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スクエニやコーエーテクモの第一人者がゲームにおけるAIの現状と未来について語った「FOST25周年記念講演会」レポート

 公益財団法人 科学技術融合振興財団(foundation for the Fusion Of Science and Technology。以下,FOST)は2019年11月21日,同財団の25周年を記念した講演会「ゲームとAI」を,東京・明治記念館にて開催した。
 本稿では,当日行われたゲームとAIに関する4つの講演のうち,スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏による「ゲームAIから見る未来の社会」と,コーエーテクモゲームス 執行役員 エンタテインメント制作本部 副本部長 技術支援部部長 三嶋寛了氏による「ゲームとプロシージャル技術。そして『信長の野望 大志』のAIへ」の2つをレポートしよう。

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講演会の冒頭では,FOST 理事長 襟川陽一氏が財団の25年間を振り返った
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HEROZ 代表取締役 高橋知裕氏は,将棋AIの開発で培ったテクノロジーをビジネスに応用する同社の取り組みを紹介した
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バンダイナムコエンターテインメント NE事業部 NEビジネス企画部 NEビジネス企画課 マネージャー 田村雄也氏は,AIを活用した同社のコンテンツ開発や取り組みを紹介した
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三宅陽一郎氏による講演「ゲームAIから見る未来の社会」


 まず三宅氏は,ゲームにおけるAIは仮想世界の中で人工生命を作り出すことが大きな柱になっていると説明する。しかし現在は,自然科学といった人間の外側の世界については徐々に解明されているが,人間の内面についてはあまりよく分かっていない状態なのだという。そのためAI(人工知能)と名付けてはいるものの,知能とは何なのかよく分からないまま研究しているというのが実態だそうだ。

三宅陽一郎氏
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人間とは何かを考える「科学」,人間のような知能を作ろうとする「工学」,そして生命とは何かを考える哲学という3つの領域が重なる部分でAIは成立するものであること,自然知能と人工知能の違いが説明された
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 AIには,シンボルによる人工知能(記号主義)と,ニューラルネットによる人工知能(コネクショニズム)がある。前者は,Googleの検索エンジンやAIサービスのIBM Watsonなどに使われているが,発端は16世紀の数学者・デカルトにまで遡るという。そこから「人間の思考はすべて記号で表せる」という研究が始まったのである。

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会場では,記号主義によるAI研究の歴史が紹介された
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 一方コネクショニズムは,記号主義とはまったく逆の考え方だという。20世紀初頭,人間の脳はニューロンと呼ばれる細胞によって構成されていることが判明したが,今なおそれがどうつながっているのかは分かっていない。そこで簡単なモデルを作り,脳の仕組みを研究しようという試みが,約60年前に始まった。それを改良し大規模化していき,ついに2006年,昨今脚光を浴びているディープラーニングが登場したのである。
 コネクショニズムの特徴は,電気信号の入力と出力が行われるので,デジタル情報が扱えることにある。

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1956年のダートマス会議では,人工知能(AI)の定義が初めて語られた
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 AIと一口に言ってもさまざまな考え方があるが,ここでは人間の身体にあたる「機械」,機能としての「ソフトウェア」,それらを動かす「知能」がセットになっているものを指す。
 また人間の精神には“意識”“無意識”があり,情報処理に使われる伝統的なAIは“意識”の部分だが,環境と身体の結びつきに関する部分を司る生態学的AIは“無意識”な部分となる。三宅氏は,ゲームのキャラクターを動かすために必要となるAIは,この生態学的AIなのだと語る。

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 三宅氏は人間の知能は何かを学ぶと,それを応用するなど複数のことを学べるが,AIは1つのことしかできない“専門的知能”であることも説明した。これは人間が問題設定(フレーム)を柔軟に創造し変化させているのに対し,ほとんどのAIは与えられた問題の中でのみ推論を形成しているからである。
 それを踏まえて三宅氏は,「今後は,人間が問題を設定してAIを使役していく社会になっていく」「とくに日本は少子高齢化しているので,ロボットやAIが社会を支えていく時代が来ている」とコメント。そして「これからの時代に必要なのは,問題を作る能力と,それによって人工知能を使役する能力」が問われるとした。

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 それでは,AIに与えるべき問題とは何か。三宅氏は「フレームが開いている問題」と「閉じている問題」があるとし,前者は不確定性が高く,後者は将棋や囲碁のようにルールが定まっているものを指すと説明。AIが得意とするのは閉じている問題で,開いている問題を解くためには総合的な汎用AIが必要になる。三宅氏は,ディープラーニングの登場により,閉じていない問題にも多少対応できるようになったが,まだまだAIには発展の余地があると話していた。

