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「アンジェリーク」「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」の誕生秘話や長く愛される秘訣が語られた「Girls Game MEETS」セミナーレポート

 2019年2月8日,ジークレストは,女性向けゲームのクリエイター向けセミナー「Girls Game MEETS」を開催した。今回のセミナーでは「長く愛される女性向けIPづくりの秘訣」をテーマとし,コーエーテクモゲームス 取締役 ルビーパーティー ブランド長の襟川芽衣氏と,「金色のコルダ」「遙かなる時空の中で」のプロデューサーを務める松濤明子氏をゲストに迎え,それぞれのタイトルの開発秘話などを聞かせてくれた。
 また,ジークレスト取締役で「夢王国と眠れる100人の王子様」の事業責任者を務める礎 考宏氏を加えたパネルディスカッションも行われた。

 本イベントはクリエイター向けのセミナーのため,記事にできない内容も含まれていたが,本稿では可能な範囲にてセミナーの模様をお伝えしよう。

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女性向けゲーム誕生秘話

登壇者:襟川芽衣氏(ルビーパーティー ブランド長)

 コーエーテクモゲームスのルビーパーティーは,「アンジェリーク」「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」など,数多くの女性向け人気シリーズを生み出したブランドだ。中でも1994年に第1作が発売された「アンジェリーク」は,“女性向けゲームの元祖”と言っても過言ではないだろう。

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 「アンジェリーク」が世に出る少し前,1980年代頃のゲームはPCでプレイするものが多く男性ユーザーがほとんどで,女性が入り込む余地はほとんどなかった。しかし,コーエーテクモホールディングスの会長を務める襟川恵子氏が「人類の半分は女性。女性が心から楽しめるゲームがないのなら私が作る」と考え,“女性による女性のためのゲームを”と女性の開発者を集めルビーパーティーを立ち上げた。スタッフを集め「アンジェリーク」を世に送り出すまでにおよそ10年かかったそうだ。

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 開発にあたり,女性の好きな色や少女漫画のような世界観,美しいビジュアルをテーマとすることが決まったが,いざ開発を始めてみたところ「ゲームシステムが単純なお使い作業になってしまい面白くない」という問題にぶつかってしまう。そのピンチをまさに守護聖のごとく救ったのが,かのシブサワ・コウ氏(「信長の野望」「三國志」シリーズのプロデューサー)だった。シブサワ氏がチームに加わり,「女王候補が2人で惑星を育成し,守護聖様に助けられながら競い合う」」といった要素を取り入れることで,ゲームの面白さが格段にアップしたのだそうだ。

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 男性ばかりの市場の中で,「アンジェリーク」は発売当初も苦労があったが,少しずつ人気が高まっていき,やがては開発陣の想像を超える支持を得るようになったそうだ。襟川氏は,それまで漫画やアニメの男性にときめきを抱いても一方通行だったのが,ゲームによってキャラクターとの双方向の関係性を構築できたことが“新たな感動体験”になったのだろうと語った。また,今では当たり前となったメディアミックス展開も積極的に行い,タイトルの人気をさらに確かなものにしてきたのだという。

 これらの歴史を踏まえ,襟川氏は長く愛されるIPに必要なポイントを3つ挙げた。まずは「良い思い出として終わらせない」。これは,過去ではなく“今”大好きなキャラでいてくれるように,ファンの心を離さない継続的な展開を続けることだ。とはいえ,いつもそばにいる安心感は“飽き”につながってしまうので,ほどよい距離感とメリハリも大事で,こうした面はある意味で恋愛にも似ていると語られた。

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 2つ目は「長く続けられる土台を作る」だ。作品作りにおいては常に先を見据えてストーリーや世界観を考えることが大切だが,同時に,構想などは自分の中だけにしまわずに誰が見ても分かるように資料を残したり,熱量を持って作品を共に作れる部下を育てたりする土台作りも重要だという。これは,襟川氏が担当するマネジメント職としては最も重要な点であると考えているそうだ。

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 そして「ファンあってのIPである」という点。当たり前のことではあるが,誰に向けて,何を感じてほしくてゲームを作っているのかを常に考えファンを大切にしてほしい,とまとめた。最後に,ルビーパーティーではこれまでにコンシューマタイトルを中心に開発を続けていたが,ブランドの大きな課題でもある“スマホ向けタイトルを作る”ことにも挑戦していると明かされた。


「金色のコルダ」「遙かなる時空の中で」からみる
長く愛されるIPのつくりかた

登壇者:松濤明子氏(「金色のコルダ」「遙かなる時空の中で」プロデューサー)

