レビュー
Ivy Bridgeレビュー,CPUコア編。消費電力の低減が最大の見どころに
Core i7-3770K
「Tick-Tock」(チクタク)戦略における「Tick」に位置づけられるIvy Bridge世代では,3次元トライゲート・トランジスタを用いた22nmプロセス技術で製造されるようになったのが,最大のトピックだ。マイクロアーキテクチャは,Sandy Bridgeと同じ「Intel Microarchitecture(Sandy Bridge)」を採用するため,CPU性能の劇的な向上はない一方,統合型グラフィックス機能では性能の大幅な引き上げとDirectX 11対応を果たしているというのも見どころとなる。
別途掲載している基礎検証レポートでは,マイクロアーキテクチャが同一であることを裏付けるように,Ivy Bridge世代の「Core i7-3770K/3.5GHz」(以下,i7-3770K」と,Sandy Bridge世代の「Core i7-2700K/3.5GHz」で似たような傾向を示すことが明らかになっているが,我々にとって最も重要なゲームを前にしても傾向に違いはないのか。本稿は「CPUコア編」として,グラフィックスカードを利用する前提に立ちつつ,Ivy Bridge世代のCPUが持つ実力を検証してみよう。
Intel,「Ivy Bridge」こと第3世代Coreプロセッサを発表
Ivy Bridge「Core i7-3770K」レビュー,GPUコア編。3D性能は「Llanoまであと一歩」に迫る
Ivy Bridge基礎検証。CPUの基本性能やGPGPU性能などから,Sandy Bridgeとの違いを徹底的に探ってみる
Sandy Bridge世代のスペックを踏襲しつつ
DDR3-1600&PCI Express 3.0を新たにサポート
プロセッサ・ナンバーはi7が3700番台,i5が3500&3400番台。Core i7-3000番台を冠するプロセッサとしてはSandy Bridge-EコアのCore i7-3900&3800番台が先行して流通しているので,プロセッサ・ナンバー的には,Sandy Bridge-Eの下という位置づけになるわけである。
もちろん,CPUコアとProcessor Graphics,共有L3キャッシュが1方向のリングバスで接続されるデザインにも変更はない。共有L3キャッシュ容量がCPUコアあたり2MBの最大8MBという点も共通である。
また,CPUコアでもProcessor Graphicsでもないところ,俗にいうアンコア(Uncore)部には拡張が入っており,まず,メモリコントローラはSandy Bridge世代のデュアルチャネルDDR3-1333対応からIvy BridgeでデュアルチャネルDDR3-1600対応となった。また,Intel製CPUとして初めてPCI Express 3.0(PCI Express Gen.3,以下 PCIe 3.0)コントローラを搭載してきたのも見逃せないところだ。
拡張されたProcessor Graphicsについてはレビュー記事のGPUコア編で説明しているため,本稿では割愛する。
ただし,Intel 6シリーズチップセット搭載マザーボードにIvy Bridgeを差した場合,マザーボードメーカーがPCIe 3.0のサポートを謳っていない限りは利用できなかったり,非サポート扱いになったりする。この点は心に留めておいたほうがいいだろう。
i7-3770Kの底面 |
「CPU-Z」(Version 1.60 x64)実行結果 |
プロセッサ・ナンバーの末尾に「K」が付記されていることからも想像できるとおり,完全なる倍率ロックフリーとなっているのも特徴といえるだろう。
そんなi7-3770Kのスペックと,Sandy Bridge世代の最上位モデルであるi7-2700K,そしてSandy Bridge-Eコアの最下位モデルで,プロセッサ・ナンバー的にはi7-3770Kの上位モデルとなる「Core i7-3820/3.6GHz」(以下,i7-3820)の主なスペックをまとめたものが表1だ。3製品は,Turbo Boostによる最大動作クロックが3.9GHzと3.8GHzで比較的近いうえ,3770Kと2700Kはかなりの部分でスペックが共通する。
※お詫びと訂正
初出時、Core i7-3820におけるTurbo Boost時の最大動作クロックを3.9GHzと表記しましたが,正しくは3.8GHzです。お詫びして訂正いたします。それに伴い,本文の一部を更新しました。
