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黒川さん,飯田さん,なんでこんなことやってるんですか?――ベテランゲーム開発者がインディーズゲーム&クラウドファンディングに挑む理由
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印刷2013/05/25 12:30

インタビュー

黒川さん,飯田さん,なんでこんなことやってるんですか?――ベテランゲーム開発者がインディーズゲーム&クラウドファンディングに挑む理由

 セガ,デジキューブ,ブシロード,コナミ,そしてNHN Japanなど,多くのゲーム会社でキャリアを積み,また自身で会社を立ち上げたこともある黒川文雄氏が,最近,とても面白い取り組みをしている。
 ゲーム業界やその周辺で活躍するさまざまな人物とのディスカッションを繰り広げる「黒川塾」に加え,さらにインディーズゲーム「モンケン」の開発プロジェクトを,クラウドファンディングを活用した企画として展開。企業からの出資をあえて受けずに,一本のゲームを完成させるという試みを行っているのだ。

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「モンケン」(PC / OTHERS
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 モンケンとは,黒川氏を筆頭に,ブレインストーム 代表取締役 中村隆之氏,ゲームグラフィックデザイナーの納口龍司氏,そして「アクアノートの休日」などの産みの親として知られるゲーム作家・飯田和敏氏の4人によって結成された「チーム・モンケン」が開発を行っているスマートフォン向けのオリジナルゲーム。あの「浅間山荘事件」をモチーフにしているという,一風変わった世界観が大きな特徴だ。

みんなでつくる!インディーズゲーム「モンケン」制作プロジェクト

「モンケン」公式サイト


 ゲーム業界の一線で活躍してきた大ベテランとして,錚々たる経歴を持つこの4人が,なぜあえてインディーズという場を選んだのか。その意図や目的とは,一体なんなのだろうか?
 そもそも,黒川氏といえば,セガでは大作タイトルの広報活動を行い,デジキューブでは執行役員,ブシロードでは副社長を務めるなど,やり手のビジネスマンとしても知られる。一方で飯田氏などは,その独特の個性をウリにする生粋の作家である。そんな相反しそうな二人が,なぜ協力してプロジェクトを行っているのか。

 4Gamerでは,チーム・モンケンの面々にインタビューを行い,本プロジェクトを実施するに至った背景問題意識,そして各々の思いについて聞いてみることにした。急激に変化していくゲーム業界を渡り歩いてきた彼らは,何を思い,何を考えて,新しい取り組みに挑戦しているのだろうか。

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黒川文雄(くろかわふみお):東京都生まれ。アポロン音楽工業,ギャガコミュニケーションズ(現在のギャガ)を経て,セガエンタープライゼス(現在のセガ)に入社し,ゲーム業界へ。その後,デジキューブ,ブシロード,コナミ,そしてNHN Japanなど,多くのゲーム会社でキャリアを積み,自身でもデックスエンタテイメントを立ち上げた経歴を持つ。現在は,メディアコンテンツ研究家として活躍。「黒川塾」を主催している
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飯田 和敏(いいだかずとし):東京都生まれ,千葉県育ち。多摩美術大学油絵科卒。ゲーム作家。代表作品「アクアノートの休日」「太陽のしっぽ」「巨人のドシン」「ディシプリン*帝国の誕生」「エヴァンゲリヲン新劇場版-サウンドインパクト-」など。2011年に日本科学未来館常設展示「アナグラのうた〜消えた博士と残された装置〜」の演出を担当し,第15回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞した

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中村隆之(なかむらたかゆき):東京都生まれ。セガエンタープライゼス(現セガ),ドリームファクトリーを経て独立。現在はブレインストーム代表取締役。ゲームミュージックを手がける作曲家。代表作は「バーチャファイター」「剣豪」「LUMINES」シリーズなど
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納口龍司(のうぐちりゅうじ):埼玉県生まれ。ゲームグラフィックデザイナー,イラストレーター,アーティスト。有限会社パンチラインの創業等を経て,現在はフリー。代表作は「チュウリップ」「牧場物語 わくわくアニマルマーチ」「ディシプリン*帝国の誕生」など


黒川さんは「プロ失格」です


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 単刀直入にお聞きしてしまいますが,なんでまた,黒川さんたちはこんなこと(モンケンのプロジェクト)をやっているんです?

黒川氏:
 ちょ,いきなりなんですか。4Gamerさんまで!

