インタビュー
映画のおまけにならないゲームを作ろう――ユークス上野尚澄氏が語る,ロボット・ファイティングゲーム「リアルスティール」誕生秘話
そして,この映画を題材にしたゲーム「リアルスティール」(PlayStation 3 / Xbox 360)が,映画が全米で公開された10月より配信中だ。開発を手がけたのは,「WWE」や「UFC」といった世界中で人気を集める格闘技ゲームを生み出してきた,ユークスである。
今回4Gamerでは,リードゲームデザイナーの上野尚澄氏に,この“ロボット・ボクシングゲーム”開発の経緯から完成までのエピソードを聞いた。
「リアルスティール」公式サイト
ファイティングゲームならユークスへ
ただし開発期間は1年未満!
4Gamer:
今日はよろしくお願いします。
まずは,リアルスティールをユークスが開発するに至った経緯から教えてください。
リアルスティールの仕掛け人は,変形ロボットが登場する某有名映画等を手掛けたハリウッドで知らない人はいないというほどの大人物なんですが,彼がゲーム好きらしいんですね。
彼が関わってきた映画は,これまでもいろいろとゲーム化されているんですが,リアルスティールも当初からゲーム化したいというアイデアがあったそうなんです。そこで,ゲームを作れるスタジオを探していたそうなんですが,なかなか決まらずにいたらしくて。
4Gamer:
それは何故でしょう?
上野氏:
映画の公開に合わせるためには,開発にかけられる期間があまりにも短かったこともあったのが大きな理由です。
そこで,とあるスタジオが「リングの中で戦うゲームなら,ユークスという会社があるよ」と紹介してくれたんですね。よりによって,「ユークスなら半年で作れるんじゃないか?」という触れ込みで(笑)。
4Gamer:
でも10月には配信が始まっていたことを考えると,実際の開発期間も相当短かったんじゃないかと思うんですが……。
上野氏:
ええ。開発に着手したのは2011年の頭頃で,完成までは実質8か月に満たないぐらいでした。さすがに半年では作れませんでしたけどね。
でも,開発スタートから1か月ほどで基本的な遊びができるバージョンまでは作り上げました。今思えば,かなり普通じゃないスピードですよね。そしてそのスピード感を生かすべく,今回はパッケージではなく,ダウンロード販売という形を選びました。
4Gamer:
映画制作サイドからは,どんな要望がありましたか?
上野氏:
まず,基本的なゲームのコンセプトはユークスから出してほしいと要望を受けました。先方は映画制作のまっただ中なので,自分達の作業で手一杯だったのかもしれませんね。なんせ,最初に資料として届いた映像は,ロボット役のモーションアクターがピンポン状のマーカーを着けて演技をしている状態でしたから,「ああ,向こうもたいへんなんだな」って(笑)。
ただ,最小限の要望が「ファイティング(格闘)ゲームであること」というものだったんです。
4Gamer:
それが決まっているからこそ,ユークスにも白羽の矢が立ったわけでしょうし。
上野氏:
ええ。なのでそこをベースに,どういうゲームにするかはこちらから提案していった形です。それでもなかなかOKはもらえず,提案してはリテイクを受けて,というのを繰り返しました。
彼らの視点でいえば,「どういうゲームなのか」よりも,「我々の映画のロボットが,プレイヤーにどう使われて,どう見えるか」が重要だった気がします。例えば,主人公ロボットの「ATOM」に関しては,「彼は主人公だから負けることはおろか,破壊されることはない」とまで言うんです。
映画の世界観から導き出した
ゲームならではの戦いの場所
4Gamer:
ゲーム的に解釈するなら無敵キャラですねぇ。
そうなんです。同様に映画のボスキャラとして,黒いロボットの「ゼウス」がいるんですが,彼はどんな状況であっても最後のボスでなければいけないとか。ほかにも,キャラAとキャラBは同じシーンでは登場しないといった,映画の世界観を守るための制約が多かったですね。
そこで今回のゲームでは,主人公のATOMを操作するゲームではなく,WRB(ワールド・ロボット・ボクシング)という競技が存在する世界に,プレイヤーが一人のロボットトレーナーとして参加できるようにしました。
4Gamer:
映画のストーリーをトレースするのとは,異なる方向に舵を切ったんですね。
上野氏:
ええ。さらに,ユークスが作る以上,エディットモードは絶対に必要だろうと思っていたので,それも軸の一つに据えました。
ただ,人間のエディットはずっと手がけていますけど,メカのエディットは未知の領域だったんですよね。とはいえ,ユークスが作るメカのエディットがどんなものになるのか,自分達でも知りたくて,力を入れたというのはあります。
4Gamer:
映画とは違うゲームにしようという意図は分かりましたが,それでも映画の世界観を生かすならば,リンクする部分は必要ですよね。事前に設定資料などを見ることはできたんですか?
