インタビュー
世界に通用する日本ならではの2D対戦格闘は,いかにして生まれたのか。「BLAZBLUE」シリーズプロデューサー モリ トシミチ氏へロングインタビュー
4Gamerでもラジオで特集するなどして注目してきた本作だが,今回,プロデューサーであるモリ トシミチ氏に直接インタビューする機会に恵まれた。「BLAZBLUE」の制作秘話から,影響を受けた格闘ゲーム,果ては「アイドルマスター」の話まで,多方面にわたる面白い話が色々と聞けたので,本稿ではその模様をお届けしていこう。
「BLAZBLUE」オフィシャルサイト
「BLAZBLUE」が目指すのは総合的エンターテイメント
「GUILTY GEAR」とは立ち位置の違う作品
本日はよろしくお願いします。まず,アークシステムワークスには,「GUILTY GEAR」と「BLAZBLUE」という,二つの2D対戦格闘シリーズが存在していますが,ここであらためて,「BLAZBLUE」シリーズのコンセプトをお聞かせください。
モリ氏:
「BLAZBLUE」シリーズは,格闘ゲームを知らないユーザーでも楽しめる,総合的なエンターテインメントを目指して作っています。格闘ゲームとして十分面白いのはもちろん,絵,音楽,声優,世界観……どこからでもいいので,まずは「BLAZBLUE」の世界に入ってきてもらおうというのがコンセプトです。
4Gamer:
2D対戦格闘というジャンルを突き詰めた「GUILTY GEAR」と比べて,間口を広めにとっているという点が,コンセプトであり魅力なわけですね。「BLAZBLUE CONTINUUM SHIFT」では,チュートリアルモードやチャレンジモードが導入されたことで,前作よりもさらにその傾向が強くなっている印象を受けます。
モリ氏:
正直に言うと,チュートリアルモードやチャレンジモードは前作でやりたかったんですけどね。ぶっちゃけ,間に合わなかったんです。圧倒的な物量だったから。
前作ではストーリーモードを作るのに手一杯だったんです。でも,今回は「もっとこういう風にするべきだ」というのがハッキリ見えていたので。チャレンジモードとチュートリアルモードは絶対に入れようと。
チュートリアルモードに関しては,やってもらえれば分かるんですが,本当に格闘ゲームの基礎……ゲージの見方から歩き方,しゃがみ方からジャンプの仕方まで説明しています。
4Gamer:
あの丁寧さには感心させられました。2D対戦格闘ゲームの教科書みたいですよね。
モリ氏:
そうですね。実際に,小学生でも理解できるレベルで作ろうと考えていました。それプラス,レイチェルや植田佳奈さんが好きな人にとっては,あの声で罵ってもらえるのは嬉しいと(笑)。
4Gamer:
テキストだらけの説明的なチュートリアルは,正直にいうと面倒くさいのですが,その説明がフルボイスでされているとなると,ちゃんとやってみようと思う人も多いと思います。
モリ氏:
ですよね。文章読みながらプレイするのってすごく大変じゃないですか。声を聞きながらのほうが明らかにやる気がでるし,分かりやすい。
実は最初,チュートリアルモードのボイスを男バージョンと女バージョンで分けようと考えていたんですよ。植田さんと,カッキー(ジン役の柿原徹也さん)にやってもらおうと。ゲーム内でのキャラクター的には,どちらも上司っぽいイメージがあるので,チュートリアル向きなんですよね。ただ,ボイス量が植田さんだけでもう何GBレベルになってしまって,容量的にカッキーバージョンは入れられなかったんです。
4Gamer:
やむを得ないにしても残念ですねぇ。
モリ氏:
全部デバッグしなければならないわけで,期間的にも,今回はとりあえず植田さんにお願いしようということになりました。
4Gamer:
では,もし次回作が出るとしたら,柿原さんのチュートリアルが実装される可能性も……?
モリ氏:
物理的に可能ならばやりたいですね。多分カッキーは嫌がるけど(笑)。
4Gamer:
大変ですもんね(笑)。
あとDLCについてもお聞きしたいのですが,8月5日に配信開始となる追加キャラクター,マコト=ナナヤってどんなキャラクターなんでしょう?
モリ氏:
マコトには「インパクト」という能力がありまして,Dボタンを押していると1→2→3とレベルが上がっていくんですよ。それぞれのレベルで技の性能が変わっていくので,それを上手く使い分けると,面白い戦い方ができるキャラクターです。
4Gamer:
それは面白い。これまで「BLAZBLUE」に登場したキャラクターの誰とも,あまり似ていないですね。
モリ氏:
似ていないです。ヒット確認がすごく大事なキャラになります。
4Gamer:
扱いが難しそうですね。
モリ氏:
でも,特別難度が高いわけではなくて,中堅クラスに設定しています。もちろんある程度「BLAZBLUE」のシステムに慣れた人のほうが使いこなせるでしょうけど。なんでもかんでもレベル3の技を出せばいいってものじゃないですから,状況判断力を要求されるキャラクターです。
4Gamer:
追加キャラクターはマコトだけじゃないんですよね?
