レビュー
この“正当進化”っぷりは異常。すべての車好きにオススメしたいレースシム
Forza Motorsport 3
文章では伝えきれないスゴさ
冒頭からこんなことを書いてしまうのは,レビューとしてどうなのかと筆者自身も思うのだが,これは事実なので書かざるを得ない。
このゲームの楽しさ,凄さは文字や映像で表現しきれない!
「Forza Motorsport 3」を実際に遊べば,多くの人がこのゲームの楽しさやスゴさを伝えることの困難さに気が付くだろう。グラフィックスを含む“表現”のクオリティが楽しさではないし,“リアルな挙動”だから楽しいわけでもない。車を動かすことの喜びを,真の意味で突き詰めて作られた本作だからこその魅力が,確かに存在するのだ。
それでは,車やドライブ/レースゲームを愛するマニアのためだけのゲームなのかというと,決してそんなことはない。タイムを競い合うレースゲームに限らず,ドライブゲーム全般がさほど得意ではない筆者が,発売日から全力で遊べているという事実がそれを証明している。
この不思議な魅力を,できるだけ分かりやすく伝えるべく,プレイムービーを交えつつレビューを進めていこう。ただ,忘れないでほしい。本稿で表現する文章,画面写真,映像などでは,Forza Motorsport 3が備えている魅力の半分程度しか伝えられないということを。
また,ゲームの基本要素に関しては,先日掲載した「Forza Motorsport 2」のレビューに詳しいので,Forza 3で初めてこのシリーズを遊ぶという人は,ぜひ参考にしてほしい。
関連記事:「Forza Motorsport 2」レビュー
※本稿で使用しているムービー/スクリーンショットは,筆者のフレンド達に許可を得て撮影/掲載したものです
動画や画面写真などからは伝わらない
Forza 3の“手触り”
カメラの距離やアングルによって印象が変わる風景,温度に応じたタイヤの変形,シャフトやサスペンションにかかる負荷,接触によるダメージ,これらをリアルタイムで演算するだけでも凄いことなのに,本作はフレームレート(1秒間に描画する回数)が高いところで安定している。開発サイドの「我々は走ること,正確に計算することこそが大事だと考えている」というコメントがすべてを物語っている。見た目の美しさのためだけにシミュレートが犠牲になってしまっては本末転倒であり,演算処理のために,体感できるほどにフレームレートが下がるようなことがあっては,プレイヤーが気持ちよく走れない。本作では,高度なシミュレートと滑らかな描画が,水準以上のグラフィックスがキープされたまま実現されているのだ。
とくに,アクションゲームやレースゲームにおいて,フレームレートは非常に重要なファクターだ。毎秒の描画回数が増えると動きが滑らかに見える。これはパラパラ漫画のコマ数を増やせば動きが滑らかになる,ということを考えれば理解しやすいだろう。
さらに,高フレームレートであることのメリットは操作レスポンスにも直結する。仮にだが,1秒間に60回描画するということは,1秒間に60回の操作を受け付けることが可能だということだ。
肉体的な限界や個人差が当然あるが,特別な訓練をしていない一般人ですら,25ms(25/1000秒)のズレを感じられるといわれている。これは1秒間に60回描画の世界,60fpsで換算すると2/60の変化は感じることが可能ということだ。つまりボタンを押してから目の前のキャラクターが反応するまでに,アクションやレースゲームにとって最も大事なレスポンス,ボタンを押してから目の前のキャラクターが反応するまでにかかる時間を限界まで縮めることで,操作していて快適な状況が生まれる。そのためには高いところで安定したフレームレートが必須といえるのだ。
このフレームレートに関する部分はForza 2でも実現されていた。しかし,前作よりも明らかに増えた演算処理に,より細かく,そして美しくなったグラフィックスなどを考えると,Xbox 360のマシンパワーの限界に挑戦するにも程があるというもの。これだけ美しくなったコースで,タイヤの変形までも感じながら,高フレームレートをキープしているがゆえのなめらか描画で,クイックレスポンスの操作感が味わえる。前作の良いところをまったく損なうことなく次のステージを目指すという“正当進化”とは,まさにコレのことだ。
