インタビュー
このワールドマップの発想はなかった。SQEX北瀬氏思い出の1本はSLG「Neo ATLAS II」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第1弾
○第1弾 北瀬佳範氏 (スクウェア・エニックス)※2月23日掲載
○第2弾 須田剛一氏 (グラスホッパー・マニファクチュア)※3月1日掲載
○第3弾 水口哲也氏 (キューエンタテインメント)※3月8日掲載
○第4弾 馬場英雄氏 (バンダイナムコゲームス)※3月15日掲載
○第5弾 名越稔洋氏 (セガ)※3月22日掲載
○第6弾 小林裕幸氏 (カプコン)※3月29日掲載
○第7弾 小島秀夫氏 (コナミデジタルエンタテインメント)※4月5日掲載
「PlayStation Store」公式サイト
インタビュー第1弾となる本稿では,「FINAL FANTASY XIII」(PS3/Xbox 360)および「FINAL FANTASY XIII-2」(PS3/Xbox 360)プロデューサーであるスクウェア・エニックス 北瀬佳範氏にお話をうかがった。スクウェア時代を通し,これまで数々のRPGを世に送り出した北瀬氏。そんな氏が挙げた作品は,なんとシミュレーションゲームの「Neo ATLAS II」だ。なかなか渋いというか,味のある選択だが,北瀬氏がなぜこの作品を挙げたのか,ちょっと意外なそのワケを見てみよう。
○「Neo ATLAS」シリーズとは
1991年にアートディンクから発売された「THE ATLAS」の後継シリーズ。大航海時代をモチーフにしたシミュレーションゲームで,ヨーロッパ地域以外のすべてが未確定地域になった世界地図を,プレイヤーが雇用した提督に探索の指示を出して完成させることが目的だ。
ただし,世界地図における地形の形状は固定されておらず,提督が持ち帰った報告を信じるか信じないかが,その地形や街の有無,果ては世界そのものの形状にまで影響してしまう。提督の報酬などで資金が必要となるため,街同士の交路を設定して交易したりすることで,資金を調達していくことになる。また,地形が確定したあとは,その周辺の宝物や遺跡を探すといった楽しみもあった。
ゲームアーカイブス「Neo ATLAS II」紹介ページ
その発想はなかった。プレイヤーが作る「ATLAS」のワールドマップ
4Gamer:
よろしくお願いします。北瀬さんのアーカイブスで遊べる思い出に残る1作は「Neo ATLAS II」とのことですが,どうしてこの作品を挙げたのでしょうか。
自分達が関わる作品は主にRPGで,FINAL FANTASYシリーズのようなストーリー性の強いゲームが多いんですよね。そういったゲームももちろんプレイしますが,プライベートで遊ぶゲームでは,ドラマチックな物語がウリの作品というよりは,どちらかというと,もっとドライな感じのシミュレーションゲームが好きなんですよ。
4Gamer:
シミュレーションゲームというと,ボードゲームやパソコンゲームなども遊んでいたんですか?
北瀬氏:
ええ。好きでしたね。「THE ATLAS」もPC-9801で出たときから遊んでいて。PC版はマウスオペレーションで斬新なユーザインタフェースだったのですが,操作していてストレスが溜まるという部分がありました。だから,コントローラーで遊びやすくなったコンシューマ版が出てからは,そちらで遊ぶようになって。
4Gamer:
北瀬さんというと,「RPGの人」というイメージが強いので,少し意外ですけれど。
北瀬氏:
そうですか? 実は,アーカイブスで最初に落としたのが,「Neo ATLAS II」だったりします。僕はおもにPSP goでアーカイブスを遊んでいるんですが,いつも持ち歩いて,出張先とかのちょっとした空き時間で遊ぶのにいいんですよね(笑)。
4Gamer:
しかし,シミュレーションゲームといってもいろいろな作品があると思うのですが,そのなかでもNeo ATLAS IIをピックアップしたのはなぜなんでしょう?
