レビュー
オリジナル基板&クーラーを採用したGTX 680カードはどこまで“伸びる”か
Palit NE5X680H1042-1040J
あのときは入手して即座に,当初の予定になかった3-way SLI検証で用いたため,クロックはリファレンスカードに揃っていたが,3連ファンが目を引くGPUクーラーを搭載したクロックアップモデルにして,PCI Express補助電源コネクタが6ピン+8ピン仕様という,これから各社から登場するだろうクロックアップモデルを先取りしたような仕様が気になっていた人も多いのではないだろうか。
なお,今回入手したのは発売前サンプルだが,貸し出してくれたPalitいわく「レビュー用に『とくによく回る』選別品を用意したりはしていない。GPUのオーバークロック耐性は量産品と同じ水準だ」とのこと。また,カードを入手したことを伝えたうえで,Palit製品を扱っているドスパラ(サードウェーブ)へ確認したところ,「最短では4月20日前後,遅くとも4月中には,リファレンスデザインを採用した製品とそれほど変わらない価格で投入予定」との回答が得られている。
3連ファン+4本のヒートパイプで冷却性能を向上
基板はリファレンスベースながら電源部を強化
そんなGTX 680 JetstreamのスペックをGTX 680のリファレンスと比較したものが(表1)だ。薄い赤の背景色を引いた部分が相違点。PCI Express補助電源コネクタが8ピン+6ピン仕様になっている関係で,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)がリファレンスの195Wから215Wまで上がっている点には注目しておきたい。
ただ,カードの背面を見るだけでも,PWMコントローラの配置場所とコントローラのメーカーがリファレンスカードとは異なっており,GTX 680 JetstreamがPalit独自デザインの基板を採用したものであることは見て取れる。
そのGPUクーラーは,中央が90mm角相当,残る2基が80mm角相当という3連ファンを搭載しており,中央に大きいファンを搭載するためか,中央部が基板に対して垂直方向へ膨らみ,結果,3スロット仕様となっている。
GPUクーラーのカバーを取り外したところ |
GTX 680 GPU |
そんなGPUクーラーを完全に取り外したうえで確認してみると,リファレンスカードのデザインを踏襲しつつも,やはり電源周りには手が入っていた。フェーズ数が,リファレンスカードだと4+2だったのが,GTX 680 Jetstreamでは6+2になっているのも目を引くところだ。
Power Targetは+150%まで設定可能
最終的にはGPU Boostで最大1215MHzに到達
今回のテスト環境は表2のとおりで,比較対象には,先ほどから何度となく話が出ているGTX 680リファレンスカードを用意した。
用いたドライバは,GTX 680のレビュー記事のときと同じく,レビュワー向けの「GeForce 300.99 Driver Beta」。これはテストスケジュールがタイトで,GTX 680リファレンスカードのスコアをGPUのレビュー記事から流用するためだ。NVIDIAからはGTX 680専用の「GeForce 301.10 Driver」がリリース済みであるほか,テスト開始後の日本時間4月10日にはGeForce 500シリーズ以前も広くサポートした「GeForce 301.24 Driver Beta」も登場しているが,GTX 680関連のアップデートはとくにアナウンスされていないため,スコア上の違いは大きくないと考えている。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1準拠。ベンチマークレギュレーション12.1では「Battlefield 3」(以下,BF3)のアップデートに対応しているが,レギュレーションでも言及されているとおり,アップデートによるスコアの違いは生じていないため,レギュレーション12.0ベースで取得したGTX 680のスコアとは比較が可能だと考えている。
なお,テスト解像度が1920×1080&2560×1600ドットを選択しているなどの点や,また,「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果がテスト状況によって変わってくる可能性を考慮し,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している点もGTX 680のレビュー記事から変わっていない。
……と,ここで,テストに先立ち,GTX 680 Jetstreamのオーバークロック設定を試してみることにしよう。
※Precision XをはじめとするGPUカスタマイズツールを用いたオーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,グラフィックスカードをはじめとする構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
オーバークロック設定を行うにあたって注意が必要なのは,GTX 680では,自動オーバークロック機能「GPU Boost」が常時有効であり,従来型の「コアクロックを少しずつ引き上げ,限界が来たらコア電圧の引き上げも試す」タイプのオーバークロック設定を行えなくなっているということだ。
GPU Boostの仕組みや,GPU Boostで引き上げるクロックを規定する要素「Power Target」など,詳細はGTX 680のレビュー後編をチェックしてほしい。再度説明していると記事が長くなってしまうので,本稿では思い切って省略するが,
