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[GDC 2009#14]メタルギアの新作は? コナミの小島秀夫氏によるGDC基調講演レポート
意外かもしれないが,小島氏がGame Developers Conferenceに参加するのは,今回が初めてのことだ。以前はE3が5月に控えていたこともあり,その準備のため,この時期のイベント参加はできなかったのだという。
そんな小島氏が今回の基調講演に選んだ題材は,ゲームデザイン。自身の代表作であるメタルギアシリーズの歴史を振り返りながら,どういった心構えで仕事に取り組んできたのかが語られることになった。
小島氏は,1986年の入社と同時にMSXのゲームを作る部署に配属され,そこで「コンバットゲームを作れ」という命令が下されたという。だが,MSX2では同時に表示できるキャラクター数が少なく,銃弾が飛び交うようなゲームを作ることは“不可能”だと感じたそうだ。そこで発想の転換を行い,敵に見つからないように隠れたり逃げたりするという,それまでにないゲームを思いついた。これが,いわばステルスゲームの原点である。
とはいってもMSX2というハードの限界もあり,当時のゲームシステムは,1画面のなかでいかに敵の視界に入らずに移動するかという,パズルアクションに近いものだった。隠れたり逃げたりするのが不自然でない状況というものを考え,単独で敵地に潜入するというシチュエーション,そしてそれに即したストーリーを用意して,メタルギアは完成。「コンバットゲームを作れ」というミッションは達成できなかったものの,それまでにないゲーム性を持ったものを作り上げ,結果としてヒットにつながったわけだ。
売れれば続編の話が持ち上がるのが業界の常であり,それはメタルギアも同じ。次は「よりディープなステルスゲームを作る」というミッションが小島氏に与えられた。ところが,プラットフォームは再びMSX2なので,ハードウェアの進化はない。小島氏は,ゲームデザインを工夫することで,その難問に対処したという。
具体的には,前作では敵の行動パターンが「追いかける」と「攻撃する」という二つしかなかったが,メタルギア2では,それに「敵兵が主人公を探す」という状態が追加された。これによりプレイヤーは,「見つかったらどうしよう」というドキドキを感じるようになった。
さらに敵に聴覚を用意することで,主人公が発する音に反応するという要素も加えられ,ステルスゲームとしての完成度を高めたのである。こういった要素を追加するというゲームデザインを行うことで,同じハードウェア上で,よりレベルの高いゲームを作り上げたのだ。
その後PlayStationにプラットフォームを移し,メタルギアソリッドシリーズの1作目である「メタルギアソリッド」が誕生する。同作は,それまでの作品とは異なり,すべてを3Dで描写したことにより,ゲーム性がまったく新しいものへと変化したのは,ファンならご存じの通り。
例えば,2Dでは単なる行き止まりとしか表現できなかった場所にダクトなどを設け,そこに潜り込むといったことが可能になった。また,双眼鏡を覗き込むと一人称視点になり,拡大/縮小ができるなどリアリティが増し,ステルスゲームとしての面白さもアップした。
2000年に入るとPlayStation 2(以下,PS2)が発売され,メタルギアもまたその新しいプラットフォームへと移っていく。PS2では,「メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー」「メタルギアソリッド3: スネークイーター」をリリースした。
小島氏が言うには,メタルギアソリッド3は,当初は“登場するであろう次世代機”を想定して企画を進めていたという。だが,肝心の次世代機が発売されないために,メタルギアソリッド2と同じプラットフォームであるPS2が選択された。
しかし,メタルギアソリッド3の舞台は,多くの木々や草花が密生し合うジャングルだ。過去のシリーズでは,人工建造物内とその周辺だけでゲームを構築していたが,ジャングルを舞台とすることによって,グラフィックスとして表現しなければならないものが格段に増えることになる。従って,メタルギアソリッド2のエンジンを再利用することは諦め,再度描画エンジンから作り直すことになったという。
ちなみにメタルギアソリッド2を発売したときに,「ムービーシーンが多すぎる」という批判が多かったために,メタルギアソリッド3では,それを大幅に減らしたのだそうだ。
小島氏のなかでは,メタルギアソリッドは3部作だったらしく,シリーズはこれで終了するはずだったのだが,人気作の宿命かそれを許されず,ご存じのとおり,PLAYSTATION 3で「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」が発売された。
最先端の技術を惜しみなく採用したメタルギアソリッド4だが,ゲームの舞台を「戦場」とすることで,ゲームデザイン的にも新しい挑戦が試みられている。以前までは単独で,とにかく隠れながらというゲーム性が主体だったわけだが,メタルギアソリッド4では,戦場で戦っている2勢力のどちらかに加担したり,あるいは両方を敵に回したりといったことができるようになり,プレイヤーの選択の幅が広がったという。
ともあれ小島氏は,以上のようにメタルギアシリーズの歴史を振り返りながら,新しいハードウェアの誕生やソフトウェアの進化に対応しつつ,ゲームデザイン的にも試行錯誤して作品を作り続けてきたという自身の過去を紹介していった。最初は不可能と思われるゲーム内容であっても,発想を転換したり工夫を凝らしたりすることで,壁を乗り越えられるというわけだ。
20年のキャリアを持つ小島氏は,常にハードウェアの制約(限界)と戦ってきた,いわゆる昔ながらのゲームデザイナーになるわけだが,そんな小島氏から見ると,最近のゲームデザインには一抹の不安も覚えるようだ。
というのも,昨今,新しいゲームエンジンを利用する手法が増えることで,例えば,登場するすべての車に乗れたり,ほとんどのオブジェクトを破壊できたりといった,“技術ありきのゲームデザイン”に偏りつつあることを危惧している様子であった。
最後に小島氏は,「小島プロダクションでは,技術の進化に頼るだけでなく,きちんとゲームデザインを工夫していき,新しいミッションである『The NEXT MGS』に挑みたい」とコメントし,講演を終了した。
壁を達成不可能なミッションに見立て,ハードウェアとソフトウェアの進化,そしてゲームデザインの工夫によってそれを乗り越えるというイメージ図 |
時の経過とともに,メタルギアシリーズも階段を登るように進化してきた |
とはいえ,小島氏が自ら語ったという事実が大切であり,氏の考え方が欧米のゲーム開発者達にどう受け取られたのかは興味深いところ。日本を代表するゲーム開発者として,今後も積極的な活動を期待したい。
また,最後にメタルギアシリーズの次回作がほのめかされたことも,やはり注目しておきたいポイントだろう。最新作メタルギアソリッド4の発売から数えて,もうすぐ1年が経つ。2009年のE3では,なんらかの発表があるのかもしれない。
- 関連タイトル:
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