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[Unite 2016]新世代Unity 5.4でゲーム制作環境はどう変わるか? 最新機能を総まとめしたUnite 2016 Tokyo基調講演レポート
初日の朝に行われた基調講演では,日本担当部長 大前弘樹氏の進行でUnityの新しい機能やサービスが紹介され,来日したUnityの専門スタッフ達による発表やゲストの登壇など盛りだくさんの内容となっていた。ここでは基調講演の概要をお伝えしたい。
「開発の民主化」を掲げるUnityだが,Unity 5では従来Pro版でしか開放されていなかったような機能まで公開した無料のPersonal Editionがリリースされ,人気を博した。ではそれをちゃんと使っている人はどれくらいいるのか。Unity 5のPersonal Editionの月間アクティブユーザー数は110万人に達するという。これは世界中の上場企業のゲーム開発者を合計したよりも多い数字だそうだ。
その物理ベースレンダリングの搭載でグラフィックスを激変させたUnity 5.0が登場して1年経ったわけだが,Unity 5に対しても継続的に多くの刷新が行われてきたとし,Unity 5.0と5.4でどの程度変わったのかが示された。
見た目にはかなり違う絵になっているわけだが,これは別に同じ設定でレンダリングして質感などが変わっているというわけではない。さまざまなエフェクトやSSRR(スクリーンスペースレイトレースリフレクション),トーンマッピングなど,新たに加わった表現手法を駆使して絵作りから変更されていることが見て取れる。以前のものが物理ベースレンダリングを生かすためか,全体に明るめで素材感を強調していたのに対し,今回はライティングが変更され,アンビエントオクルージョンの追加もあってか,陰影が強めの仕上がりになっている。以前は作れなかった画調の絵が出せるようになったという理解でいいだろう。
そのほか,Unity 5とともにこの1年で実現されたものの成果が発表された。IL2CPPによって,C#のコードがネイティブコードにコンパイルできるようになり,すべてのプラットフォームでスクリプトの実行速度を飛躍的に上げることが可能になった。Cloud Buildサービスの導入で,すでにこの1年間で60万時間ものビルド時間を節約できているという。また,デバッグの工程では,MicrosoftのVisual Studioとの連携により効率的な作業ができるようになっている。
Microsoftとの協力体制もあってか,先日,Unityは.NET Foundationへの参加を果たしている。これにより,Unityで最新版のC#が使えるようになるほか,よりよいガベージコレクタなどが期待できるという。
最近話題が尽きないVRについてもUnityは非常に積極的な取り組みを見せている。2013年にOculus VRの活動初期からプラグインを提供してきているほか,最近ではすべての主要VRプラットフォームへの対応をUnity自体に組み込む方向に進化している。そういったこともあって,すでに多くのUnityで作られたVRタイトルが発表・発売されている状態だ。
そういったこれまでの動きを踏まえて,今年2016年にUnityはどのように動いていくのかを大前氏は語っていった。最初のキーワードは「Quality」つまり品質だ。
いまやUnityは単なるツールではなく,多くの人の生活を支えるインフラのような位置付けになってきているという。それゆえ「安定した高品質なソフトウェアであること」が先端的な機能の追加よりも優先して求められるようになってきているとのこと。
この1年だけでもUnityでは非常に多くのバグがつぶされ,安定したツールになってきている。その一方で機能拡張も行われており,それにより一時的に安定しないバージョンなども出てきている。そういった流れを変えるべく,今後は安定版と最新機能を拡張したβ版を同時にリリースしていくといったことが発表された。
例えば昨年12月にリリースされたUnity 5.3の安定版は今後半年間にわたってアップデートされていくという。それと並行して,β版である5.4をProfessional Edition以外に,無料のPersonal Editionでも提供していくというのだ。
次のキーワードは「Efficeincy」つまり効率性だ。開発時の効率,とくに最近ではチームでの開発時の効率性が強く求められているという。そこで作られたのが「Collabotate」というサービスだ。
さらに,プログラマ以外にアーティストの作業も効率化させるような改善も行われている。その一つがシェーディングモデルの一部変更だ。Unity 5.4ではSubstanceやQuixel DDoを使って作成したシェーダをドラッグ&ドロップでそのまま持ち込めるようになったという。
