インタビュー
今冬にβ版開始予定のクラウドゲームサービス「GeForce NOW」について,ソフトバンクとNVIDIAに詳しいところを聞いてみた
クラウドゲームサービスといえば,ソニー・インタラクティブエンタテインメントがPCとPlayStation 4を対象とした「PlayStation Now」をすでに国内でも展開しているほか,日本はサービス開始時点での対象地域に含まれていないものの,Googleの「Stadia」やMicrosoftの「Project xCloud」が,世界各地で正式サービスの開始に向けてテスト段階にあるという具合,急速な盛り上がりを見せつつある状況だ。
そんなクラウドゲームサービスの中で,GeForce NOWにはどのような特徴があるのか。そしてなぜソフトバンクが国内でのサービスを展開するのか。気になるところを,ソフトバンクとNVIDIAの担当者に聞いてみた。
GeForce NOWとは何か?
細かい説明に入る前に,GeForce NOWとは何かについて,簡単に説明しておこう。
GeForce NOWは,NVIDIAが展開するGPU仮想化システムを利用したクラウドゲームサービスである。GeForce NOWのユーザーは,Windows PCやMac,あるいはスマートフォンからGeForce NOWのクライアントアプリを起動して,クラウドサーバーに接続し,ゲームをプレイできる。
ユーザー側でキーボードやマウスなどの入力を行うと,その情報はすべてサーバー側に送られ,サーバー上で動作しているゲームを動かす。その結果としての映像と音声がインターネット経由でユーザー側に戻ってきて,PCやスマートフォンの画面に表示されるというのが,大雑把な流れとなる。
ゲームの処理はすべてサーバー上で実行されるため,ユーザー側でクライアントアプリを動かす機械に,ゲーマー向けPCのような高いスペックは必要ない。単体GPUを持たない薄型軽量モバイルノートPCでも動作するし,アプリの提供が始まれば,スマートフォンでもプレイできるというのが,GeForce NOWの大きな強みである。しかもサーバー側では,ハイエンドGPUである「GeForce RTX 2080」搭載のゲームPCに相当するマシンが動いているので,非力なノートPCで,リッチなグラフィックスのゲームをプレイすることも可能だ。
さらに,GeForce NOWで重要なポイントは,クラウドゲームサービスでプレイするゲームを新たに買う必要はないという点である。GeForce NOWは,最大のPCゲームプラットフォームである「Steam」をはじめとして,主要なPCゲームプラットフォームと提携することで,ユーザーがすでに所有しているPCゲーム500タイトル以上※をクラウド経由でプレイできるのだ。これまでは,自宅のPCでなければプレイできなかったPCゲームを,十分な性能のインターネット接続さえ確保できれば,出先や友人の家でもプレイできるのである。
すべてのPCゲームがGeForce NOWに対応するわけではないが,サービスの利用料金さえ支払えば,追加投資なしでクラウドゲームを利用できるという点は覚えておいてほしい。
※2019年9月時点での北米および欧州におけるβ版サービスでのタイトル数で,国内でのβ版サービス時点では,異なる場合がある。
さて,サーバーで処理するクラウドゲームと聞いて,遅延が気になる人もいるだろう。もちろん,インターネットを介する仕組みである以上,通信による遅延を一切なくすということは不可能だ。ゲームタイトルによっては,クラウドゲームサービスに向かないものもあるだろう。ただ,GeForce NOWのサポート対象ゲームは,NVIDIAやソフトバンク側で動作を検証して,遅延によってプレイが成立しなくなることはないと確認済みのタイトルであるため,基本的には遅延による悪影響はあまりないと考えていい。
また,GeForce NOWのクライアントアプリは,回線品質をチェックして,通信の帯域幅や遅延が許容範囲内に収まるかどうかを調べる機能がある。つまり,回線品質チェックで問題が出なければ,GeForce NOWでクラウドゲームをプレイするのに十分なインターネット接続があると理解していいだろう。
なお,GeForce NOW Powered by SoftBankを国内で提供するのがソフトバンクだからといって,同社の携帯電話サービスや光回線サービスと契約する必要はない。ソフトバンクが展開する他の通信サービスとは独立したサービスである。
最後に,現時点で明らかになっているGeForce NOW Powered by SoftBankの動作環境を示しておこう。PCに関しては,ほとんどのもので動作環境をパスできることが分かると思う。
- OS:64bit版Windows 7以降,macOS 10.10以降,Android 5.0以降(メインメモリ容量2GB以上)
- 通信環境:有線LAN接続,または周波数5GHz帯を用いる無線LAN接続(※IEEE 802.11ac)
- 通信速度:15Mbps以上,25Mbps以上推奨
- 入力デバイス:USB接続およびノートPC組み込みのキーボード,マウス
- 動作検証済みゲームパッド:
・PCおよびMac:DUALSHOCK 4,Xbox Wireless Controller,Xbox 360 Wireless Controller,Logicool G F710/F510/F310
・Android:Razer Raiju Mobile,SteelSeries XL/Stratus Duo
ソフトバンクとNVIDIAの担当者に聞く
GeForce NOW Powered by SoftBankで何を狙うのか
それでは,インタビューを通じてGeForce NOW Powered by SoftBankの詳しいところを聞いてみよう。今回,話を聞いたのは,ソフトバンクで新規事業推進部 部長を務める金子雄喜氏と,NVIDIA コンスーマーマーケティング部の鈴木悠里氏である。
ソフトバンク コンシューマ事業統括 新規事業開発室 新規事業推進部 部長の金子雄喜氏 |
