レビュー
7年ぶりのシリーズ最新作は,いろんなところが必要以上にパワーアップ
Command & Conquer: Red Alert 3
» 何度か中断の噂は流れたものの,2008年11月,無事にリリースされた「Command & Conquer: Red Alert 3」。7年の沈黙を破って登場したシリーズ最新作は,これまでの英米連合対ソ連という図式に加え,極東からEmpire of the Rising Sunが参戦。ハチャメチャなユニットが次々登場してくるものの,破綻のないゲーム内容は,さすが長い伝統を誇る本家の風格か。そんな本作に奥谷海人氏が挑んだのである。
ハチャメチャなストーリーでプレイヤーを楽しませるRTS
Electronic Artsから11月にリリースされた,「Command & Conquer: Red Alert 3」は,10年以上にわたってRTSジャンルに君臨するCommand & Conquerシリーズの外伝的作品である。このシリーズに関しては,手前味噌ながら以前の連載記事を参照していただきたい。
長年,C&Cファンには待望だったRed Alertの新作がついに登場した。開発者達の遊び心をあちらこちらに散りばめつつ,日本(のようにも見える)勢力を交えた三つ巴の戦いを楽しめる。もちろん,資源を獲得し,基地の拡張やユニットの生産を行い,占領地域を拡大しながら敵の殲滅を狙うという,ストラテジーゲームの基本を踏まえた,成熟したゲームプレイも見ものだ |
補足として付け加えておくと,1996年にリリースされた「Command & Conquer: Red Alert」は,Command & Conquerシリーズの時代に先立ち,仮想の現代史がどのような状態だったかということをテーマとするものだったのだが,2000年の「Command & Conquer: Red Alert 2」では早くも,Command & Conquerシリーズのストーリーとは辻褄が合わない,まったく独立したものになっている。なお,このRed Alertシリーズは,欧米では「オンラインで遊んだ初めてのストラテジーゲーム」として多くの古参のゲーマー達の記憶に留められており,実に7年ぶりの新作登場に歓喜するプレイヤーも少なくない。
Red Alert 3のストーリーは,アメリカを中心とする連合軍の核武装に脅威をいだいたソビエト軍が,タイムマシンを使ってドイツの物理学会議に出席中のアルバート・アインシュタイン博士を暗殺することで,歴史の流れを変えるところから始まる。オリジナルのRed Alertでは,タイムマシンを使ったアインシュタインが同じように若き頃のヒトラーを暗殺しており,ドイツの脅威を取り払っていた。今回はその逆というわけだ。
アインシュタインの存在抹消によって,核兵器の脅威が去った新しい現代では,ソ連がヨーロッパ全土から中国までの広い地域を掌握するほどの存在になっている。だが,歴史の歪みによって,今度は極東からEmpire of the Rising Sunが頭角を現し,ソ連の野望の前に立ちはだかっていたのである。かくして,通常兵器による三つ巴の戦いが展開していくのだ。
Command & Conquerシリーズの特徴の一つはシングルプレイモードのブリーフィングにおけるビデオ映像の多用にあり,このRed Alert 3も例外ではない。ソ連,連合軍,Empire of the Rising Sunの三つのキャンペーンでは,ミッションの合間にハリウッドでも知られた役者達を使った“映画”が楽しめるのである。これらのビデオは,基本的にコマンダーになりたてのプレイヤーに対し,各勢力のリーダーや情報通信員といった多彩なキャラクターが話かけているという趣向になっており,画面の切り替わりのない単調なものながら,映像的な大作感がある。
各勢力の特徴やユニットの性能を見極めてプレイしよう
Red Alert 3におけるシングルプレイモードの構造は,これまでのRTSにはあまり見られない,イノベーティブな協力プレイ型のものへ進化した。プレイヤーは,一人ですべてのマップを戦うのではなく,AI制御のオフィサーやジェネラルがサポートしてくれるのだ。相手側にも二人のコマンダーがおり,常に4対4の対戦をやっているようなイメージである。同じ勢力同士では,資源となるOreをシェアできるし,上手くプレイヤーの攻撃に同調して一斉攻撃を仕掛けたりもできるなど,AI面でも十分に満足できる。
ゲームでは,三つの勢力に9個ずつのキャンペーンが用意されているが,以前のCommand & Conquerシリーズ同様,それぞれの勢力のキャンペーンで大きく異なったイベントが起きる。違う勢力をプレイするたびに,新たな歴史が紐解かれていくという感覚だろうか。
協力システムという斬新な変更はあったが,Red Alert 3のゲームプレイに関しては,Command & Conquerシリーズらしさに溢れているといえる。ほかの多くのRTSのように,姿は違うが内容の似通ったユニットを,相手より早く多量に生産して消耗戦を制する,という感じではなく,それぞれの勢力とそのユニットに与えられた特性を見極めたうえで,それらを生かして戦う必要があるのだ。基本的には,強力な陸軍でタンク系ユニットを使ったアーリーラッシュに強いソ連,そして序盤はスローながらも後半には優れた技術力の開発により,とくに空軍力で圧倒できる英米連合という,Red Alertシリーズの昔ながらのスタイルは変わっていない。
ただ,今回はこの二つにEmpire of the Rising Sunが加わることにより,最近よく見られる「ジャンケン型RTS」の要領も追加された。Empire of the Rising Sunは,1対1ではタンクが貧弱な上に強力な空軍も生産できないが,海軍の強さがアピールされている。
また,空や水中,陸上といった異なる地勢に対し,ロボットの変身やセカンダリー兵器の変更などで順応するユニットが多いのも特徴で,サプライズアタックにも向いている。集団投入による消耗戦を得意とする歩兵ユニットは,「Starcraft」におけるZergのような立場ともいえるだろう。世界を二分している他の勢力と比べ,アジアの新顔は個性的だ。