モリ氏:
はい。あと何キャラかいます。その内のひとりは,見たら驚愕すると思いますよ。
4Gamer:
驚愕のキャラクターですか?
モリ氏:
はい。「マジで!?」って言うはず(笑)。発表はまだ先の話になっちゃうんですけど,多分,みなさんが待ち望んだキャラだと思いますよ。とりあえず,マコトの次に登場するキャラクターは超カッコイイです。
4Gamer:
非常に楽しみです。ところでアークシステムワークスには,「GUILTY GEAR」シリーズという有名な2D対戦格闘ブランドがありますよね。「BLAZBLUE」のコンセプトを聞くと,やはり両者はずいぶん方向性や立ち位置が異なる作品だなぁと,再認識させられます。
「GUILTY GEAR」に関しては,本当にどんどんマニアックな方向に行ったじゃないですか。あれは一度リセットしなきゃいけないなと,個人的には考えていたのですが,本格的にどういう風にしていくかは,やはりプロデューサーの石渡(※)が考えることなので。まぁ,ゲーム的な部分だけ見ると,「BLAZBLUE」もマニアックといえばマニアックなんですけどね。
※「GUILTY GEAR」シリーズの生みの親である,アークシステムワークスの石渡大輔氏。キャラクターデザイナーやコンポーザーとしても活躍している
4Gamer:
確かに,「GUILTY GEAR」は,システムがどんどん複雑化していきましたよね。
モリ氏:
はい。とくに「GUILTY GEAR」は“フォースロマンキャンセル”(※)の存在によってプレイヤー層を狭めてしまったと思うんですよ。アレ,すごく面白いシステムなんですが,結果的に,対戦の必須科目みたいになっちゃったんですよね。使えないともう対戦でお話にならないっていう。それによって,コミュニティが狭まってしまったんです。
※特定のタイミングでボタンを同時押しすることで,テンションゲージを消費してキャラクターをニュートラルの状態に戻すテクニック
4Gamer:
対戦ツールとしては非常に完成度の高いものになったけれど,それゆえにコアなゲーマーしか残らなかったということですね。
モリ氏:
そう。システム面で考えると,「BLAZBLUE」のハードルはまだ低いほうだと思います。でも本当に,“フォースロマンキャンセル”は格闘ゲーマーにとって,すごく面白いシステムなんですよ。実は僕も「BLAZBLUE」で入れるか入れないか,ずっと悩んでいたんです。入れれば確実に面白くなるのは分かっているんですが,間口が一気に狭くなってしまうので……コンセプトを考慮し,結局はなしにしました。
4Gamer:
やはり間口の広さを優先したかったと。ちなみに4ボタン仕様に関しても,間口の広さを意識したものなんでしょうか。
モリ氏:
そうですね。本当は,同時押し操作も極力少なくしたいんです。プレイヤーに要求する操作が多くなればなるほど,どんどんハードルは高くなっていくので。しかし「BLAZBLUE」の場合だと,今ある操作系が,必要最低限なのかなという気がします。
アークが2D格闘ゲームにこだわり続ける理由
「アークといえば2D格ゲー」というイメージは,多くのゲーマーが抱いていると思います。2D格ゲーの良さと3D格ゲーの良さというのは,差し合いゲーとコンボゲー,それぞれの良さにも関連していると思うのですが,そのあたりについては,どうお考えでしょうか。
モリ氏:
ものすごく端的に言うならば,2D格ゲーは作る側としても遊ぶ側としても“分かりやすい”ですね。逆に,3D格ゲーには奥行きの要素が入ってくるので,作るほうも遊ぶほうも,ちょっと考え方が変わってくる。
分かりやすく例えるならば,ファミコン版の「スーパーマリオブラザーズ」。基本的なゲーム性を維持したまま3D化したら,グラフィックスが2Dか3Dかくらいの差しかないし,3Dならではのゲームとして作り直したら,ゲーム性もデータ量も大きく変わってくる。
4Gamer:
なるほど,グラフィックスの作り方/見せ方が変われば,当然ゲーム性も変わってくると。アークが2Dにこだわるのは,やはり“分かりやすさ”の部分を重視しているからでしょうか。
モリ氏:
そこが大きいですね。あと,“手描き”の良さって当然あるじゃないですか。ゲームのグラフィックスに対しても,そういうものを求めている人は多いですし,大切にしたいと考えています。
4Gamer:
3Dグラフィックスのキャラクターが苦手な人は結構いますが,ドット絵は無理という人は,あまり見かけないですもんね。
モリ氏:
