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[GDC 2017]「仁王」は体験版でどう変わったのか。開発者が3度にわたる配信の効果を語る
仁王はなぜ体験版を3度もリリースしたのか?
「仁王」はもともと,2005年にコーエー(当時)のシブサワ・コウ氏から発表されたゲームだ。開発に11年以上もかかってしまったゲームとしても有名だが,安田氏はまずそんな仁王がリリースされるまでの紆余曲折を振り返っている。
安田氏によると,2005年に開発がスタートしたもののうまくいかず,いったんはプロジェクトが停止していたという。その後,コーエーとテクモが合併し,2010年に改めて旧テクモのTeam NINJAが仁王を引き継ぐことになったという。
だが,「いまのままではNINJA GAIDENのサムライ外伝のようで,工夫が足らない」ということでプロジェクトがいったん中断。そして「現在のチームで2014年に再始動し,2015年の東京ゲームショウで発表。今年の2月についに発売した」という。
安田氏はTeam NINJAとして2014年の再始動後からプロジェクトに参加していたそうだが,最初に行ったのはターゲットを明確にすることだったと語る。「幅広いゲーマーに受けるキャッチーなゲームをTeam Ninjaとして作る必要はない」と安田氏は当初から考えており,Team Ninja自身が作りたいと考えていた,コアゲーマー向けのタイトルにすると決めたそうだ。
というのも,安田氏自身「(以前に手掛けた)NINJA GAIDEN 3やYAIBA: NINJA GAIDEN Zが,ターゲットとして想定していたコアゲームのプレイヤーの期待に添えていなかった」という反省があり,仁王では「サムライが主人公だからこそのやりごたえ,手応え,歯ごたえがあるゲームを作りたいと考えていた」のだと語っている。
さて,そんな仁王だが,実は発売に至るまで3度も体験版の配信を行っている。安田氏が示したスライドの通り,2016年4月にα体験版,同年8月にβ体験版が,発売直前の2017年1月に最終の体験版が配信されているのだ。
通常,ゲームの体験版はゲーマーへのプロモーションのために配信されるものだが,仁王の体験版はそれと違う意図でリリースしたという。安田氏いわく「10年以上の歳月をかけて期待されているタイトルなので,ゲームの方向性とプレイヤーの期待がズレていないかを確認する意味があった」とのことだ。そしてもちろん,プレイヤーからのフィードバックを得てゲームを改善していくために配信したと語っている。
もっとも,この意図をもっていたのはα体験版とβ体験版で,最終体験版は「本当はやりたくなかったのだが,あまり予約がなかったのでやってくれと言われた(笑)」から出したものだそうだ。
プレイヤーの意見に流されすぎないことも大切
安田氏が示した下のスライドがα体験版に寄せられたプレイヤーの反応だ。アクション性やグラフィックス,キャラクターデザインやステージデザインといった各項目について,肯定的,否定的,どちらでもないといった評価をプレイヤーから返してしてもらい,集計したグラフとなっている。
安田氏によると,ゲーム性については欧米から非常にポジティブな反応が返ってきたのに対して,日本やアジアは反応が悪かったとのこと。安田氏はこれを,日本やアジアと欧米のゲームの難度や体験版に対する考え方の違いだろうと分析している。
一方,安田氏が興味深いと語っていたのは「操作性やチュートリアルが足らないといった点については(欧米と日本やアジアとで)同じだった」という点だ。操作性やチュートリアルに関しては,国ごとに捉え方に差がないというところだろうか。
もっとも,公式のアンケートに答えてくれるプレイヤーは意外に少なかったとのことで,安田氏らはTwitterを始めとするSNSでもα体験版の反応を収集したとのこと。「Twitterでは要望が具体的に書かれているので,非常に参考になった」と安田氏は振り返っている。
これらα体験版の反応を受けて安田氏らが取った対応が下のスライドだ。チュートリアルを追加したり,ゲームバランスを調節できるようにしたり,視点(カメラ)制御やユーザーインタフェースを改善したり,グラフィックスのパフォーマンスを改善したりと行った項目が並んでいる。
