インタビュー
遊ぶほどに気持ち良さの増すアクションゲーム,「KILLER IS DEAD」で描きたかったのは,京都に潜む危険性? エグゼクティブディレクター・須田剛一氏と,ディレクター・新 英幸氏に聞く
本作の基本的な設定は,ブライアン処刑事務所に所属する“処刑人”モンド・ザッパが,世界各地を渡り歩き,テロリスト達を処刑していくというもの。一つのエピソード=一つのステージという,一話完結型のフォーマットが採用されているのも特徴だ。
ゲームの詳細については,先月掲載したインプレッションなどを確認していただきたいのだが,アクションゲームとしての気持ち良さを味わえると同時に,不条理ともいえる独特の世界観に興味が引かれる作品である。
そこで今回は,グラスホッパー・マニファクチュアで本作のエグゼクティブディレクターを務めた須田剛一氏と,ディレクターを務めた新 英幸氏に,一通りゲームをプレイしたうえで気になった事柄を,世界観やストーリーなどの側面,そしてアクションゲームとしての側面に分けて,直接聞いてみた。
「KILLER IS DEAD」公式サイト
1クールのTVドラマのような一話完結型のストーリーで
須田氏が描きたかったものとは?
4Gamer:
よろしくお願いいたします。
今日は須田さんが途中で退席されるんですよね?
すみません。ちょっと「キネマ51」の支配人としての仕事がですね。
4Gamer:
それはしょうがないですね。
さて,KIDでは,複数のエピソードがステージとして配置される構成ですが,各エピソードは一話完結型になっていますよね。こういう形を選んだのは,なぜでしょうか?
須田氏:
海外ドラマのスタイルや,僕が愛するTVドラマ「相棒」シリーズのように,どのエピソードからでも楽しめるようにしたかったんです。
例えば,エピソード4まで遊んだあと,1週間ぐらい間が空いてしまって,物語の細かい部分を忘れてしまったとしても,次にエピソード5を遊ぶときに,また新しい物語が始まるということであれば,ある種の安心感があると思うんですね。
「シャドウ オブ ザ ダムド」や「LOLLIPOP CHAINSAW」では,一本のゲームを通して一日一夜の物語を描いていましたが,それらとは違うものにしたかったんです。
4Gamer:
確かに,決して順番どおりじゃなくても通用しそうな物語もあります。
須田氏:
ええ。組み替えても大丈夫です。
4Gamer:
何となくそういうお話をうかがっていると,KIDの2ndシーズンのようなものが今後用意されていたとしても,全然不思議はないような気がしてきます。
須田氏:
鋭いですね(笑)。KIDは今のところこの作品で一つの完結を迎えてはいるんですが,世界中のファンの皆さんのご要望があれば,そういったこともあるかもしれません。ないかもしれません。
ともかく,2ndシーズンまで楽しみたいと思ってくださる方は,ぜひ初回生産限定PREMIUM EDITIONをご予約ください!
4Gamer:
は,はい。
ところで,KIDの各エピソードはそれぞれ舞台も個性的ですし,ボスもあくの強い奴らばかりです。
それらの中で須田さんとして,とくに強い思い入れがあるのは,どれでしょう?
須田氏:
デイヴィッドのくだりはもちろんですが,やっぱり浜田山ですかね。Episode 7「闇に消えた虎」のステージや物語のようなものを,ビデオゲームの中で描きたかったんですが,それがやっと実現できたので。
4Gamer:
京都という純和風の舞台で異形の者達が戦っている様子を見たときに,須田さんがお好きな「ウルトラマン ティガ」で実相寺昭雄監督が撮った,第37話「花」を思い出したんですが,そこからの影響は……?
須田氏:
ティガ! 嬉しいなぁ,ティガを引用してもらえるなんて,初めてですよ。確かに影響はあるのかもしれないです。あの回は良かったですよね。
まさに歌舞伎のような演出や,日本の時代劇が得意としている,暗闇の中で強いライティングが当たってその中で戦うというイメージは……まあ,「必殺仕事人」のイメージが強いんですけど,ティガということにします!
