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[TGS 2012]「これからはLightでRich」。gloopsがソーシャルゲーム開発の方向性を語る
そのキーワードは「LightでRich」(ライトでリッチ)。そんな講演の内容をまとめてみよう。
ソーシャルゲームは「5分」「ループ」「コミュニケーション」
講演でまず大和屋氏は,ソーシャルゲームの特徴を「5分」「ループ」「コミュニケーション」と定義した。具体的な意味は下記のとおりだ。
- 5分:1回のプレイが5分でも成り立つこと
空いた時間に,息抜き的に遊べるソーシャルゲームは,短い時間で楽しめるのが必須条件 - ループ:ゲームのデザインに終わりがないこと
リリースしてからが“本番”であり,ユーザーに楽しんでもらうため,定期的にイベントなどの施策を行う必要がある。「それには絶え間なく開発作業を進めなければならない」(大和屋氏) - コミュニケーション
ユーザー同士が挨拶したり会話したりできること
「この『リッチな表現』が大量のデータを必要とするもののことを指すのであれば,単純にそちらの方向へ向かうのは難しい」と大和屋氏は“サーバー屋”の立場から述べる。
多くの人が使う3G回線は,その転送速度が決して高速ではないため,大容量のデータを転送するには向かない。大量のデータをダウンロードさせることによって,その時間が長くかかってしまうようだと,上に挙げた「5分」――すなわち「どこでもプレイできる」というソーシャルゲームの特性を活かせなくなってしまうのだ。また,ゲームをプレイするプラットフォームとなる携帯電話やスマートフォンには,機種間で性能にばらつきがあるため,大量のデータをダウンロードしたところで,それをプレイヤーが期待する速度で処理できる保証はない。
こうした現状を踏まえ,今後のソーシャルゲームは,データ量が小さく(Light),それでいて見栄えのよい(Rich)な表現を目指す必要があるというのが,大和屋氏の主張だ。
いかにしてデータ量を抑えつつ
豊かな表現を目指すのか
さて,一口に「データ量を小さくする」といっても,さまざまな方策が考えられるが,gloopsでは「リクエスト回数の削減」「独自ライブラリの開発」「HTML5・CSS3などの活用」といった手法をとっていると,大和屋氏は述べている。
ソーシャルゲームでは見栄えをよくするためだけの目的でボタンなどさまざまなパーツが増えている傾向にあるが,思い切って減らしたり,ときには使い回したりする割り切りによって,データを呼び出す回数そのものを減らすのは,かなり有効であるとのこと。また,既存のライブラリは汎用性が高い半面でデータ量が大きくなるため,ライブラリ自体を軽量化するのも有効だそうだ。
そして,画像などで表現していたものを,HTML5やCSS3などに置き換えるのも,データ転送量の削減には効果的だという。
「ただ漠然と『ボタンを派手にしたい』『画面を綺麗にしたい』といった理由でUIを変更するのではなく,『何のために改修するのか』を議論し,目的を明確化したうえで初めて作業にかかる」のだと,大和屋氏は述べていた。要するに,転送データ量を抑えつつ豊かな表現を実現するという目的に向けて,どの部分でデータ量の増加を許し,どの部分で徹底的に削るのかを検討する,ということなのだろう。
なお,このとき重要になるのが実際のユーザー動向データで,gloopsには「データ様に聞け!」という標語があるとのこと。ユーザーの実プレイデータを追うことにより,どこが使いにくいか,どこの画面で離脱しているかなどを細かく分析し,「何をすべきか」「UIの改修が成功したと言えるのはどういう状態になったときか」を定義するとのことである。
ユーザー動向を追っていくというのは
ソーシャルゲーム以外でも有効か
ここまでのまとめは以下のとおりだ。
- ソーシャルゲームの利点はいつでもどこでも遊べることにある
- そのためには,短い時間で満足できる必要がある
- 短い時間で満足してもらうには,ゲームの起動や処理に時間をかけないほうがいい
- それを実現するためには,転送されるデータ量は少ないことが望ましい
- 一方,ライバルが多いなかでプレイヤーに選んでもらうためには,表現の豊かさも必要だ
- ユーザーデータを分析し,それを基に,UI内の必要な部分で表現を豊かにしていく。同時に,削減できるデータは可能な限り削減する
大和屋氏は「ソーシャルゲームは転換期を迎えていると考えている。表現が豊かになればデータ量は増えてしまうので,不快な待ち時間を削減すべく,UI専門チームを中心として,LightでRichな表現を目指していく」と講演を締めくくっている。
目標をクリアにするため,実際のユーザー動向を細かく調べていくというのは実にソーシャルゲームらしい手法だが,あらかじめ目標を理詰めで定義しておくことにより,無駄な試行錯誤が防げるというのは確かにあるだろう。ソーシャルゲーム業界だけでなく,“非ソーシャル”なゲーム業界からしても興味深い話といえるのではなかろうか。
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