インタビュー
[iPhone]昇竜拳が出せないなら開発しない! “ストIVらしさ”を徹底的に追求したiPhone/iPod touch用「ストリートファイターIV」開発プロデューサーインタビュー
iPhone/iPod touchゲームとしては若干高めの900円(海外では9.99ドル)という価格設定にも関わらず,世界各国のダウンロードランキングで高い順位を獲得。またApp Storeのカスタマレビューでは「予想以上の完成度」「アーケード版の雰囲気を再現」などと,軒並み賞賛の言葉が並んでいる。
今回4Gamerでは,カプコン 開発統括本部 MC開発部長 兼 プロジェクト企画室長 手塚 武氏にインタビューし,iPhone/iPod touch用ストリートファイターIVの開発について,あれこれ聞いてみた。
「ストリートファイターIV」公式サイト
「iPhone/iPod touch版ならどうあるべきか」にこだわりつつ,現役プレイヤーにもアピールする作品に
まず最初に,iPhone/iPod touch用にストリートファイターIVを開発するにいたるまでの経緯などを教えてください。
手塚 武氏(以下,手塚氏):
そもそも,iPhone/iPod touch用にどんなゲームを出すべきか検討したところから始まっています。全世界に知られているIPをリリースしたいと考えたとき,カプコン作品の中で一番広がりのあったゲームが,ストリートファイターシリーズだったんです。
4Gamer:
販売戦略ありきということですね。
手塚氏:
もちろん,「バイオハザード」「デビルメイクライ」といったIPの知名度も高いんですが,それはコンシューマ機が普及している地域での話です。例えば中国,ブラジル,ロシアといった地域では,欧米と比較するとそれほど有名ではありません。
その点,もとがアーケードゲームであるストリートファイターは,南米などにも出回っています。より多くの地域のゲームファンにアピールしたいという思いから,iPhone/iPod touch版ストリートファイターをリリースすること自体は,かなり早い段階で決定していました。ただその時点では,シリーズ作品のどれを選ぶか,どんなキャラを入れるかなど,細かいことはまったく決まっていませんでしたが。
4Gamer:
なるほど。それでは,iPhone/iPod touch版でターゲットにしているプレイヤー層を教えてください。
手塚氏:
まず念頭に置いていたのは,iPhoneユーザーの中心となる層──つまり30代の人達です。現役のプレイヤーではないけれど,スーパーファミコンで「ストリートファイターII」を遊んだことがあるという人に,ぜひもう一度プレイしてもらおうという意図がありました。
しかし,そこだけを狙うと,今度は現役プレイヤーにとって満足できないものになってしまう恐れがあります。今のオピニオンリーダーである彼らに「これはストリートファイターじゃない」といわれてしまうと,そもそも狙っていた層にも買ってもらえなくなるでしょう。そこで,どのようにすれば“両取り”できるかを考えることになりました。
4Gamer:
私自身,現役のファンですが,iPhone/iPod touch版を実際にプレイしてみて完成度の高さに驚かされました。
手塚氏:
現役プレイヤーには,「iPhone/iPod touch版を作るなら,こうするべきでしょ」と感じてもらえる完成度の高い作品を提供したい。その一方で,久しぶりに遊ぶ人が「ストリートファイターってこういうゲームだったね」と懐かしさを覚え,なおかつ「iPhone/iPod touch向けにアレンジするとこうなるのか」と納得してもらえる作品に仕上げたいと思っていたんです。それらを実現するのは,とても難度の高い作業でした。
4Gamer:
iPhone/iPod touch版に限らず,もともとストリートファイターIVは,かつてシリーズ作品を遊んだ経験のある人向けというコンセプトで開発されていますよね。
手塚氏:
ええ,大枠のコンセプトは確かにそのとおりです。とはいえ同じ30代でも,PlayStation 3やXbox 360を持っている人は,ゲームに慣れ親しんでいるという意味で,どちらかといえば現役プレイヤーに近い存在だと考えており,難度もそれなりに高く設定されています。
