レビュー
想定売価249ドルで登場した「GK104コアのリブランド品」を試す
GeForce GTX 760
(GeForce GTX 760リファレンスカード
GIGABYTE GV-N760OC-2GD
Palit NE5X760H1024-1042J)
置き換え対象である「GeForce GTX 660 Ti」(以下,GTX 660 Ti)の場合,リファレンスクロック採用モデルの実勢価格は2万8000円〜3万3000円程度(※2013年6月25日現在)なので,ちょうどその後釜に置かれることとなるGTX 760だが,果たしてその実力はどれほどか。今回4Gamerでは,NVIDIAのリファレンスカードだけでなく,GIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGABYTE)から「GV-N760OC-2GD」,Palit Microsystems(以下,Palit)から「NE5X760H1024-1042J」と,計3枚の搭載グラフィックスカードを入手できたので,これらの検証を通じ,GTX 760の価値を探ってみたいと思う。
GTX 660 Tiの後継というより“GTX 670 LE”な雰囲気
GTX 700番台の特徴であるGPU Boost 2.0に対応
- GeForce GTX 770:GK104-425
- GeForce GTX 680:GK104-400
- GeForce GTX 670:GK104-325
- GeForce GTX 660 Ti:GK104-300
- GeForce GTX 760:GK104-225
となると,GTX 760のスペックは,置き換え対象となるGTX 660 Tiよりも低いのかという疑問は当然出てくるかと思うが,その答えは「半分正解」だ。
1基のGPCは最大2基のSMXとラスタライザから成り,1基のSMXは192基のCUDA Coreと,L1キャッシュやテクスチャユニット,ジオメトリエンジンである「PolyMorph Engine 2.0」から成る。
そして,GK104コアのフルスペックだと,GPCの数は4基で,SMXの数は8基,CUDA Core数は1536基だ。GK104-4xxシリーズだと,SMX数はフルスペックの8基。GK104-3xxシリーズだと,GPCの1基でSMXが1基無効化されて,合計7基となっている。
いずれにせよ,GTX 760のGPU規模は,GK104のフルスペック比で4分の3であり,置き換え対象となるGTX 660 TiよりもSMX数にして1基分小さい。
ただし,足回りは話が別で,これが先ほど「半分正解」とした理由となる。
GTX 660 Tiの場合,メモリインタフェースが192bit幅となり,ここが上位モデルとの大きな違いになっていたのだが,GTX 760ではフルスペックの256bit幅となる。ミドルクラス以上のGPUでは,高解像度や,高いグラフィックス設定が前提となり,いきおい,グラフィックスメモリ周りの性能が重要になってくるだけに,ここは見逃せないポイントといえるだろう。
冒頭から,GTX 760はGTX 660 Tiの後継であると繰り返してきたが,スペックを見ると,むしろ,GTX 670からSMXを1基削減し,その代わりにベースクロックを約7%,ブーストクロックを約5%引き上げてきたモデルと紹介したほうが適切かもしれない。全体的なイメージは“GTX 670 LE”的,といったところか。
ちなみに,GeForce GTX 700シリーズを冠することもあって,自動クロックアップ機能「GPU Boost 2.0」はGTX 760でも有効化されている。つまり,GTX 770や「GeForce GTX 780」「GeForce GTX TITAN」と同じく,「Temperature Target」(温度ターゲット)を設定すると,GPUコアの温度に余裕がある場合,自動的に動作電圧を引き上げることによって,より高いGPUコアクロックを狙えるようになっているわけだ。
GPU Boost 2.0の詳細はGeForce GTX TITANのレビュー記事を参照してもらえればと思う。
リファレンスカードはGTX 670と瓜二つ
クロックアップモデル2枚はどちらもユニークな内容に
GTX 760のスペックを押さえたところで,以下,入手した3枚のカードを順に見ていくこととしよう。
なお,グラフィックスカードのGPUクーラー交換は保証外の行為であり,取り外した時点で保証は受けられなくなる。今回は検証用として特別に取り外しているが,この点はくれぐれも注意してほしい。
■GTX 760リファレンスカード