最大動作クロックが近い3製品でテスト
マザーボードにはDZ77GA-70Kを利用
i7-3770Kとi7-2700Kのテストに用いるマザーボードは,Z77搭載のIntel製品「DZ77GA-70K」。Z77チップセットの仕様上,PCIe 3.0はx16×1, x8×2,x8×1+x4×2の構成が可能だが,DZ77GA-70Kの場合は,2本の青いx16スロットだけがPCIe 3.0に対応しており,x16×1もしくはx8×2の接続のみのサポートとなる。x8×2接続時は2-way SLIおよびCrossFireXを利用可能だ。
Serial ATAポートはチップセットレベルで対応する6Gbpsが2ポート,3Gbpsが4ポート。追加でMarvell製コントローラによる6Gbpsが2ポート用意され,またeSATA接続にも対応している。
グラフィックス出力はHDMIが1系統。前述のとおり,Ivy Bridgeでは3画面出力に対応しているが,実際に出力できるディスプレイの数はマザーボード側の実装によるので,この点は注意が必要だろう(※3系統用意されていたとしても,同時に3画面出力できるとは限らないので,その点も要注意)。
なお,DZ77GA-70KのUEFI(≒BIOS)では,Turbo Boostの倍率やコア電圧など,かなり柔軟な設定を行えるようになっている。また,「Performance Monitor」からは各部の電圧や温度をグラフ表示できたり,どのSerial ATAポートにストレージデバイスが接続されているか,写真とセットで明示してくれたりと,一昔前のIntel製マザーボードからは考えられないほど機能が充実していた。
話を戻そう。
そんなDZ77GA-70Kも含めたテスト環境は表2のとおり。GPUとして用いる「GeForce GTX 680」(以下,GTX 680)では,発表直後に公開されたグラフィックスドライバだと「Intel X79 Express」(以下,X79)環境でPCIe 3.0動作が無効化されていたが,4月上旬に公開された公式β版「GeForce 301.24 Driver Beta」を導入したところ,Z77環境でGTX 680ははじめからPCIe 3.0動作するようになっていた。ただし,Release 301.24 Betaでも,X79だとGTX 680はPCI Express 2.0動作となる。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1準拠。CPUコアのベンチマークなので,GPU性能がスコアを左右しやすくなる「高負荷設定」(もしくは「Ultra設定」)を省略し,その代わり,解像度設定は3パターンに拡大する。
なお,テストにあたって,CPU側の「Intel Hyper-Threading Technology」ならびに「Intel Turbo Boost Technology」はいずれも有効化済みだ。
CPU負荷が軽い環境下では
i7-3770Kのスコアが伸びやすい傾向に
順に見ていこう。グラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)における「Entry」「Performance」両プリセットにおける総合スコアをまとめたもの。よりCPU性能がスコアを左右しやすいEntryプリセットだと,i7-3770Kのスコアはi7-2700Kのそれをわずかに上回る程度で,同レベルと述べて差し支えない一方で,i7-3820には若干離されている。
CPUコアとL3キャッシュ間のリングバスが二重化されていたり,クアッドチャネルメモリアクセスだったりといった違いがi7-3820のスコアを高めている気配も窺えよう。
CPU性能をピックアップして比較すべく,CPUによる「Bullet Physics」処理性能を見る「Physics Test」と,CPUでBullet Physics処理,GPUでDirectComputeベースの柔体物理シミュレーションを行う「Combined Test」のテスト結果を抽出したものがグラフ2だ。
EntryプリセットのPhysics Testでi7-3770Kのスコアがi7-2700Kを下回ったのは,正直,解せないところなのだが,Combined Testの結果を見る限り,負荷が低くてスコアがブレたとしか言いようがないのも事実だ。そこでPerformanceプリセットを見てみると,CPUが持つマルチスレッド性能の比較に適したPhysics Testで約7%のスコア差を確認できた。この数字が,以下で検証するゲームアプリケーションのスコアを見ていくうえで,1つの基準になると述べてよさそうである。