また,新しくタイムラインエディタが導入されており,これはGDCで公開された新作デモAdamの制作にも使われているとのこと。こういったツールでアーティストの表現力を生かせる環境を作っている。
デモは見てのとおり,ロボットにされてしまったらしき男が目覚めてから表に出るまでの短いシーンを描いたものだ。冒頭の被写界深度ボケからボリューミーなフォグ,いわゆるゴッドレイ表現など見どころは多い。全体的なライティングにも注目したい。あちこちエヴァンゲリオンぽい雰囲気もあるのだが「関係ないと思います」(Unityスタッフ談)とのことだった。Part1ということらしいので,今後の展開についてはPart2に期待しよう。
●ローカライズ
続いての話題はローカライズだ。これには非常に多くの事項が関係しているとしつつ,現在開発が進められているUnity Editorの日本語版の進捗が披露された。Unity EditorのPreferenceに追加される「Language」の項目を有効化することで,言語ファイルを読み込み,エディタが日本語化される様が示された。メニューなどの各部も日本語化されている。日本語化されたUnity Editorは5.4のいずれかのバージョンで実験的に公開されていく見込みだとのこと。
次にドキュメント類のローカライズだが,これまでのUnityではドキュメントの日本語化についてはコミュニティからの貢献によるところが大であった。これは素晴らしいことでもあるのだが,翻訳率や品質などの点で問題もあったという。そこでプロの翻訳チームとレビューチームを稼動して翻訳の質と量を改善してきているという。最近ではアップデート時に少し下がることはあるものの,マニュアルについてはほぼ90%以上の翻訳率を維持しているそうだ。
●コミュニティ
コミュニティに対する施策としては,Unity道場,Unityキャラバン,Unity県人会の活動について紹介された。道場というのは毎月渋谷で行われているUnityのワークショップセミナーで,キャラバンは日本全国あちこちに行ってワークショップを行う取り組みだ。昨年立ち上げられたUnity県人会は,日本各地でのイベント開催をサポートするものだが,この1年間で289のイベントに関わってきているとのこと。
また,2015年から学生を対象に開始されたプログラムコンテスト「Unityインターハイ」についても報告され,2016年も開催していくことなどが発表された。
●教育
現時点でUnityを取り入れているであろう国内の教育機関の数は,約500と推定されるという。Personal Editionの公開以降,アカデミックでないライセンスでもあまり困らない状況が続いているので正確なところは不明だとのことだが,だいたい500箇所くらいはUnityを使っているという。これはゲーム開発に使われているだけではなく,さまざまな分野で使われるようになって,さまざまな成果を挙げているとのこと。
そういった問題に対し,UnityではUnity Certificationという資格を作って対応を始めている。これに合格すればUnityの操作などについて一通りのものを習得しているとみなされるというわけだ。国内初の試験は5月に教育関係者向けに開催されるのを皮切りに,6月からは渋谷dotsで定期的に開催され,2017年には全国展開がされていく予定とのこと。
なお,この検定はGDC 2016会場でも行われたのだが,日本の参加者の合格率は低かったらしい。英語で書かれた問題だと実力は発揮できなかったようだ。日本で行う検定はもちろん日本語で行われるので,ご安心を。
●プラットフォームの拡大
新たなプラットフォームとしてMicrosoftのHoloLens,Google CardboardとSteamVRのサポートも行われるほか,NVIDIAのVRWorksとAMDのRequidVRなどの技術が採用されており,VR/AR方面のサポートは非常に充実したものになっている。新たなOSとしてはFireOS 5に対応していく。
対応プラットフォームが増えれば,先にゲームを作っておいて,途中でどのプラットフォームで出すのがよいかといった判断をあとからできるようになる。その際に選択肢が広がることになるため,Unityではここまで徹底的なマルチプラットフォーム戦略を取っているのだそうだ。
発売が10月に延びたことについては,昨今VRに注目が集っており,十分な製品の台数を揃えてから発売したいという考えによるものとのこと。発表後の反響が予想以上であり,それまで想定していた量では全然足りないと判断したという。全世界で同時になるかどうかはまだ分からないが,少なくとも日本を含むアジアと欧米では同時に発売される予定だとのこと。
