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分からないものへの恐怖を演出。米国で行われた「PsychoBreak」のプレビューイベントをレポート
海外では「The Evil Within」というタイトルでリリースされる予定のPsychoBreakは,「バイオハザード」を生み出した三上真司氏が2010年にTango Gameworksを立ち上げて以来,開発を続けていた作品だ。
このイベントで,北米と日本,そしてオーストラリアのメディア35人ほどを前にデモをプレイしたのは,本作のプロデューサーである木村雅人氏だ。プロデューサーとしてはかなり若いという印象を受けるのだが,言葉を選ぶように分かりやすく解説してくれたのが印象的。すでに三上氏の信任を得てPsychoBreakの広報活動にも参加しているようだ。
本稿ではそのプレイデモと,木村氏へのインタビューの模様をお届けする。なお,掲載しているスクリーンショットの中には,かなりグロテスクな表現のものもあるので,苦手な方は注意してほしい。
「PsychoBreak」公式サイト
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レベルキャップ到達後のプレイヤーにも,さまざまなコンテンツを用意
刑事セバスチャンが遭遇する狂気の世界
今回のイベントでは,異なるミッションから成る2種類のデモが披露されたが,最初のデモは,雨が降る中,パトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら走行するムービーから始まった。主人公である刑事セバスチャンが,相棒のジョセフ,部下である“キッド”というニックネームの女性とともに大量殺人の事件現場に向かっているという設定だ。
やがて彼らは,多くのパトカーに取り囲まれた洋風の病院に到着する。3人は運転手の警官,オスカーを残してパトカーを降り,会話をしながら病院の正面ドアに進んでいく。ここからはキャラクターが操作されているようだが,カメラの切り替えはスムーズで,ムービーとプレイシーンの区別が付かないように工夫されているようだ。
キッドはまだ経験不足なのか,今こそドアを開けようという場面になって,セバスチャンから外に残るよう促される。不満そうなキッドを尻目に,セバスチャンとジョセフの2人は,事件発生からまだ誰も足を踏み入れていないであろう内部に入っていく。
病院のロビーは,まさに惨劇と表現するにふさわしい様相で,患者,医者,看護師など,多くの人が床に血みどろで倒れていたり,ソファや車椅子に座ったま事切れているといった状態だ。
やがて到着したセキュリティルームで遭遇した男は,壁にもたれかかり,息も絶え絶えになりながら,部屋にあるモニターを指さした。そこに映し出されていたのは,フードを被った男が,人間とは思えないようなスピードで移動しながら,銃を発砲する警備員たちを次々と血祭りに上げていく姿。
その状況に驚くセバスチャンの背後から,フードの男が襲い掛かってきたところで,ゲームはブラックアウトしてしまうのであった。
何がどうなっているのか。謎だらけの中で目を覚ます
セバスチャンが目を覚ますと,そこは管弦楽曲が鳴り響く地下牢。彼と数名の人間が,屠畜場に吊り下げられている生肉のように,逆さまの状態になっているのが1人称カメラ視点で見て取れる。
真正面にある入口から登場したのが,大柄で筋肉質,顔に金属製の矯正具のようなものを装着した人型のクリーチャーだ。プレイヤーの隣に吊るされていた瀕死の人物(ジョセフのようにも見えたが,瞬時のことで誰だか分からない)におもむろにナイフを何度も突き刺し,そのまま上半身を引きちぎると,慣れた様子で引きずり,向いの部屋へと運び出していった。
明らかな異常事態に遭遇した木村氏操るセバスチャンは,手前の死体に向かって体を揺らし始める。その死体の腹部にはナイフが突き刺さっており,それを入手して自分の足を拘束しているロープを切ろうとしているのだ。