その結果,続くβ体験版では下のスライドのように肯定的評価が増加している。
この結果だけを見ると,体験版を受けた改善は効果があるということになってしまうが,安田氏は問題点も多いと語る。まず氏が指摘したのが「開発チームが意見を受け入れすぎてしまう」という点だ。例えば「このボス(を倒すの)が難しいと言っているから簡単にしようと言い出すメンバーまでいた」というほどである。
だが,安田氏は「プレイヤーの意見は答えではなく問題であって,(その問題を)考えて答えを出すのは開発者だということを忘れないようにした」と語っている。プレイヤーの意見に流され過ぎてしまうのは良くないということだ。
具体的にどういうことなのかを示したのが下のスライドである。まず,冒頭に挙がっているのはα体験版にあった耐久度のパラメータについてだが,これが非常に評判が悪かったそうだ。だが,「ただ(パラメータを)なくしてしまうのは仕事をしていないのと同じ」と判断して,別のパラメータに置き換えて対応したという。
また,オープンワールドにしてほしいという要望も多かったが,安田氏はオープンワールド化はロード時間が長くなってしまうという問題点を指摘。「このゲームはプレイヤーが何度もゲームオーバーになって再びプレイし直すゲームなので,ロード時間はできるだけ短くしたかった」と話していた。
それ以外にも,バトルの難度や頻度,密度が高いゲームにしたいと考えていたため,オープンワールドの案は却下したそうだ。
そして最も判断が難しかったのが,難度の設定だったという。判断に迷うたびに本作の設定やコンセプトに立ち返り,本作のターゲットを考えて設定を行ったそうで,譲れない部分は譲らないことも大事というところだろうか。
ちなみに,仁王α体験版のフィードバックは公開されている(関連記事)。この公開には,「意見を出していただいた方とコミュニケーションを取る」ということ,そして「(プレイヤーに対して)改善していくという約束」の意味があったと安田氏は語っている。
体験版の功罪とは?
最後に安田氏は,体験版のメリットとデメリットをまとめた。
まず,安田氏が最初に挙げていた“ゲームの方向性とプレイヤーの期待がズレていないかを確認する”という点だが,これは体験版に対するプレイヤーの反応を見て判断することができ,非常に良かったと評価する。
また,体験版をリリースしてプレイヤーの声を受け取り,改善していったという経験は,開発チームにも非常に良い影響を与え,「この経験はDLCにも活かせるのではないか」とのことだ。
さらに,仁王は新規タイトルではあったが,体験版で発売前からファンがついたこともプラスに働いたという。とくに欧米では,好評を受けてSony Interactive Entertainmentがパブリッシャになったことも,思いがけない効果だったと振り返っていた。
デメリットとして挙げられたのは,まず,体験版によって「初めてプレイするという体験を奪ってしまう」ということ。加えて「開発チームの負担が非常に大きい」というのも問題点だという。体験版とはいえ,プレイしてもらう以上は一定のクオリティを実現する必要があるからだ。
最後に挙げられのは,体験版リリース中に開発チームが仕事をしなくなってしまうという点だ。反応が気になってTwitterを検索したり,Twitchでプレイ動画を見たりするために,開発が手につかなくなってしまうのだという。「中には素晴らしいプレイをする人もいて非常に楽しかった」と安田氏は振り返るが,仕事の効率は落ちるというわけだ。
このように良い点と悪い点があるため,「体験版を実施することが果たして正しいのか間違っているのか,まだ分かっていない。ただし,仁王に関しては成功だった」と安田氏は述べる。とくに,体験版を通じてプレイヤーを詳しく知ることができたこと,そして新規タイトルの仁王を体験版で広めることができたため,セールスの面でも結果が出たことが成功とする理由のようだ。
安田氏は最後に,体験版の配布によって「自信とモチベーションを持てたことが,大きな収穫。プレイヤーとコミュニケーションを取ることでTeam NINJAの強みに気付かされた。この貴重な経験を今後のゲーム制作に活かしていきたい」と語り,講演を締めくくった。
「仁王」公式サイト
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