まずはGTX 760リファレンスカードからだが,カード長は実測で242mm(※突起部含まず)。GTX 770の同266.7mmから25mm強短くなっている。さらに言えば,基板自体は173mmほどしかなく,GPUクーラーが70mm近くもはみ出した格好となるため,基板の端に用意された2基の6ピン補助電源コネクタは,カードのほぼ前後中央に配置されたような印象だ。
搭載されるグラフィックスメモリチップも,SK Hynix製のGDDR5「H
なお,リファレンスカードなので,GPUコアクロックやメモリクロックは先に示した表1のとおりだが,後述する表2のテスト環境では,最大動作クロックが1149
搭載するメモリチップはSK Hynix製の2Gbitモデル。基板両面に4枚ずつ搭載し,容量2GBを実現している |
EVGA製オーバークロックツール「Precision X」(Version 4.2.0)実行結果。最大クロックは1149 |
■GV-N760OC-2GD
なお,メモリクロックは6008MHz相当(実クロック1502MHz)で,こちらは定格どおりである。
1か月のうちに3度目の紹介となるので,さすがに語ることがなくなってきたが,優秀な冷却能力を持ったクーラーである。
なお,搭載するグラフィックスメモリチップはリファレンスカードと同じくH
カード後方は5+2フェーズ構成と見られる大型の電源部でほぼ占拠されている。ミドルクラスのカードらしからぬ規模だ |
搭載するGDDR5メモリチップはリファレンスカードと同じ。ただ,刻印はSK Hynix仕様に切り替わっていた |
■NE5X760H1024-1042J
「Palit GeForce GTX 760 Jetstream OC」という愛称が付けられたN
リファレンスカードと比べ,動作音は5dB低く,(同じ動作クロックなら)GPU温度は10℃下げられると,Palitは謳っている。
なお,グラフィックスメモリはH5GQ2H24AFR-R0Cで,リファレンスカードと同じだった。
動作クロックはベースがリファレンスの980MHzから1072MHzに,ブーストがリファレンスの1033MHzから1137MHzに引き上げられ,さらに,メモリクロックも定格の6008MHz相当から6200MHz相当(実クロック1550MHz)に引き上げられている。
後述のテスト環境で検証したところ,GPUコアクロックは1228MHzまで上がったので,今回入手した3枚のカードでは,総合的に最も動作クロックの高い製品と述べることができるだろう。
メモリチップは6Gbps品。なので,クロックはマージンを超えて引き上げられている計算になる |
今回のテスト環境だと,GPUコアクロックは最大で1228MHzに達するのを確認できた |
GTX 660 TiやHD 7950 wBなどと比較
ドライバはレビュワー向けの320.39を利用
今回は表1で挙げたGPUを比較対象として用意している。そのうち,GTX 660 Ti搭載カードとなるZ
HD 7950 wBは,「Radeon HD 7950」リファレンスカードに「AMD PowerTune Technology with Boost」有効化VBIOSを適用させたものだ。
そのほかのテスト環境は表2のとおりで,GeForceのテストには,NVIDIAからGTX 760のレビュワーへ配布された「GeForce 320.39 Driver」を用いる。一方,HD 7950 wBでは,テスト時の最新版となる「Catalyst 13.6 Beta2」を使うことにした。
今回からテスト用のCPUをHaswell世代の「Core i7-4770K」に変更しているが,自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の挙動がテスト状況によって変わる可能性を排除すべく,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化しているのは,これまでのGPUレビューと同じだ。
なお以下,スペースの都合上,グラフ中ではGV-N760OC-2GDを「GBT 760 OC」,NE5X760H1024-1042Jを「Palit 760 OC」とそれぞれ表記して区別することを,あらかじめお断りしておきたい。
リファレンスカードはGTX 660 Ti以上,GTX 670以下
クロックアップモデルはGTX 670と互角に