4Gamer:
……では,以後そういうことで。
そもそもKIDの世界観に和の要素はありませんが,あのステージだけ和洋折衷というか,ある種のミスマッチのようなものを狙っているんだろうな,という気はしました。
須田氏:
そうですね。西洋を舞台に繰り広げられる物語ではあるんですが,我々日本人が作るからには,日本も舞台として選びたかったというのもあります。となると,日本を象徴するのはやはり京都だな,と。
それに京都の裏山には,虎とヤクザがたくさんいるんです。皆さんあまりご存じじゃないと思うんですが。
4Gamer:
野生の虎と野生のヤクザが(笑)。
須田氏:
そうなんです。京都の裏山は本当に危険でね……。それをなんとか世の中の人達,世界中の人達に知ってもらいたくて。
4Gamer:
本来,京都観光だって命がけなんだぞ,と。
須田氏:
ええ。それがこの浜田山エピソードに,どうしても込めたかったメッセージなんです。
4Gamer:
本当に信じてしまう人もいるかもしれませんが,メッセージはきちんと遊んだうえで考えてほしいということですよね! 発売前ですし。
「KILLER IS DEAD」で描かれているのは,
月と地球の代理戦争?
4Gamer:
さて,浜田山もそうでしたが,モンドが所属するブライアン処刑事務所の所長であるブライアンと処刑対象の間には,過去に何らかのつながりがあるかのような雰囲気が漂っているケースがありました。
となると,そもそもブライアンは何者なんだろう? というあたりが気になってくるのですが。
須田氏:
どんな作品でも所長やボスというのは,すべてを熟知している存在ですよね。さらにブライアンは,その存在そのものにすべての謎が内包されてもいるんです。
4Gamer:
そもそも,なんでモンドと同様に半分機械になっているのか? というのも疑問ですし。
須田氏:
それもまた,ベールに包まれているという。そこがあの事務所そのものの謎でもあって……。じゃあなんで,そんな謎だらけの連中に,国は処刑という重大な任務を任せているんだ? というのも,また謎なんです。
4Gamer:
まったくですね。
須田氏:
ヤバイ連中はヤバイ連中同士でどうぞ……という,毒には毒といった,この世の裏側にある世界をイメージしながら物語を描いていって,それを絵で表現していった結果として,ああなっているんですね。
4Gamer:
な,なるほど。
ちなみに,あの事務所はどこの国の委託を受けている設定なんですか?
一応,アメリカですね。ペンタゴンの下部組織としての,ブライアン処刑事務所なんです。
4Gamer:
となると気になるのが,月の存在なんです。
KIDの中では月というものがとても大きなキーワードになっていると思うんですが,あの世界の中で,月はそもそもどこかの国家の領土だったんでしょうか? あるいは完全に独立した土地だったんでしょうか?
須田氏:
僕の解釈は,アメリカのものですね。
4Gamer:
それはやはり,アポロ計画があったから……?
須田氏:
アポロ計画もありますし,「トランスフォーマー」も月の裏側に住んでるじゃないですか。トランスフォーマーもアメリカのもの……あれ? トランスフォーマーはタカラトミーだから,日本のものかもしれませんね。
4Gamer:
……。
須田氏:
今後,僕らももっと月の裏側に潜って,調べていきます。
4Gamer:
お願いします。
今回のシナリオだと,月の裏側からワイヤーズという敵が地球にやってきているという設定になっていますが,ワイヤーズって一体何者なんですか?
須田氏:
月の裏側から来てる連中の総称がワイヤーズなんですね。
彼らは「ダークマター」と呼ばれる「悪意の粒子」を原動力としているんです。
4Gamer:
なぜ,そいつらは地球にやってくるんでしょう?
