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[Unite 2019] 3Dアバターに「人格権」を設定するVRMの理念と,運用して分かった今後の課題など。「3Dアバターファイルフォーマット『VRM』詳説」聴講レポート
「Unite Tokyo 2019」公式サイト
「VRM」については,バーチャルYouTuberやバーチャルキャストなどに興味のある人なら,すでにさまざまな情報をチェックしているかもしれないが,VRゲームやVRライブ,VRチャットなど,いろいろなメーカーが提供するサービスに同じアバターで参加できるようになるのがVRMだ。アバターの作者は,改変や再配布の規定に加え,「アバターに人格を与えること(作者以外の人間がアバターとして使うこと)」「アバターに暴力表現を演じさせること」「商用利用」などを許可または禁止したりするライセンスを埋め込むことが可能になる。これを岩城氏は「アバターの人格権を設定する」としたが,アバター=自分自身であり,ほかの人に触らせたくないという意思表示もできるわけだ。
VRMが生まれた背景には,時代の要求があったという。VR空間での「自分の姿」が使用者の意識に強い影響を及ぼすことが知られてきたが,これまではVRサービスごとに異なるアバターを作らざるを得なかった。そこで,同じアバターをまとった「自分」のまま,さまざまなVRサービスを行き来できる,「プラットフォーム横断型VRアバター」の概念を提唱したのがVRMというわけだ。
人型3Dモデルは,モデラーの癖などの理由でモデルデータごとに構造や座標系がバラバラになっていた。具体的には,これを統一することによってプラットフォーム間の横断を可能にしようという試みであり,クリエイターやエンジニアだけでなく,一般のユーザーも扱えるファイルフォーマットとするため,分かりやすさを重視して開発が進められているという。
一般ユーザーには,ファイルが1つで完結するといった分かりやすさを,クリエイターには設定や定義すべき事項が少なく簡便だという分かりやすさを,そしてエンジニアには,数行のコードでアバターを読み込めるという分かりやすさを提供する。
こうして標準化を進めることで,3Dアバターのデータとアプリケーションが分離できる。アプリケーションごとに異なるフォーマットを作り,そのアプリケーションでしか使えない3Dアバターを制作するのではなく,3Dアバターのデータとアプリケーションが独自に進化することが可能となったと岩城氏は述べた。
現在は,さまざまなアプリケーションが生まれるエコシステムがようやく回り始めた状況だという。
そんなVRMだが,解決しなければならない課題も多い。3DアバターをVRMにうまく変換できなかったり,読み込んだものがうまく動かなったり,アプリケーションによってポリゴン数などの制限があって3Dアバターが使えなかったりなど,「安心して使える域に至っていない」と岩城氏は言う。
また,定義したライセンスが守られないことを危惧して,データ保護を求める声や,揺れものについて表現力の向上を望む声もユーザーからあがっているそうだ。これらの課題は「VRMの仕様が持つ課題」「ライブラリ実装の課題」「運用体制の課題」に分類できるが,仕様を考えつつ作っているうえにマンパワーも足りない現状では,どうしてもごっちゃになりがちだそうだ。
こうした中,現在はマテリアルや表情の整理,テクスチャサイズの圧縮,モバイルに対応するためのローポリゴンモデルの取り扱い,ネットワーク環境に応じたプログレッシブダウンロードへの対応,揺れもの関連の改良などが構想されているという。プログレッシングダウンロードとは,まずローポリゴンモデルを表示しつつダウンロードを進め,順次ハイポリゴンに置き換えていくという手法のことだ。
興味深いのが表情に関してで,基本的にVRMは日本のアニメ的なキャラクターを取り扱うことを想定したフォーマットなのだが,海外のユーザーから「リアルなキャラクターを扱いたい。アニメ的にデフォルメされた表情ではなく,人間の表情を再現するような使い方をしたい」という声が寄せられているという。アニメ的キャラクターとリアルなキャラクターは一見すると相反する要素だが,岩城氏は「両者をうまく融合させて,どちらも使えるような定義が必要になっている」と,両立させていく考えであることを明かした。
VRMを実際に運用したうえでは,ライセンスのさらなる整備が必要であることを感じたと岩城氏は言う。VRMではファイルの改変,配布や,暴力,性表現を演じることの許可または禁止などを設定し,アバターに人格権を与えられるのは上記のとおり。しかし,「アバターをゲームの中に登場させたり,そこで独自にモーションをつけることは,人格権の侵害にあたるのか」「マテリアルは自分で作ったが,3Dアバターはほかの人が制作したものであるため,マテリアルの差し替えだけを許可したい場合どうすればいいのか」といった,現状のライセンスだけでは判断しきれない事例も出てきたそうだ。
これについて岩城氏は,考え方が複雑になりすぎると正しく使われなくなるため,クリエイターと利用者の双方に利益となるようにバランスを取っていきたいと考えているという。
これらの課題についての解決法の1つとして岩城氏が示したのが,バーチャルキャストで開発中の「VRM Modifier Server」だ。サーバーに登録されたオリジナルのアバターに,メッシュの最適化やポリゴンリダクション(削減),電子透かしの埋め込み,データ解析を防止するスクランブルなど,状況に応じた処理を加え,ユーザーごとに異なるデータを配信するという仕組みだ。
VRM Modifier Serverのポリゴンリダクションは,アバターの見た目が劣化しないような削減が行える。通常のポリゴンリダクションでは,顔や目など,アバターの命となる部位のポリゴンも機械的に減らしてしまうため,アバターの印象が変わってしまうが,VRM Modifier Serverでは,人型であることをヒント情報にしており,顔や目については削減を行わないといった処理ができる。VRMで扱うのは人型のアバターのみであることを利用して,処理の自動化に効果をあげているわけだ。
3Dアバターを扱ううえでは,元データの流出や違法な解析が大きな問題になり得るが,VRM Modifier Serverでは電子透かしを埋め込むため,流出元を特定できる。また,スクランブルをかけられたモデルデータ(Scrambled VRM)は,Unityでは普通に使えるものの,メッシュを読み込むとぐちゃぐちゃになるため,解析や改変ができないという。利便性と安全性が両立されており,クリエイターにとっては心強いデータ保護といえるだろう。
VRM Modifier Serverは「まもなく稼働を開始する」とのことなので,今後の発表に注目したい。
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