3製品の紹介があって,前置きが非常に長くなったが,ここからはテスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.1.0)の結果だ。GK104コアのフルスペック仕様,かつ,弱点だったメモリ周りに手が入っているGTX 770が頭1つ抜け出ている印象だが,GV-N760OC-2GDとNE5X760H1024-1042Jは,GTX 670,HD 7950 wBともども第2グループを形成し,その少し下にGTX 760が収まる,といった傾向になっている。
リファレンスクロック版のGTX 760から見ると,GTX 660 Tiに対しては9〜12%程度高いスコアを示せている一方,GTX 670に対しては約95%,GTX 770に対しては約80%というところに留まった。「GTX 660 Tiと比べてSMXが1基少ない」というマイナスは,高いGPUコアクロックと広いグラフィックスメモリバス帯域幅で十分挽回できるものの,定格動作する限り,当たり前だが,上位モデルは脅かせないというわけである。
HD 7950 wBキラーのはずなのにHD 7950 wBよりスコアが低いのは,3DMarkの特性,ということになるだろうか。
実際のゲームタイトルを用いたテスト結果から,グラフ2,3は「Far Cry 3」となるが,ここでもGTX 770のトップは揺るぎない。GTX 760はGTX 770の77〜81%程度というスコアなので,両者の関係は,3DMarkの結果を踏襲すると述べていいだろう。
気になるのは,GTX 660 Tiに対して,92〜102%程度と,いい勝負を“演じてしまっている”点だが,これは純粋に「SMX数か,メモリバス帯域幅か」ということだと思われる。要するに,Far Cry 3ではSMX数(≒シェーダプロセッサ数やテクスチャユニット数)がスコアを左右する傾向にあり,GTX 660 Tiに有利な結果が出たということだ。
このクラスのGPUは,結局のところ「何を残して何を削るか」という話になるので,タイトルによって差が広がったり縮まったりするのは珍しい話ではない。
その証拠に……というわけでもないだろうが,GPUコアクロックが引き上げられたGV-N760OC-2GDとNE5X760H1024-1042Jは,GTX 660 Tiに対して6〜16%程度高いスコアを示し,GTX 670ともいい勝負を演じている。
HD 7950 wBに対して,高負荷設定時のスコアで大きく引き離しているのも目を引くところだ。
「Crysis 3」のテスト結果がグラフ4,5だが,GTX 760のスコアは対GTX 770で79〜85%程度,対GTX 660 Tiで102〜112%程度と,3DMarkを踏襲する結果となった。とくに高負荷環境でGTX 660 Tiとのスコア差を広げているのは,256bitメモリインタフェースの効果といえそうだ。HD 7950 wBに対しても,スコアは安定的に上回っている。
GV-N760OC-2GDとNE5X760H1024-1042JがGTX 670と互角の勝負を演じているのも,ここまでと同じ傾向である。
続いて「BioShock Infinite」の結果がグラフ6,7だが,GTX 770の78〜82%程度,GTX 660 Tiの103〜107%程度というスコアは,Far Cry 3と似た傾向,と述べてよさそうだ。グラフィックスメモリ負荷がそれほど高くない場合には,どうしてもGTX 660 Tiとの違いは出にくくなる。
一方,GV-N760OC-2GDとNE5X760H1024-1042Jは,ここでも安定的にGTX 760比で10%前後高いスコアを示し,GTX 670と同等のところにまとまった。
公式の高解像度テクスチャパック導入によってグラフィックスメモリ負荷を高めてある「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)。本作を用いたテストの結果がグラフ8,9となる。
ここでは,8xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「Ultra設定」において,192bitメモリインタフェースのGTX 660 TiがHD 7950 wBの後塵を拝しているのに対し,GTX 760が対GTX 660 Tiで12〜18%程度高いスコアを示し,HD 7950 wBも上回っている点がトピックといえるだろう。グラフィックスメモリ負荷の高い局面では,やはりメモリ周りが“効く”というわけだ。
なお,「標準設定」であまり大きなスコア差がついていないのは,このクラスのGPUにとって十分に負荷が低く,CPUボトルネックが生じているためである。