須田氏:
それも遊んでみたうえで,皆さんに考えてほしいですね(笑)。
一つヒントを出すなら,この世界では,月と地球の全面戦争が一般人の知らないところで行われているという設定なんです。
実はシナリオの初稿では,太陽争奪戦が行われているという構想でした。太陽,地球,月という三つがキーワードになった,慈悲なき戦いということで。で,キャラクターはそれぞれの星を背負っている,いわば代理戦争のようなイメージです。
4Gamer:
そうだったんですね
須田氏:
まあ,事情により太陽の設定は省いて,月と地球だけにして,ほかの要素も少しそぎ落としてはいるんですが,そういう代理戦争のようなイメージ自体は,ゲームに落とし込みました。
4Gamer:
なるほど。そう考えると,疑問に思っていたことのいくつかの答えが見える気がしてきました。
「闇」という言葉が象徴するのは,
須田氏が描き続けてきた「人間の悪意」
4Gamer:
ところで,月と同じように印象的な使われ方をしているフレーズに「闇」というものがありました。このゲームにおける闇とは,何を象徴したものなんでしょうか。
須田氏:
一言で表現するならば,人間の悪意そのものですね。
例えば心霊現象や悪魔的なものという形で,悪意を描いた作品はこれまでにもあったと思うんです。でも,そうじゃない,新しい形で悪意を描きたかったんですね。
実は月を支配するデイヴィッドは,その悪意に飲まれてしまった人間なんです。
4Gamer:
Episode 2「KILLER IS DEAD」に登場するデーモンは,体がワイヤーズ化しつつある元処刑人という設定ですが,それはつまり,処刑を繰り返すことによって,人の悪意を吸いすぎたということなんでしょうか。
須田氏:
そういうことになりますね。
4Gamer:
デーモンが,「キミもいつか 同じ運命を辿るかもしれない」といった言葉を吐くのは,つまりモンドもまた,そうなってしまう可能性がある,と。
須田氏:
ええ,やがてデーモンのようになってしまうかもしれません。
それがいつなのか……もしかしたら,すでになっていたりも?
4Gamer:
ええっ?
須田氏:
まあ,そのあたりは,遊んでいただいた皆さんに想像してほしいと思います。
4Gamer:
ではちょっと質問の角度を変えさせてください。須田さんはなぜ,ビデオゲームという表現で,人の悪意を描こうと考えたんでしょうか?
須田氏:
悪意って,人間にとって一番身近にあって,それでいて一番怖いものだと思うんです。多かれ少なかれ誰の心にもあるものですし,生きていると他人の悪意に触れることもあります。でも,他人の悪意というものは,なかなか見抜けないものですよね。だからこそ怖いものですし。
そういう確信を持っているので,僕はビデオゲームを作り始めてから,いろいろな形で悪意というものを描き続けてきたつもりなんです。
4Gamer:
悪意そのものという形ではないにせよ,何らかの表現で……ということですよね。確かに思い当たる節があります。
須田氏:
作品の舞台によっても描き方は変わるものですしね。今回は,世界を股にかける男が各地で悪意に触れていくという物語を,ハイパーリアリティの世界で描いたわけですが,現代の現実の世界の延長にあるような世界観で描くことも可能でしょう。
自分にとってすごく大事なテーマなので,今後もいろいろな形で描いていきたいと思っています。
4Gamer:
なぜ,そこまで悪意というものを描こうと思うんでしょうか。何か人の悪意によって,酷い目に遭ったことがあるとか……?
ムフフフ……。
4Gamer:
そんなときは,「あいつ,闇に飲まれやがって……」と思うわけですね?
須田氏:
ムフフフ……。そうですね,妄想と経験でそういったことを考えながら,ビデオゲームとしてどういう遊びと映像に作り上げられるか,どこまでなら表現できるのかを考えながら,シナリオを書きました。
ただ,この作品のキャッチフレーズは「21世紀の大人たちに贈る愛と処刑の“ファンタジー”」というものなんですが,やはりファンタジーの部分を大事にしたかったんですね。悪意だけが前面に出ているのではなく。
4Gamer:
フィクションの世界で遊ぶからには,ファンタジーの部分がないとしんどくなってしまいますし。
須田氏:
なので,奥底には悪意というものがあるんですが,ハイパーリアリティのファンタジーとして,まったく新しいオリジナルの作品を作ろうという部分は,強く意識しました。
そして何より,角川ゲームスさんも,ディレクターの新を含めて現場のみんなも,新しいゲームを作ろうというところに目線を向けてくれたので,ちょうどいいバランスになったんじゃないかと思っています。
角川ゲームスの安田社長が,
あのモンドガールを生み出した?