その点,iPhone/iPod touch版では,PS3/X360版以上に,かつてのプレイヤーを“引き戻す”“呼び戻す”ことを目指しました。
4Gamer:
各国のダウンロードランキングで1位を獲得しているのは,その狙いが見事に当たった結果といえそうですね。
手塚氏:
私達自身,大きな手応えを感じています。地域別に見ると,やはり日米の割合が高くなっていますが,アルゼンチンや香港,台湾でもかなり好調です。
iPhone/iPod touch向けに,キャラクター間のバランスを再構築
4Gamer:
iPhone/iPod touch版には8人のキャラクターが登場しますが(関連記事),そのチョイスにはどのような意図があるんでしょうか。
手塚氏:
まず,主なターゲット層にアピールするため,ストリートファイターIIのキャラクターを優先的に選びました。それから,ゲーム性を重視し,キャラ性能が分かりやすく,かつ似たようなキャラがカブらないようにしています。単純に,人気順などの理由で選んだわけではありません。
また容量の関係で,8キャラのみ収録することは当初から決まっていたんですが,“IV”を名乗っているのに新キャラが登場しないのもおかしな話なので,その中から代表として「アベル」を入れることにしたんです。
新キャラの中でも,アベルは操作が難しい部類ですよね。あえてアベルをチョイスしたのはなぜでしょうか。
手塚氏:
実はそれも狙っている部分で,“操作の難しさが面白い”キャラを登場させたかったんです。また,見た目にボリューム感のあるキャラを入れたかったということもあって,ストリートファイターIVの主人公格でもあるアベルを選びました。
4Gamer:
インタフェースの関係で繰り出せない技があるとはいえ,iPhone/iPod touch版のキャラは,いずれも完成度が高い印象です。
それでは,対戦プレイのバランス調整に関して苦労した点があれば,教えてください。
手塚氏:
やはり,ストリートファイターは対戦あってこそのゲームですから,バランス調整にはかなりのこだわりをもって取り組みました。開発スタッフ同士が対戦を行って,ああでもないこうでもないと話し合いつつ,チューニングを繰り返してきたんですよ。とくに気を使ったのは,iPhone/iPod touchゲームとして破綻しないようにすることです。
4Gamer:
単に,アーケード版のゲームバランスを踏襲しているわけではないんですね。
手塚氏:
ええ。iPhone/iPod touch版の開発にあたり,ゼロから設定し直しています。そのため,当たり判定やフレームレート,技の繋がりなどについて,アーケード版と異なる点があるんです。とはいえ,全体のプレイフィールが変化しないように気をつけました。
例えば,「この技がないからコンボがつながらないので,代わりに別の技を入れてみよう」とか,「当たりとなるタイミングを少しズラしてみよう」といった具合に,さまざまな工夫を凝らしています。
4Gamer:
実際のところ,対戦プレイは盛り上がっていますか?
手塚氏:
残念ながら,今は少し厳しい状況です。とはいえこれは,対戦すること自体のハードルが高いからだと考えています。そこで,このゲームを買った人がもう少し気軽に対戦できるような仕掛けを企画/検討しているところです。
ゲームに馴染みのない人/詳しい人それぞれが違和感を抱かないように,総合的なバランスに配慮
4Gamer:
もともとストリートファイターIVは,マルチプラットフォーム対応作品として開発されていますが,これまでの話を聞く限り,iPhone/iPod touch版の開発は,それらとは別のラインで進行していたようですね。
手塚氏:
そうです。iPhone/iPod touch向けにゼロから作り上げました。よく“移植版”といわれてしまいますが,そうではないんです。
4Gamer:
そうなると,苦労したことも多そうですね。
手塚氏:
一番最初に壁となったのは,やはり操作性です。実は,iPhone/iPod touchでストリートファイターIVの操作が行えるかどうか,私自身,懐疑的だったんですよ。そのため,マーケティング的な観点で,ストリートファイターがiPhone/iPod touchに適していることは分かっていましたが,操作性に自信が持てるようになるまで棚上げにしていました。
4Gamer:
本格的に開発を進めることになったきっかけは何だったんですか?
