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「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
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印刷2009/12/28 17:02

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「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー

人数は無制限,集団の力で世の中を驚かせたい


4Gamer:
 O-GAMESは現在,“インディーズゲームデベロッパ”と名乗っていますが,将来的にはどういった方向に持っていきたいんですか?

神江氏:
画像集#023のサムネイル/「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
 なぜO-GAMESをインディーズゲームデベロッパと名乗っているかというと,集団の力で面白いことをやりたいという思いがあるからです。「Impetuth」のときは少数精鋭という方法論でしたが,今後O-GAMESをどうしようかと考えたときに,集団の力で面白いものを作って世の中を驚かせたいなと。
 一人の天才というのは知人にも何人もいて,彼らを見ていると本当にすごい。スカウターで見たら,もう何万という数字が出ちゃうくらい,とても一人の生産力とは思えないほどです。でも,それで最新のハイエンドゲームが作れるのかといったら,これは絶対に無理です。

4Gamer:
 いくら天才的な才能があっても,一人もしくは少人数でできることには限界があると。そこで,集団の力で新しいことに挑戦するという発想につながるわけですね。

神江氏:
 そうです。O-GAMESは企業じゃないし,世界中からどんな人でも参加できるものにしたい。年内に50名くらい,来年には200名くらいのスケールにしたいと思っているので,どんどん告知しなきゃいけないなあと思っているところです。

4Gamer:
 200名ですか!?

神江氏:
 もしよければ参加してください(笑)。

4Gamer:
 ここでノリだけで返事をしてしまうと,あとでご迷惑をおかけすることになりそうな気が(笑)。

神江氏:
 とにかく,人数を無制限にするというのも,この組織の方法論として面白いかなと。だから,すべてバーチャルでやるし,営利目的の企業にするつもりもないです。そのために,対企業の窓口をソルが代行できるようにO-GAMESと契約しているんです。

4Gamer:
 商業展開については,とくに予定はないんですか?

神江氏:
 商業展開するのかしないのかについては,選択肢を狭めないことにしています。なぜPCでやっているのかといえば,自分達が表現したいものを,そのままの形で提供できるからです。そこで商業のオファーが来たら,断る理由はどこにもないし,より多くの人に自分達が面白いと思うものを伝えたい。「UNDERCOVER LIVE」も,どれだけ多くの人に楽しんでもらえるか分かりませんが,作り手としては,これは絶対に面白いと思って作っています。

4Gamer:
 以前,お話をうかがったときは「Impetuth」をWiiウェアなどのダウンロードゲームとして展開できればといったことをおっしゃっていましたが,それについては現在どうなっているんですか?

神江氏:
 とくに営業してないんで(笑)。

4Gamer:
 もったいないじゃないですか!

神江氏:
 だからあの,声かけがあれば(笑)。「経営者として,それはどうなの?」という点は置いておくとして,ソルはあまり商売っ気がないんです。また,あくまでO-GAMESに関しては“作る”んですよ。ごちゃごちゃ言わずに作るだけ。


O-GAMESの目指す“インディーズ”活動とは?


4Gamer:
 ところで,ここまで何気なく“インディーズ”という言葉を使ってきましたが,インディーズとそうでないところの線引きは難しいですよね。

神江氏:
 難しいですね。結局,企業がどうしてプロたりうるかというと,お金儲けのためのルール作り,仕組み作りが洗練されているからだと思います。ただこれは,営利目的に対して上質であるということであって,インディーズというのはまた違う。一方で,“インディーズ”と“同人”をどう定義するかというのも悩ましいところです。

4Gamer:
 同人というと“無法地帯”なイメージがあるし,ある部分では実際にそのとおりですよね。

神江氏:
画像集#014のサムネイル/「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
 そうですね。誤解があったら申し訳ないですが,同人というのは,100%やりたいことをやっているものと定義してしまっていいんじゃないかと思います。基本的には,自分のために作ることが第一目的になっている。企業は営利目的ではっきりしていますね。個人のやりたいものなんて関係なく,より広い市場やターゲット層を狙い,会社組織が儲かることが第一です。
 じゃあ,いまO-GAMESが目指しているインディーズとは何かというと,例えそれが圧倒的に少数派であっても,ターゲットとした人達に楽しんでもらう,また,そういった人達のために作ることを第一とした組織です。

4Gamer:
 インディーズゲームデベロッパは日本に限らず世界中にありますが,企業からスピンアウトしたプロが,プロの手法を使って少数精鋭のチームで開発を行っている集団をそう呼ぶことが多いです。O-GAMESの目指すインディーズゲームデベロッパは,それとはまた違うアプローチなんですね。