4Gamer:
プレイ中,日本刀に似た武器を使う男性主人公として,モンドを操作しながら,「NO MORE HEROES」のトラヴィスをついつい思い出してしまったんですが,性格的には正反対ですよね。モンドはクールで,しかもモテますし。
須田氏:
そうですね。……いや,モンドもバカですよ。とくにジゴロモードなんて,隙丸出しですもん。
4Gamer:
あ,確かに。
須田氏:
クールに気取りながらジゴログラスをかけても,やってることは下着姿の盗み見ですからね。可愛いでしょう?
4Gamer:
可愛いといえば可愛い……のかな?
ジゴロモードの話題が出たのでお聞きしたいんですが,3人のモンドガールはそれぞれ異なる魅力を持っていますよね。何を狙って,ああいったタイプ分けをしたんでしょうか?
須田氏:
そこを説明すると,非常に長くなるんですけど,大丈夫ですか?
4Gamer:
もちろんです。お願いします。
須田氏:
ジゴロモードは,合議制で作り上げていったんです。ベースの仕様は新が作り,僕や角川ゲームスの安田社長,そしてこのゲームの担当者が主なメンバーとなって。で,そのときどきで,メンバーそれぞれが「ジゴロモードはこういうものだと思うんです!」と,話を引っ張っていくんですね。それに対して,ほかの参加者があれやこれやと意見を出し合っていくような形で,毎週のように語り合いました。
そして新が,世界中にいる10数種類の美女の設定と簡単なビジュアルを用意しました。そこから実際にデータとして作り上げるには,3〜4人に絞る必要があったんですが……。
4Gamer:
ですが……?
須田氏:
そこからはもう,壮絶な主導権争いが始まりました。
まず,絶対的な一票を持っているのは安田社長です。安田社長が「これ」と言ったものは,必ずゲームに入れよう,と。その次が僕の票なのかな? と思っていたんですが,角川ゲームスの担当者が譲らないわけですよ。
なので,二人が決めた残りの1〜2枠を,みんなでバランスをとりながら決めていくという形に落ち着きました。
4Gamer:
さぞかし熱い議論が交わされたんでしょうねぇ。
須田氏:
熱かったですよ。角川ゲームスさんの会議室の室温も,議論に熱が入るに従って,ぐんぐん上昇していきましたから。最後のほうは汗だくです。そうやって決めた,選りすぐりの美女達をぜひお楽しみください。
4Gamer:
ところで,安田社長は誰を選んだんですか?
須田氏:
小春です。和服の美人が欲しい,と。
新 英幸氏(以下,新氏):
新君,君は本当の京都を知ってる? なんてところから入りましたね。確か。
須田氏:
それで,芸者遊びっていうのはね……というところから,僕らの知らない世界をいろいろとレクチャーしていただいたんです。
でも僕らは,実体験として何も知らないわけですから,研究のために連れて行ってほしかったんですけど。
4Gamer:
帯回しとか……。
新氏:
ええ。本当の帯の長さとか,今でも知りたいですもん。
じゃないと,ひょっとしたら僕が嘘つきになってしまったとしても,そのことに気付くことすらできないですから。
4Gamer:
それは避けたいところですね。無事,安田社長に京都へ連れて行ってもらえる日が来ることを願っています。
ともあれ,結果的に安田社長が思い描く京都の和風美人像が,ストレートに小春に込められているという解釈はできそうです。
須田氏:
そういうことになります。
新氏:
「こんな感じですか?」「いや,本当の京都はそんなものじゃない」みたいなやりとりを重ねながら作っていきましたから。
4Gamer:
ではもう,本当の京都とは小春であると言い切っても……。
須田氏:
大丈夫でしょう!
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(C)GRASSHOPPER MANUFACTURE INC. / Published by KADOKAWA GAMES
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