そうしてナイフに手を届かせ,身を起してロープを切って体を地面に叩きつけた瞬間に,セバスチャンのカメラ視点は通常の3人称へとスムーズに移行するという仕掛けになっていた。
なんとか地面に降り立ったセバスチャンだったが,部屋の奥にあるドアは鍵がかけられていて逃げ出せない。仕方なく,大男が出て行った方向に進んでみると,ブッチャーナイフで先ほどの被害者の男性を解体している大男を発見した。蓄音機から流れ出る楽曲と,肉を切る陰湿な音のチグハグさが,状況の異常さを煽る。
これは“ただの”大量殺人事件ではなく,フードの人物やこの大男を含めた複数による猟奇的な犯行であるようだ。しかし,この大男の異相と行動はもはや人間を超越してしまっているし,この場所も,果たして現実世界なのかすらわからない。
チェーンソーを抱えて全力で突進してくる大男
セバスチャンは,なんとか暗がりを伝いながら階段を上り,脱出したかに思えたが,仕掛けられていた警報装置が鳴り出し,すぐさま大男がチェーンソーを手に追いかけてきた。先ほどナイフを入手していたはずだが,そんな武器ではチェーンソーの大男に敵うわけもなく,セバスチャンは一目散に逃げ出す。
彼がいる場所はどうやら病院内のようなのだが,まるで大きな自然災害に遭遇したかのように,アチコチが崩壊した状態になっている。セバスチャンは,やがて大男のチェーンソーに突かれるように前のめりに倒れ込み,足を負傷したものの,なんとか逃げ続ける。
そうして大きな部屋に飛び込んだが,ここにもトラップが仕掛けられていて,なんと左右から回転式の鋭利なブレードが何枚も出現し,セバスチャンを切り刻もうとする。判断する間もなくとにかく前進し,小さな部屋に逃げ込むものの,次のドアにはチェーンで鍵がかけられていた。脱出経路がなくなってしまったセバスチャンは,仕方なくロッカーの中へ逃げ込む。
チェーンソーのモーター音を響かせながら近付いて来る大男。セバスチャンを探し回っているのがロッカーの隙間から見えるが,鍵のかかっている扉から脱出したと判断したのか,男は体当たりするように扉をこじ開け,奥の部屋へと突進していった。
その奥の部屋は,ほとんど照明がなく,セバスチャンが身を潜めて事態をうかがうのにはちょうど良い感じ。しかし,大男はチェーンソーをアイドル状態にしながらウロウロしている……。
ここでは,隠れながら移動し,ボトルを投げて別方向に音を立てるなどして,大男の注意を引くこともできるようになっていた。
セバスチャンはエレベーターへと逃げ込み,追ってくるチェーンソーの大男をようやく振り切ることができた。冒頭のロビーにたどり着き,外へ出るために正面のドアを開けると,目の前に大地震が起きたかのような大きな穴が広がっていた。
目を上げると,周囲の高層ビルは倒壊し,人の気配が感じられない静寂の世界が……。キッドを含む警察隊はどこにいってしまったのか? というところでデモは終了となった。この,何が起きているのかがまったく分からない状態から,PsychoBreakのストーリーが始まるのである。
戦略がものをいう,自由度が高いアクションシーンもあり
2つ目のデモは,田舎にある農家のような邸宅で展開されるアクションシーンだった。セバスチャンはところどころにあるシリンジ(注射器)を見つけてヘルスを回復できるようになっているのだが,そのおかげか,1つ目のデモでは苦しそうに足を引きずっていたセバスチャンも体調は良好のようである。
邸宅の中には,すでに何体ものクリーチャーが徘徊していた。たいまつを掲げて進んでくるところなどを見ると,ある程度の知性を持っているようだ。
公開されている画面写真を見る限りは,裂けた皮膚の中に筋肉膜のようなものも見えるが,決して人間的な筋肉の付き方ではない。例え人間だったとしても,別の何かに寄生され,人の姿をかろうじて留めているといった感じだ。
銃撃のアクションは,狙いを付けるとセバスチャンの肩越しにクローズアップした状態になるため,ヘッドショットが狙いやすい印象だった。