続いてグラフ3,4は,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)のテスト結果から,全テストシークエンス中で最も描画負荷の低い「Day」と,逆に最も高い「SunShafts」の結果を順にまとめたものだが,Dayシークエンスではi7-3770Kとi7-2700Kの間に,9〜12%程度という,比較的大きなスコア差がついた(グラフ3)。
SunShaftsで解像度条件を上げていく(=描画負荷を高めていく)とスコア差は縮まっていくので(グラフ4),Dayシークエンスにおけるスコア差は,CPUの違いが生んでいると見るべきだろう。
ただ,STALKER CoPのテスト結果だけではなんとも言えない。ひとまず結論は保留して次に進むこととしたい。
グラフ5は「Battlefield 3」(以下,BF3)のテスト結果だ。BF3はマルチスレッド処理に最適化されており,マルチスレッド処理性能が一定の枠内に収まるCPU同士で比較するとスコアは同じようなところにまとまるのだが,果たして今回もそのような結果になっている。ただ,低解像度を中心に,若干ではあるがi7-3770Kのスコアが高いことも指摘できよう。
BF3とほぼ同じような結果になったのがグラフ6に結果を示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だ。i7-3770Kとi7-2700Kのスコア差はフレームレートにして5.9〜12.8fpsで,これだけ聞くと大きそうな印象だが,これは絶対的なフレームレートが高いため。パーセンテージにすれば2〜3%である。
続いては,高解像度テクスチャパックを導入しているため,極めて描画負荷が高くなっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)の結果だ。グラフ7に示したとおり,スコアはほぼ横並びで,i7-3770Kのスコアがほんのわずかに高め,という点でBF3やCall of Duty 4と同じだ。
解像度設定1280×720ドットでi7-3770Kとi7-2700Kのスコアに約5%の差がついたのが,グラフ8の「Sid Meier's Civilization V」である。CPU負荷の低い状況下でi7-3770Kのスコアが伸びているわけで,STALKER CoPのSunShaftsと似たイメージだとも言えるだろう。
グラフ9の「DiRT 3」はBF3と似た傾向にまとまった。テストに用いた3製品のスコアはほぼ同じだが,そのなかでi7-3770Kはi7-2700Kに対して最大約3%高いスコアを示している。
以上,ベンチマークレギュレーション12.1準拠のテストを終えてみて分かるのは,マルチスレッド処理に最適化されている,もしくはGPU負荷が高い環境だとi7-3770Kとi7-2700Kのスコアは近いものになり,逆にCPU負荷の低い状況だと,スコア差が開く傾向にあるということだ。
「そんなの当たり前ではないか」という意見はもっともだが,もう少し踏み込んで述べてみると,STALKER CoPの公式ベンチマークテストはいわゆるFlybyで,Civ 5のテストに用いている「Leader Benchmark」もほとんどGPUベンチマークである。つまり,CPU負荷が極めて低いのだ。
クロックの推移を追えるツールなどを実行してみたことがある読者なら分かると思うが,マルチスレッド処理への最適化がよほど高度に行われていたりしない限り,ゲーム中,すべてのコアに高い負荷がかかり続けるようなケースというのはほとんどない。省電力機能に対応したCPUを使っている場合,コア単位で省電力モードへ移行したりすることもある。
省電力モードからの復帰には多少なりとも時間がかかるわけだが,基礎検証レポートで明らかになっているとおり,その速度はIvy Bridgeのほうが速い。となると,「ほとんどCPU負荷の発生しないアプリケーションでは頻繁に省電力モードへ移行するため,そこからの復帰速度がベンチマークスコアを左右する」という推測が成り立つのだ。
残念ながらゲームアプリケーション実行中の動作クロック推移をログで書き出せるツールが思い当たらなかったので,完全な裏付けは取れていないのだが,今回のテスト傾向から推測するに,そう大きく外れていたりはしないのではないかと考えている。
