レビュー
アナログ接続型で約3万円。ヘッドフォン大手のゲーマー向けモデルは何が違うのか
Sennheiser Communications
G4ME ZERO,G4ME ONE
Sennheiser Communications(ゼンハイザーコミュニケーションズ)製の2製品は,G4ME ZEROが大会での使用や携帯性を重視した密閉型,G4ME ONEがホームユースを前提とした開放型になっているという違いはあるものの,ほぼ同じ価格レンジに属し,アナログ接続ヘッドセットで,外観も非常に似ていることから,今回は2製品まとめて評価しようというわけだ。
イケてる見た目ではないが
装着感は良好なG4MEシリーズ
そしてSennheiser Communicationsだが,同社は,そんなSennheiser electronicと,補聴器メーカーやその関連メーカーを束ねるデンマーク企業・William Demant Holdingとの合弁となるヘッドセットメーカーである。ブランドとしてはヘッドフォンやマイクと同じSennheiserを用いているため,Sennheiser Communications製となる今回のG4ME ZEROとG4ME ONEを「Sennheiserのヘッドセット」と理解しても,エンドユーザーレベルで問題が生じることはまずないだろう。
さて,今回入手したのは,これまでもゲーマー向けヘッドセットを投入してきた実績のあるSennheiser Communicationsが初めて「G4ME」(ゲーム)という名を与えたシリーズのホワイトモデルである。実のところ,本国ではブラックモデルの用意もあるようだが,少なくともいま国内で入手できるのはホワイトだけであり,そしてその外観は「形状こそ“とてもSennheiser”ながら,色味や質感はそれっぽくない」印象だ。端的に述べて,第一印象から「イケてる」感じはせず,もっと辛辣に言えば「この外観でこの価格?」といった感じである。
ただ,装着してみると非常に快適で,あらためて,Sennheiserというブランドが持つノウハウの奥深さに舌を巻く。以下,写真とキャプションで「見るべきポイント」をまとめてみたので,参考にしてもらえれば幸いだ。
まったく異なる出力音質傾向。Sennheiserサウンドに近いZEROと,低強高弱のONE
というわけで,テスト結果の考察に入ろう。
筆者のヘッドセットレビューでは,PC上で実行した「iTunes」を用いた音楽試聴テストと,「Razer Surround」の有効/無効を切り替えながら行う「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,CoD4)および「Battlefield 3」(以下,BF3)の試聴テストを行うことにしている。ゲーム機に対応した製品の場合は,それら基軸テストに加えて,対応ゲーム機でのテストも行うことになるわけだが,G4MEシリーズはPC用なので,テストはPCのみだ※。
※Sennheiser Communicationsは,3極×2を4極×1へ変換するケーブルアダプター「PCV 05」を使うと,PlayStation 4やXbox Oneのゲームコントローラと接続できるとしているが,国内では,Sennheiser Communications日本語公式Webサイトで,「充分な音量が得られないためご利用はお薦めしておりません」(原文ママ)としている。海外と国内では扱いが異なるので,この点は押さえておいてほしい。
なお,テストに用いたPCシステムは表のとおり。Razer Surroundは,Razerの統合ツール「Synapse 2.0」によって最新版へアップデートされるため,バージョンは「テスト時点の最新版」ということになる。バーチャルサラウンドスピーカー以外の設定は初期状態のままにしてあることもここで述べておきたい。
最初にはっきりさせておくと,G4ME ZEROとG4ME ONEでは音質傾向がまったく異なる。なので,出力される音を聞くことなく,ただ「密閉式だから」「開放式だから」と選択してしまうと大失敗しかねないので,その点は十分に注意が必要だ。
■G4ME ZERO
まずはG4ME ZEROだが,一言でまとめるなら,その音質傾向はいわゆるSennheiserサウンドに近い。Sennheiserについては,筆者以上に詳しい人が世の中にはたくさんいるはずなので,あまり型に填めた言い方はしたくないのだが,あえてその特性をまとめるなら「スピーカーで言うとバスレフ式ではなく密閉型」「重低音までいるが,それより少し高い低音がタイトなので,ブーミーに聞こえない」「従って中域や高域の解像度も非常に高い」「そのお陰でクラシックの試聴やボーカルの質感を楽しむのに向いている」といったところか。G4ME ZEROの聞こえ方はまさにそんな感じである。
一方の低域は,字義どおりの低域として見ると少し弱いくらいながら,50Hz以下の重低域がしっかり伸びている。よく「自然に低域が伸びている」と評価されやすい音質傾向だ。厳しい言い方をすると,低域――重低域ではない――が多少デッドポイント気味で,低域と重低域のつながりが少々不自然に感じられるが,それは全体の完成度が高いために気になるわけで,多くのゲーマー向けヘッドセットはそもそもそこまでバランスを云々できるレベルになかったりする。重箱の隅を突けば,そういう指摘をできなくもない,といったところだ。
