち着いている。「標準設定の1024×768ドットを除けば,9800 GTXと8800 Ultraはほぼ互角」といっていいだろう。
一方,グラフ9,10のRTS「Company of Heroes」では,9800 GTXの優位性が比較的よく出ている。Company of Heroesの描画負荷はCrysisやロスト プラネットと比べるとかなり低いが,そういった“軽い”タイトルでは,高い動作クロックがモノをいう印象である。高負荷設定ではさすがに差が縮まるものの,高解像度でも9800 GTXのスコアが8800 Ultra/GTXを下回ったりはしない。
SLIの有効性はタイトルごとに大きく異なる
3-way SLIの信頼度はまだまだ
以下,グラフの並びがこれまでとは変わる(※9800 GTXのスコアは上から3〜5本め)になる点に注意してほしいが,まずグラフ11,12は3DMark06の結果である。
2-way/3-way SLIともに,低解像度ではCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが見られるものの,2560×1600ドットまで解像度を上げると,9800 GTXの 2-way SLIには相応のメリットが見て取れる。高負荷設定だとシングルカードに比べて70%強で,8800 GTXの2-way SLIに対しても有意な差を(大きくはないが)つけている。
しかし,3-way SLIは同条件で110%弱。8800 GTXの3-wayを下回った。
CrysisのDirectX 9.0c環境におけるBenchmark_GPU実行結果がグラフ13,14だ。シングルカードでは低解像度で9800 GTXの強さが際立っていたが,SLI環境でも同じ傾向が見て取れる。
だが,高解像度や高負荷設定では,ドライバの完成度かメモリバス幅の制限か,はたまた両方が原因か,大きくスコアを落とす。とくに高負荷設定の1920×1200ドットで8800 GTXの2-way SLIに完敗しているのはいただけない。
DirectX 10環境のプレイデモでは,9800 GTXの3-way SLIが優位性を見せるグラフ15,16。標準設定の2560×1600ドット,9800 GX2のQuad SLIと同じように,一定の負荷を超えたとたんに大きくスコアを落としてしまうが,低解像度では立派なスコアを見せている。
テストのセットアップでも述べたとおり,グラフ15,16に限り,8800 GTXの2-way/3-way SLIはForceWare 174.74 Betaをインストールした状態でテストしているが,ご覧のとおり,スコアの劇的な落ち込みはない。これを見る限り,GeForce 9世代のSLI動作に関しては,最適化の余地がまだかなり残っているようだ。
なお少々話は前後するが,グラフ14,16の高負荷設定における2560×1600ドットではテストが完走しなかったため,スコアはN/Aとなっている。
さて,マルチGPU環境に最適化されているグラフ17,18のロスト プラネットを見てみると,ここでは9800 GTXの3-way SLIが全般的にトップクラスのスコアを見せている。高負荷設定の2560×1600ドットでも3-way SLIでベンチマークレギュレーション5.2で快適にプレイできる基準とする40fpsを超えているのは,なかなか立派だ。とはいえ,8800 GTXの3-way SLIと比べると,スコア差がほとんどないのも確かだ。
パフォーマンステストの最後は,Company of Heroesの結果だ(グラフ19,20)。Company of Heroesでは,シングルカード構成時に9800 GTXが8800 GTXに比較的大きな差をつけていたが,SLI構成時も同様の結果になっているといえるだろう。高負荷設定の2560×1600ドットで,9800 GTXの3-way SLIは8800 GTXの3-way SLIよりスコアで約20fps上回り,9800 GTXのシングルGPUに対しては2.5倍強のスコアを叩き出している。
もっとも,低解像度ではCPUボトルネックにより,あまり大きな差を見せられていない。フレームレートを見ても,このクラスのゲームであれば,(よほど高い解像度でプレイしない限り)シングルグラフィックスカード構成で十分である。
消費電力は8800 GTXより若干低め
GPU温度はさすがに及第点
9800 GTXの消費電力をチェックしてみよう。OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行し,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,各時点の消費電力をワットチェッカーで計測した結果がグラフ21だ。
9800 GTXの消費電力を一言でまとめると,8800 GTXより若干低め,といったところだろうか。65nmプロセスで製造されるG92の面目躍如といったところだが,別に目を見張るほど低いというわけではなく,3-way SLI動作時に9800 GX2のQuad SLIと同程度。SLI動作時の消費電力について述べるなら,少なくとも扱いやすくはない。
さらに,グラフ21の各時点におけるGPUの温度を「ATITool」(Version 0.27β3)で測定したものがグラフ22である。テスト環境はPCケースに組み込んでいないバラック状態のものになるが,さすがにファンの動作音が大きいだけあって,9800 GTXのGPU温度はハイエンドクラスとして問題のないところに収まっている。辟易するほどの騒音は伊達でなく,熱周りの心配はあまりいらないだろう。
新世代ハイエンドとしての魅力を欠くものの
高いコストパフォーマンスには価値がある
9800 GTXの位置付けは,「新世代のウルトラハイエンド向けシングルGPU」。その観点に立つ以上,描画負荷の高い局面で弱いのは問題で,とくにウルトラハイエンドGPUを“渡り歩く”ような人にとって,9800 GTXには,8800 GTXから乗り換えるだけの魅力を欠いている。8800 GTXが登場したときのような衝撃は,9800 GTXにはない。
だが,今回検証した3製品の予想実売価格がいずれも4万5000円以下であることを,無視するわけにはいかないだろう。史上最速クラスのシングルGPU搭載グラフィックスカードの価格としては破格といっていい。3-way SLIやQuad SLIの完成度が決して高くないことも踏まえるに,いまGeForce 8800シリーズを使っているユーザーがわざわざ乗り換えるほどの価値はなさそうだが,一方,GeForce 8800をスキップした人にとっては,非常にコストパフォーマンスの高いハイエンドの選択肢である。
- 関連タイトル:
GeForce 9800
- この記事のURL:
キーワード
Copyright(C)2008 NVIDIA Corporation