レビュー
世界初の「プロゲーマー向けUSBサウンドデバイス」は一般ゲーマーにも向くのか?
BenQ ZOWIE VITAL
ZOWIEらしく「プロゲーマー向け」で,プロ仕様がゆえの(?)2万円台半ばという強気の価格設定で目を引く製品だが,いったい何がプロゲーマー向けなのか。また,その実力は価格に見合ったものなのか。例によってじっくり検証した結果をお伝えしようと思う。
ドライバソフトウェアいらず。どんなPCでも差すだけで動作するVITAL
なお,VITAL本体のボリュームとWindowsのシステムボリュームは連動していない。
本体は机上設置が前提。実測サイズ65(W)
タッチセンサーを用いた操作系も実にシンプルで,1〜2タッチで目的の操作を行えるものになっている。
本体奥側にある4つのボタンアイコンは,
- VOL:出力音量
- マイク(※イラスト):マイク入力音量
- TRE:トレブル(高域,高周波数帯に山や谷を作る)
- BAS:バス(低域,低周波数帯に山や谷を作る)
をそれぞれ選択するもので,タップするとその項目が光る。光った状態で天板中央部の[−/+]ボタンをタップすれば,選択項目の音量が増減し,かつ本体左右中央部の一列バーが増減して状況を知らせてくれる仕様だ。
一方,天板の手前側に並んだボタンアイコンは,
- スピーカー(※イラスト):スピーカー出力を選択(※ヘッドフォン出力と排他)
- ヘッドフォン(※イラスト):ヘッドフォン出力を選択(※スピーカー出力と排他)
- 斜線入りマイク(※イラスト):マイク入力ミュート有効/無効切り替え
- 南京錠(※イラスト):タッチセンサーのロック有効/無効
用となっている。
ヘッドフォン出力もスピーカー出力も非常に低遅延
この点を除くと,テスト方法は別途示している「ダミーヘッドを用いた周波数特性および遅延検証法」に準拠となるので,詳細なテスト方法を知りたい人はそちらを参照してもらえれば幸いだ。
というわけで結果は表のとおり。ヘッドフォン出力時は[HP],スピーカー出力時は[SP]と記して区別しているが,すべてのテスト条件でFireface UCXより低遅延であることを確認できる。とくに,DirectSoundやXAudioと比べて遅延が少ないとされ,また挙動に比較的一貫性のあるWASAPI(の「排他モード」)で10ms以上低遅延というのが見事だ。ヘッドフォン出力時とスピーカー出力時で挙動にほとんど違いがない点にも注目しておくべきで,ハードウェアレベルでの遅延状況はかなり優秀と言っていいだろう。
いい意味で「普通」の出力音質傾向
VITALはヘッドセットではなく,その前段のサウンドデバイスなので,ここでのテストに,4Gamerが導入したダミーヘッドの出番はない。テストに用いる信号も,ダミーヘッドを用いたテストで使うピンクノイズではなく,最もピュアな波形であるサイン波を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた,いわゆるスイープ信号である。
テストの流れは以下のとおり。空気を通らないテストなので,位相計測も行う。サウンドデバイスのところで位相がズレているようでは話にならないからだ。
- PC上のプレーヤーソフト「Foobar 2000」からこのスイープ信号を再生
- VITALからアナログ出力
- RME Audio製マイクプリアンプ「Quad Pre」へ入力してゲイン調整
- Pro Tools | HDXシリーズの「HD I/O 8x8x8」へアナログ入力
- 「Pro Tools HD Software」で信号を録音
- 録音したデータをPro Tools HD Software上で動作するWaves Audio製プラグイン「PAZ Analyzer」で表示し,周波数と位相を計測
ここまで紹介してきているとおり,VITALはヘッドフォン出力とスピーカー出力の2系統があるので,両方でテストを行う。また,高域と低域の減衰や増幅に対応しているので,それぞれ±ゼロの状態と,最大まで増幅させた状態,最小まで減衰させた状態でも計測を行うことにした。
波形スクリーンショットの右に示した画像は,それぞれ「得られた周波数特性の波形がリファレンスとどれくらい異なるか」を見たものだ。これは4Gamer独自ツールでリファレンスと測定結果の差分を取った結果で,リファレンスに近ければ近いほど黄緑になり,グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
■ヘッドフォン出力,「TRE」「BAS」上下中央
■ヘッドフォン出力,「TRE」「BAS」いずれも+7
■ヘッドフォン出力,「TRE」「BAS」いずれも−7
■スピーカー出力,「TRE」「BAS」上下中央
■スピーカー出力,「TRE」「BAS」いずれも+7
■スピーカー出力,「TRE」「BAS」いずれも−7
ヘッドセットの音質傾向をダイレクトに味わえる,色づけがほとんどない出力品質
筆者の試した限り,VITALの高域および低域イコライザは,2〜3段階くらいなら,とくに歪んだ感じにはならなかったので,この範囲で積極的に弄ってみるのはアリだと感じた。
おそらくZOWIEとしては,VITALの存在感を消して,プロゲーマーが何かゲーマー向けヘッドセットを選んだとき,その音を素直に出せるというのを目標にしたのだと思う。それを踏まえて評価するなら,「ヘッドセットの音質傾向を楽しみたい,もしくは活用したい」「サウンドデバイスレベルの不自然な色づけは不要」「ただしノイズ混じりの低品質な音はNG」というタイプの人にいいのではないかという印象である。