上野氏:
最初にもらった映像だけでなく,完成版ではない設定イラストなどは提供してもらっていました。ただ,体に漢字が書いてある「ノイジーボーイ」というロボットは,設定画のままだと日本人が失笑しかねないような間違った文字が書かれていて,「こりゃ参ったな……」といったことはありました。最終的には映画もゲームも,その設定画とは違うものになっていますが。
4Gamer:
つまり,それぐらい同じタイミングで作っていたということですね。
まだ映画を見ていないのでちょっとお聞きしたいんですが,基本的にはゲーム同様に“ロボットのボクシング”なノリなのでしょうか?
上野氏:
ちょっとネタバレになるかもしれないんですけど,あまりボクシングらしくないんですよ。そもそも腕や頭を破壊してKOなんて,人間のボクシングとかけ離れていますし。
それに,映画でもヒュー・ジャックマン演じる主人公のチャーリーが「こんなのはボクシングじゃない」とつぶやくシーンがあるんですね。分厚い装甲と強力なパワーを持つロボットが強いという描写がされていて,主人公のATOMだけはスウェーやダッキングといったテクニックを持っているロボットという立ち位置なんです。
4Gamer:
なるほど。
実は我々も完成した映画を見たのは,ゲームが完成する直前だったんですが,それに先駆けて8月頃に,30分ほどの試合シーン映像を見せてもらう機会があったんです。で,ガードもせずに殴りあうロボットを見て「ちっともボクシングじゃないじゃん!」って(笑)。
それまでは人間のボクシングっぽい戦いだと思っていたので,僕とディレクターでボクシングの体験レッスンを受けてみたり,スタッフ総出で後楽園ホールに試合を観に行ったりして,「ボクシングの熱いところはココだ!」みたいなノリで開発をしていたんですが,見事に肩透かしを食らったという。
4Gamer:
その後,ゲームの内容に変更は加えたんですか?
上野氏:
ええ。急きょ,実際のボクシングにはない「はじき」のアクションを取り入れたり,調整をしました。
ただ,映画を最後まで見れば,“ボクシングはパワーだけじゃなくテクニックなんだ”ということが分かるようになりますから,基本的な路線まで変更せずに済んだのは助かりましたね。
4Gamer:
ということは,ATOMの活躍によってWRBのトレンドがテクニック志向に変わったあとの世界が,ゲームで描かれているという考え方もできそうですね。
上野氏:
ゲームに明確なストーリーがある訳ではないんですが,そう捉えてもらえたら嬉しいですね。個人的には,もし映画の続編があるようなら,そこではテクニックのある戦いが見直されているだろうと思いますし。
ベーシックなゲームシステムと
やり過ぎ上等なエディット技の数々
4Gamer:
ゲームに話を戻しますと,システムから判断する限り,本作は顔とボディへのパンチを打ち分けて戦うという,極めてオーソドックスなボクシングゲームですよね。
そうですね。弊社でメインに開発している「WWE」「UFC」の両ファイティングゲームは,コアユーザーの方々からは高い評価を頂いているんですが,その分,ゲームに慣れるまでに時間がかかってしまうんですね。
それに映画のテーマの一つが,チャーリーとその息子マックスの“親子の絆”なので,小さなお子さんも遊ぶでしょうから,よりシンプルな操作にする必要があったんです。
4Gamer:
いわゆる,ファミリー層を視野に入れた,と。
上野氏:
ただ,リリース版に至るまでは何度も操作方法を作り直しています。というのも,このゲームを開発したのは10人程度の小さなチームなんですが,これまで別々のタイトルを担当してきた人間の集まりだったんです。なので,それぞれが好むゲームがバラバラだったんですね。WWEやUFCが好きな者もいれば,いわゆる対戦格闘が好きな者もいて。