だからこそ,静止画像をもって本作のグラフィックス全般を語っても,ゲームの評価には結びつかないし,プレイムービーだって雰囲気をつかむくらいの役にしかたたない。静止画としての美しさよりも,車を走らせることの楽しさ,気持ちよさを優先して作られた本作の良さは,ぜひ実際にプレイして確認してもらいたいものだ。
システム的にも順当にパワーアップされたForza 3
なので,Forza 2のレビュー記事にも書いたが,アップグレードやセッティングなど,車を自分でいじることが楽しくて仕方がない人にとっては,走る前段階の準備だけでもめいっぱい楽しめる。Forza 2を遊んだ人には想定の範囲内かもしれないが,車の数もコースもアップグレードのパーツも増えている。システム面に関しても,Forza 2から順当に強化されていると考えて問題ない。
とはいえ,前作では考えられなかった機能も追加されている。それが初心者に対しての配慮であり,ペイント機能の強化だ。とくに初心者に対しての配慮は,筆者のようなヘタレドライバーにとっては,ゲームを楽しく遊ぶための最高の贈り物である。
小学生でも遊べるというのはハッタリではない
まずForza 2ではどうしていたのかを振り返ってみると,アシスト機能がそれに当たるだろう。走るべきラインとブレーキングポイントを教えてくれる機能だ。これのおかげで筆者のような「どんなレースゲームであってもニュルブルクリンク(世界一過酷と言われるコース)なんて完走できないよ!」という人間でも,全力で楽しむことができた。
この機能は当然ながらForza 3でも健在だ。今回のレビューの画面写真に緑のラインが幾つも入っているのはバグではなく,アシスト機能を説明のため,そして筆者の残念な腕前の結果だとここで言い訳しておきたい。
そして,さらにありがたい機能が二つ搭載された。一つがオートブレーキだ。アシスト項目の一つにあるのであまり注目されていないかもしれないが,これはスゴい。何がスゴいって,これをオンにすれば,ハンドル操作とアクセルワークのみでコースを攻めることが可能なのだ。
これは,ライン同様あくまでアシスト機能の一つなので,使うかどうかはプレイヤーの自由。開発者が「Forza 3は小学生でも楽しめる」と言っていたが,冗談抜きで小学生でも楽しめる機能だと断言できる。レースの臨場感や車を操作するという楽しさを,簡単な操作で感じることができるというのは,娯楽としてのビデオゲームである本作を語るうえで,非常に大きなポイントである。
何十回とクイックアップグレードの恩恵を受けてみての感想だが,基本的な車の性格(ハンドリングや加速度など)を大きく変化させることなく,バランスよくスペックアップしてくれるようだ。筆者はこの機能のおかげで,セッティングに関する深い知識を持たないまま,カスタマイズの“おいしいところ”だけを満喫しつつレースを楽しんでいる。
だから日本先行発売……なのかもしれない
ペイント機能は,Forzaシリーズを語る上で欠かせないものだ。Forza 2のときの“職人”と呼ばれる人々が,決して利便性の高くないペイント機能を駆使して,想像を絶するほどのクオリティのデザインを作りまくった結果,アメリカの掲示板などで「俺は現実世界で日本車を買わされている。それはそれで満足しているが,ゲームの世界でも日本人の車を買わざるを得ないとは……」などと,嘆いているのか感動しているのかよく分からないコメントが多数見受けられたほどだ。
そのペイント機能は,Forza 3になって当然のようにパワーアップしている。Forza 2では,車に対していきなりシールを張っていくような感覚(そのシールを作るのが大変だったわけだが)だったのだが,今回はマス目のついたキャンバスを利用することができる。そこで作ったペイントを,車に張り付けられるようになったのだ。
これはちょっとした機能拡張だが,想像以上に便利なものだ。Forza 2でのペイントを経験した人なら分かるかもしれないが,Forza 2のペイントはあくまでも機能的にはオマケっぽいものだった。しかし,今回は明らかに,主要機能としての改善/配慮が見られる。発売以降,オンラインのオークション会場では,クオリティの高いペイントがいくつも出品されている。人によっては,ハイクオリティなデザインを量産できるくらいに,使い勝手が向上しているはずだ。