手塚氏:
いろいろなiPhone/iPod touchゲームを遊んでいるうちに,操作性が悪いのはインタフェースがいい加減に作られているからで,これをしっかり作り込めば,どんなゲームにも応用できることに気づいたんです。そこで,iPhone/iPod touch版「バイオハザード4」用に,「ヴィジュアルパッド」というインタフェースを開発しました。
4Gamer:
ほかのゲームに採用されているインタフェースとの違いは何でしょう。
手塚氏:
タッチパネルの特性を生かした操作体系により,プレイヤーがより能動的にコントロールできる点です。ヴィジュアルパッドは,ゲームの状況に応じて,配置や外見,機能をリアルタイムに変えられるようになっているので,マニュアルを見なくても直感的に遊べるんです。
また,入力された情報の扱いについても工夫を凝らしています。“右を押している”“左を押している”といった単純な情報ではなく,ヴィジュアルパッドを通じて得たさまざまな情報を元に最適化を行っているんです。この考え方をもう少し推し進めれば,ストリートファイターの操作性も実現できそうだということで,ようやく開発が始まりました。
4Gamer:
操作性こそが,iPhone/iPod touch版ストリートファイターIVの起点であり,キモでもあると。
手塚氏:
そのほか苦労したのは,先ほど述べた二つのターゲット層──いわば,かつての“II”ファンと,現在の“IV”ファンの両方に楽しんでもらうためのバランス調整です。
4Gamer:
それはゲームバランスという意味ですか?
手塚氏:
それも含まれますが,もっと広い意味でのバランスです。例えば,チュートリアルである「道場」では,「めくり」などの格闘ゲームで使われる用語を安易に使わないように心がけました。というのも,現役プレイヤーでない人は,こうした“格ゲー用語”に馴染みがない可能性が高いからです。
例えば「キャンセルする」という言葉なら,「技の隙をスキップする」といった具合にいい換えています。どちらの層の人にも違和感のないものにする作業は,かなり大変でした。
4Gamer:
より幅広い層のゲームファンを想定し,必要となる変更や追加を行ったわけですね。
手塚氏:
これは開発者のスキルの問題ではなく,意識の問題なんです。同じゲームといっても,コンシューマ機で遊ぶ人やゲームセンターで遊ぶ人,携帯電話で遊ぶ人などがいて,それぞれゲームへの取り組み方に違いがあると思います。
iPhone/iPod touch版の開発にあたって,ストリートファイターに初めて触れる人や,遊び方を忘れてしまった人を徹底的に意識しながら作業を進めました。
4Gamer:
なるほど。
手塚氏:
開発スタッフにその意識を持ってもらうのが大変でした。今どきの開発者は,コンシューマゲームをプレイして育っていますから,ゲームを遊ぶ人は全員自分と同じだと考えてしまいがちなんです。
もちろんそんなはずはなく,ゲームに馴染みのない人が遊ぶことだってあるはずですよね。完成までのあいだ,ゲームリテラシーの高い人が遊ぶことを期待して作ったらダメだといい続けていました。
4Gamer:
確かに,ゲームに詳しい人ほど見落としがちな点かもしれません。
手塚氏:
ゲーム業界内で“コア”というと,ゲームにしろプレイヤーにしろ,かなり限定されたイメージで捉えられていますが,まったくゲームをしない人や,携帯電話でしか遊ばないという人にとっては,コンシューマ機を持っているだけでも十分コアなんです。例えばゴルフやスキーでも,腕前はともかく,自前の道具を持っている人は,まったくやらない人の目にはコアに映りますよね。
逆にいえば,ゲームもそこまで文化として成熟したということだと思いますし,これからは,たまにゲームをすることがあるという人まで,視野に入れる必要があるのではないでしょうか。このあたりは,iPhone/iPod touchゲームを作るうえでの面白さである反面,難しいところでもありますね。
4Gamer:
個人的に,今後,これまで以上にゲームが普及するには,プラットフォームに関わらず,ゲームに馴染みのない人を取り込もうという意識が必要なのではないかと強く感じています。近年のヒット作には,そういう意識が根付いた作品が多いと思うんです。
手塚氏:
そうですね。現状は,“カジュアル”と“コア”という言葉で,ゲームやプレイヤーが変に二分化されている印象がありますが,実際には,コアゲーマーにも気軽に楽しみたいときがありますよね。
今どきの開発者は,ゲームといえば次世代機という感覚を持っているのかもしれませんが,私に言わせれば,もぐらたたきや射的だって十分にゲームです。最近流行のソーシャルアプリを「ゲームとしては物足りない」と感じているゲーム業界関係者は多いようですが,ゲームという概念をもっと広く捉えるべきだと思いますね。
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