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[COMPUTEX]MSIの「背負えるPC」は意外なほど完成度が高かった。視線追跡デバイスによるゲームも体験できたMSIブースレポート
そんな激戦区に出展するMSIブースの展示から,発表直後から話題を呼んだあの「背負えるPC」や,ゲームに関わるデバイス関連の展示をレポートしたい。
MSI版「背負えラブルコンピュータ」の技術的な側面を聞いてきた
仮想現実(以下,VR)システム向けのコンピュータとして,注目を集めているのが,背負って使えるバックパック型PCだ。筆者は「ウェアラブル」をもじって,「背負えラブルコンピュータ」と呼んでいる。
接続をワイヤレスにできれば解決しそうだが,VR HMDのディスプレイ解像度やフレームレート――Oculus VRの「Rift」の場合,両眼で解像度2160×1200ドットの90fps――を無線で遅延なく伝送するのは難しい。そこで考え出されたのが,無線化が難しいのなら,有線接続のままホストPCをユーザーに近づけてしまえ,というアイデアだ。
PC用VR HMDであるRiftやViveで,本格的なVRゲームを楽しむためには,薄型ノートPCで使われるようなGPU統合型のCPUではまったく力不足であり,少なくともミドルハイクラスの高性能GPUが必要になる。必然的に,高性能な単体GPUを搭載するホストPCはそこそこ大きなものになるので,これを身につけるとなると,ランドセルサイズのPCにならざるをえないというわけだ。
それに対して,MSIブースで体験したものは,実験室レベルを超えて製品化に踏み出したという,「完成度の高さ」が感じられるものだった。
[COMPUTEX]背負えるVR向けPC「Backpack PC」の実機がついに公開。MSI本社メディアツアーレポート
「Backpack PC」という見たままの名称を持つMSIのバックパック型PCは,
ランドセルチックな筐体は,ハードなプラスチック製で,布製だったZOTAC版と比べると堅牢性は高い。
USBやHDMIといったインタフェース類は,ランドセルの上面に整然とレイアウトされており,ケーブルの着脱もしやすい。ZOTAC版は,PCコアそのものがリュックの中に詰め込まれていたため,ケーブルの着脱はリュックを開けないとできなかったのだから大違いである。
ランドセル内にはバッテリーも内蔵しており,Shih氏によれば,VRコンテンツにもよるが,バッテリー駆動時間は約60〜90分だとのこと。「VRコンテンツは,そもそも長時間楽しむことは難しいのでこれで十分だ」との考えだそうだ。
試作機の重量は約4.9kg。内部構造や筐体の素材見直しなどにより,現状から1.5kg程度は軽量化したいと,Shih氏は述べていた。
実際に,筆者も担いでみたのだが,ソリッドなボディのランドセル部にPCを収納しているおかげで,その場でぐるりと回転するような運きをしても,体の動きが安定していることが実感できた。
さて,気になるのは「これを本当に売るのか」だ。するとShih氏は,「YES,売るつもりだ」と自信たっぷりに答えてくれた。発売時期は2016年内を予定しているという。
だがShih氏は,「ただし……」と付け加える。このBackpack PC,当面の間は一般消費者向けではなく,業務用途に向けて提供していくというのだ。これは,Backpack PCの市場が,大量生産によるコスト削減効果が見込めるほどには大きくないと考えているためだという。そうなるとBackpack PCは,同スペックのノートPCなどよりも相当に高価な製品となるのは間違いあるまい。
業務用向けとは,具体的にどんな分野を想定しているのか。Shih氏は,これについても明瞭に教えてくれた。
1つはアミューズメント施設。VR HMDを使うアミューズメント施設は,世界各地で増えつつあるが,接続ケーブルの問題があるため,体験者1人につきケーブルを取り回すスタッフが1人は付かなければならない。Backpack PCなら,それを最低限にできるというわけだ。
3つめは,遠隔地にいるスタッフが,それぞれの場所から同一の仮想空間に参加するカンファレンスやレビュー。たとえば,製品のCGモデルを前にしたデザインのミーティングをVR空間上で行えれば,同じ場所に集まらなくても済むわけだ。
Shih氏は,「業務用途で成功を収めれば,量産効果も上がるだろうから,いずれ一般消費者向けに提供できるものにもなるかもしれない」と述べていた。
これは筆者の勝手な予測だが,製造プロセスがさらに微細化してプロセッサやメモリの消費電力がさらに小さくなり,バッテリー部分も小型化できれば,ランドセルサイズではなく,いずれはポシェットサイズくらいにはなるのではないかと思っている。そうなれば,「背負えラブル」ではなく,腰回りのベルトにウェアラブル機器として,ホストPCを身に付けられるようになるのではないだろうか。
Tobiiの視線追跡デバイス「EyeX」の単体売りを準備中
Tobiiはスウェーデンの企業で,けっして大きな企業ではないが,視線追跡技術を使った医療機器のシェアでは,世界1位を誇るという。
MSIは,このEyeXを既存のPCでも利用できるようにと,USB接続のPC周辺機器として,単体売りする計画を進めているそうだ。発売開始は2016年9月ごろを目指しており,価格は120〜150ドル程度を想定しているとのこと。
このTobiiの視線追跡技術には,Ubisoft Entertainmentが積極的に対応している。「Assasin's Creed Syndicate」や「Tom Clancy’s The Division」(以下,
MSIブースの担当者によれば,「(単体版の)発売に前後して,ゲームスタジオにSDKの提供を行う予定」だとのこと。既存のゲームをEyeXに対応させる仕組みは用意していないそうで※,基本的にはゲーム側が対応してくれないと使えないそうだ。この点でややハードルは高い。
※編注:Tobiiは,既存のゲームをEyeXで操作可能にするユーティリティやアドオンを提供している。ただし,視線の動きに任意のキーボードやマウスの操作を割り当てる仕組みなので,ゲーム側での標準対応に比べると,快適な操作は難しい。
視線によるエイムの操作は,かなり正確に行えた。注視した状態で「構え」アクションをすれば,一瞬でそこに狙いが定まる。一般的な操作では,「構えてから,ゲームパッドやマウスを操作して狙いを定める」のだが,EyeXによるプレイなら,「狙いを定めたところに構える」ことができるので,射撃アクションまでのタイムラグを劇的に短縮できるのだ。
また,画面外周を注視すると,ミッションを進めるためのヒントメッセージなどが表示されるギミックもあった。EyeX標準対応は伊達じゃない。
対戦型のFPSゲームにおいて,エイム操作の時間短縮は明確な利点となり得るので,EyeXによる操作に慣れれば,かなり優位に立てるだろう。
データになってマザーボード内を旅するVR体験をプレイしてきた
MSIブースでは,カナダと台湾に拠点を置く,VRコンテンツ専門の開発スタジオであるMetanautが開発したオリジナルのVRコンテンツが体験できるようになっていた。「MSI Electric City」というそのコンテンツは,巨大都市に見立てたゲーマー向けマザーボード「Z170A GAMING M9 ACK」のプロセッサや回路の中を,プレイヤーが電子になって飛び回るという,ジェットコースター型VRアトラクションだ。
このコンテンツ,グラフィックスの品質が非常に高く,ただのデモコンテンツという域を超えている。気になったのでちょっと調べて見たところ,Unreal Engine 4を使って作られたコンテンツなのだそうだ。一見の価値ありなので,もし機会が訪れたならこれは体験してみてほしいし,MSIも,ぜひ日本でこのコンテンツを体験できる機会を用意してほしいと思う。
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