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 続いて,ネオロマンスシリーズ第2弾の和風恋愛アドベンチャー「遙かなる時空の中で」および,第3弾の学園恋愛シミュレーション「金色のコルダ」シリーズでプロデューサーを務める松濤氏による講演が行われた。

 まずは,松濤氏が手がけた「遙かなる時空の中で3」(以下,「遙か3」)の開発エピソードを例に,「続編を作るときに考えていること」が語られた。松濤氏は「遙か3」を作るにあたり,IPの拡大のためには一般層へのアプローチや,より広いユーザーニーズに応えることが重要だと考えたそうだ。そこで,舞台となる時代を「遙か3」発売翌年の大河ドラマに合わせて源平時代に決定した。これは,大河ドラマで描かれる源 義経が注目されるであろうことと,前2作とは異なる戦乱の世を描くことで,遙かシリーズのテーマである“切ない恋”を,歴史群像劇として新しい切り口で語る狙いがあったという。

 加えて,舞台を鎌倉や広島などに広げ,多くの女性が好む“旅行”の要素を取り入れ,当時はまだ歴女という言葉はなかったものの,必ず需要があると見て歴史上の人物を多く登場させたそうだ。

 また「遙か3」では,IPを拡大させていく戦略として,女性向けという観点に囚われず“面白い”ゲームを作ることを重視したという。RPG要素を強化し,当時の女性向けゲームには珍しかったキャラクターごとのルートを用意した。さらに,同社の「真・三國無双」シリーズに採用されている,周回プレイをする際に“最初から強い武器を持ってプレイできる”いわゆる強い状態で新しくゲームを始められる概念を取り入れた。こうした要素に,シナリオとの関係性を強めて導入したのが「遙か3」の“運命上書きシステム”だ。結果,このシステムは大いにファンの支持を得ることになったのだという。

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 また,さまざまな派生タイトルのオーダーがあがる中で,松濤氏は本編をベースにストーリーやキャラクターが追加された“ファンディスク”の制作を企画した。そうして開発された「遙かなる時空の中で3 十六夜記」「遙かなる時空の中で3 運命の迷宮」は「遙か3」の翌年,翌々年に続けてリリースされた。非常にタイトなスケジュールではあったが,感動の鮮度を維持できたと語っていた。

 その数年後となる2010年に,松濤氏が手がけた「金色のコルダ3」(以下,「コルダ3」)が発売された。「コルダ」シリーズは同じキャラクターで3部作構成の続編を作るべく設計されていたが,「金色のコルダ2 アンコール」までで1つの物語として完結していたので,「コルダ3」で新たな展開が必要になっていたという。

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 まず過去作から引き継ぐべき骨子として,音楽×学園もの,攻略対象キャラクターとヒロインが切磋琢磨するライバルとしての存在感,さまざまなイベント事業を行っている観点から,主要な声優陣に引き続き登場してもらうことを挙げた。さらに舞台を前作から数年後に設定し,お馴染みのキャラクターが成長した姿を見せることで,従来のファンが安心して楽しめるようにとも考えたという。一方でマンネリ化を防ぐため,これまでにはない“夏”“少年漫画”といったテイストに注目し,部活としての魅力を追求。活発なキャラクター造形のため,さまざまな動きを制作したそうだ。

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 また「コルダ3」では,今の女性向けゲームでは当たり前の手法となったグループごとのコンセプトやカラーリングを設けた。多数のキャラクターを分かりやすく把握してもらうため,グループを覚えてキャラクターを覚える,という紐づけを行ったのだそうだ。

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 松濤氏は,長いIPの展開を続けるためには“既存ファンへのおもてなし”“新しいファンを獲得するためのチャレンジ”,そして“ファンに定着してもらうための展開の速度感”の3つのバランスが大切だと述べた。「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」シリーズは,どちらも数年後に20周年を迎える長寿タイトルだ。松濤氏は,これらのタイトルでこれからも大きな展開を予定しているとし,今後も女性向けゲームの発展に貢献していきたいと締めくくった。

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パネルディスカッション

テーマ「長く愛される女性向けIPづくりの秘訣」

パネラー:襟川芽衣氏(ルビーパーティー ブランド長)
松濤明子氏(「金色のコルダ」「遙かなる時空の中で」プロデューサー)
礎 考宏氏(ジークレスト取締役/「夢王国と眠れる100人の王子様」事業責任者)


 第2部では,襟川氏と松濤氏に加え,ジークレストの取締役で「夢王国と眠れる100人の王子様」事業責任者である礎 孝宏氏が参加し,パネルディスカッションが行われた。

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■IPづくりにおいて一番大切にしていることは?