北瀬氏:
初代PlayStaionが遊ばれていた当時は,こういったゲームがなかったからということもありますが,ATLASシリーズは,とくにワールドマップの概念がとても斬新だったからですね。
4Gamer:
ああ,“ランダム生成される世界地図”って,ATLASシリーズの大きな特徴ですよね。
北瀬氏:
ええ。それにこの考え方って,僕らが作っていたRPGとは真逆の発想というか。そういう意味でもすごく衝撃的で。
4Gamer:
それはどういう意味ですか?
例えば,FFのようなRPGを作る場合は,まずはワールドマップをどうするかを最初の段階で設計してしてまうんです。スーパーファミコンからPlayStationあたりのRPGでは,そういう作り方が主流で。
FFVIIで言うと,ここにミッドガルという世界があって,この街はここに,次の街はあそこにと,それぞれ配置していき,そこをプレイヤーがどういう経路で移動していくか,ここで飛空艇を手に入れて一気に世界が広がる――といったゲームのフローを開発の初期に決めてしまうわけです。
4Gamer:
なるほど。
北瀬氏:
でも,このATLASのワールドマップには,決定された世界(地図)がほとんどない。さらに,提督に調査をさせて明らかになった土地であっても,それをプレイヤーが「信じる」か「信じない」かによって,実際のゲーム中の世界地図に反映させるかどうかを決められます。これは当時の我々からしたら発想が逆というか,「正直,その発想はなかった!」といった感じで。
4Gamer:
ATLASシリーズはプレイヤーの進め方で,現実世界とはまったく違う世界地図になっていくのが面白かったですよね。
北瀬氏:
ええ。こっちとしては全体像を決めてから作るのが当たり前だったので,そもそも全体像が存在せず,プレイヤー自身がそれを作っていくというのはとても斬新でした。
おそらく同じようなジャンルのゲームであっても,普通ならまだ開かれていない雲の下(未到達の領域)には決まった地形があって,それをプレイヤーが発見するという形で,誰がやっても同じ体験になると思うんですよ。
しかし,ATLASでは地形がその場で生成されて,しかもその報告を信じなければ,それはなかったことになる。これには,とても驚きましたね。
4Gamer:
考えてみれば,今でさえそんなゲームはほとんどないですね。
北瀬氏:
そうなんですよ。その意味でも,ATLASは不思議な作品です。面白い作品であれば,続編が出続けるものですし,面白くないと言われても,それが良いシステムであれば,そのシステムがアレンジされて他の作品へと広がっていくと思います。でも,ATLASは作風が独特すぎて,「Neo ATLAS III」以降は後継者もいなければ続編もないんですよね。面白くて,良いシステムがあるのにも関わらずです。
4Gamer:
私もNeo ATLAS IIを定期的に遊びたくなるんですが,いま遊んでも十分に面白い,新作がほしい作品ですね。
北瀬氏:
そうですね。ATLASシリーズが続いていないのは寂しいです。それこそPlayStation Vitaやスマートフォンなどで新作が出れば,もっと面白くなると思っているのですが……。
4Gamer:
確かに。
北瀬氏:
でも一方で,こういった“どこにも遺伝していない貴重な作品”を遊べることが,アーカイブスのメリットだとも思うんです。それにぶっちゃけてしまうと,今でも続いているソフトは,アーカイブスじゃなくても良いかなとも思えたりして(笑)。
4Gamer:
アーカイブスじゃなくてもよい?