NVIDIA コンスーマーマーケティング部 マーケティングマネージャーの鈴木悠里氏 |
まずは金子氏に,なぜソフトバンクがGeForce NOWの国内サービスを手がけるのかを聞いてみた。すると,その背景には,2020年から国内でも正式サービスが始まる次世代移動体通信「5G」があったという。
金子氏:
これから5Gの時代になるにあたって,法人向けのビジネスは,ある程度,ユースケースを含めて見えてきているところがあります。一方で,一般のお客様向けに,5Gと絡み合ったビジネスで何ができるかは,世界中の通信事業者を見渡しても,なかなか見えていない状況です。
そのなかで,クラウドゲームサービスには,1つの大きな可能性があるのではないか。これが世の中でメジャーと言えるところへ進むかは,まだ誰にも分からない面はありますが,可能性のある領域としてチャレンジしたい領域です。今回の取り組みは,5Gを活用するユースケースの1つとしてチャレンジしていきたいと考えています。
GeForce NOW Powered by SoftBankの動作環境は,上述したとおりの情報が公開されているが,通信遅延の要求スペックはどの程度なのだろうか。
鈴木氏:
通信速度は必須が15Mbpsですが,遅延はお客様がコントロールできない面があるので,数字では公開していません。
ただ,我々が実際に自宅の環境でテスト接続してみても,今までの(クラウドゲーム)技術とは比べものにならないほど低遅延でのプレイが可能です。ほとんどネイティブ(※通常のPCゲーム環境)でプレイしているのと変わらないのではないかなと。もちろん,プロゲーマーの方が見ると,また違う印象を持たれるかもしれませんが,一般のゲーマーであれば,差異は分からないのではないかというレベルに来ています。
金子氏:
現時点では,光回線でインターネットに接続し,有線LAN,または5GHz帯の無線LANでつないでいただくと,快適に遊べるだろうと想定しております。
鈴木氏:
実際には,(回線のスピードが)それ以下の環境でも遊べる可能性はあるので,ぜひいろいろな方に試していただいて,「こういう環境ではプレイできた,これではできなかった」という声をユーザー様から寄せていただけるとありがたいですね。
ソフトバンクが展開するサービスとなると,ソフトバンクの携帯電話サービスや,光回線サービスのユーザーであるほうが,通信環境面では有利になるのだろうか?
金子氏:
一方,携帯電話での接続については,ソフトバンクの回線でプレイできることは検証していますが,他社の携帯電話回線では,今後検証していくことになります。
クラウドゲームサービスと聞いて,「通信遅延でゲームにならないのではないか,快適には遊べないのではないか」と思う人もいるだろう。今どきのゲームは,PC内部での処理やディスプレイによる遅延を考慮した作りになっているので,インターネットを経由することによる遅延が多少増えても,プレイに支障を来さないタイトルは多い。先述したとおり,GeForce NOWでの動作検証が済んでいるゲームは,システムの許容範囲内であれば快適にプレイできることを確認済みのものだ。
「それでもやはり遅延が気になる」という人に向けて,鈴木氏はこう語る。
鈴木氏:
クラウドゲームと聞くと,遅延の数字を気にされる方はいらっしゃいますし,一理あることではあります。しかし,最終的には1人1人のユーザーがどう体感できるかが重要だと,私たちは考えています。そして,ユーザーが満足にクラウドゲームを楽しめたのであれば,それでいい。技術的な理屈に当てはめて,動く,動かないの議論をするよりは,実際にプレイして楽しめたか,楽しめなかったかで話題になればいいなと思っています。
さて,そんなGeForce NOW Powered by SoftBankを,ソフトバンクとNVIDIAは,どのようなユーザーに体験してほしいと考えているのだろうか。
金子氏:
また,Androidスマートフォンでもプレイしていただけますので,家でプレイしているPCゲームを,外出先でもスマートフォンで楽しめるのを体験していただければと。
一方で,今まではPlayStation 4やSwitchといった家庭用ゲーム機が中心で,PCでゲームをプレイするという習慣がなかった方にも,PCではこういう体験ができるのかという驚きを得て欲しいです。いろいろな方に触っていただいて,(通常のPCゲームと)変わらない体験ができるのだということを,なるべく多くのお客様にβ版サービスで実感していただきたいと思っています。
鈴木氏:
(GeForce NOWで)アクセシビリティが一番向上するのではないかと考えています。いつでも,どのタイミングでもPCゲームのプレイが実現します。アクセシビリティの向上によって,「参加できないと思っていた期間限定イベントに,今ならGeForce NOWで参加できるじゃないか!」ということも可能になるかもしれません。
最後に,遠くない将来に来る5G時代に,クラウドゲームはどうなっていくのだろうか。金子氏は,現在の4G LTEスマートフォンのテザリング接続を使ってGeForce NOW Powered by SoftBankをテストしてみると,おおむね問題なくプレイできていると述べる。そのうえで,5G環境が広がれば,クラウドゲームがより快適になることにより,PCゲームの楽しみ方が広がるのではないかと期待を示す。
金子氏:
今では隙間時間,たとえば移動中にスマートフォンでPCゲームをプレイするというのは,あまり想像が付かないかもしれません。しかし,将来は5Gによって,それが快適にプレイできる世界が来るかもしれません。今後はサービスの各段階に応じて,検証していきたいと考えています。
GeForce NOW Powered by SoftBank 公式Webサイト
GeForce NOW Powered by SoftBank 公式Twitter
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