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現在が第三次AIブームであることも説明された。なおゲームで使われるAIには,第二次AIブームの後半から第三次ブームの技術が使われているとのこと。記号主義とコネクショニズムの比率は8:2だという
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 会場では,「FINAL FANTASY XV」のAIも紹介された。FFXVには,「メタAI」「キャラクターAI」「ナビゲーションAI」という3つのAIが使われている。
 このうちメタAIは神の視点でゲーム全体を制御する。例えば,プレイヤーがゲームに慣れていないと感じたら敵の数を減らしたり,逃げ道を作ったりするのだ。
 またキャラクターAIはキャラクター各自の頭脳,ナビゲーションAIは環境を認識して経路を検索したり,目標地点を見つけ出したりする。
 こうしたタイプのAIは,この3つのAIが分散・協調するため,分散・協調型AIと呼ばれているそうだ。

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 メタAIの起源は,1980年に岩谷 徹氏が「パックマン」に採用した「セルフゲームコントロールシステム」にある。これは,プレイログを参照してゲーム内の状況を制御するというものだ。
 また「ゼビウス」には,上手なプレイヤーは次々に強い敵と戦うことになるが,そうでないプレイヤーは倒されるごとに敵の出現テーブルが巻き戻され,弱い敵が登場するAIが採用されたことも紹介された。

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 現代のメタAIは,ゲームクリエイターとしての側面を持っており,敵の配置やスポーン処理,ストーリーの自動生成やレベルの動的生成を行う。例えば「Left 4 Dead」のメタAIは,プレイヤーの挙動から緊張度を判定し,敵の配置や出現数を変動させている。

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メタAIがプレイヤーの経路を把握し,進行方向に沿ってプレイヤーの腕前に応じた数の敵を出現させる
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 会場では,メタAIがダンジョンや地形の自動生成(プロシージャル)を行う事例も紹介された。これにより,プレイヤーの腕前に応じてマップの複雑さやダンジョンの深度を変えることが可能になる。また,このプロシージャル技術を開発工程で使うことも可能だ。

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 「Far Cry 4」では,メタAIがその場の状況に応じてある程度の規模のシナリオを作っていることも紹介された。三宅氏は「最近のゲームでは,まずオープンワールドを自動生成し,その場そのときに応じたコンテンツをメタAIが生成している。これにより,非常に少ない人数で大型のゲームを作れる時代になっている」「メタAIを研究することで,ダイナミックなコンテンツを低価格で提供できる」と説明した。

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FFXVのメタAIは,主人公がピンチのときに最も近くにいる仲間1人だけが助けに入るよう設定されているという
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 続いてキャラクターAIの説明もなされた。三宅氏は,「カメレオンはエサとなる昆虫を見ると捕食するために自然に舌が伸びる」といったように,環境に応じて生物が適切な行動を取ることを,生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルが「環世界」と提唱したことを紹介した。
 キャラクターがゲーム内の状況に応じて主体的に適切な行動を取るようにするには,やはり環世界の考え方を応用しているとし,センサーで情報を集め,認識して意思決定し,身体を動かすというサイクル(エージェントアーキテクチャ)を採用しているとした。

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 またキャラクターAIの意思決定については,7つのモデルが存在する。三宅氏によると,その中でも最近のゲームでは「ビヘイビア(振る舞い)ベースAI」がよく使われるとのこと。このAIではノードと層,選択ルール,優先度などを設定し,キャラクターの思考を作っていく。

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 会場では「ステート(状態)ベースAI」も紹介された。これはステートにキャラクター自体への命令,状態の遷移条件,キャラクター自身と周囲の変化を設定しておき,条件を満たしたらキャラクターの状態が変化して行動するという内容だ。

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 三宅氏によるとFFXVでは,ビヘイビアベースAIとステートベースAIを組み合わせることにより,ロボット研究者ロドニー・ブルックスの提唱する「サブサンプション・アーキテクチャ」,つまり一番下のレイヤーが環世界の考え方で,レイヤーが上になるほど情報を抽象化しつつ意思決定していく,階層的な思考を実現したそうだ。

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 キャラクターAIの課題は,「心と身体をどうつなぐかにある」と三宅氏は言う。これは哲学で言われる「心身問題」で,上記のように現代科学では心と身体がどうつながっているか解き明かされていないためだ。
 そこでスクウェア・エニックスでは,キャラクターの身体とAIの間に中間層を作っているのだそうだ。