4Gamer:
 いや,これだけのメンバーが集まって,あえて小さなインディーズゲームを作るのって,端から見たらやっぱり“不思議”だと思うんです。それぞれが業界の第一線で活躍してきた方々ですし,普通に企業に売り込むなりしてゲームを作った方が早いんじゃないですか?

飯田氏:
 んー,あれじゃないですか。プロジェクトの経緯を説明する前に,まず黒川さんについての誤解を解いた方がいいんじゃないですか?(笑)

4Gamer:
 誤解,ですか?

飯田氏:
 はい。黒川さんの世間的なイメージって,どちらかというと“ビジネス寄り”じゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。さらに付け加えるなら,経営者/経営層ってイメージですよね。政治力/大人力ありそう,みたいな。だから,こんな変な取り組みをしなくても,普通に営業して企画を通せばいいのにって思っちゃうんです。

飯田氏:
 いやでも,「この人,案外そうでもないよ?」というね(苦笑)。

4Gamer:
 ええっ。

黒川氏:
 あの,まず前提としてお伝えしておきたいんですけど,僕自身に,そんなに政治力があるわけではありません。

4Gamer:
 いやでも,NHN Japanに入社して,日本のゲームメーカーとの共同開発プロジェクト()を推進したのは黒川さんですよね?

※NHN Japanと国内のゲームメーカーによるブラウザゲーム開発プロジェクト。代表的なタイトルは「戦場のヴァルキュリアDUEL」「イージーダイバー」など

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黒川氏:
 えーと,そもそものお話からすると,僕は2011年に,日本のゲームメーカーとの共同開発プロジェクトを実現するためにNHN Japanに入社しました。個人的なことを言えば,僕もそろそろキャリアを閉じることを考える年齢になります。ある意味“骨を埋める覚悟”でNHN Japanに入ったわけですが,結果としては途中でプロジェクトから外される形となり,納得のいかない部分があった。

4Gamer:
 ふむ……。

黒川氏:
 で,ぶっちゃけてしまえば,2012年の6月頃,僕はとくにやることもなくて,とても暇になってしまったんです。そしてその時に,いろいろなゲームの企画や黒川塾などの構想を練っていました。

4Gamer:
 その中にモンケンの企画も含まれていた?

黒川氏:
 モンケン以外にも,いろいろなビジネスプランを考えていて。実際,NHN Japanを退社してからは,そうした企画を携えて,各社を回ったりしていたんですよ。自分の経験と人脈を活かしたプロジェクトを立ち上げたいと考えていました。……でも,やっぱり今の時代,業界的には「世を席巻しているソーシャルゲーム,とくにカードゲームを作らなければならない」というような風潮があったんですね。

4Gamer:
 最近はまた流れが変わりましたけれど,1〜2年前は本当にそんな感じでしたよね。

黒川氏:
 ええ。どこに企画を持って行っても,「で,それはKPI()要件を満たしているんですか?」みたいな話になる。なんじゃそりゃと思ったわけです。古くからゲーム業界に携わる人間として,僕は,その風潮にとても違和感を覚えていたんですね。本来ならまずゲーム作りが先にあって,その中の一つの要素としてKPIを実現するべきなのに,実態はKPIが先にあって,それを実現するためのゲームを作っているような状況になっているんじゃないかと。

※KPI(けいぴーあい):重要業績評価指標。オンラインゲームやソーシャルゲームでは,主に会員獲得数や継続率,課金率などを指すことが多い。

4Gamer:
 ふむ……。

黒川氏:
 僕がどんなに「こういうことをやってみたいんだ」という説明しても,もう,けんもほろろな感じで。いや,僕も企業人だったから,お金を出してもらうために「どれくらい収益いくんだ」とか,「なにをするためにこの予算がいるんですか」とか,そういう話になるのは分かるんです。

4Gamer:
 まぁ,コストをかけるからには,それは回収しないとビジネスになりませんからね。

黒川氏:
 はい。でもね,そこにあまりに寄り過ぎてしまうと,必ず先細りになるし,どこかで行き詰まるじゃないですか。もちろん,単に企画を通すだけなら,相手の希望に合わせて「今の時代に合う企画」を用意すれば,それっぽいプロジェクトを立ち上げることはできたかもしれません。しかし,先ほども言ったように,僕のキャリアは終盤に差しかかっています。「最後の仕事がそれでいいのだろうか」という葛藤があった。その時,改めて「自分の知識や人脈を活かして,何かできることはないだろうか」と考えたんです。

4Gamer:
 その答えが「モンケン」であり「黒川塾」ということなんですか?

