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[SPIEL\'18]グループSNEの安田 均氏に聞く,2018年のアナログゲーム事情。キーワードは「ミステリ」「書き込み」「シリーズ化」
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印刷2018/10/30 23:12

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[SPIEL'18]グループSNEの安田 均氏に聞く,2018年のアナログゲーム事情。キーワードは「ミステリ」「書き込み」「シリーズ化」

 グループSNEと言えば,日本におけるテーブルトークRPG(以下,TRPG)普及の立役者として知られるクリエイター集団だ。そしてテーブルトークRPGのみならず,ドイツをはじめとする海外のボードゲーム界隈においても,その魅力を日本に伝える活動を古くから継続しており,代表である安田 均氏は,今なお日本におけるアナログゲームのキーパーソンの一人といえる。
 その安田氏に,SPIEL'18の会場でインタビューする機会を得たので,その模様を紹介する。新作の全体的な傾向はもちろんのこと,これからのボードゲーム業界の展望にも踏み込んでもらったので,アナログゲームファンはぜひ一読してほしい。

グループSNE代表の安田 均氏
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「SPIEL'18」を振り返って


4Gamer:
 まず最初に,今年のSPIELの概況をうかがえますでしょうか。とは言っても,まだ2日目が終わるところですし,部分的な話になってしまうかもしれませんが……。

安田 均氏(以下,安田氏):
 実はね,僕はここに来る前に,今回出品されている1200の新作を一通り全部調べて来たんですよ。なので,こっちではそれを実際に確認して回っているという感じです。概況ということでしたら,お話できますよ。

4Gamer:
 それはすごい。ぜひ,よろしくお願いします。

安田氏:
 大きな傾向は3つ挙げられるかと思います。
 まず1つ目。今年はミステリの要素持ったタイトルが強いですね。去年までも多かった脱出系は当然としても,「謎を解いていく」方向性の作品に強さを感じます。テーマの傾向としては,去年はSFでしたが,今年はミステリという感じでしょうか。
 2つ目に,ボードに実際に書き込む系のゲームが目立ちます。“Legacy系”はもちろんですが,手軽に拭き取って消せるマーカーで,ボードに書き込みながらゲームを進めるタイプです。鉄道ゲームでは昔からありましたが,それ以外でも見るようになりました。
 3つ目は,重たいゲームのシリーズ化が顕著になってきました。シリーズではない場合は,特定のデザイナーに依存したパターンですね。いずれにしても重たいゲームは固定のファンを前提にした展開が見られます。今年の特徴,という面で言えばこんな感じですかね。

4Gamer:
 なるほど,確かにそういう傾向は強く感じます。

安田氏:
 ボードゲームのシーン全体を見ると,今の盛り上がりは一過性のものではなく,ムーブメントの基礎となる部分がしっかりしているな,という印象を強く受けます。また,世界レベルでのフラット化が明らかに進んでいます。今年はインドネシアが大きなブースを出したことが話題になっていますが,日本はもちろんアジアが全体的に盛り上がっています。なかでも中国のデザイナーの躍進が目立ちますね。

4Gamer:
 中国では,つい先日ゲームの大幅な規制強化が伝えられましたね。これはデジタルゲームの世界の話ですが。

安田氏:
 はい。その一方で,北京ではボードゲームカフェがたくさんできているそうです。けして大きく宣伝しているわけではなくて,学生が口コミで広げてその店の常連になっていくというパターンです。こういった場所で育まれたゲームやゲームデザイナーが,エッセンにも来ているんです。
 なんにせよ,世界的に見てボードゲームのデザイナーは二択を迫られていくのだと思います。つまり,国内をメインの市場として売るのか,世界に向けて売るのかです。これはどちらがより良いという話ではないですが,グループSNEとしては世界市場を目指していきたいですね。

グループSNEは,冒険企画局との合同でSPIEL'18に出展。ブースでは両社のゲームが試遊できた
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ボードゲームとTRPGが融合する未来


4Gamer:
 少し話はズレますが,SPIEL'18ではTRPGの出展も数多く見られます。TRPGの世界的な動向はどうでしょうか。

安田氏:
 アメリカはD&Dが強いですね。ミニチュアを使ってプレイするスタイルも定着しています。その基盤があった上で,インディのTRPGメーカーも元気いっぱいです。
 ヨーロッパはアメリカに比べるとコミュニティが小さいのですが,ドイツでは「アンドールの伝説」のような形でボードゲームとTRPGが融合していくなかで,TRPGの側に変化が見られるようになってきました。
 ただ,ドイツを初めとしたヨーロッパで起きているムーブメントが日本のTRPGシーンにも波及するかどうかということになると,なかなか判断が難しいですね。日本のTRPGシーンはオールド・スクールなところがあって,古いスタイルのTRPGが強く好まれる傾向が明確に見て取れますので。
 でも,日本のTRPGも少しずつ変わっていくのだろうな,とは思っています。