そこで,それぞれが操作案の企画書を書いてコンペをしたんです。その中で手応えのあったものは,まずプログラマーが簡易なものを作ってみて,実際に操作してみた結果を踏まえて,ボツにしたり,手を加えたりして,1か月程度は試行錯誤を繰り返しました。実は弊社は普段,カッチリした企画書を作ってから実作業に取りかかるので,こういう取り組み方自体が異例だったんですよ。
4Gamer:
開発の経緯や開発期間だけでなく,異例づくしだったんですね。
上野氏:
自社発売によるダウンロード配信というのも,初めての試みでした。
それもあって,プレイヤーの年齢層をどのあたりに想定するかも悩みどころだったんですけど,実際はこちらが想定していた中高生よりも,もっと低い印象があります。
カスタマーサポートには「僕は10歳の男子ですが,このゲームをもっと面白くするアイデアがあります」なんて,かわいいお便りが届いてたりもするんです。
4Gamer:
それは微笑ましいですね(笑)。
ところで,ゲームにしか登場しないロボットは,ユークスが考えたものなんですか?
上野氏:
ゲームにしか登場しないロボットは,一部のものを除いてほとんど私がデザインしています。
実は,そういったオリジナルキャラクターの権利もDreamWorksが所有することになるため,チェック段階でのこだわりは凄かったですね。「このキャラクターはリアルスティールの世界観に合っていない,おもちゃのように見えてリアリティがない」みたいな指摘も,何度か受けました。ある意味,そこが一番たいへんだったかもしれません(苦笑)。
ネーミングに関しても悩みどころで,最初は自分で考えていたんですけど,どうしても日本人が考える名前になってしまうんですね。そこで,社内の翻訳スタッフに2人のアメリカ人がいるので,彼らに協力してもらって決めていきました。
4Gamer:
モーションに関してはいかがでしょうか?
上野氏:
モーションは,実際に映画に使われたのと同じモーションデータを頂いていたので,映画と寸分変わらぬ動きの技もあります。それ以外の技に関しては,操作方法と同様に,スタッフ全員で意見を出し合いました。なので,気づいたらラリアットやタックル,果てはキックまで入ってまして(笑)。
「さすがにやり過ぎたかなぁ」と思いつつ,監督のショーン・レヴィにチェックしてもらったところ,意外にもすんなりOKが出ただけでなく,「ロボットがマーシャルアーツみたいな動きをしているのはカッコイイね。次回作ではこういうのも取り入れたいよ」といった意見もいただけたんです。これは嬉しかったですね。
攻略のポイントは技の相性にあり
“自分だけの相棒”と共に戦え!
4Gamer:
ロボットを構成するパーツや,それを組み合わせたロボットが,DLCとして多数用意されていますが,こういった取り組みをするに至った思った理由をお聞かせください。
DLCをたくさん用意しようというのは,半分は弊社のプロデューサーなどゲームを売る側からの要望ですね。
ただ,そもそもがダウンロード配信のタイトルですから,DLCとの相性もそう悪くはないのかな? とは思っています。PlayStation 3判は11月にゲームバランスをマイルドにしたり,チュートリアルを追加したりしたアップデートも行いましたが,これもダウンロード配信で,購入した人は基本的にネットに繋いでいるからこそ,やりやすいことでもありますし。
新しいDLCやアップデートは今後も予定していますので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
リリース後も開発に終わりがないのはたいへんそうですが,期待しています。
ちなみに現時点で,DLCのパーツの人気,不人気はある程度見えていますか?
