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「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
「Impetuth」の開発でゲーム作りの面白さを再確認した
4Gamer:
ソルの設立から,O-GAMESでの「Impetuth」の開発に至るまでの経緯を教えてください。
神江氏:
もうこれは,商売じゃなくて趣味に走ってしまってるんですよね。商売としては絶対にやっちゃいけないんですが(笑)。
4Gamer:
それで,とりあえずやってみようといって作られたのが「Impetuth」なんですね。
神江氏:
「Impetuth」は1か月半で一気に作ってしまったんですけど,メンバー全員,ぶっちゃけプロなんですよね。もうゲーム業界から離れているメンバーもいますが,久々にゲームを作ってみたら,やっぱり面白いなと。
4Gamer:
いい話ですねえ。
神江氏:
ただ,そのときは“お試し”でやったので,長期間かけて,ものすごくクリエイティブなものを作るというよりは,短期間でできるものをパッと作って,様子を見てみようと。結果的に――まあプロなので当然ですけど,一定の数は売れましたが,やっぱり商売にはならない。これは趣味だなというのが分かりまして,そのときに“みんなの遊び場”としての同人ゲーム界の面白さに気がついたんです。
4Gamer:
O-GAMESというのは,ソルのゲームブランドなんでしょうか?
神江氏:
いいえ,まったく別物です。ソルはあくまで,ゲーム業界で培ったスキルで何かのお手伝いをする企業で,事業の一つとして“インディーズ活動”の支援を行っているんです。まあ,これは今のところまったくお金になっていませんけど。
一方のO-GAMESは,お金儲けを目的としないでゲームを作る集団です。組織としてはソルとはまったく別物になっていて,インディーズ支援事業という枠組みの中で,ソルがO-GAMESの会計処理を行っているという形です。
4Gamer:
うーん,もう少し分かりやすく説明してもらえますか?
神江氏:
だから,どこかの企業がゲームを作りたいというときに,オーダーを受けて企画提案したり,すでに進んでいるプロジェクトをお手伝いしたり,ということもするんですが,一方でインディーズゲームを作っているという組織があれば,そちらもお手伝いさせていただくと。ソルとO-GAMESは1対1の関係ではないんです。
4Gamer:
なるほど,理解しました。
神江氏:
今のところ事業として成立していないというのは,その際にとくにお金をいただいていないからで,今後はそうした面も含めて整えていきたいと思ってはいるんですけどね。
4Gamer:
では例えば,ほかのゲームサークルがソルとお付き合いしたいと思った場合,どういった支援を期待できるのでしょう。
神江氏:
基本的には商業との橋渡しです。ゲームサークルの中には,知っていてやっている場合は別として,知らずに権利侵害してしまっているケースもあるんじゃないかと思うんですが,これは見えない部分までヒアリングしたり,実際に中身を見たりしなければ分からない部分もあります。
一方,企業としては商業展開をしたいと思った場合それが不安なので,結局ゼロから作り直すか,あるいはタイトルやブランドだけを借りて,新たに作るというケースが多い。
そこでソルが両者の間に立って,商業に持っていきたいとか,そうでなくてもまずはゲームを完成させたいという思いを持ったゲームサークルなどを支援していきたいと考えているんです。
インディーズ活動ならではのノウハウとは
4Gamer:
実際にO-GAMESとしての活動を始めてみて,インディーズ活動の難しさみたいなものはありましたか?
神江氏:
これも,紐解いてみると以前からオンラインでゲームを作ってきた人達がいたことを知って,商業をメインとして経験してきた自分にとってはちょっとしたショックでした。
とはいえ,オンラインで作る,もしくはインディーズで作るときの体制やノウハウには独特なものがあります。
4Gamer:
具体的にはどんな部分でしょう?
神江氏:
インディーズで作る場合に大事なのは,まず権利侵害についてしっかりと認識しておくこと。もう一つは,自他のスキルを自覚し,「そのスキルを集めたときに,どの程度のものがどのくらいの期間で完成できるのか」という認識を持つことです。
ゲームがいつまで経っても完成しないときは,大抵の場合,後者の認識がズレていると言えます。これは,新たにO-GAMESに入ってきたメンバーに対しても,まずはその認識を持ってもらうことから始めています。
4Gamer:
企画の段階から,自分達のスキルをしっかりと検討する必要がある,と。
神江氏:
そうです。それと,私自身オリジナルタイトルを多く手がけてきた中で,プロジェクトのテコ入れもかなりの数を経験していますが,開発の各ステップにおいても,「どの段階でどのくらい頑張れば,まだ軌道修正できるのか」というのもあります。今ある素材を組み合わせて,ここだけ変えれば面白くなるとか,そういった見極めも大事です。
4Gamer:
そうした勘どころをつかむには経験を積むしかないと思いますが,これからゲームを作ろうとした場合,最も注意すべきステップはどこでしょうか?
神江氏:
まず,インディーズに限らず「何を作りたいのか」という目的がプロジェクトでは一番大事です。「とにかく笑わせる」ことが目的なら,究極的にはゲームでなくても構わない。でも,それなら動画だっていいわけで,わざわざゲームを作るのならゲームならではの部分が必要です。
とりわけ,新しいことにチャレンジするときは,その目標に至るまでの方法論が確立されていないことも多いですが,ゲームとしての骨になる部分の見極めがブレると,そのプロジェクトは最後までブレてしまいます。
4Gamer:
あれもこれもやりたいというプロジェクトでは,失敗する危険性が高いというわけですね。
神江氏:
それともう一つインディーズで難しいのは,メンバーで集まったときの目的が違うことです。儲けたい人もいれば,とにかくこのキャラを出したいという人もいるし,ファンタジーをやりたい人もいれば,シリアスをやりたい人もいる。
商業では,利益を上げることを大前提として各人の生活を縛っているので,そこでは個人の事情なんて一切関係ありません。一方インディーズの場合は,個人のヤル気や目標作り,認識合わせがより大事になってくるので,そういう集団作りができるかどうかが大きく左右します。そこでまずは,目的を一致させることと,ルールをできるだけ細かく作っておくことが必要になってくるんです。
4Gamer:
ルールというのは,例えば週一で進捗を報告するとか,予定を決めるといったことですか?