CPUが相応に稼働するBF3やSkyrim,DiRT 3におけるテスト結果が,おそらくIvy BridgeとSandy Bridgeのゲーム性能における典型的な違い――アーキテクチャやデータバス,メモリコントローラといった改善の効果が生んだスコア差――ということになるのではなかろうか。
i7-2700Kから大きく下がった消費電力
発熱も低下傾向に
22nmプロセス技術の採用により,消費電力の低減には大いに期待が持てるところだが,Sandy Bridgeと比べてどれくらい下がっているだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を計測してみよう。
テストにあたっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,そして,システムに100%の負荷をかけ続ける「OCCT」を30分間実行し続けた時点を「高負荷時」とする。
結果はグラフ10のとおり。マザーボードが異なるため,i7-3820との比較だけはそのままCPUの消費電力の違いにならないものの,i7-3770Kとi7-2700Kで高負荷時に33Wもの違いが生じたのは,CPUの違いによるものだと述べていいだろう。もちろんこれはOCCT実行時という極端な条件下のものなので,典型的なアプリケーション実行時だともう少し違いは小さくなるはずだが,かなりインパクトの大きいスコア差が出ているといえるだろう。
ちなみに基礎検証レポートだと,「PCMark 7」実行時の消費電力差は28Wという数字が出ている。
さらに,アイドル時と高負荷時に加え,ベンチマークレギュレーション12.1準拠のBF3ベンチマークテストを実行し,その間で最も高いCPU温度を計測した時点を「BF3時」として,3条件でコアごとにスコアを取得した結果がグラフ11となる(※BF3ではベンチマークレギュレーション準拠のテストを行うと一定時間経過後にゲームオーバーとなって再スタートするようになっているため,その状態で30分間放置した)。
ここでのスコアは,ハードウェアモニタリングツール「HWMonitor Pro」(Version 1.13)を用いて,室温20℃の環境にテストシステムをバラック状態で置いて取得したものだ。今回,i7-3770Kのリファレンスクーラーは入手できなかったため,i7-3770Kとi7-2700Kの冷却にはi7-2700Kの製品ボックスに付属のクーラーを用いた。また,i7-3820の冷却にはIntel純正の空冷CPUクーラー「RTS2011AC」を組み合わせた次第である。
RTS2011ACの冷却能力が高いため,i7-3820だけかなり低いスコアになっているが,全体的に見て,i7-3770Kの温度はi7-2700Kより低い。ファンの回転数はPWMで自動制御されるため,結果に消費電力ほどのインパクトはないのだが,それでも,発熱が確実に下がっている気配は感じられよう。
Sandy Bridge世代から乗り換えるほどではないが
消費電力の低さは魅力的
Ivy Bridgeならではの価値を見出せるとすれば,それは消費電力の低さということになるはずだ。Sandy Bridge世代からの消費電力低減効果は大きいため,第1世代Coreプロセッサやそれ以前のCPUを搭載するPCからの買い換えにあたって,もはやSandy Bridgeを選ぶ理由はなくなったともいえる。
少なくともカード単体で動作させる限り,PCI Express 3.0にはそれほどこだわる必要もないので(関連記事),場合によっては安価になったIntel 6シリーズチップセット搭載モデルと組み合わせることも可能なのは魅力。供給量が安定し次第,Sandy Bridgeをそのまま置き換える,新たなメインストリーム市場向けCPUとして,Ivy Bridgeは落ち着くことになるだろう。
Intel,「Ivy Bridge」こと第3世代Coreプロセッサを発表
Ivy Bridge「Core i7-3770K」レビュー,GPUコア編。3D性能は「Llanoまであと一歩」に迫る
Ivy Bridge基礎検証。CPUの基本性能やGPGPU性能などから,Sandy Bridgeとの違いを徹底的に探ってみる
- 関連タイトル:
Core i7・i5・i3-3000番台(Ivy Bridge)
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