グラフ10,11は「SimCity」の結果となるが,SimCityのようにGPU負荷が相応にある一方でグラフィックスメモリ負荷はそれほど高くないタイトルだと,GTX 760はGTX 660 Tiに対してスコア的な優位性を保てなくなる。クロックアップ版の2モデルがGTX 670を若干上回るレベルなので,スコアの傾向はFar Cry 3やBioShock Infiniteと同じ,ということになるはずだ。
3D検証の最後はグラフ12,13の「F1 2012」である。1920×1080ドット解像度では,CPUのボトルネックからか,スコアが揃いつつあるが,2560×1600ドット解像度におけるスコアは3DMarkやCrysis 3,Skyrimと同じような傾向になっている。
GTX 670比で消費電力は若干増加か
オリジナルクーラーの冷却性能は高い
表1で示したように,GTX 760のTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は170Wである。これはGTX 670と同じ値であり,また,GTX 770の230Wと比べると60Wも低い値でもある。では,実際のところはどうなのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみよう。
テストにあたってはゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ14となるが,アイドル時はさほど大きな差異を確認できない。もちろん,HD 7950 wBは,アイドル時にディスプレイ出力を切るように設定しておくと,「AMD ZeroCore Power Technology」で消費電力が大きく下がり,システム全体の消費電力は56Wにまで低下するので,その点は押さえておく必要があるわけだが。
というわけで各アプリケーション実行時を見ていくと,GTX 760のスコアはGTX 670を1〜22W上回った。その一方,GV-N760OC-2GDとNE5X760H1024-1042JはGTX 760からあまり増えていないことからすると,筆者が入手したGTX 760リファレンスカードは“外れ”だったという可能性もあるが,ともあれ,「GTX 670と比べると若干高そう」とは述べていいように思われる。
3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,
搭載するクーラーもファン回転数制御方法も異なるため,厳密な意味での横並び比較に意味はないのだが,3DMarkの実行時に,GTX 760リファレンスカードだと,Temparature Targetの規定値である80℃まで温度が上がってしまうのに対し,GV-N760OC-2GDは61℃,NE5X760H1024-1042Jは73℃と,まだ冷却能力に余裕があるのは見て取れよう。オリジナルクーラーの持つ冷却性能の高さ(≒自己責任で行うオーバークロックに向けたヘッドルーム)が窺い知れる。
ちなみに肝心の動作音だが,毎度,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,アイドル時は3枚ともいたって静かだ。3DMark時は,GTX 760とG
NE5X760H1024-1042Jは2製品と比べると若干大きな印象を受けるが,ウルサイというほどではない。ミドルクラスのグラフィックスカードとして及第点という印象だ。3スロット仕様のクーラーを搭載する以上,もう少し頑張ってほしい気はしないでもないが。
どこからどう見てもGTX 670の焼き直しだが
性能と価格のバランスは良好
発売から時間が経って,市場在庫であるGTX 660 Tiカードの実勢価格は2万8000円〜3万3000円程度,GTX 670カードの場合は3万4000〜4万円程度(※いずれも2013年6月25日現在)にまで下がってきてはいる。また,GTX 760の登場に合わせて処分特価が設定されたりもするだろうから,一概に言い切ることはできないのだが,それでも,リファレンスクロック採用モデルの国内想定売価が3万円程度というのは,悪くないように思われる。
“GTX 670 LE”なので,クロックアップモデルであればGTX 670と同等の性能を期待できるという点にも,魅力を感じる人はいるのではなかろうか。
もちろん,そういう立ち位置のGPUである以上,目新しさは微塵もない。その意味ではNVIDIAの巧妙な(?)リブランド戦略に乗せられているのだが,GTX 660 Tiに代わるミドルクラスGPUとして歓迎すべき存在なのも,また確かだ。
GeForce公式情報サイトGeForce.com(英語)
NVIDIAのGeForce製品情報ページ
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