神江氏:
そうです。やっぱりゲーム好きなら,新しいゲームが出ればそっちをやりたいし,テレビだって見たい。学業や本業の合間でのインディーズ活動は,ある意味プロよりも時間管理が難しいです。なおかつ,インディーズの場合はオンライン上でのやり取りをメインに作ることのほうが多いので,そのための体制をどう作るのか。
初めにこれをメンバー間できちんと決めておかないと,最初はノリよく進むんだけど,途中で飽きてきちゃったりという結果になります。
4Gamer:
そういう話はよく聞きますね。
O-GAMESでは,熱意があれば未経験者でもOK!
4Gamer:
O-GAMESでは現在スタッフを募集していますが,どんな人達が集まってきているんですか?
神江氏:
また,「本当はプログラムをやりたかったんだけど,会社に入ってみたら全然違う部署に配属されてしまった」といった社会人の人もいて,そういった異業種の人との交流が増えてますね。
4Gamer:
その中には,まったくの初心者という人もいるんですか?
神江氏:
ええ,多いですね。未経験のメンバーが中心になって作ったゲームが,もう少しでお披露目できますよ。
4Gamer:
それは「UNDERCOVER LIVE」とは別のタイトルですか?
神江氏:
まったく別です。今,5本くらい作ってるんですよ。
4Gamer:
えっ,5本ですか!?
神江氏:
ただまあ,これは表現が難しいんですが,学校でいう卒業制作とか,企業でいう新人研修みたいな位置付けの作品で,これらについては無料配布を考えています。
4Gamer:
どんな作品に仕上がっているのか楽しみですが……これまでゲームを作ったことがない人達が,O-GAMESに参加したあと,まずどんな活動から始めるのかが非常に気になります。
神江氏:
そこで何をやってもらうのかはプロジェクトの状況にもよるんですが,できるだけその人の希望に沿ったものをお願いするようにはしています。
4Gamer:
例えば,「ドット絵を打ちたいけど経験がない」という人がいた場合,指導してくれるスタッフはいるんでしょうか? 完全に自力のみでステップアップしていくのは,かなり難しいことのように思えますが。
神江氏:
何が指導かというのにもよりますが,結局本人がやらないと前に進まないですよね。もちろん,その人が作ったものに対して「このドットはこの色にしたほうがいいんじゃない」とアドバイスしてくれる人はいるし,その人の一生懸命さに惚れれば当然フォローもしてくれます。
もしドット絵ができなかったとしても,例えばその人の本業で培ったスキルがあって,それでメンバーにとってありがたいことをしてくれれば,周りのメンバーも当然,「自分もあの人に何かしてあげたい」と思う。これが集団の強みであって,O-GAMESはそういうトレードによって成り立っているんです。
4Gamer:
集団の力でお互いをフォローしあうことが前提になっているんですね。
神江氏:
O-GAMESには企業でいう管理部門のようなものとして,参加者がゲーム開発に専念できるようにフォローする運営支援というチームがあって,活動を続けていく中で「こんなこともやってみたら?」と,その人に適性がありそうなことを提案したりもします。
デザイナー志望で入ってきて,実際にデザインをしながら,運営支援もやっている,という人もいますので,本当に人それぞれですね。仕事じゃないし,やりたいことをやるのが一番です。ただ,まるっきり好き勝手というわけではないので,そこは運営支援の人の調整にうまくリンクしてもらえるといいんですが。
4Gamer:
今こういった人材が欲しい,というのはありますか?
神江氏:
経験の有無を問わず,誰でも来てほしいですが,一つだけポイントになるのが協調性です。私をよく知っている人間は,お前がそれを言うなと思うかもしれませんが(笑)。
ただ,このプロジェクトは少数精鋭じゃなく,みんなの力で新たなものに挑戦していくという集団なので,コミュニケーションに意識を向けてくれる人を歓迎しています。すごく優秀で,こちらから声をかけて入ってもらった人にも,合わなかった人というのはいるわけで。
4Gamer:
なるほど。
神江氏:
コミュニケーションはIRC,週一回のSkypeボイスチャット,メーリングリストの三つのツールで行っているんですが,このうちの一つが欠けても上手くいきません。この三つのツールを使うことと,頻度は別にしてもそれに参加できる人なら,まったくの未経験者でも大丈夫だし,そういう人もいます。
4Gamer:
ではO-GAMESに関しては,ゲームを作りたいという熱意がある人であれば,恐れずに門戸を叩いてもらいたいと。
神江氏:
そうですね。まだ少数精鋭で体制が整っていなかったころに,もう少し待ってくださいといって,そのあと連絡していないままだったりすることはありますが,門戸を狭める理由もないので,来た人を断ったことはほとんどないです。ゲーム作りと,ゲーム作りを支援することに関心がある両方の人を歓迎しています。
- 関連タイトル:
UNDERCOVER LIVE Episode 0
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