ええ。そんなわけで,今のところは2Dにこだわり続けていますが,3Dで手描きの味が出せるんだったら,僕は3Dでも構わないと思っています。
4Gamer:
3D格闘ゲームジャンルで手描きの味を出すのは難しいんですか。
モリ氏:
はい。だから今はまだ,無理に3D対戦格闘を手がける理由がないかなと思っています。3Dのキャラクターを2Dっぽく見せる,アニメ的なことはできるんですけどね……それでも,手描きの味は大切だと思います。今なら「トトリのアトリエ」とかね(笑)。
4Gamer:
なるほど,3Dグラフィックスも見事ですけど,イベントになると2Dイラストが(笑)。
モリ氏:
あれが3Dグラフィックスだったら,萎えるという人もいると思うんですよ。少なくとも僕はそうです。
4Gamer:
格闘ゲームに限った話ではなく,アドベンチャーやRPGなどでも,3Dと2Dでやはり間口の広さが違いますよね。
モリ氏:
全然違いますね。僕が2Dにこだわる理由は,突き詰めていくと結局そこなんです。自分自身がアニメ大好き。2D大好きだから。変な話,もしも宮崎駿さんのアニメが3Dで描かれていたら,たぶん嫌がられると思うんですよ。
4Gamer:
ああ〜。確かにそれは分かります。
モリ氏:
そんな感じです。僕自身が絵描きなので,やっぱり絵を表現したいんじゃないですかね,どうしても。そうなると自ずと2Dに向かっちゃいますよね。
4Gamer:
では,もしも機会があって,3D格ゲーを作ることになったら,どうします?
モリ氏:
どうでしょうね……技術的,表現的に自分で納得のいくものが作れるなら,考えてもいいですけど,それでもたぶん,イベントシーンなどには2Dイラストを使う(笑)。
4Gamer:
やはりそこは譲れない感じですか。
モリ氏:
譲れませんね。でも,3Dのほうが演出的な幅は広がるんですよ。さっきも話したように,「トトリ」などはすごくいい感じのものを出してきてるじゃないですか。それに「ラブプラス」も上手いですよね。
4Gamer:
2Dと3Dのバランスが。
モリ氏:
キャラクターは3Dですけど,イベントは2D。ああいう感じだったら,やってもいいなって気はします。一度くらいは挑戦しておかないと,僕もクリエイターとして勝手が分からなくなっちゃうんで。
4Gamer:
じゃあ,挑戦する気持ちはあるんですね。
そりゃもちろん。やれるんだったら何でもやりますよ。3Dでいうと,iPhoneアプリの「ラブプラスi」も,すごく出来がいいですね。
4Gamer:
いやぁ,これは本当にもう,2D的な可愛さを3Dで表現したという感じですもんね。
モリ氏:
まったく。僕もこれが作れるんだったらやります。完全に超海外好みの,アゴが割れているマッチョのような3Dにしろって言われたら,「嫌だ!」って言いますけど(笑)。
リアルな表現は,ぶっちゃけ海外に任せておけばいいと思うんですよね。僕はやっぱり日本のアニメ世代だし,ずっとアニメを見て育ってきたので。それを発展させる形で体現できるんだったら喜んでやります。
4Gamer:
良くも悪くも言われますが,アニメ的な表現は日本ならではですからね。
モリ氏:
今,みんな「海外,海外」と言っていますけど,僕からしてみれば,なんでみんなそんなに海外のゲームを真似しようとするのか疑問です。任天堂さんぐらいじゃないですかね? 独自路線でやって結果を出しているのって。
4Gamer:
じゃあ海外で「BLAZBLUE」や「ラブプラス」が作れるのかっていったら,おそらく作れないですもんね。
モリ氏:
はい。海外の優れたクリエイター達が作らないもの,作れないものを制作しているんですよ。海外では当たり前のものを作っても,中途半端なクオリティでは海外で埋もれるだけ。
4Gamer:
海外を意識するのではなくて,独自の作品で認めさせてしまえばいいということですかね?
モリ氏:
はい。僕はそっちの考え方です。
4Gamer:
「BLAZBLUE」は海外でもすごく評価が高いと聞きます。
モリ氏:
ありがたいことです。しかし僕は,別に日本や海外に向けてゲームを作っているわけじゃないんですよ。2D,アニメ好きのみなさんに向けて作っているんです。日本人だろうがアメリカ人だろうが韓国人だろうが関係ないんですよ。なんで,そこでいちいち仕切るかなと。
4Gamer:
実に気持ちのいい発言ですね。
モリ氏:
それが僕の目指してるところなので。そういう人達の期待を裏切らないものを作り続けたいなと思っています。
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