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モンスターに実際にアクションを取らせて,攻撃範囲などをキャラクターAIに学習させることも紹介された
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 以上をまとめて,三宅氏は「キャラクターAIを作るということは,キャラクターに煩悩を与えること」と語り,「生まれたてのモンスターに“プレイヤーを倒せ”“水はおいしい”といったことを教え,ゲームの世界に執着するようにしていくこと」と続けた。

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 講演の終盤には,テーマであるゲームAIから考える未来社会が語られた。三宅氏は,まずシミュレーション空間がPCからインターネット,クラウド,現実空間とどんどん広がっていると指摘し,AIもそれと同期して現実空間に拡張している(実世界指向AI)ことを紹介。同様にゲーム空間も実世界に拡張しているとした。

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 それらを踏まえて三宅氏は,これからは街や都市そのものが情報空間となり,リアルタイムに情報を把握しながらロボットやドローンに命令を与え,治安や秩序を守ったりするようになる。そして,さらにそれをAIが制御する「スマートシティ」になるだろうと予想を述べた。
 また,このスマートシティにメタAIを与え,VRやARと組み合わせることにより街や都市をゲーム機のようにすることも可能だろうと展望を語った。

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 そんな世界で人間はどうなるかというと,AI技術によって「拡張人間」(Augumented Human)となり,社会は自律型AIとの相互作用の場になっていくのではないかと,三宅氏は言う。現在の人間とAIの関係は原初的なものであり,互いがアップデートしていくことに関係性は次々に変わっていくとのことで,三宅氏は「本来の意味でのシンギュラリティ」と表現していた。
 最後には,現在のゲームがプレイヤーがすべてをコントロールしているように見えて,実はAIのサポートを受けている例を挙げ,「そのように人間とAIが共存している社会が予想されます」と話していた。

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三嶋寛了氏による講演「ゲームとプロシージャル技術 そして『信長の野望 大志』のAIへ」


 三嶋氏は,まずAIを「人の知的活動を行うコンピュータシステム」とし,その役割を「ルールが定められている問題を解く」「人がコンピュータ向けに翻訳した情報を活用して専門的問題を解く」「ルールやパターンを学習してロジック(モデル)を獲得し,解を推論する」と説明した。ゲームにおけるAIは,人を楽しませるロジックを設計するために前者2つを担うケースが多いが,ゲーム開発時のコスト削減を目的として3つめの役割の研究開発も流行していると続けた。

三嶋寛了氏
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 コーエーテクモゲームスの代表作である「信長の野望」シリーズと「三國志」シリーズという2つの歴史シミュレーションゲームには,それぞれ1作めからAIが活用されている。三嶋氏によると,「信長の野望」シリーズのAIは,12作めの「信長の野望・革新」のときに,それまでの「プレイヤーの手応え重視」から「プレイヤーのモチベーション重視」に方向転換したという。

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 具体的には,11作めの「信長の野望・天下創世」までのAIは,その場その場では強いが,勢力拡大などを積極的に行わないため,天下統一には至らないようなものだったという。結果として,ゲームが進みプレイヤーの勢力がある程度拡大すると,敵勢力を1つ1つ潰していく作業プレイになりがちだった。
 一方,12作め以降は史実再現性の高いAIの開発を目指しており,AIはプレイヤー同様に勢力を拡大していく。そのため,ゲームを進めても敵勢力が常にライバルとして機能するようになり,プレイヤーを飽きさせないようになったのである。
 三嶋氏は,こうしたAIを作れるようになったのは,PCスペックが向上したことでゲームの規模が大きくなったことに加えて,AIが処理できる量が増えたことが理由であると説明していた。

コーエーテクモゲームスのAIに対する最近の取り組みも紹介された
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三宅氏の講演でも触れられていた,プロシージャル技術を活用したゲーム開発や,周囲の状況から自動で経路情報を作成する「ナビゲーションAI」も紹介された
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 シリーズ最新作の「信長の野望・大志」では,AIで大名の個性を表現することを目指したと三嶋氏は語る。まず大名の個性を「史実で知られた大名の振るまい」と仮定し,大名ごとの戦略は天下統一や家名存続といった目標(ゴール)に対して策定されることを決めた。さらに大名ごとのゴールの設定は,その大名の志や感情,性格,そして刻々と変化する勢力状況や親族・交友関係などに影響を受けることも決めていった。
 加えて同じゴール設定の大名同士であっても,同じアクションを取るとは限らない。例えば,同盟を結ぶことが合理的であっても私怨があるので結ばない,義に反する行為は避ける・許さない,勢力関係を優位にするため敢えて回り道をする……といったような違いが生ずるのである。