上野氏:
アイテムごとに具体的なパラメータを公表しているので,やはり数値の高いものほど人気はありますが,それほど偏っているわけではありませんね。
ゲームを遊び込んでいる開発スタッフの場合だと,パワーやスピードこそ,その時々の流行はあるんですが,最終的にはデザイン主体に落ち着く傾向があるんです。日本のロボットアニメが好きなスタッフなら,どこかで見たような箱型トリコロールカラーのデザインにしていたり(笑)。なので,性能面のチューンはコアで行う感じですね。
4Gamer:
DLCで性能の高いパーツが買えてしまうと,パーツを購入していない人が対戦時にまったく勝てなくなってしまうという懸念もありますが,そのあたりはいかがですか?
上野氏:
確かに,性能という点では,DLCでパーツを購入した方のロボットのほうが高くなります。それでも,プレイヤーの腕次第でカバーできる範囲ですので,ご安心ください。
4Gamer:
逆に言うと,DLCをいくら買っても腕を磨かなければ勝てないかも……ということですね。肝に銘じます。
攻略のアドバイスとしてお聞きしたいんですが,対戦相手のタイプに合わせて,パーツ選びも変えたほうがいいんでしょうか。
上野氏:
パーツよりも,技の相性のほうが重要ですね。
テックムーブ(必殺技)をどこで使うかが大事で,例えば“回避行動をしてからパンチを放つ”技がいくつかあるんですが,それをスウェーやダッキングの代わりに使ってもらうと,勝率がアップすると思います。回避行動から攻撃を出す場合に当たらない技も,動作が連続したテックムーブだとヒットさせられるんです。
プレイし始めだとガードに意識が向きがちかもしれませんが,相手との軸をずらせるダッキングは,積極的に活用してもらいたいですね。コーナーに追い詰められた際に脱出する時にも有効ですので。
なお,コアのパーツは,ジェネレーターから強化するのがセオリーです。
4Gamer:
ありがとうございます。参考にします(笑)。
ちなみに,パーツによって手や足の長さが変化しますが,当たり判定は見た目通りなのでしょうか?
はい,見た目通りです。腕や拳が長いパーツをつければ,その分リーチが長くなります。ロボットの身長が低いと,上段の操作で放ったパンチが相手のボディにヒットすることもあります。
社内的には“人間ではない”ことがけっこう新しい挑戦で,人間を表現するため――例えば筋肉の伸び縮みを見せるためのノウハウは多数あるんですが,ロボットが伸び縮みしたらおかしいですよね。そこで,パーツ(身長やリーチ)が変わっても同じ技の動きになるように,ボーン(キャラクターを動かすための骨組み)やコリジョン(当たり判定)は,このゲーム専用に構築しています。
エディット次第では,左右の腕や足の長さをチグハグにすることができるんですが,それでも同じモーションを装備できるというのは,意外に難しいことなんです。でも,プレイヤーさんの立場で考えたら,技術的な理由で選べないパーツがあったりするのは悲しいですから,頑張ってみました。
4Gamer:
それでは最後に,すでにゲームを楽しんでいるプレイヤーへのメッセージと,ゲームが気になっている方への一言をお願いします。
上野氏:
キャラクターゲームではあるんですけど,決して映画の付属品ではなくて,看板がなくても楽しめるゲームを作ろうという意識で開発してきました。
ロボットゲーム,格闘ゲームは世の中にたくさんありますが,自分の相棒を作れるゲームという意味では今までと違った感覚で遊べると思います。映画を見てくれた人が夢に見るであろう,“自分の相棒”に出会ってもらえたらなと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
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"Real Steel" is a trademark and copyright of DreamWorks II Distribution Co., LLC. All rights reserved. (C)2011 YUKE'S Co., Ltd. All Rights Reserved.
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