北瀬氏:
いや,毎回ストーリーが異なるRPGのような作品や,一連の流れで続いている作品であればともかく,こういったシミュレーションゲームって,基本的には,最新のものを遊べば良いわけじゃないですか。最新作の方がシステムも洗練されているし,グラフィックスやサウンドだって豪華になっています。
4Gamer:
ああ,そういう意味であれば,確かに。
北瀬氏:
でもNeo ATLAS IIのように,もう続編が作られていない,ほかではなかなか遊べない作品があるんですよね。あの時代,あのタイミングだからこそ作られたゲームというものがあって。
4Gamer:
アーカイブスで過去の作品を遊んでいると,「これが十数年前の作品なのか」と驚かされるものも少なくないですよね。単に懐かしいだけじゃなくて,面白いものって,今遊んでも変わらず面白い。そうしたゲームが気軽に遊べるようになっているのは嬉しいことですよね。
北瀬氏:
そうですね。だからこそ,アーカイブスという手法には意味があるのだと思っています。
もう一つの候補だった「俺の屍を越えてゆけ」
4Gamer:
そういえば,北瀬さんはNeo ATLAS IIをプレイしていて,ご自身でシミュレーションゲームを作ってみたいと思ったことはないんですか。
北瀬氏:
ありません。
4Gamer:
う,即答ですね……。
北瀬氏:
僕自身が「作りたい」のは,やはりFFシリーズのような,ドラマ性があるファンタジー作品ですからね。ですが,最初に少しお話したように,家に帰ってプライベートでゲームを「遊ぶ」ときは,どちらかというとシステマチックなゲームに目がいくんですね。
4Gamer:
作るものと遊ぶものとで,そこまできっぱり分かれているのも珍しいような……。なんというか,フランス料理のシェフが実は回転寿司が大好き!みたいな話に近いのかな。
北瀬氏:
そんな感じかもしれませんね(笑)。あと,今回は「Neo ATLAS II」を挙げさせてもらいましたが,実はSCEさんの「俺の屍を越えてゆけ」(以下,俺屍)も候補だったんですよ。その理由も,世代交代していくというシステムでドラマを演出しているというか,そこが他のRPGとは違っていて,とても新鮮で面白いと思ったからですね。
4Gamer:
主観ですけど,俺屍って業界関係者の方の評価がとくに高いように思えるんです。その理由はなんだと思いますか。
北瀬氏:
やっぱり,システム的なところが面白く料理できているからじゃないですか?
4Gamer:
遺伝のシステムなどがですか?
北瀬氏:
例えば,大抵のRPGには,キャラクターを成長させるという基本的な目的がありますよね。キャラクターの成長というのは,つまりは人間の成長を描いて,それに沿ってゲーム中のストーリーも展開されていったりするわけです。
4Gamer:
はい。
北瀬氏:
でも俺屍の場合は,もうちょっと俯瞰的な視点で,代替わりをさせながら,人間じゃなくて“遺伝子”をどんどん良い物にしていくというものですよね。ここの料理の仕方が凄いというか,うまくシステムに,しかもシンプルに落とし込んだというのが,多くのクリエイターや業界関係者に響いてるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
未だに類似作品を見ないくらいですしねぇ。
北瀬氏:
それに,代替わりをしていく中での人間ドラマって,やっぱりロマンがあるじゃないですか。でも,これを普通の手法で描こうとすると,限界があって。せいぜい親と子の2世代,あるいは3世代くらいを描いて終わりという風になっちゃうんですよね。
4Gamer:
言われてみると,確かにそうですね。
北瀬氏:
「ドラゴンクエストV」も代替わりを描いているRPGですが,非常にドラマチックで感動的なストーリーでした。「代替わり」というテーマを,RPGのドラマ的な視点で表現していました。
一方俺屍は,そこをもっと長いスパンで代替わりしながら,しかもその代替わりの流れをプレイヤー自身が作っていける。RPGのシステム的な側面で「代替わり」を表現してたわけです。私にとっては「ドラゴンクエストV」と「俺屍」が2大,代替わりRPGです!(笑)
4Gamer:
なるほど。北瀬さんをはじめ,クリエイターや業界関係者だからこそ,独特のシステムや,他では成し得なかった何か,みたいな部分には自然と目がいってしまうのかもしれませんね。
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