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 以上を実現するために,「信長の野望・大志」では2階層のゴール志向型AIを採用した。1層めは「ゴール志向型ゴールプランニング」で,中長期目標を設定する。例えば最終的なゴールが天下統一なら「畿内を制圧する必要がある」「そのためには上洛する必要がある」「ならばその前に美濃を攻略しなければならない」「そのためには,まず尾張を統一するべきだ」というように,段階的に目標をプランニングしていくのである。
 2層めの「ゴール志向型アクションプランニング」は,中長期目標を実現するためのアクションプランを策定していく。例えば尾張を統一するためには,まず会戦して勢力を拡大する必要がある。そのために鉄砲を補充する必要があるので,資金を稼ぐために商圏を開拓する……と,こちらも段階を踏んでアクションをプランニングしていく。

 また大名はAIエージェントとして自立させているが,これはインタフェースを介して大名にゲーム内の世界の情報を認識させ,それを元に意思決定させ,結果生じた行動を,再びインターフェイスを解してゲーム内の世界に反映させる,というサイクルで実現している。
 無論,大名が得られるゲーム内情報も,意思決定時に選択可能なコマンドもプレイヤーと同等であり,三嶋氏はこれを「ずるをしないAIエージェントフレーム」と表現した。

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 しかしそれだけでは,アルゴリズムを使ってキャラクターを動かすケースとの違いが,プレイしてもよく分からない。そこで大名の個性を高めるべく,2つの要素を導入したという。その1つが「過去の記憶(因縁)による感情」で,「恨んでいるから,不利になると分かっていても同盟を結ばない」といったように,AIの意思決定に感情的な面を反映する。
 もう1つが「プレイヤーへの発信としてのAI表現」で,因縁をベースにした大名の思惑をセリフやエフェクトできちんと表現するようにした。

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 それでは開発されたAIが,当初の「AIで大名の個性を表現する」を実現できているかどうか,どのように評価したのだろうか。三嶋氏によると,「AIのみの自動プレイで史実を再現できるかどうか」で評価したという。その過程ではゴールとアクションの種類に見直しがなされ,最終段階ではハイパーパラメータを調整したとのこと。
 具体的には「信長は足軽を好んで雇うので金銭収支をいじる」「畿内の大名が好戦的だったので控えめする」「武田信玄が簡単に徳川家康を滅ぼさない」といった調整が行われた。とくに徳川家康は簡単に滅びてしまうため,調整は難航したそうだ。

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会場では,桶狭間の戦いから本能寺の変まで史実を再現するAIのみの自動プレイデモが披露された。環境の変化により本能寺の変が発生しないケースもあるとのことで,三嶋氏は「調整を重ねて,ようやく実現できた」と話していた

 講演のまとめでは,三嶋氏があらためて「重要な3つのAI要素」を挙げた。
 1つめは,「意思決定機構ごとの適切なAIアーキテクチャの設計」で,これはAIエージェントのケースにおける,外部から知識を得て,知識と自身の信念から目的とその達成手段を決定し,それを自身の意図として実行する流れと理論的なベースは同じだ。

 2つめは「プランニング」で,決定した達成手段に,必要に応じて理論的に正しい形で修正をかけられるかどうかがカギとなる。例えば「あのときの私怨があるから,敢えて非合理的なことをする」というように,ナレーションにしたときに説得力を持つならば,そのプランニングの精度は高いとのこと。

 3つめは「人が介さずAIのみで目的を達成できること」だ。三嶋氏は,運・不運があったとしてもAIの判断のみで目的を達成できるかどうかが,調整の出来不出来や,ひいてはゲームバランスにつながるとした。

 また三嶋氏は,講演会のタイトルである「ゲームとAI」について4つの観点からも言及した。まず1つめに「一心同体で面白さ・動機付けに直結」することを挙げ,ゲームルールに沿ったAIが共闘者,ライバル,調整者として活躍することにより,プレイヤーはよりゲームを楽しめるようになると説明する。
 そして2つめに「プレイヤー体験のパーソナライズ」を挙げ,三宅氏の紹介したメタAIがプレイヤーごとに異なるゲーム体験を提供することにより,プレイヤーが退屈しないゲームプレイが実現するとした。
 
 3つめは「AIの活動範囲を壮大にして世界観を強化」で,三嶋氏は「AIがプロシージャル技術を操作することにより,人を感動させるところに持っていく。そこにも我々が培ってきた技術が使える」と語った。
 そして最後に「大事なのはAI技術ではなく,AIの振る舞いそのもの」とし,「お客様がどのように感じ,楽しむのか。これが一番大事です。面白さを決めるのはクリエイターの志と情熱だと考えています」とまとめていた。

科学技術融合振興財団 公式サイト

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