腕に自信がなくても峠を攻められる喜び
そんな中でも“リワインド”は,レースゲームにとって非常に大きな意味を持つシステムだ。これは,レース中に巻き戻しボタンを押すことで,まるでムービーの巻き戻しのように,時間をさかのぼることができる機能。つまり,速度の出しすぎでコースアウトしてしまっても,時間を巻き戻してコーナー突入前の状態に戻り,あらためて速度を落とすことができるわけだ。
このおかげで,オンライン対戦以外の1人用プレイでは,完走できないレースは存在しないと言っていい。また,コースやライン取りを覚える時間も,一気に短縮できる。実際に遊んでいると,それほど多用しない機能なのだが,この機能の凄さと便利さは100万の言葉を用いても足りないほどだ。
それ以外では,レース会場の大幅な追加,というか峠の追加が素直に嬉しい。開発メンバーが“日本の峠を走る漫画”のファンらしく,それに対するオマージュがそこかしこに見られる点も,ファンならばニヤリとするところだろう。
峠に関するこだわりは,標識や,道路に書かれている速度指示,“上り”や“下り”のデザインなど,細かなところまで行き届いている。峠の下りを攻めているときなど,ブレーキとハンドル操作が忙しすぎて,コースのディテールを観察する暇などないのだが。
ほかにも,リプレイ機能の強化など,前作にあった要素がことごとく強化されている。Forza 2から約2年の年月で,ここまで作りこむのは単純に凄いことだし,プレイヤー視点にのっとった改善なども随所に見られるのは好印象だ。新規プレイヤーに優しく,既存プレイヤーの要望が反映された傑作と呼んでも差し支えはないだろう。
不満点もいくつかあるが
車好きなら問答無用で手を出すべき名作
一つは,強化されたリプレイ機能に関してなのだが,これ単体で見たときに,Forza 3に大きな不満はない。ただし,「PGR 4 ―プロジェクト ゴッサム レーシング 4―」のリプレイ機能の充実っぷりを知る人間からすると,どうしても物足りなさを感じてしまう。
PGR4のリプレイの出来が良すぎるだけなのだが,上で紹介した峠動画のようなものを作ろうと思うと,どうしてもForza 3のリプレイ機能では物足りなさを感じるのだ。比較しなければ問題ないといえば確かにそのとおりなのだが,プレイヤー達のクリエイティビティに,機能面がやや追いついていない印象だ。
そしてもう一つが,説明書の薄さ。そもそも説明書を読まないという人のほうが多いかもしれないが,Forza 3に限っては問題がある。というのも,リプレイの参照場所が見つかりにくいことや,プライベートマッチの立て方が分かりにくいなどの問題に,すぐに直面するはずだからだ。また,用語やオプション項目の解説などもほとんどなく,車に関する知識がない人にとっては不親切と言わざるを得ない。
「面倒だけど分からないから説明書でも見るか」と,せっかく行動を起こしたところで,説明書に記載されていないのでどうしようもない。説明書が問題なのか,インタフェースが問題なのかはさておくとして,ゲームの根本とは異なるところで不満が発生してしまうのは残念である。
説明書問題は,インターネットで調べ物をしたり,ゲームに慣れれば徐々に解決していく問題だし,リプレイにしても決して悪くはない(間違いなくPGR4のそれが良すぎるだけだ)。どちらもレースゲームとしての楽しみや,走る快感をまったくスポイルするものではない。レースゲームが嫌いな人以外は,問答無用で手を出すべきタイトルだ。筆者のように,レースゲームに苦手意識を持つ人間が猿のように走りこみ,ペイントの作成で朝を迎え,リプレイムービーを編集して夜を迎えているのだ。
Forza Motorsport 3は,「我々はレースゲームに本気です」というデベロッパからのメッセージを,プレイヤーに真正面からぶつけてくれる傑作である。
動画撮影機材:トムソン・カノープス HDRECS
動画編集用ソフト:トムソン・カノープス Edius Pro 5
- 関連タイトル:
Forza Motorsport 3
- 関連タイトル:
Forza Motorsport 2
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