密閉型のヘッドフォンは一般的に,音が耳に張り付くというか,音が耳に近いところで鳴る傾向にあるのだが,G4ME ZEROではそんなこともない。あくまでも推測だが,ドライバーユニットに電力的な余裕があるとか,イヤーパッドが大きいためにドライバーとの距離が確保されているとか,ヘッドセット全体の設計が優れているとか,そういった理由によるのではなかろうか。
耳から適度な距離感をもって音が鳴るというのは,長時間,疲れずにゲームの音を聞き続けるうえでは必須の要素だと筆者は思っているが,その点でG4ME ZEROには合格点を与えられよう。
一点気になったのは,定位が少し左に寄ること。これはエンクロージャの容積が異なる生じがちなのだが,Sennheiserともあろうブランドがそんな初歩的な失敗をするわけはないので,おそらくは入手した個体固有の問題だと思われる。G4ME ZEROを購入したら,念のため左右の定位を確認して,初期不良かどうかを確認したほうがいいかもしれない。
ピンポイントな音源定位のチェックに適しているCoD4だと,後ろの定位は抜群ながら,前方はややふわっとしている。いつも書いているように,映像という強力な補助があるので,前方の音源がふんわりしていてもそれほどの問題ではないのだが,Razer Surroundでこういう傾向が出るのは珍しい(※Razer Surroundは自動でアップデートされるので,今後,変わる可能性はある)。
ただし,高域が意図的に抑えられたりはしていないため,当然のことながら銃声などは耳に付きやすく,大音量にはしづらい。
今となっては低域がスカスカであるCoD4のようなタイトルだと,低域はそのままスカスカに聞こえる。「誇張がなく,低域の迫力に無理矢理引っ張られることもない」という意味では,音情報を拾いやすいともいえるが,気には留めておいたほうがいいのではなかろうか。
BF3でも音質傾向は変わらずだ。ただ,重低域までしっかり存在する一方で低域がブーミー(=もわっとしていてバランスが取れていない状態)ではないため,「低音出すぎ!」ということにはならない。むしろ,低域は気持ち“抜けて”聞こえるため,今日(こんにち)的でリッチなサラウンド効果音との相性はよい。
ただ,重ねて述べておくが,プレゼンスは非常にクリアながらしっかり存在するので,銃声などは結構耳に付く。
■G4ME ONE
続いてG4ME ONEは,開放型(オープンエア,音漏れするタイプ)であるにもかかわらず,いわゆる「低強高弱」の,ゲーマー向けヘッドセットでよくある音質傾向になっている。プレゼンスはやや弱めで,それ以上の高域も,やはり少し弱めで,印象としては「低音重視で高音がスイート&スムーズ」といったところ。これは筆者の知る限り「Sennheiser製品らしい音」ではないのだが,それでも,実にうまくまとまっている。
ただ,プレゼンスとそれ以上の帯域がこれくらいスムーズだと,少し“ぬるい”と感じる人もいるだろう。実際,CoD4でプレイヤーキャラクターが発砲した銃の音や,BF3における大砲の音などは,音量を上げてもまったく耳に痛くない。
低強高弱でありながら,これほどまでにステレオの定位がしっかりしたゲーマー向けヘッドセットは希有と述べていい。おそらくこれが,「自宅でゲームを楽しむためのヘッドセットって,こういう音なんでしょ?」という,Sennheiserなりのメッセージなのだろう。
開放型ということもあって,音が耳に張り付く感じはもちろんなく,長時間のゲームプレイで不満を覚えることはないと思われる。
ちなみにG4ME ONE,開放型ではあるものの,音漏れはそれほどない。Sennheiserのハイエンドヘッドフォンだと“だだ漏れ”だったりするのだが,むしろセミオープンに近い印象だ。言われてみれば,スリットの空き方もセミオープン的である。
CoD4だと,後方の定位感は抜群。持続音がきちんと右から左へ移動する様子など,後方の音源定位がはっきり分かる,秀逸なレベルにある。銃声などといった,プレゼンス帯域の強い音源も耳に痛くないので,大音量を快適に楽しめる印象だ。
一方,前方の定位は,G4ME ZEROと同様にふわっとした印象があった。
驚いたのは,G4ME ONEで「戦車の砲塔回転音」がしっかり聞こえたことである。
想像できるように,この効果音は金属的なもので,低周波の単なる「ボー」という音だけでなく,高周波の「ウィーン,ガッシャン」という音も含まれる。そして,一般的な低強高弱の音質傾向だと,後者のニュアンスを聞き取りづらいのだが,G4ME ONEではそうではない,ということだ。「同様の音質傾向を持つ他社のヘッドセットでは聞こえなかった音が聞こえる」ということは,中域以上の周波数もしっかり再生されているのと同義であり,全体としてバランスはよいということになる。
以上,ここまでをまとめると,「大会で使う」「LANパーティで使う」という話をひとまず脇に置いた場合,密閉型スピーカーのような,タイトな低音が好きな人はG4ME ZERO,バスレフスピーカーのような迫力ある重低音が好きな人ならG4ME ONEがよい。