発売が遅れたことに伴い,コンテンツの品質向上についても期待する部分もあるようだ。VRだけで体験できる「プレゼンス」を確立するには,ハードとソフトを丁寧に作り上げていかなければならないとし,現在はじっくり磨き上げているところなのだろう。
すでに展開されているVR機器はPC用やスマートフォン用であり,純然たるコンシューマゲーム機のものはPSVRのみである。氏は,コンシューマゲーム機でVRを展開することの優位性として最新技術を使っていても比較的安価に抑えられることや,同一ハードなので最適化などの点を挙げていた。
さらに,PSVRに参入しているゲームメーカーが230社を超えていること,それらの多くがUnityを使ってゲームを作っていることなどが語られた。
ゲームだけではない。吉田氏は,今後はゲーム以外にさまざまな分野でVRが活用されるようになるだろうと,今後の展望を語っていた。
そのためにも重要になってくるのは,やはり優良なコンテンツであり,そもそものところとしてVRを体験してもらう機会を増やすことだという。体験してもらわなければ絶対に理解できないものであるからだ。最初に触れたVRコンテンツでよい体験ができれば,自然と周りの人にも勧めるようになってくるので,優良なコンテンツをいかに多くの人に届けるかが重要になるというわけだ。ちなみに,Unite会場でもPSVRを使ったデモが行われていたのだが,初日のデモ整理券は配布開始からわずか35分で切れてしまったとのこと。
吉田氏は「百見は一体験に如かず」と,いつもの言葉で講演を締めくくっていた。
これまでのUnityは小規模開発には適しているものの,マルチユーザーで一つのプロジェクトを扱うような用途はほとんど考慮されていなかった。アセット管理やバージョン管理の外部ツールを組み合わせるなどで対応するのがせいぜいだったろう。新しく開始されるCollabotateのサービスは,単にバージョン管理に留まらず,チームでのゲーム開発をサポートするものだという。説明では,ファイルのロック機能やよそで更新されたアセットの変更を反映するところなどが示されていた。今後のUnityではかなり重要な位置を占めそうなサービスである。
さて,Analysticsはゲーム内でのプレイヤーの行動をヒートマップで示したりといったことが可能な,Unityのサポートツールだ。とくにSDKなどは使わなくてもよく,普通にUnityでゲームを開発していれば,1クリックで有効化できる。そういった手軽さもあってか,すでに5万タイトル以上で使われているという。
新機能として最初に挙げられたのが日本語対応だ。各部が日本語化され,より使いやすくなった。また,生データの書き出しに対応し,ゲーム内のデータをさまざまに利用・分析できるようにもなっている。
さらにAnalysticsの一部としてUnity 5.3から搭載されたゲーム内課金システムIAP(In-App Purchase)も紹介された。ゲーム内でアイテムを販売するなどの機能を実装する際に,あちこちの課金プラットフォームの違いを吸収してくれたりするので,課金が捗る。これまではアイテムの追加/変更のたびにアプリをビルドし直してアップデートしなくてはならなかったものが,クラウド上にあるデータの更新だけで済むようになるという。
もちろん,プレイヤーの行動に絡めたデータの分析もお手のものである。今後は,単体のゲームについての分析だけではなく,さまざまなタイトルで横断的な分析にも対応していくとのこと。このような端末の利用状況の履歴からさらに深い分析を行うことは「Device Intelligence」と呼ばれている。
- 新作ゲームでどの程度のスペックをサポートするか
- 市場規模はどれくらいか
- どんなゲーム体験を実現できるか
といった問題についてだ。
とくにモバイルゲームの場合,どのレベルの端末までサポートしてゲームを作るかという問題は重要になってくる。当然ながら,幅広く古い端末までサポートすると市場は広がるものの,ゲームのスペックは低くせざるをえなくなる。ハイスペックなゲームを作ろうとすると,どうしても市場は狭くなる。そういったものを決める際にも統計的なデータは有用だ。
GPUについて言えば,20種類の製品で全体の95%が占められているという。それを念頭に作成すれば効率もよくなるだろう。なお,名前を書き換えられて素性のよく分からないGPUなどはブラックリスト化して対処しているようだ。
次に登壇したのはマーザ・アニメーションプラネット社長の前田雅尚氏だ。氏はGDC 2016で発表された,CGアニメーション作品「The GIFT」を紹介した。