神江氏:
 結局,営利を第一目標としていないので,トータルで儲からなくてもいい。O-GAMESは,「こういう層に向けて,こういう刺激を提案したらどうなるだろう」という実験場なんです。こうしたやり方は商業だと許されません。5ラインあったら,少なくともそのうちの一つは大ヒットして,その5ライン分を食わせないといけない。そう考えると,どうしても慎重になるし,実験からは遠くなります。
 かといって個人もしくは数人で,企業が数百人の規模で作っているものと同等の提案ができるかというと,これはできません。そこで,大人数でかつ営利目的ではない組織をやろうと。なぜそれができるかというと,それによって生活の糧を得ているわけではないからです。

4Gamer:
 インディーズサークルとしては,これまでにあまり例を見ない方法論ですし,何だかワクワクしてくる試みですね。

神江氏:
 インディーズという言葉の定義も今後変わっていくでしょうし,プロが少人数で小額課金のコンテンツを,iPhoneやWiiウェアなどに投下していくという動きは当然あると思いますが,できればゲーム作りをみんなが楽しめるようにしていきたいんです。遊ぶだけでなく,作るのも面白いですから。

4Gamer:
 O-GAMESには今,いくつのチームがあるんですか?

神江氏:
 どんどん拡大しているところですが,今は6チームですね。

4Gamer:
 やがてその力を結集して,もっと大きなものを作りたいと。

神江氏:
Team Fortress 2
画像集#008のサムネイル/「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
 そうです。来年(2010年)はValve Hammer EditorとSource SDKを使った3Dゲームにチャレンジしたいなと。今着手し始めたところで,来年中に完成するかどうかは分からないんですが,まずはメンバーには「Orange Box」を買って親しんでもらって,3Dゲーム作りって何だろうというところを覚えてもらいながら進めています。

4Gamer:
 すでに何かアイデアはあるんですか?

神江氏:
 一発目だし,あんまりコストをかけると完成しないというのもあるんで,まずは対戦ものから。最初に作るものとしては「Team Fortress 2」のマップくらいから始めて,次は忍者ものとかにしてみたら面白いんじゃないかな。舞台を過去にするか,現代にするかとかは決めてないんですが,忍者vs.兵隊みたいな感じで,できるだけ破天荒なものにして,ただのFPSの対戦ものとはまた違ったものしたいですね。
 そういうものを,来年か再来年中には作りたいと思ってるので,一緒に作ってみたいという人がいたら,どんどん参加してください。


“ぼちぼち楽しめる”「UNDERCOVER LIVE」は冬コミでお披露目


4Gamer:
 O-GAMESの目下の最新作である「UNDERCOVER LIVE」の発売日は決まりましたか?

神江氏:
UNDERCOVER LIVE Episode 0
画像集#007のサムネイル/「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
 お披露目は冬コミ(コミックマーケット77)で,細江(※1)さんのブース(※2)で販売します。細かいところはまだ決まってないんですが,あとは同人ショップでの取り扱いと,商業ルートのダウンロード販売も検討していこうかと思っています。

※1 細江慎治氏:ゲームミュージックの作曲家で「Impetuth」「UNDERCOVER LIVE」のBGMも手がける。ナムコ時代の代表作は「ドラゴンスピリット」「ファイナルラップ」「オーダイン」など多数。現在はスーパースィープ代表取締役

※2 12月30日(水)東サ40 トルバドールレコード


4Gamer:
 そういえばブログで拝見しましたが,O-GAMESはコミケ落選してしまったんですよね。今回の作品の見どころはどこでしょうか?

神江氏:
 最大の見どころは,商業ではまず跳ねられちゃうようなテーマや雰囲気ですかね。インディーズならではの味というものを味わってもらえたらと思います。探偵ゲームとは銘打ってますが,ドラマの部分でいうと,登場人物それぞれの思いにすごく気を使ったシナリオが組まれています。まだシリーズの序章なので,今後展開していくときのための仕込みとして,さまざまな伏線も張ってありますよ。

4Gamer:
 ボリュームやシナリオ面で,序章だけ遊んでも楽しめそうですか?

神江氏:
 ぼちぼち楽しめるはずです(笑)。

4Gamer:
 そこは,うんと楽しめると言っておかなくていいんですか?

神江氏:
画像集#015のサムネイル/「来年は200名規模のスケールに!」インディーズゲームデベロッパO-GAMESを率いる元「鉄拳」シリーズ開発者,神江 豊氏インタビュー
 受け手の好みによって,かなり変わると思います。万人に楽しめるものではないですが,その代わり「こういうのが好きなんだ!」という人に喜んでもらいたいという作り手の思いが詰まっている。ド派手なドンパチなどはないですが,「実際にこういう人がいるかもね」みたいな感覚が,この作品の味なんです。あと,脱出パートに関しては開発に苦労したので,ライトめのゲームとして楽しんでもらえたら嬉しいですね。

4Gamer:
 商売っ気がなさすぎるというか,こういう機会ですし,もう少しアピールしてもいいんじゃないでしょうか(笑)。ちなみに価格は決まったんですか?