 この質問に襟川氏は,“誰に向けて,どんな体験をしてほしいか”が大切だと回答した。礎氏も,マネジメントをする立場として襟川氏の意見に近いそうで,「夢100」では“王子様との姫体験”など,どういった部分が「夢100」の魅力なのかを“コアバリュー”として定義しており,ぶらさないように気をつけているという。一方,クリエイター側である松濤氏は,実際にプレイをしたときに分かる“手触り感”が狙いと合致しているかどうか,ファンからはどう見えるかという視点を持つようにしていると語った。

■キャラクターの設計と生み出し方は?


 キャラクターについて松濤氏は「遙かなる時空の中で」シリーズには八葉と呼ばれる男性キャラクターが登場するが,八卦と呼ばれる東洋思想の概念に基づいているため,バランスの良い特徴付けができたと語った。また,「金色のコルダ」シリーズでは楽器の音色や曲から得られるイメージでバリエーションを持たせることもあるとのこと。そして,自分1人やコアメンバーだけでなく,社内の女性社員に意見を聞き,いろいろな人に刺ささり,かつ“刺しに行く”キャラ作りを心がけているそうだ。意見を聞く際も,人がいるところで遠慮が生まれないよう,できるだけ1対1や少人数で意見をもらうようにしていると話してくれた。

■IPを広めるために,メディアミックスやプロモーションなど,ゲーム以外の部分での展開の思想は?


 この質問に松濤氏は,「遙か3」で行った2.5次元舞台について言及し,こうした展開からIPを知ってもらう機会は今後もさらに重要になると述べた。その一方で,ブランドイメージを損なうような,あるいはファンをガッカリさせるような展開には,簡単に飛びつかないよう気を付けているとも語った。襟川氏も同じ意見だが,ブランドイメージを大事にしつつ,新たな取り組みも積極的に行っているそうだ。ファンにどれだけ喜んでもらえるかだけでなく,どれだけ驚いてもらえるか,感動を与えられるかにもチャレンジしているという。

 礎氏から「さまざまな展開を行う中で,クオリティチェックもご自身で行いますか?」と質問が投げかけられると,松濤氏は「できるだけ自分で見るようにしている」と回答。襟川氏も「先ほどは“後任者を育てるべき”という話をしたが,その割には自分自身でやってしまっているところも多い」と答え,笑いが起きていた。


■乙女ゲームが好きなユーザーはBLを好む層と比べ,あまりほかへコンテンツを勧めるのに熱心でない印象だが,促進の施策は?


 松濤氏は「話さずにいられないような話題性がゲームの中に入っているかどうか。誰もが予想できる当たり前のものではなく,驚きと感動もやはり大事だと考えて,それを目指しています」と語った。しかしバズや驚きのためにキャラクターを犠牲にしないことにも注意を払っているそうだ。そのほか,SNSで話題にしてもらうために,イベントや舞台,ニコ生など「今話したい」と思えるコンテンツの展開も重要であるとのこと。

■IPの後任者はどうやって育てている?


 後任者の育成について襟川氏は,「(ゲームを)作った本人に頑張って育ててもらうしかない」と断言。どうやって作ったか,どういう想いだったのかは本人にしか分からないものなので,できるだけ資料を残したり,一緒に仕事をする中で常日頃から覚えてほしいことを話し伝えるなど,次世代を育てることも意識してほしいと述べた。
 これについては礎氏も同じように悩ましいと思っているポイントだそうなのだが,松濤氏もやはり,後任者と一緒に実際にゲームを作るのが大切だと考えていると語った。一度に理解することは不可能なので,1タイトルだけでなくできれば複数,流れやある程度の時間を一緒に過ごして共有しながら,その人が好きなものも知っていき,育てていければとのことだった。

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 パネルディスカッションの最後には,今後の女性向けゲーム業界と「ルビーパーティー」「ジークレスト」の今後について述べられた。礎氏は,ジークレストは女性向けスマートフォンゲームの市場でナンバーワンを目指しているが,IP作りとゲーム作りの両方をバランスよく取り組んでいきたいと語った。襟川氏もそれを受け,最初の「アンジェリーク」からゲーム性と恋愛のバランスを大切にしてきたとし,これからも大切にしていきたいと同意しつつ「私たちも女性向けゲーム市場でナンバーワンを狙っていきます」と宣言。大きな拍手が起こっていた。

 講演のあとには登壇者と参加者による懇親会があり,クリエイター同士が交流していた。ジークレストでは,今後もこういったセミナーを継続していく予定とのことなので,引き続きその動向に注目していきたい。

「コーエーテクモゲームス」公式サイト

「ジークレスト」公式サイト

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