言い換えると,中高域の解像感やクリアさを重視するならG4ME ZERO,低域の迫力重視ならG4ME ONEということだ。これはもう方向性の違いなので,プレイヤー一人一人の好みで選ぶことになるだろう。ほぼ同じ筐体をベースに,まったく異なる音質傾向を実現できているのは見事だ。
ノイズキャンセリング機能は強力
携帯電話的な「山型」の周波数特性
お次はマイクだが,筆者のヘッドセットレビューでは,マイクの検証を,周波数特性および位相特性の計測,そして,マイクに入力した音を録音しての試聴という2パターンで行っている。計測方法の説明は長くなることもあって,本稿の最後に別途まとめてあるので,興味のある人は合わせてチェックしてもらえればと思う。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだ。
さて,本稿の序盤でも述べたとおり,Sennheiserは,「クジラ」と呼ばれる「MD421」をはじめ,定番化したプロオーディオ用マイクをいくつも有している。そんなSennheiserが,上位クラスのヘッドセットでどのようなアプローチをしてくるのかというのはある意味で非常に興味深いトピックなのだが,結論から先に述べると,やはり非常によくできている。しかも,プロオーディオ的なアプローチではなく,あくまでも民生機器,しかもネットワーク越しのVoIP(Voice over IP,ボイスチャット)がメイン用途であることを理解したうえで,きちっと仕上げてきた印象が強い。
というわけで,下に並べたのは,G4ME ZEROとG4ME ONEの周波数特性だ。1.4kHz付近の大きな凹みはテストに用いているスピーカーのクロスオーバーポイントなので無視してもらえればと思うが,それはともかく,2製品で周波数特性にほとんど違いがないのが分かるだろう。
強いて言えば,12kHz〜14kHzあたりでG4ME ZEROのほうがG4ME ONEより低めに出ており,実際にスピーチを録音してみても,G4ME ONEのほうがほんの少しだけ高域の抜けがいい。ただ,ネットワーク越しにはまず違いが分からないレベルでもある。もっと言うと,30Hz未満で波形に若干の違いもあるのだが,こちらはスピーチの録音でも違いは分からないレベルだった。
いずれにせよ,ここまで周波数特性が似通っている以上,G4ME ZEROとG4ME ONEでは部品レベルで同じものを使っていると見てまず間違いない。よって以下,とくに断りがない限り,以下に続ける話は両製品に共通の内容と理解してほしいが,全体の周波数グラフ形状は携帯電話的な特性になっており,プレゼンス帯域だけが大きく,低周波と高周波はすとんと落ち込むという,山なりだ。この形状は,ハイファイ的にはまったくよろしくないものの,携帯電話をはじめ,ネットワーク越しの通話には適している。
G4ME ZEROにおけるテスト結果。2つあるペインの上側に示した周波数特性は,グリーンがリファレンス。オレンジがG4ME ZEROのものだ |
こちらがGAME ONEのテスト結果。グリーンがリファレンスなのは上のグラフと変わらずである |
もう少し細かく見てみると,1.5kHz〜16kHzあたりが大きな山になっており,その下では125Hz〜800Hzあたりが気持ち下がって,125Hz以下では一度盛り上がってから大きく落ち込んでいく。携帯電話の周波数特性を踏襲しつつ,ワイドレンジ化したといったところだろうか。実際,公称の周波数特性も50Hz〜16kHzとほぼこのグラフどおりだ。
具体的には,口元の真正面に置かず,口よりかなり下に置くのがお勧め。口の上でもいいが,大きなマイクブームが視界に入ってうっとうしい思いをすることになる。口との距離が離れていても,マイクの感度は十分に高いので,スピーチを拾わなくなることはまずない(※どうしても音量が小さい場合はPC側で入力レベルの調整が必要になるが)。
テストしていて割と衝撃的だったのは,常時有効となるノイズキャンセリング機能の効果がとても高く,室内に一定レベルで存在する定常波ノイズたるフロアノイズをほとんど拾わないところだ。多少鼻づまりっぽい音にはなるが,ネットワーク越しならまず気にならないだろう。
シングル(=モノラル)マイクでノイズリダクション処理を行っている可能性もゼロではないが,内側と外側にマイク孔を持つことと,独特の鼻づまり感があることからすると,おそらくはステレオアレイマイクを用いたノイズキャンセリング処理が行われているはずだ。
……と,ここで,意地悪なテストを行ってみた。「G4ME ONEを装着した状態で音楽を大音量で再生し,その状態で自分の声を録音する」というものだ。要するに,開放型エンクロージャを採用するG4ME ONEで,マイクが音楽をどこまで拾ってしまうかどうかをチェックしたのだが,音楽はかすかに聞こえる程度だった。BGMや効果音を大音量で再生しながらでも,ノイズキャンセリング機能のおかげで,声以外が拾われてしまう心配はほとんどないというわけである。
高価格は膨大なノウハウの証
単なるブランド料ではない