- GPU Boostでは基本的に,Power Targetの値を引き上げると,自動クロックアップのクロック向上率が上がる
- 手っ取り早くベンチマークスコアを引き上げたい場合は,電圧の引き上げを伴わずにクロックだけ引き上げる「クロックオフセット」のほうが効果的な場合がある
- GTX 680レビュー後編で指摘したように,リファレンスクーラーを搭載していると,Power Targetの値を引き上げても,先にGPUの発熱が問題となってクロックは上がらなくなる
ので,とくに1.と3.では,TDPが高く,大型クーラーを搭載したGTX 680 Jetstreamに期待が持てる,というわけである。
- Power Target:150%
- GPUクロックオフセット:+40MHz
- メモリクロックオフセット:+250MHz(+500MHz相当)
で安定動作した。このときのGPU Boost最大値をログから確認したところ1215MHzだったので,リファレンスカードの1110MHzと比べると105MHz伸びた計算だ。
もう1つ,安定動作したときのGPUファン回転率は「AUTO」設定だが,ここを手動設定にしてファン回転数を上げて(GPU温度を下げて)も状況に変化はなかったので,GPUコアのクロック限界が1200MHz強あたりにあるかもしれないということは指摘しておきたいと思う。
ただし,GPU Boostで変更できないコア電圧の設定項目が用意されていて,設定値を変更しても案の定効果がなかったり,今回のテスト環境ではPower Targetなどを変更してもクロックの引き上げ率に変化がなかったりしたので,現時点では使えないという判断を下した次第だ。このあたりは製品が店頭へ並ぶまでの間に“なんとかなる”ことを期待したい。
細かな設定を行える「OverClocker」ウインドウ。Power Targetの上限はやはり150%だった。「Core Voltage」機能は当たり前ながらGTX 680 Jetstreamだと利用できない |
こちらはクロックや温度,ファン回転数,動作電圧などのログ。Precision Xで用意されるログ機能のようなカスタマイズ性はなく,使い勝手は一段落ちる印象だ |
いずれにせよ今回は,GTX 680 Jetstreamのオーバークロック設定時と定格動作時とを,GTX 680のリファレンスカードと比較していきたいと思う。以下,本文,グラフ中とも,安定動作したオーバークロック設定時を「GTX 680 Jetstream OC」表記して区別することになる。
定格動作でリファレンス比+7〜8%高いスコア
OCで最大16%高いスコアを示す場面も
というわけでグラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)から「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアをまとめたもの。GTX 680 JetstreamはGTX 680リファレンス比で7〜8%程度,GTX 680 Jetstream OCでは同9〜12%程度のスコア向上が見られる。コアクロックとメモリクロックの違いを加味すると,順当な結果が出ているといえそうだ。
続いてグラフ2〜5は,DirectX 11世代のFPS「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)公式ベンチマークソフトから,「Day」と「SunShafts」の2シークエンスにおけるスコアである。
まず,用意されるテストシークエンス中で最も描画負荷の低いDayだが,こちらでは「標準設定」の1920×1080ドットではCPUボトルネックが生じ,スコアが揃ってしまった(グラフ2,3)。
そこでそれ以外を見ていくと,GTX 680 JetstreamとGTX 680リファレンスカードのスコア差が4〜5%程度と小さめの一方で,GTX 680 Jetstream OCとGTX 680リファレンスカードのスコア差は11〜12%と,3DMark 11のスコアをほぼ踏襲したものとなっている。
描画負荷の最も高いSunShaftsでも,全体的な傾向は変わっていない印象だ。グラフ4,5で,標準設定の1920×1080ドットだとスコアは揃い気味で,「高負荷設定」になるとGTX 680 Jetstream OCはGTX 680リファレンスカードに対して最大約11%のスコア差をつけるといった具合である。
グラフ6,7にまとめたBF3でも全体的な傾向はやはり同じだ。GTX 680 Jetstream OCは6〜13%,GTX 680 Jetstreamは4〜8%,それぞれGTX 680リファレンスカードよりも高いスコアを示した。どちらも高負荷設定時にスコア差を広げているので,メモリクロックの引き上げが功を奏していると述べてよさそうだ。
リファレンスカードとのスコア差が縮まったのが,グラフ8,9に結果を示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。
GTX 680リファレンスカードとのスコア差は,GTX 680 Jetstream OCで4〜8%程度,GTX 680 Jetstreamで4〜5%程度。もともとメモリ周りの負荷はそれほど高くないタイトルだけに,メモリクロックオフセットの効果があまり出ていない,ということかもしれない。
「Call of Duty 4でスコアが伸びない理由」の考察を裏付けるのが,グラフ10,11にスコアをまとめた「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のテスト結果である。