神江氏:
 コスト感でいうと,2500円くらいで手に入るくらいじゃないと,合わないような気がするんですけど,金儲けが目的じゃないし。かといってタダだと,受け取る側も重みがないかなあ,なんて考えているところです。

4Gamer:
 では直近のO-GAMESの活動は?

神江氏:
 直近ということではコミケですが,その次は,未経験の人が作っているゲームに磨きをかけたりかけなかったりしつつ,どうやって面白くお披露目していけるかってことですね。これまでのゲームは何かまじめ腐った雰囲気でしたが,これからお披露目するものは,雰囲気にしても質にしてもバラつきがあります。このバラつき感の面白さをアピールできたらいいなと思います。

4Gamer:
 以前は,O-GAMESには萌え路線は一切ないとおっしゃっていましたが,今後は出てくる可能性もあるんですね。

神江氏:
 あります,あります。もう,エロでも何でも(笑)。

4Gamer:
 個人的にはアリですが,“18禁エロ”になってしまうと4Gamerで紹介できなくなります……。

神江氏:
 人に迷惑をかけないで,できるだけ面白いことをやっていけたらいいなと。自由度という意味では,縛りをできるだけ入れずに,かといって一人よがりにならずに今後もやっていきたいですね。

4Gamer:
 では最後に,これからゲーム作りを志したい人にアドバイスをお願いします。

神江氏:
 自分が何ができるかはやってみないと分かりません。ご縁があれば,ゲーム作りをお手伝いさせていただきたいし,O-GAMESでも常にメンバーを募集しています。もし興味を持ってもらえたら,ソルでもO-GAMESでも,こっちのほうがいいかなと思うほうにコンタクトを取ってください。とにかく,ゲーム作りは面白いんですよ。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 神江氏のこれまでのキャリアと,そこで培ってきた人脈を考えれば,プロの知人だけを集めて――それこそ「Impetuth」を開発したときのように――少人数で自分達の満足できるものを作り,そこに留まり続けることも十分できたはずだ。ゲーム作りを趣味としてとらえ,コストや採算,開発にかかる手間などを度外視して考えるならば,なおのこと,チームをできるだけコンパクトにまとめておいたほうが効率的でもある。

 だがそこで,あえてそうした手法を採らなかったところが,神江氏とO-GAMESの面白さである。神江氏とO-GAMESの目指しているところは「一人のプロでは作れないものを,集団の力で乗り越えていく」という,少数精鋭とは正反対のアプローチであり,インディーズゲーム開発においてはこれまでにあまり例を見なかった新しい方法論である。

 似たようなアプローチのコミュニティとしては,オープンソースコミュニティがあるが,それとて一定以上のスキルを持った人が対象であり,本当に誰もが参加できるものとは言いがたい。ましてやメンバー同士で助け合い,スキルを高めあっていくという発想はそこにはないだろう。オープンソースコミュニティはあくまで特定のプロジェクトに対し,共通の目標とスキルを持ち寄って参加するものだからだ。

 もちろん,O-GAMESの人的リソースも有限である以上,どこまでも人数無制限で受け入れるというわけにもいかないのは当然だ。だが入り口のハードルをできるだけ低くし,例え個々の力は小さくても,それらを合わせ,集団としての強みを活かして一つの大きな作品を作ろうというこの試みには,大いに興味を引かれるし,そこにはゲーム作りの新しい可能性が広がっているようにも思われる。

 そして今回のインタビューで印象的だったのは,神江氏のゲーム作りに対する強い愛情である。それは少年時代から変わらない,神江氏の本質だと言っていいだろう。「ゲーム作りは本当に面白い」と,これほど真っ直ぐに言い切れる神江氏が,これからO-GAMESのメンバーと共にどのような作品を作り出すのか。筆者も一人のゲームファンとして,今後も引き続き注目していきたい。

 そうそう,インタビュー収録後に確認したところ,O-GAMESの目下の最新作である「UNDERCOVER LIVE Episode 0」の価格は,コミケでの販売価格が1000円,委託先販売価格は1500円に決まったとのこと。商売っ気はないとはいうものの,今回もまた良心的すぎる価格のような……。
 本作では,現在探偵グッズが当たるキャンペーンが実施されているほか,4Gamerの「こちら」の記事では体験版も掲載している。また,O-GAMESのデビュー作「Impetuth」は,週刊連載「インディーズゲームの小部屋」の第78回で紹介しているので,併せてチェックしてほしい。


  • 関連タイトル:

    UNDERCOVER LIVE Episode 0

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