セルフパワー型USBサウンドデバイスの宿命で,ヘッドフォン出力は大音量とまでは言い切れず,出力の小さいヘッドセットだと音量に不満が出るかもしれない。ただし,通常の使用範囲に限って言うなら,Windowsのサウンドボリュームを最大にすれば,たいていのプレイヤーには十分な音量だと思われる。
筆者は最近,「Fallout 4」のプレイヤーキャラクターがヘリコプターに乗り込んで移動するシーンと,「Project CARS」のリプレイをサラウンドサウンドのテストに用いているわけだが,まずFallout 4ではヘリコプターのローター回転音が秀逸だ。GAME ONEは低域の再現性を重視しつつ,Sennheiserブランドらしく中高域までしっかり再生できるヘッドセットだが(関連記事),VITALでは超高域成分が失われないため,GAME ONEでしっかりサラウンド感が得られるのだろう。
Project CARSでは,後続車の「ガヤ」ノイズが後方定位するところや,左右の敵車を通り抜けるときの感覚などがしっかり感じられた。もちろんこれは「GAME ONEの特性が素晴らしいから」なのだが,GAME ONEに対し,超高域から超低域まで,変に色づけすることなくVITALが音を送れているからこそでもある。
入力時は高域と低域がロールオフし,位相がズレる
続いてはマイク入力テストだ。基本的な方法は解説ページに準ずるが,VITALでは「空気を通す」必要がないことから,
- Pro Tools HDXでテスト信号を再生
- HD I/O 8x8x8でアナログ出力
- VITALのマイク入力でアナログ信号を受ける
- PC上の「Sound Forge 11」で信号を録音
- 録音したデータを(Pro Toos HD Software上の)PAZ Analyzerから計測
という流れになる。
さて,テスト結果は以下のとおり。波形の見方は出力時と同じだ。
出力が相当にフラットな特性なので,入力もそうだろう,なんて思っていたのだが,下に示したとおり高域と低域がロールオフ(roll off,減衰)する,かまぼこ型の周波数特性となった。なので,出力のように「素のまま」ではない。また位相は若干ズレている。つまり,VITALの入力はステレオ対応している。
もっとも,位相ズレは「AntiPhase」の赤いエリアには入っていないため,「間違ってもライン入力として使うべきではないが,マイク入力なら問題ないレベル」ということになる。
もう少し考察を加えてみると,オンラインでのボイスチャットにおいて有効な周波数はたいてい上限4kHzくらいまでであり,かつ,一般的な家庭の部屋は「ルームノイズ」と呼ばれる低周波ノイズが多く,低周波は邪魔なので,高周波と低周波を丸めてあるのだろう。
もっとも,よくあるUSB接続型ヘッドセットのように「8kHzから上をばっさり」ということもなく,20kHz以上まで集音自体はできているので,音質的には有利だ。しかも2kHz以上は徐々に丸まっていく,よくあるUSBサウンドデバイスのように「4kHzでいきなりばっさりフィルタリングされ,ガサガサの音になる」ことがない。加えて高周波のノイズと感じやすい帯域は「徐々に下がっていく」ので,気になりやすい高周波のヒスノイズは目立ちにくくなる,という,なかなかよく考えられた設計になっている。
いずれにせよ,VITALを使っていて「ボイスチャット相手からマイク品質について文句を言われた」という場合は,VITAL側とWindows側の両方で入力レベルを3〜4割に下げることをお勧めする。
低遅延で素直なサウンドデバイスとしては大いに価値ありだが,やはりどこまでも価格がハードルか
そこで問題になるのは,実のところサウンドデバイスのほうだ。2万円や3万円という,少なくとも安価ではない金額をゲーマー向けヘッドセットに投じても,組み合わせる先がいわゆるオンボードサウンドでは,実力は半分も出せない可能性が高いのである。
もちろん,最近のゲーマー向けマザーボード上位モデルではサウンド出力品質自慢のものが増えてきたわけだが,ゲーマーの全員がマザーボードを指定できるわけではなく,ならサウンドカードはと言えば,小型のデスクトップゲームPCやノートゲームPCには物理的に装着不可能だったりする。さらに言えば,それこそZOWIEがターゲットとしているようなプロゲームシーンでマザーボードやサウンドカードを大会へ持っていくなどということは不可能だ。
Windowsのサウンド設定回りに関する経験値がないと設定しづらいマイク入力音量は,初期値をもう少し適切な値にあらかじめ設定しておいてほしいが。
そんなVITALの抱える最大の問題は,一にも二にも価格だろう。VITALの総合力は十分に価値があるものだと思うが,だからと言ってぽんと2万数千円をそれに支払える人は,正直,ほとんどいないのではないかと考えている。
その意味でVITALは,これまでに登場したどのZOWIE製ゲーマー向け周辺機器よりもZOWIEらしい製品と言えそうだ。つまり,その価値に納得できる人にとっては間違いなく「いいもの」であるものの,一般受けは残念ながらしない製品ということである。
あとせめて1万円安価なら,ゲーム用の標準USBサウンドデバイスとして相応に広く勧められたのではないかと思うのだが。
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ZOWIEのVITAL製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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