レギュレーション12世代のSkyrimテストは,高解像度テクスチャパッチが導入され,しかも「Ultra設定」ではMSAA(Multi-Sampled Anti-Aliasing)のサンプル設定が8xと,極めてメモリ負荷が高くなっている。そのため,GTX 680のリファレンスカードにはかなり不利なのだが,これは逆にいえば,メモリクロックの引き上げによってスコアの改善は図れるということだ。
果たしてGTX 680 Jetstreamは,GTX 680リファレンスカード比で最大約13%,GTX 680 Jetstream OCは最大約16%と,かなり大きなスコア向上率を示した。
グラフ12,13は,「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)の結果だ。リファレンスカードとのスコア差は,GTX 680 Jetstream OCでは4〜13%程度,GTX 680 Jetstreamで4〜6%程度と,概ねBF3と似た傾向になっている。
性能検証の最後はグラフ14,15の「DiRT 3」だ。
DiRT 3のスコアは得てしてCiv 5と似たような結果を示しがちなところ,GTX 680リファレンスカードだとBF3と似たような傾向に落ち着いていたのだが,ここでの結果はまた違ったものになっている。とくにGTX 680 Jetstream OCのスコアがあまり伸びていないので,メモリ負荷が低く,メモリオフセットの効果がスコアに表れていないかもしれない。
リファレンスカードから消費電力は最大15W増加
「GPU Boost効果」でGPUコア温度はあまり下がらず
TDPが195Wから215Wに上昇したGTX 680 Jetstreamだが,消費電力はどの程度増えているのか。また,Power Targetを150%に引き上げたGTX 680 Jetstream OCではどうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用し,システム全体の消費電力を測定してみることにした。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時としている。
結果はグラフ16に示すとおり。あまりベンチマークスコアの差が開かなかったCall of Duty 4とDiRT 3で「変わらず」という結果になった一方,明確な違いがあった3DMark 11でもほとんど変わらない消費電力で落ち着いたりと,ややスコアはブレ気味だが,GTX 680 Jetstreamの消費電力はGTX 680比で最大15W高く,TDPの違いを考えると妥当な結果になっていると述べていいだろう。
GTX 680 Jetstream OCは,Power Targetを150%まで引き上げているため,GPU Boostにより動作クロックが上がるときにはGPUコア電圧も引き上げられることもあって,対リファレンスカードではアプリケーション実行時に11〜29W高い消費電力値を示した。
3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもGPU温度の比較を行った結果がグラフ17だ。
温度測定に用いたのは,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.5.9)。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態でテストを行ったときの結果となる。
テスト時の室温は24℃だが,注目したいのは,アイドル時,高負荷時とも,リファレンスカードと比べて劇的に温度が低くなったりはしていないこと。要するに,3連ファン&3スロット仕様の大型クーラーは,GPU Boostの“効き”をよくするための余裕を確保し,その分GPUのコアクロックを引き上げるために用いられているというわけだ。
GTX 680の場合,「Frame Rate Target」を使ったりしない限り,冷却能力の高いGPUクーラーには,GPUの温度低下ではなく,性能向上を期待することになるのである。
ちなみにPalitはGTX 680 Jetstreamで――「何に対してか」は明らかにしていないが,おそらくGTX 680リファレンスカード――と比べて温度は8℃低くなり,動作音は9dB下がると述べているが,以上の結果から,8℃低くなるのは,おそらくGTX 680 Jetstreamをリファレンスクロックで動作させたときではないだろうか。
また,今回のテストだとファン回転数は870〜1260rpmの間で変化していたが,筆者の主観で語らせてもらうなら,ファンの動作音はリファレンスカードと同程度という印象を受けた。
遊べるカードに仕上がったGTX 680 Jetstream
魅力的な価格での登場に期待
3スロット仕様となっているクーラーは人を選びそうで,またGTX 680というGPUの仕様もあって,必ずしもリファレンスカードより静かというわけではない。しかし,余裕のある電源仕様と大型クーラーが持つ冷却能力を活かしてPower Target&クロックオフセット設定を詰めていける,“遊べる”カードとして,オーバークロック動作を自己責任で試してみたい人のニーズには応えてくれそうだ。
冒頭でも紹介したとおり,ドスパラは,GTX 680 Jetstreamを,リファレンスデザイン採用モデルとそう大きくは変わらない価格で市場投入する予定であることを示唆している。近々GTX 680カードの購入を考えているなら,GTX 680 Jetstream(NE5X680H1042-1040J)の名を憶えておいて損はしないだろう。
Palit公式Webサイト
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