黒川氏:
 凄くシンプルに言えば,「自分が尊敬できる人達と,自由に何かを作ってみたい」ってことですよね。最初は,ちょっと色気を出して,こういう企画があるんですけどって,メーカーさんに提案したりもしていたんですが。

飯田氏:
 どれだけ僕らが「これはイケる」と思う企画を立てたとしても,実際には,プロジェクトとしてスタートするどころか,話を聞いてもらえることさえ稀で。「まぁまぁ,飯食いに行こう」みたいな感じでうやむやにされることが多いんですよ(苦笑)。

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黒川氏:
 そうそう(笑)。

4Gamer:
 なるほど。

黒川氏:
 で,何度も交渉を重ねるうちに,もう「(交渉をしていて)面倒くせーな,こいつら」みたいに思ってしまったんですね。「だったら,もう自分でなんとかしてやるわ」みたいな。

飯田氏:
 そういう意味じゃ,黒川さんは「プロ失格」ですよね。ビジネスマンとしてちゃんと交渉してない。放り投げてますから。

一同:
(爆笑)。

黒川氏:
 だから,インディーズなんじゃないですか!(笑)

飯田氏:
 まぁでも,なんかいろいろ殊勝なこといってますけど,要するに,現在のゲーム業界の風潮に「ブチ切れた」と。そういうことですよね。

黒川氏:
 そうですね。ブチ切れたんです。だって,企業がお金を出してくんないんだもん。

中村氏:
 つまりそれ,「ロックンロール」ってことですよね。

黒川氏:
 そうですね。ロックンロールです。

飯田氏:
 「わけわからん」ってことですよね。

黒川氏:
 そうです。

飯田氏:
 要するに,黒川さんは「発狂した」ってことですよね。

一同:
(爆笑)。

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このままじゃ,きっと食えなくなるぞ


4Gamer:
 え,えーと,じゃあモンケンのメンバーは,そうした危機感や不満を背景にして集まったってことなんですか?

納口氏:
 僕が抱いているのは,不満と言うよりも不安ですね。このままじゃ,きっと食えなくなる。食えたとしても,納得できない仕事をやり続けるはめになるぞっていう不安です。

4Gamer:
 具体的に,そう思うきっかけが何かあったんですか?

納口氏:
 僕は,つい先日まで企業に所属して絵を描いていたんですが,その会社で,スマートフォン向けゲームのプロジェクトが進行していたんです。僕は直接関わっていなかったのですが,隣で見ていて,「あれ,ゲームの企画ってこんなでいいの?」と思うことが多かったんですよ。
 たとえば,あるプロジェクトでは当初,業界ではあまりない試みとして企画がスタートしたのですが,最終的にはKPIの要件を満たしているという理由だけで開発が進んでしまったんです。結果,ほかの部分との整合性が取れないまま進行していましたから,いろいろかみ合わない状況で大丈夫なのかなと思っていたら,案の定,リリースしても泣かず飛ばずでした。しかも,その責任を誰も取らないんですよ。

4Gamer:
 それを見て,業界全体がよくない方向に向かっていくんじゃないかという危惧を抱いたということですか?

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納口氏:
 はい。これが特定の会社だけの問題なのかというと,どうもそういうわけでもないらしい。それに,そのプロジェクトの話をもう少しすると,最後には,そのゲームが扱っているテーマに興味を持っている人が一人もいなくなっちゃったんですね。そんなチグハグな状況で,好きでもないゲームを作っていて楽しいのか?と思ってしまって。

中村氏:
 「黒川塾(伍)」のとき,ゲストの山本一郎さんがおっしゃっていたんですが,今,ゲーム開発に携わっている人というのは,必ずしもゲームクリエイターだけではないんですよね。これだけ業界や企業の規模が大きくなると,中には移植やローカライズなど,純粋にゲームを作るのではなくて,その周辺の作業をしている人もたくさんいます。
 そういった環境では,皆が「面白いゲームを作ろう」という一つのモチベーションを持つことは不可能ですから,サラリーマン的に与えられた仕様に沿ってプログラミングをしたりデザインをしたりという作業が増えていきます。とくに,収益性を求められるソーシャルゲームなどは,そういった側面が強く出るんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。