TRPGのショートセッションを楽しむコーナーも。SPIEL全体を見回しても,TRPGの体験セッションが行われているブースは増加傾向にある
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4Gamer:
 安田先生がとくに注目している作品があれば教えてください。

安田氏:
 Plaid Hat GamesがAdventureBook Gameと銘打って発表した「Stuffed Fables」ですね。大量のボードを使って物語の分岐を作っていくという,わりと力技なゲームなんですが,注目すべき作品です。アークライトさんが日本語版を出すと聞いていますので,プレイしてみてはいかがでしょうか。

4Gamer:
 ありがとうございます。
 SPIEL'18の傾向という面では,自分としては“Legacy系”のゲームが一般化……というか,わりと雑にLegacyと銘打たれるケースが増えた印象があります。シナリオがカードで提供されていて,ユニットが装備やステータスを引き継げば,それでもうLegacyだ,というような。もちろんそれが良い悪いという話ではなく,むしろ「完全に一般化したんだなあ」というのが自分の印象なのですが,安田先生はどのようにお考えでしょうか?

安田氏:
 そもそも,Legacyシステムって昔からありましたよね。徳岡さん(筆者)なら,「Ambush!」を例に挙げれば分かってもらえるのでは?

※1983年にVictory Gamesから発売された1人用のウォーゲーム。シナリオがゲームブック形式で提供されていた。

4Gamer:
 確かに……!

安田氏:
 なので僕としては,“Legacy系”というのは,古い革袋に新しい酒と言いますか,昔のあのスタイルのゲームが,現代に合わせてやりやすい形で再び出てきたんだろうな,と見ています。ただこれから先,“Legacy系”も変わっていくと思いますよ。いまだと10回だの20回だののキャンペーンをプレイすることが前提になっていますけど,これって明らかに多すぎるんです。

4Gamer:
 それは自分も感じます。購入者としては「高いお金を払ったんだから20回くらいのキャンペーンがあったほうが」と思いがちですけど,実際にプレイすると正直,途中でお腹いっぱいになってきます。

安田氏:
 ですよね(笑)。なのでそのあたりは今後,確実にダウンサイジングが進んでいくかなと思います。実際,この問題には「テストプレイなんてしてないよ」の作者が随分前に気づいていて,これに基づいて「テストプレイなんてしてないよ」の第3弾は,デザイナーが考えたより望ましい“Legacy系”ゲームとしてデザインされ,3年前にリリースされました。今度グループSNEから日本語版が出ますので,ぜひ試してみてください……という宣伝でした(笑)。

4Gamer:
 3年前というのはすごいですね。

安田氏:
 世界中でいろいろなデザイナーが切磋琢磨するというのは,こういうことなんだと思います。カンのいいデザイナーは,すごく早い段階で新しいムーブメントの問題点や改善点にも目を向けています。それだけ層が厚くなっているんです。

冒険企画局の手によるパネル展示。「日本のTRPGの歴史」がドイツ語で書かれている
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「もっと広いところへ導く」重要性


4Gamer:
 日本のボードゲームの現状については,どのようにお考えでしょうか?

安田氏:
 基本的には良い状態だと思います。シーン全体が広がっているのは,文句なく良いことです。その上で,明らかな二極分化は観測できますね。

4Gamer:
 二極分化と言いますと?

安田氏:
 ライトでカジュアルなパーティーゲーム系のものと,コア向けのゲームでの二極分化ですね。僕は,パーティーゲームは絶対に必要だと思ってるんです。層を広げていかないと,どうしようもありませんから。でもパーティーゲームは数が売れる,だからパーティゲームを作るぞっていう流れが強くなりすぎると,これはこれでマズいんですよね。というのも,パーティーゲームに飽きた人が次に行く先がないと,そこで一斉に「ファン」が去っていくからです。
 実際,これは1990年台のアメリカで起こったことなんですよ。当時のアメリカではパーティゲームが大ブームとなりまして,ものすごくたくさんのパーティーゲームが作られました。でもそればっかりになった結果,飽きた人達が一斉に消えてしまったんです。1990年台後半になって,ユーロゲームそのほかの影響を受けてアメリカのボードゲームは復活しますが,一時期は大いに低迷しました。