このように,Red Alerts 3は一つ一つの勢力のユニット,そしてアビリティがまったく異なるため,一見ユニットのバランスが悪いようにも見える。しかし,すでに書いたように,自分の勢力の特性を最大限に利用するのが基本であり,そういう意味で,Red Alert 3を十分に楽しむには,それぞれの勢力をプレイしたうえでの“理解”が必要となってくる。
例えば,Red Alert 3は施設の建て方が3勢力で異なっている。ソ連は,最初に建設場所を設定して次第に出来上がっていくという,一般的なRTSでおなじみの方法。そして連合軍は,インタフェース(HUD)内で先に建設を終了させておき,好きな場所に設置するという本シリーズ独特の方式になっている。Empire of the Rising Sunは,コアと呼ばれる移動式の建築物を建設したあと,望みの場所に移動させる手間が必要となる。だが,これにより相手の陣地の目の前で砲列を展開させることなどもできてしまう。
細かい問題もあるが
遊び心満載の爽快ストラテジーなのだ
このように,遊び心に満ちた個性的なユニットが多いのだが,ユニットを自動移動させているときや,シングルプレイモードでAIが制御する味方が,ビルの間や地形のくぼみに引っ掛かって上手く動けない状態になっていることがときどき見受けられる。このあたりのパスファインディングは,今後も修正が必要とされると思う。
また,ここ最近のCommand & Conquerシリーズ全般にいえることだが,カメラがあまりにも近付きすぎているように感じる。画面からはみ出したユニットをグルーピングできないことがあり,忙しくマウスを動かす必要にイライラが募ることもしばしば。それがRTSの真骨頂なのだ,といわれてしまえばそれまでなのだが,ウェイポイント指示の小窓の開閉やセカンダリーの戦法へのスイッチなど,ホットキーとマウスを併用して操作するのにはそれなりの慣れが要求される。もっともこれでも,以前のCommand & Conquerシリーズよりはずいぶんゲームのペースが落とされ,遊びやすくなってはいる。
Red Alert 3では,ヒーローユニットとでも呼べる特殊エージェントが,歩兵の開発で一人分だけ生産できる。各勢力ともに女性キャラクターになっていて,厳密には「ヒロインユニット」かもしれないが,ともあれ英米連合は,シリーズではお馴染みの「ターニャ」で,敵中に飛び込んで歩兵に向かって乱射したり,戦車や建物を爆破できるランボーも真っ青な能力を持つ。
ソ連の「ナターシャ」は,愛器コルシュノフライフルで遠方から敵を一撃必殺するのに加え,セカンダリーとして爆撃要請も可能。Empire of the Rising Sunには,かなりイカした「ユリコ・オメガ」という女子高生キャラクターが用意されているが,こんなもの用意して大丈夫なのか? 常に浮遊しているので海上も通行できるほか,超能力を使ってどんなユニットでも持ち上げて破壊してしまうという非常に優れたユニットになっている。
秘密兵器プロトコルは,いわゆるテクノロジーツリーで,各勢力に三つの戦術,そして五つほどのアップグレードが用意されている。こちらも戦況を変化させるには十分な威力があるし,勢力によっては陸/海/空の兵科を強化してくれるので,良く考えてアップグレードさせていきたい。
複数ユニットの瞬間移動を可能にする連合軍のChronosphereは,相手への攻撃にも利用できる。強すぎる相手の戦艦を陸に上げちゃえ |
マルチプレイモードに入る前にはSkarmishモードでまず練習を。ゲームを熟知した相手に当たると,20分も持たずにやられてしまうことも |
攻撃や防御のほか,特定のユニットだけで潜入していくような内容のミッションもある。画像はYuriko,King Oni,Shinobiによる突撃任務 |
ゲーム中,複数のユニットが地形に引っ掛かって身動きが取れなくなっていたりする。パスファインディングのエラーは頻繁に見かける印象 |
英米連合のイルカは超音波攻撃。各ユニットにはセカンダリーの兵器/戦法が用意されており,それを上手く使いながら有利に立つべし |
Red Alert 3は,ゲームとして秀逸なだけでなく開発者達の遊び心も光る。拡張パックではYurikoの実物にもぜひ登場願いたい? |
シングルキャンペーンのほかには,2〜6人分のマップが30種近くも用意された「スカーミッシュモード」,そしてオンラインでの「対戦モード」がある。オンラインモードで,AI制御のコマンダーの代わりに,ネット上の仲間と一緒にキャンペーンを進めることもできるようになっており,オンラインとオフラインの差のないシームレスな感覚が面白い。
ただ,すべてのミッションが二人用にバランス調整されているわけではないので,人間二人とCOM二人では簡単過ぎるものもあったり,逆にあまり協力してくれないプレイヤーだと進行させるのが極端に難しくなったりする。
初回のパッチである程度修正されているが,ローンチ後の接続問題など,ここしばらくのEAのRTSタイトルはオンラインシステムに大きな問題を抱えているようだ。サポートのまずさで不評を買いつつあるデベロッパのEA Los Angelesだが,各所にイノベーティブな要素が散りばめられたRed Alert 3は良質なRTSであることに違いないので,今後の修正/拡張パッチなどで磨き上げていってもらいたい。
- 関連タイトル:
Command & Conquer: Red Alert 3
- この記事のURL:
キーワード
(C)2008 Electronic Arts Inc. EA, the EA logo, Command & Conquer and Red Alert are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All Rights Reserved. All other trademarks are the property of their respective owners.