中村氏: 
 その状況が,作りたいゲームがあるクリエイターにとって障壁となっていますし,ひいては大きなゲーム企業の抱える問題点になっていますよね。僕個人で言えば,大作ゲームのサウンドを受託できればブレインストームという会社の大きな収入になりますが,一人のクリエイターとして本当に面白い仕事ができているかと言うと,それはまた別の問題ですし。

飯田氏:
 たとえば「アイドルマスター シンデレラガールズ」なら,作っている人が好きなんだろうなということが分かります。だから,ほかのソーシャルゲームと同じ仕組みを使っていても,遊んでいてちゃんと「気持ち良さ」があるんですよ。だけど,世の中には作り手の思いが乗っかっていないゲームが溢れ,しかも,それがビジネスとして成立してしまっています。作り手としては,そこは歯がゆいですよね。

納口氏:
 一方で,黒川さんから「モンケン」の話を聞くのと前後して,「おさわり探偵 なめこ栽培キット」がヒットし話題になりました。いい意味で「あれ,こんなのがはやっちゃうんだ」と思いましたし,これからはゲームはこういう風に作らないとダメだろうとも思いました。誰からも口を出されず,楽しく作ったものがヒットにつながるようでないと,やっぱりダメなんじゃないかと感じたんです。

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飯田氏:
 どうせ先行き不安なら,楽しいほうがいいだろうということですよね。別の言い方をすると,食えない理由を他人のせいにしたくないというか(笑)。会社が潰れるということは,つまり経営陣の失敗ですが,そういう部分も含めて全部自分の責任でやりたいということなんです。

4Gamer:
 これも聞いていいものかどうか迷うのですが,「モンケン」の開発費ってどうなっているんですか?

黒川氏:
 端的に言えば,自腹です。今いる4人のほかに,もう一人いるプログラマーも含めて,全員自腹。

4Gamer:
 余計なお世話かもしれませんが,それで大丈夫なんですか?

納口氏:
 個人的な話ですが,実を言うと,僕はこれまでのキャリアの中で,最初は自腹でも,あとで成果につながるような経験を何度もしているんですよ。たとえば僕が携わった2002年発売の「チュウリップ」の企画当初が,まさに今のような感じでしたね。当時所属していたアクセラという会社がなくなることが分かっている状況で,お金になるかどうかの保証もないまま有志数人が集まったんです。そして,木村祥朗さんが企画を立てて,僕が絵を描いて,結果として予算を出してくれるところが見つかってプロジェクトとして成立しました。
 そういう経験があるので,決して楽観視はしていないのですが,今回も何かしら次につながると考えています。それに今,どこかに所属しても,前の会社のような思いをするだけでしょうし。


ハチャメチャが許された昔のゲーム業界


4Gamer:
 お話を聞いていると,やっぱり現状のゲーム開発のあり方に対する不満というか,問題意識は強いのかなと思ったのですが……。一方で,昔のゲーム開発って,そんなに今と違っていたんですか?

飯田氏:
 少なくとも僕の経験でいうと,分け隔てない雰囲気というか,そういうのは今よりも強かったと思います。それこそ百戦錬磨のベテランも,バイトの子も,“天才”と言われるようなクリエイターも,分け隔てなく「どうしたら面白くなるのか」というテーマで話し合っていました。若くて経験が少ない子の意見であっても,尊重されやすい空気はあったんじゃないかな。

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中村氏:
 僕は,以前はセガに勤めていたんですけれど,あの時(20年前)のセガって,「どうすれば面白いゲームになるだろうか」ということを,プログラマーだろうがデザイナーだろうがサウンドクリエイターだろうが,今よりもチーム全体で考えていたような気はしますね。もちろん,今は今でちゃんとやっているんでしょうけど,なんと言うんですかね。当時はもっといろいろな意味で大らかだったと言いますか。

黒川氏:
 企画の動き方も,今とは全然違っていましたよね。「ちょっと面白いアイデアが浮かんだので,作ってみました」とか,勝手にプロトタイプを作ってから,直接上司に見せに行ったりして。さらにその上司が「面白そうだね,デザイナーも入れる?」とかいって,プロジェクトを実際に走らせたり。

中村氏:
 そうそう。

4Gamer:
 その「勝手に作っちゃった」というのは,自分の仕事が終わった後に自主的にやっていたということですか?