日本では初公開になるというこの動画は,Unityを使ってレンダリングされたものである。マーザでは,1年ほど前からゲームエンジンUnityを使って新しい映像制作パイプラインの構築をしてきたという。前田氏は,なぜ映像制作会社がUnityを使おうと思ったのかについて,まず映像制作の効率化が期待できることを挙げていた。CGアニメの制作ではレンダリング時間の長さが最大の問題となる。それを昨今高画質化が著しいゲームエンジンでまかなえないかというわけだ。
ただ,最近のゲームエンジンはフォトリアルな絵を描くことは得意であるものの,Pixar作品のような表情豊かなキャラクター表現や複雑なエフェクトは苦手としていると前田氏は語る。
ゲーム開発と映像制作は似ているようで違い,ゲームではリアルタイム表示が必要になるため映像表現に制約がある。一方で映像制作ではそういった制約はまったくない。また,ゲームエンジンは日進月歩で進化しているのだが,映像制作の進化はさほど激しいものではない。
マーザでは今後起こるであろう映像制作の進化を先取りして,ゲームエンジンを取り入れたという。そして,ゲームエンジンの苦手とする部分にチャレンジしたのが,このThe GIFTという作品だそうだ。
The GIFTで効率化自体は成功したと述べる前田氏が次に目指すのはリアルタイム化だ。マーザでは,単に効率を上げる以上の意味をリアルタイム化について期待しているようだ。曰く,最近ではアニメやゲームなどどんなプロジェクトでも,必ずマルチ展開になる。テレビアニメやキャラクター商品,VRといった展開が行われていくのはビジネスとしては常識であるものの,開発現場ではまったく別であり,効率が悪い。映像制作をリアルタイムかすることで,アセットの共通化などを図れればそういったマルチ展開も大きく進展するとのこと。
また,現在の作品はテレビアニメのレベルは超えているだろうが,ハリウッド作品にはまったく届いていない。しかし,ゲームエンジンの進化は非常に高速であり,ハリウッドレベルに到達する日も遠くないだろうと前田氏は語っていた。そういった技術は「Game Changer」(産業革命をもたらすもの的な意)となりうるとしている。例えば,Unityでゲームを開発しているのと並行して,Unityテレビアニメを作ったりといったことも可能になるとのこと。
コンセプトはデモ映像に留まらない作品を作ることだったそうだ。しっかりとストーリーも作り,1年がかりで制作されている。
総勢40人程度,うちデザイナーが30人というスタッフのほとんどはゲームエンジンなどに触った経験はない。そこでUnityを使うところから開発を始めていったという。ただ,デザイナーがすべてをUnityで作っていくというのは難しいだろうと判断した結果,それまでの映像制作パイプラインの上にUnityを持ってきている。制作の最後の工程でUnityを使い,それ以前のアニメーションなどでは従来のツールを使うという組み合わせだ。
ゲームにはない映像制作の概念に「ショット」というものがあり,基本的にはショットを並べて映像を組み立てていくのが映像制作の工程となる。そこでそこに至るワークフローを作っていったという。
どうやってゲームエンジンの苦手な表現を克服したかについては,かなり強引な力技が使われている。CG作成ソフトMayaで作成したシーン情報を1コマごとにAlembicキャッシュとして出力し,Unity側でそれを読んでレンダリングしていくといった手法が使われているのだ。
UnityがAlembicキャッシュを読めるようになったのは最近のことだが(関連記事),いきなりフルシーンのAlembicキャッシュを読んでいくという荒業が使われている。
レンダリング速度はシーンによって異なるものの,だいたいリアルタイムの3倍程度だそうだ。律速段階となっているのは主にストレージである。Alembicキャッシュの容量が大きすぎることがネックになっているとのこと。
マーザ側で開発したものの一つにシェーダがある。熊のぬいぐるみ「ポーター」の毛並みや女の子の瞳や髪といった部分で独自のものが使われている。
さらに,現在のUnityには基調講演で紹介されたようなタイムラインエディタなどは存在しないので,先ほど述べた「ショット」を実現するために,シーンごとに必要なアセットを自動的に読み込む仕組みを作って対応したとのこと。これがあって初めてUnityでの映像制作パイプラインが構築できたそうである。
最後に外部ツールで映像にエフェクトを加えるために,Unityからをスクリーンショットを切り取って出力するような機能を作成して全体的なパイプラインを構成しているという。いずれも先進的な試みだが,今後の映像制作ではこのようなものが当たり前になってくるのかもしれない。
2016年に展開される新技術やサービス,そしてUnityの新たな活用例などが披露された基調講演はこうして締めくくられた。
Unite 2016 Tokyo公式サイト
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