インタビュー
夢を拡張する物語「ROBOTICS;NOTES」が目指したもの――5pb.志倉千代丸氏が語る,コンテンツとビジネスの理想の関係
悪の組織に挑むヒーロー達
個別のキャラクターについてもうかがわせてください。まず先ほども話にでた腐女子キャラのフラウですが……かなり尖ったキャラクターですよね。発売後のプレイヤーからの評判はいかがでしょうか。
志倉氏:
人気投票をやったわけじゃないので,それこそネットでの反響を拾った程度ですけど,皆さんかなり好意的に見てくださってるみたいで。とくにフラウと昴は人気が高いみたいですね。
4Gamer:
フラウは「STEINS;GATE」でいうところの,ダル的なポジションですよね。ネットスラングも使いまくりで,個人的にすごくツボにハマったキャラクターです。
志倉氏:
フラウは元々想定していたキャラに,シナリオの林 直孝さんが想像を絶するイタさを付け加えてくれたので,人気が出るのも納得ですよ。名塚佳織さんの演技も素晴らしくて。「デュフフ」って台詞をどうするのかと思ってたんだけど,あがってきたらすごく「デュフフ」感溢れるボイスになっていて,嬉しかったですね(笑)。
4Gamer:
いや,あの設定なのに可愛く見えるのが不思議でした。ニコニコ動画なんかとは相性が良さそうで,アニメ版が楽しみです(笑)。
志倉氏:
あそこまでイタい娘って,リアルにはなかなかいないですよね。でも彼女に影響されて「デュフフ」と言いだす女子が出てくるかもしれない。むしろそこに期待してます(笑)。
4Gamer:
フラウは2019年の世界の中で,現代のネットスラングを使っているわけですよね。実際に2019年になった時,あらためて本作をプレイしてみたら,面白いかもしれません。
志倉氏:
だからこそ,フラウの言葉はロボ部のメンバーにすら理解してもらえないんですけど。作中にも2010年のネットスラングだって注釈が入っているので,2019年の読者にも,きっと楽しんでもらえるはずですよ。
4Gamer:
では昴についてはいかがでしょう。フラウと人気を二分しているというお話ですが,やっぱり女性人気ですか?
志倉氏:
昴には,女性にウケる萌え要素が詰まってますからね。
4Gamer:
行動がツンデレだとか,動揺すると台詞を噛んでしまうドジっ子感とか。
志倉氏:
そう。でも男性にも普通に人気があるみたいです。主人公の海翔がムカつんで,相対的にイイ奴に見えちゃうんじゃないかと思いますけど(笑)。昴は有能さと可愛さをちゃんと兼ね備えた男性をイメージしていたので,そこもうまくハマったんだと思います。
4Gamer:
海翔はもちろんですが,「ROBOTICS;NOTES」ではキャラクター達が何かしらの形で成長するじゃないですか。淳和だったら,過去の事件からのロボットへのトラウマを乗り越えていきますし,フラウや昴についても,それぞれ解決すべき問題を抱えていますよね。
志倉氏:
淳和はかわいそうな子ですよね。立ち直ったと思ったら,今度は自分のせいで他人にケガを……。
4Gamer:
あれはプレイしていて,「あちゃー」と声に出してしまったシーンです。それでもラストの重要な局面で戻ってきてくれて,本当に良かった。「ROBOTICS;NOTES」には,一人一人が問題を抱えつつも,「みんなで一つのことを成し遂げる」という目標がありますよね。オカリンだけが孤独な闘いに身を投じていった「STEINS;GATE」とは違い,それが救いになっている。……もっとも,最初は皆別々の方向を向いてますけど。
志倉氏:
そうですね。「STEINS;GATE」はオカリンが孤独な戦いを続ける話だったので,だからこそ「ROBOTICS;NOTES」では群像としての青春を描きたかった。ただオカリンの場合は,ディスプレイの前には,彼と同じ記憶を持ったプレイヤーが存在しているわけで,逆にそこで共感が生まれたら面白いと考えていたんですが。
4Gamer:
よく分かるお話です。
志倉氏:
あと今回は,スペシャリストとしてのオタク要素を分散させたいとも考えていました。海翔はパイロット,フラウはプログラム,昴はロボティクスの知識,淳和はモーションキャプチャのモデル,そして彼らを統率するロボ部部長のあき穂,という感じにね。一人飛び抜けたオタクがいるのではなく,オタク達が集まって何かやる。そういう物語……というか空間を作りたかったんです。
4Gamer:
頼れる仲間や大人がいつもいる。それが「STEINS;GATE」との最大の違いという気がします。
志倉氏:
最初は2人きりで始まった部活が,次第にメンバーも増えてワイワイした感じになっていく。もし「STEINS;GATE」のまゆしぃがそこにいたら,「賑やかになってきたねぇ」って,きっと言うでしょうね。
4Gamer:
いや,「STEINS;GATE」のラボメンが達成できなかった夢を,続く世界線の少年少女達が叶えるって,すごくいい話じゃないですか。……ちなみに本作に登場する天王寺 綯,綯ちゃんって,「ROBOTICS;NOTES」の世界線ではどういった人生を送ってきたでしょう?