中村氏:
 いや,むしろ仕事中……ですかね(苦笑)。みんな会社員なんだけど,とにかく“好き勝手にやってる奴”が多かったんですよ(苦笑)。

納口氏:
 というか,昔のゲーム会社って「何しているんだか分からない人」って,結構いませんでした?(苦笑)

一同:
 (爆笑)。

飯田氏:
 いたいた(笑)。

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中村氏:
 でも,それが許された時代だったんですよね。

4Gamer:
 今のソーシャルゲーム業界とかって,ヒット一発の爆発力は黎明期のゲームかそれ以上なのに,そういう昔のゲーム業界にあった大らかさというか,適当さ(?)ってあんまりないですよね。良くも悪くも。凄いカッチリしていて,とてもビジネスライクに見えるところはある気がします。

飯田氏:
 昔は,ヒット作が一本出れば,本当にビルが一つ建つくらいの売り上げになりましたから,経営者も寛容でいられたんでしょうね。それが市場が成熟するにつれ,だんたんと経営の質も変わっていって。決算時にきちんとした数字を見せなければならなくなるなど,状況も変わりました。それは誰が悪いという話ではありません。
 ただ,そうなったからには,自分達のやりたいことは自分達でやるほかないということになるんですよ。


「アクアノートの休日」は神様が作った


4Gamer:
 ときにモンケンって,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス()を謳っていて,第三者による改変を前提としていますけど,なぜまた,そんなことをやろうと考えたんですか?

※クリエイティブ・コモンズ:著作物の適正な再利用の促進を目的として,著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための国際的非営利団体の名称。同団体が策定した一連のライセンスは,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスと呼ばれる。

黒川氏:
 一つは,ドミニク・チェンさんの書いた「フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環」を読んで,大きな感銘を受けたからですね。この本は,インターネットでさまざまなデータが瞬時にシェアされる状況において,どのようにコンテンツを継続させるか考えたとき,「こういう手段もあるよ」というのを説いたものです。

4Gamer:
 改変や改造は自由,ということですか。

黒川氏:
 ええ。基本的には性善説に基づくのですが,著作権を開放することで,僕らの作ったゲームをベースに,ステージを拡張したり,ゲーム性を高めたりすることができるんじゃないかと。それこそLinuxがそうだっように。

飯田氏:
 いわゆる「フリーカルチャー」の思想ですよね。もっと言えば,クリエイティブ・コモンズの考え方は,Linuxよりさらに前,北米の西海岸でPCが登場した頃のヒッピーカルチャーが源流にあって。そこには,自由でない暮らしを余儀なくされる,現代社会への反発がありました。

4Gamer:
 でも,飯田さんはや納口さんは,どちらかというと作家性の強いクリエイターで,周囲も「飯田さんならでは」みたいなものを求めるとも思うんですよね。そこから考えると,フリーカルチャーとの相性はあまりよくないんじゃないか?とも思うのですが。

飯田氏:
 ん? でも,僕はもともとフリーカルチャー側の人間ですよ。だって,デビュー作の「アクアノートの休日」も,あれは僕が作った世界ではなくて,自然が作ったものをデジタルで表現しただけですから。だから,「アクアノートの休日」を指して,「あれは誰が作ったの?」と聞かれたら,僕は「神様です」と答えます。

ゲームアーカイブス「アクアノートの休日」
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一同:
 おおおっ。

4Gamer:
 そのあたりの感性はさすがですよね。

黒川氏:
 「ゲーム作家」を名乗るだけあるなって感じますね。

飯田氏:
 んん。まぁただ,それって別に良い意味だけでもなくて。単に「プロフェッショナルとしての割り切りができない」ということでもあるんですよね。だから別に「作家だ」って威張ってるんじゃなくて。こういう生き方しかできないだけなんですっていう。その点,中村さんとかは本当のプロですよね。職人的というか,仕事に徹することができるのは凄いと思う。

中村氏:
 いやいや……。僕からすると,やっぱり飯田さんの方が「偉大な作家さん」だなって感じますよ。

飯田氏:
 まぁ,野球よりはサッカー(作家)かなとは思ってますが。

一同:
 ……

飯田氏:
 あ,つまんないこと言っちゃった。

一同:
 (爆笑)。

黒川氏:
 受けてますよ。


  • 関連タイトル:

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