しかし,実際に装着して実際に音を聴き,ゲームサウンドをチェックしてみると,少なくともSennheiser Communicationsは『ゲーム』の名が冠されたゲーマー向けヘッドセットをまじめに作ろうとしており,実際に,その結果となる製品が一度に2製品も出てきたのだということがよく分かった。
装着しただけで分かる快適さは,他社製品だとなかなか味わえないうえに,インラインリモコンがないことはむしろプラスで,操作性,実用性はともに高い。さらにマイクも,ゲームにおいて求められる方向性に沿った形で高品位に仕上がっている。
問題は価格だろう。実勢価格はG4ME ZEROが3万500〜3万4000円程度,
だが,本当に長時間,ボイスチャットを使ってゲームをプレイする,もしくはヘッドフォンでゲームをプレイするという人で,いま使っているヘッドセットやヘッドフォンに満足していない場合,G4MEシリーズは試す価値が大いにある。とくに装着感は白眉であり,「長年の実績を持つヘッドフォンメーカーの実力」をはっきりと感じることができるだろう。個人的には,合皮と布の両方で完璧な装着感をもたらしたG4MEシリーズは,ゲーマー向けヘッドセットの新しいベンチマークになると感じている。
また,アナログ接続型ヘッドセットなので,技術的な事情で“古く”なって使えなくなるという可能性が極めて低いのもポイント。一度買えば,長く愛用できる可能性があるのもプラス材料となるはずだ。
最近,老舗の高価格帯製品と聞くと,「ブランド料」と揶揄する向きがある。筆者自身も決して「老舗だからOK」という手合いではないし,アパレルやデジタルコンシューマ製品において,OEMやODMの製品を仕入れて,ブランドロゴだけ貼り付けて高値で売るというスタイルがあることなど百も承知だ。また,老舗がろくでもない民生製品を次から次へとリリースしているのを見て,ため息をついたことも一度や二度ではない。
しかし,テストした限り,G4MEシリーズが高価なのは,そういった「ブランド料」が乗ったからではない。かといって,部品代がやたら高くついたから,というわけでもないはずだ。これは,創業70年近いオーディオメーカーが蓄積したノウハウ料と述べていいのではないかと思う。
オーディオの世界は究極的にはノウハウの世界だ。G4MEシリーズを購入するということは,Sennheiserが培ってきたノウハウの活きている製品を入手できるということなのである。
ただし,何度も繰り返すが,人の音質傾向の好みはそれぞれ。G4ME ZEROとG4ME ONEではその方向性がまったく異なるので,購入するにあたっては,できる限り自分の耳でその音を確認してほしい。
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Sennheiser Communications日本語公式サイトのG4ME ZERO製品情報ページ
Sennheiser Communications日本語公式サイトのG4ME ONE製品情報ページ
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)を,SBX 20の前方30cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をSBX 20のアレイマイクへ入力する流れになる。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
PAZを動作させるのは,Sony Creative Software製のサウンド編集用アプリケーションスイート「Sound Forge Pro 10」。スピーカーからの信号出力にあたっては,筆者が音楽制作においてメインで使用しているAvid製システム「Pro Tools|HD」の専用インタフェース「192 I/O」からCrane Songのモニターコントローラ「Avocet」へAES/EBUケーブルで接続し,そこからS3Aと接続する構成だ。
Avocetはジッタ低減と192kHzアップサンプリングが常時有効になっており,デジタル機器ながら,アナログライクでスイートなサウンドが得られるとして,プロオーディオの世界で評価されている,スタジオ品質のモニターコントローラーだ。
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのマイクテストでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「音声チャット&通話用マイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット&通話用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,マイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
マイクに入力した声はチャット/通話相手に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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