志倉氏:
とあるお姉さんに格闘技を習ったり,秋葉原のゲームセンターで変なあだ名を付けられたりしてたみたいですね(笑)。作中で語られている以上のエピソードは,正直今のところ考えてないんですよ。
あの綯ちゃんが真っ当な大人に育ってくれたことには,不思議な感慨深さを感じてしまいました。でも本作における綯が一体何が目的としているのかって,結局よく分からなかった気がするんですが……。
志倉氏:
その辺りは今後掘り下げられるかもしれませんが,現時点ではあえて隠している感じです。ほかにも過去作のキャラクターがちょろっと出てきますけど,それもあくまでほのめかし程度で。
4Gamer:
悪の組織,300人委員会に挑むヒーロー達が,いつの日か集結する,みたいな?
志倉氏:
そうそう(笑)。今後のシリーズで何か危険な事態が生じた時に,スーパーハカーと疾風迅雷が手を組んで,そこに海翔も加わって,「ここは俺に任せろ」とか言ってみたりね。スーパーヒーロー大集合みたいで,ワクワクするじゃないですか。そういった可能性がほんのりと見え隠れしているのが「ROBOTICS;NOTES」の世界観なんです。
ノベルゲームの可能性への挑戦
4Gamer:
キャラクターそのものの話とは少しズレますが,「ROBOTICS;NOTES」ではキャラクターの立ち絵が3Dグラフィックスになりました。これにはどんな狙いがあったのでしょうか。
志倉氏:
一番の目的はノベルゲームというジャンルそのものを,もっと進化させたかった,ということなんです。ノベルゲームやアドベンチャーゲームって,1980年代や90年代の前半と比較しても,見た目にはほとんど進化が見られないじゃないですか。
4Gamer:
確かにそうですね。
志倉氏:
僕はそこにずっと不満があって。例えばこれがアクションやRPGだったら,20年前と現代では,ほとんど別物といっていいほどの進化がある。逆にいえば,アドベンチャーゲームには,それだけメスを入れる余地が残っているわけです。
4Gamer:
本作でいえば,例えばどんなところでしょうか。
志倉氏:
キャラクターの魅せ方の部分ですね。キャラクターが立体的に動くことで,表現の幅は大きく広がるんです。「STEINS;GATE」だと,オカリンの厨二病要素は,主に台詞で表現してましたが,これがアニメになると,白衣をバサッと翻す動きで,それを見せることができるんです。
4Gamer:
モーションが入ることで,キャラクターの感情がより伝わる感覚は確かにあります。あき穂が「ええー」ってガッカリするモーションとか,すごく可愛い。なんというか,折れてこそ輝くヒロインだなあって。
志倉氏:
僕は,フラウが「デュフフ」って言うときの,謎の動きがお気に入りなんだけど(笑)。でも,まだ足りないですね。「ROBOTICS;NOTES」の3倍くらいのモーションが入れば,キャラクターの魅せ方はもっと面白くできるハズなんです。そうすれば,より幅広いプレイヤーにアピールできると思うので,次はそういう表現をもっと入れていきたいですね。
4Gamer:
3Dグラフィックスといえば,メインキャラクターの少年少女達だけじゃなく,本作ではサブキャラまで3Dグラフィックス化されていますよね。「STEINS;GATE」ではあまり目立たなかった大人達が,ストーリー的にもしっかりと存在感を持っていて,そこもかなり驚きました。
志倉氏:
それこそ,子供達だけの話にしてしまうと,いかにもなギャルゲー的な作りになってしまうんじゃないかって危惧があったんです。美少女ばかりではなく,大人達をちゃんと描くことで,間口を広げたかった。
4Gamer:
「STEINS;GATE」でも若干感じましたが,確かに分かりやすい「萌え」からは,距離を置こうとしている意図を感じました。
志倉氏:
そうですね。イベント絵を見てもらえばすぐに分かると思うんですが,「ROBOTICS;NOTES」では,そもそもヒロインをあんまり可愛く描いてないんですよ。フラウとか,大事な場面の一枚絵でも変顔しちゃってるし(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。海翔と一緒に毛布にくるまっているシーンでも,まったく乙女の表情じゃないですよね。
志倉氏:
うん。変化球的な可愛さでもなくて,単にブサイクなんですよ。
4Gamer:
まあフラウの場合,それが一周回って可愛いのかもしれませんが,でも「萌え」だけがコンテンツじゃないんだ,という主張は強く感じました。先ほど「ロボットもののテンプレを壊す」という話がありましたが,キャラクターも安易にテンプレに逃げていませんよね。
志倉氏:
まさに,そこを受け入れてもらえるかどうかの挑戦でしたね。フラウに限らず,ほかのキャラクターにしたって,もっと「萌え」を前面に出した表情のほうがビジュアルとしては映えるし,可愛いと思ってもらえたかもしれない。
けど実際の人間って,そんな都合のいい表情ばかりじゃないし,それがなくても面白いものが作れるということを見せたかった。
4Gamer:
あえてノベルゲーのテンプレから距離を置くことで,間口を広げようと。
志倉氏:
ギャルゲーって,アダルトビデオでもないのに,買う時にちょっと気恥ずかしさがあるじゃないですか。だからパッケージングにも気を使ったりして。
4Gamer:
ああ,人に勧めやすいパッケージというのは確かにありますね。クラスの友達に進めるとき,パッとビジュアルを見せやすいというのは,大きな強みです。
志倉氏:
もちろん,萌えを否定するわけではないですよ。次回作になったら,そういう方向性を目指す可能性だって十分あり得ます。ただ,色々な方向にノベルゲームの可能性を伸ばしておくのは,悪いことではないはずです。それによってノベルゲームの市民権を,一段階上に引き上げたいというのは,いつも考えていますね。
4Gamer:
なるほど。3Dグラフィックス化もその一環ということですね。しかしそれでいうなら,実写という選択肢もあったのでは? チュンソフトの「街 〜運命の交差点〜」や「428 〜封鎖された渋谷で〜」(PS3 / Wii / PSP / iOS)のように。
志倉氏:
いや,実写にしてしまうと,キャラクターの寿命が縮まってしまうんですよ。役者さんが歳を取ってしまいますからね。「街」や「428 〜封鎖された渋谷で〜」は僕も大好きなんですが,今,続編を作ろうと思っても,きっと難しいんじゃないですか。
4Gamer:
ああ,それはそうかもしれません。
志倉氏:
実写は実写で,面白そうなんですけどね。ノベルゲームって,ハードの性能をあまり求めないので移植もしやすいし,ゲームだけで終わらないのが強みなんです。マーチャンダイジングやメディアミックスの効率化は,僕がノベルゲームを作る上での,大目的の一つなので,そこは外せません。
4Gamer:
ではコスト的にはどうでしょうか。従来の2D立ち絵に比べて3Dグラフィックスというのは。
志倉氏:
今回は「ROBOTICS;NOTES」のために1から作ったエンジンだったので,コストはそれなりにかかってますね。モーションももちろんですが,実は一番こだわったのは,静止画で見ても2Dと変わらないクオリティにすることだったので。でもエンジンの基礎開発ができましたから,次回以降はもう少し抑えられると思います。
4Gamer:
今はまだ,ある程度ノベルゲームの文法に沿った部分が大きいですけど,それが変わるかもしれない。
志倉氏:
ええ。そういう意味で,ノベルゲームの中でキャラクターをどこまで動かせるかというのは,今後大きな課題になってきますよね。アニメーションに近いくらい動かせるようになったら,そこでまた一つ上のレベルにいけるんじゃなかって思うんです。
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