顔に向けて発砲するとクリーチャーの頭部が吹っ飛び,ドロっとした血が噴き出すような,かなりグロめの描写もある一方で,他の部位を撃っても欠損は起こらないようだった。ただし,このあたりの調整は今後も行われていくようだ。
木村氏はとある場所で,クリーチャーの膝を狙って歩行不能にした後,素早く近付いて灯油とマッチで火を付けようとしていた。今回はまだ調整などが完全ではないようで,うまく放火して相手を灰にするという目的は達成できなかったものの,この相手に火を付けるという行動そのものは,銃弾が少なくなって困窮しているときなどに有効な戦法になってくるはずだ。
木村氏によると,PsychoBreakは「サバイバルホラー」というジャンルの王道を謳うゲームであるだけに,基本的には1つ目のデモのように,直線的にゲームが進んでいくことによって,開発者の意図した恐怖感が味わえる仕掛けになっているという。
しかし,ところどころは比較的自由に動き回れる場所があり,異なるスタイルのアクションが楽しめるようになっているとのこと。この邸宅のシーンもその1つだそうだ。
ここでは,クリーチャーが侵入してくるであろう窓の近くにトラップ爆弾を仕掛けていき,銃弾を掻い潜って窓枠を乗り越えて来る敵を始末させようというタワーディフェンス風のアクションを楽しめるという。
コンスタントにプレイヤーの脳内を「?」マークで埋め尽す
木村氏はクリーチャーを5,6匹ほど倒したところで戦闘を切り上げ,セバスチャンを地下牢のような場所へ移動させていく。通常はランタンを手に持っているが,銃を装備しているときは自動的に腰に付けることになるようだ。
ここで,ドアを開けようとした瞬間に,ドアを開けるというアニメーションがないまま,まったく別の場所にワープするというシーンがあった。正確には,まったく別の場所ではなく,そのドアの向こう側だっただけかもしれないが,余りにも突然のことで判断するのは難しい。このように,PsychoBreakはコンスタントにプレイヤーの脳内を「?」マークで埋め尽くし続けるのである。
そのドアの“向う側”は,立体駐車場か高層ビルの作業用通路を思わせる,排水溝などがむき出しになっている場所だが,災害の被害はうかがえず,暗いながらもクリーンな様子。だた,その状況をつぶさに観察する暇もなく,通路の反対側から沸いてきた血の洪水がセバスチャンを呑み込み,そのまま元の病院と思われる場所へ再度ワープすることになった。
そこは,病院の手術室と思われる場所だが,部屋の中央に大きな血だまりがあり,そこからムクムクと湧き出すかのように,合計6本の手足を持ち,長い髪を垂らしたクリーチャーが登場する。
爪が伸びきった手を振り上げ,金切り声を上げながら突進してくるこのクリーチャーに対して,セバスチャンが銃を構えたところで,2つ目のデモも終了となった。
プロデューサー木村雅人氏合同インタビュー
――日本で行われたデモと,今回のデモで変化した部分があるかを聞かせてください。
画像を並べていただいて何かちょっとした違いが分かるといったくらいでしょう。このデモは6月に開催されるE3での公開に向けて制作したものなので,内容が大きく変わるということはないんですが,内部では現時点でも次世代ゲーム機向けに調整を続けていますから,並べて比較しなければならない程度であるとしても,ビジュアル面で多少の変化は続けているということですね。
――id Tech 5エンジンを使った理由はどういったものでしょうか。また,その手応えを聞かせてください。
木村氏:
自社グループが持っているゲームエンジンで,しかも凄く性能が良いものだったというのが率直な理由なんですが,ライブ感があって,プランナーがトライ&エラーを繰り返しながらゲームをより良いものにしていくという三上のスタイルに非常にマッチしているというのが,id Tech 5を使ってみての感想ですね。レベルデザインをしやすいツールという印象も持ちました。
もちろんFPSのゲーム開発を念頭に作成されたものなので,完全にサードパーソンに適応できるものではなかったのですが,そこは我々で改良しているといった具合です。
