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[SIGGRAPH]「Quadro」の外付けグラフィックスボックス対応やグラフィックス用途におけるAI活用など,NVIDIAの新しい取り組みが明らかに
SIGGRAPH自体がグラフィックス中心の学会ということもあり,ゲームに直接関わる話題はないのだが,AIやプロフェッショナル向けグラフィックスにおけるNVIDIAの新しい取り組みが見えてくるので,事前に公表された情報を簡単にまとめてみたい。
ワークステーション向けGPU「Quadro」が外付けグラフィックスボックスに対応
ハードウェアに関する発表で注目すべきものは,「NVIDIA TITAN Xp」(以下,
既存のQuadroシリーズといえば,ワークステーションやデスクトップPC向けの単体グラフィックスカードがメイン。ノートPC内蔵用の製品もあったものの,採用事例が多いとは言い難い状況だ。しかし現実問題として,クリエイティブな用途でノートPCを使用するユーザーの数は増えている。そこで,外付けグラフィックスボックスによるQuadroのサポートを追加することにしたのだという。
Quadro搭載グラフィックスカードに対応するThunderbolt 3接続の外付けグラフィックスボックスは,2017年9月にパートナー企業から世界市場へ向けて発売になるとのことだ。
対応するQuadroは「Quadro GP100」「Quadro P6000」「Quadro P5000」「Quadro P4000」の4製品。前述のとおり,TITAN Xpも利用できる。対応する外付けグラフィックスボックスをリリースするパートナー企業としては,「Magma」ブランドを展開するOne Stop Systems,Sonnet Technologies,「BIZON」ブランドを展開するTechnoStore LLCの名前が挙がっている。
外付けグラフィックスボックスの価格は350ドルから500ドル程度になるとのこと。Quadro製品を取り扱う代理店経由での販売となり,グラフィックスカードとのセットか,グラフィックスカード単体で購入する形になるという。
NVIDIAによると,「Xeon E3-1505M v6」を搭載するHP製のノートPC「HP Zbook 15」で検証したところ,Xeon E3-1505M v6が統合するグラフィックス機能「Intel HD Graphics P630」に対して,外付けグラフィックスボックス接続のQuadro P6000は,ベンチマークテストで7〜13倍高いスコアを叩き出すとのことだ。
ドライバソフトウェアは8月末から9月初頭に提供を開始すると,NVIDIAは予告している。なお当面の間,Quadro+外付けグラフィックスボックスのサポート対象はPCのみで,Macには対応しないとのことだった。
ところで,Quadro搭載グラフィックスカードは,ソフトウェアの動作を保証するISV認証を受けていることがゲーマー向けグラフィックスカードとの大きな違いであり,プロ向けたる所以(ゆえん)でもあるわけだが,その点は心配なさそうだ。NVIDIAは,Quadroとの動作確認が取れている外付けグラフィックスボックスを組み合わせた構成でもQuadroのISV認証は有効との見解を示していた。
ハードウェア関連ではもう1つ,ワークステーション「DGX Station」のデモをSIGGRAPH 2017で披露することも明らかになっている。
DGX Stationは,2017年5月10日に行われた「GPU Technology Conference 2017」(以下,GTC 2017)で発表された製品で(関連記事),VoltaベースのGPU「Tesla V100」を4基搭載し,科学技術計算やAI技術分野向けという位置づけになっている小型スーパーコンピュータである。GTC 2017時点では,2017年第3四半期の発売予定で,価格は14万9000ドル(税別,約1650万円 ※2017年8月1日現在)となっていた。
グラフィックス分野でAIを活用する技術も発表に
SIGGRAPH 2017でNVIDIAは,グラフィックス分野にAI技術を活用した事例の発表やデモを披露する予定だという。具体的には,AI技術を使ったフェイシャルアニメーション生成やアンチエイリアシング処理,3Dグラフィックスのノイズ除去,そしてレイトレーシングにおけるLight Transportが今回のテーマになるようだ。
実際のデモに先立ってNVIDIAは,4テーマのうち,フェイシャルアニメーション生成と3Dグラフィックスのノイズ除去について,ごく簡単に説明した。
それによると,AIベースのフェイシャルアニメーション生成では,「人がしゃべった音声」から顔の動きを作り出すという。口の動きだけでなく,頬や目,目の周囲にある筋肉の動きといったものまで作り出せるそうで,さらに多言語対応――言語の違いに応じて,口の動きを変化させることと思われる――も行えるそうだ。
この技術を使うことで,ゲームや映画におけるCGアニメーション製作の効率は大きく向上すると,NVIDIAは説明していた。実際にデモ動画や技術解説が公開されているので,興味がある人は参照してほしい。
一方の,AI技術を使ったノイズ除去は,レイトレーシングの描画効率を上げるためのものだ。レイトレーシングでは,光源から放たれた光の軌跡を計算してグラフィックスを作成する。リアルな画像が得られる半面,1枚の画像を作成するのに大量の計算が必要になるため時間がかかるのが難点だ。
そこで,描画途上中の,ノイズの多いグラフィックスと,描画完了後のグラフィックスをAIに学習させることで,「描画途上のグラフィックスから完成したグラフィックスを推測」できるようにする。これにより,レイトレーシング処理全体の所要時間を短縮しようというわけである。
NVIDIAでは,SIGGRAPH 2017に合わせて,CUDAベースのレイトレーシングエンジン「OptiX 5」に,この機能を組み込むとのこと。レイトレーシングアプリケーションからOptiX 5を呼び出せば,AIを活用できるようになるそうだ。
最後の話題は,VRに関するものだ。
GTC 2017においてNVIDIAは,多人数同時参加型のVRコラボレーションシステム「Project Holodeck」(以下,Holodeck)や,仮想空間でトレーニングを行うロボットAI学習シミュレーター「Isaac」を発表した。
SIGGRAPH 2017では,この2つを組みわせて,Holodeckを使って仮想空間でインタラクティブにIsaacの学習を行うデモを披露するという。
余談だが,Autodeskにプログラマとして在籍した経験を持つ数学者にして作家のRudy Rucker(ルーディ・ラッカー)氏は,1990年代に「The Hacker and the Ants」(邦題:ハッカーと蟻)というSFを発表している。その作中,仮想空間でロボットに学習をさせるという様子が描写されていたことを思い出した。筆者がハッカーと蟻を読んだのは20年も前の話だが,20年後の現在,小説で語られた未来の技術が,ほぼそのまま現実になっている様子を見ると,いろいろ感慨深いものがある。
これらの技術やデモについては,4GamerのSIGGRAPH 2017レポート記事やNVIDAの公式blogで取り上げられると思うので,興味がある読者は期待してほしい。
NVIDIAのSIGGRAPH 2017関連ページ(英語)
SIGGRAPH 2017 公式Webサイト
4GamerのSIGGRAPH 2017レポート記事
- 関連タイトル:
NVIDIA RTX,Quadro,Tesla
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