――「id Tech 5のカスタマイズ版」と言われているのは,そうしたプレイヤーキャラクターのアニメーションといった部分に手が加えられているということですか。
木村氏:
それもありますし,何よりもサバイバルホラーというジャンルのゲームを作るにあたり,暗い部分と明るい部分との対比を強調したいということもあって,シェーダーなどでかなり変更は加えています。
――デモの序盤で出てきたキッドという女性について,もう少し詳しく聞かせてください。
木村氏:
本名はジュリー・キッドマンという名前で,セバスチャンの部下にあたるキャラクターです。ストーリーでは,あの後にも何度も登場してくる非常に重要な登場人物で,主人公を助けてくれることもあれば,逆に反目することもあるという,コアな部分で関わってくるキャラクターと言えますね。
――デモのプレイ中,木村さんはチェーンソーの大男が手前方向を見ている間は,影に隠れてじっとしていたように見えました。
木村氏:
はい。キャラクターは暗闇に主人公が潜んでいるのか,明るい場所に出ているのかを判別します。ボトルを投げて気を散らしていたのを覚えていらっしゃると思いますが,聴覚にも反応するようなになっているんです。
――敵に火を付けようとして何度も失敗していたのは何故でしょうか。
木村氏:
どこまで近付いたら火が付くのか,どれだけの弾を膝に当てれば転ぶのかというAIの調整が決まっていなかったからです。彼が非常にアクティブな日だったんですね(笑)。
もちろん,何度膝を狙っても相手が倒れないというような状態ではプレイヤーにフラストレーションが溜まる原因にもなりますから,そのあたりはしっかりと調整していくつもりです。あと,敵AIはゲームが進むにつれて,プレイヤーが仕掛けたトラップを解除したり,それをプレイヤーに対して使って来たりするようになります。
――チェーンソーの大男を倒す方法はあるのでしょうか。
木村氏:
あの場面に限って言えば,まだセバスチャンが武器を携帯している状態ではないので,逃げるしかなかったのです。いずれ,別の場面で遭遇することになりますが,そのときにナイフしか持っていなかったとしても,頑張れば倒せないことはないと思います。
――別の場面で遭遇というのは,同じ大男が何度も出てくるということですか。
木村氏:
同一人物も出てきますし,別の人物も出てきます。ただ,「汎用」と表現できるほど安っぽいキャラクターではないですね(笑)。
――血の洪水が起こって病院にワープする直前にも,ドアに手をかけた瞬間にワープしたように見えるシーンがありましたが……。
ああいうことは何度も起こります。このゲームを開発するにあたって力を注いでいるのが,ゲーム中で起こっていることなのか,現実なのか,それとも精神世界のことなのかが,分からないという状況を作り出すことなんです。
それが何かわからないがゆえに,恐怖が増幅してそこから抜け出そうという感情につながっていくわけですね。「何であるか分からない」というのは,プレイヤーの感性と共にクリエイティブな自由度も広げますから,この部分は大切にしていきたいと思っています。
――Bethesdaのゲームは,それがシングルプレイ専用であっても,少しでも長く遊んでもらおうという工夫が施されているものが多いですが,PsychoBreakでもそういった要素は盛り込まれていますか。
木村氏:
そうですね。本作にはさまざまな攻略法がありますから,自分が気付かなかった部分をファンコミュニティで教えてもらい,挑戦してみるといったリプレイ価値の高い作品になっていると思います。
また,本編をプレイするだけでは知り得なかった奥の深い部分を,ノートや本のようなアイテムを調べることで理解できるようになっているんです。
――なるほど。発売がより楽しみになりました。本日はありがとうございました。
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