4Gamer:
 なるほど。

安田氏:
 ですので,「もっとコアな楽しみを追求したい」と感じた人に対する受け皿って,ものすごく大事なんです。もっと言えば「コア層を作り,育てること」の大切さですね。ただ単に「広まればそれでOK」というわけではないんです。

4Gamer:
 デジタルゲーム市場でも,似たようなことを感じることがあります。

安田氏:
 もちろん,「広げること」自体は大事です。本当に大事です。事実,ボードゲームのシーンが広がることで,TRPGやウォーゲームといったゲームも,以前よりずっと遊びやすくりました。そうやって多様性を確保していく上でも,いわば「ゲーム」という大きなシーンを発展させることは,とても重要です。
 ただ,ピラミッドの中腹以上もちゃんと作っていかないと,ブームは一過性のもので終わってしまう。イメージとしては,「新しくゲームの世界に入ってきた人達を,もっと広いところへ導く」と考えてください。

4Gamer:
 「もっと広いところへ導く」というのは,すごくしっくりくる言葉です。自分のようなマニアは,どうしても「自分の住んでいる狭い世界に引きずり込む」ことをゴールにしてしまいがちですので(苦笑)。

安田氏:
 それはもう,マニアの本能みたいなものですから(笑)。でもそれだけではなく,「もっと広いところ」を紹介できるようになっていきたいですね。

ブースで配布されていた小冊子。内容はグループSNE作品のカタログといったところ
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テクノロジーが人間を補助するゲーム


4Gamer:
 先程,アジアのデザイナーが躍進していると伺いましたが,これについても詳しく教えてください。

安田氏:
 総論として言えば,全体的なレベルアップが著しいです。その上で,中国とインドネシアのゲームは,コンポーネントのレベルでの向上も著しい。以前とは比べ物にならないくらい,見た目が良くなっています。
 ただ中国のゲームについて言うと,中国でボードゲームを遊んでいるのは,いわゆる尖った人が中心なんですよ。それもあって,海外のボードゲームのデザインを強く意識したゲームが多いです。

4Gamer:
 ああ,日本にもかつてあった,「海外のゲームのほうが当然優れているはずだ」的な。マニアあるあるですね。

安田氏:
 ですので,中国の場合はこれからが楽しみです。彼らが中国ならではのゲームをいつ作れるようになるのか。そして作った場合にどんなゲームになるのか。実際,現状でも彼らが作ったパーティーゲームはすごく面白いんです。ただ,それでも随所に海外のゲームの影響が見て取れますね。

4Gamer:
 デジタルゲームの世界でも開発の国際化は進んでいますが,それでもなお現場からは「まだまだ開発拠点をどこに置くかで地域性が出る」という声を聞きます。より小規模で,かつテストプレイが地域密着型になりがちなボードゲームでは,その傾向はより強く出そうですね。

安田氏:
 当然そうなると思いますよ。実際,ドイツとアメリカと日本で,それぞれゲームの特徴は違っています。「この点においてはドイツのデザイナー達がすごいけど,こっちの部分では日本のデザイナーがすごい」みたいなものが明らかに観測できます。そういう地域性というのは,そう簡単には均一化されないと思いますね。
 でも逆に言うと,それって世界のどの地域から「まだ見ぬすごいゲーム」が出てきても不思議でないということでもあります。SPIELの会場を駆けめぐっているバイヤー達は,そういうゲームを必死で探しているんですよ。

4Gamer:
 最後になります。スマートフォンを利用したアナログゲームは,かつては「スマホを使う」というだけで珍しかったですが,最近ではカメラやVRといった機能を積極的に駆使する作品が増えてきました。この動きについては,どのようにお考えですか?

安田氏:
 この論点の本質は,「テクノロジーと人間」の関係性にあると思っています。ゲームというジャンルにおいて,これまでコンピュータと人間は原則として敵対してきたんですよね。代表的なのが囲碁や将棋で,AIと人間が戦って,勝ったり負けたりしてきました。でも人間のトッププロにAIが勝つようになってきて,別の方向性がよりはっきりと見えてきました。それは「テクノロジーが人間を補助する」という考え方です。

4Gamer:
 コンピュータを利用したアナログゲームはこれまでにもありましたが,現代ほどメジャーとは言えませんでした。

安田氏:
 今のTRPGは,テクノロジーをうまく利用しているじゃないですか。かつて我々は同じ部屋に集まって,日がな一日セッションをしていたわけですが,今ではオンラインで,全国津々浦々のプレイヤーがセッションを楽しむのが当然になってきました。これはまさに「テクノロジーが人間の遊びを補助する」形ですよね。

4Gamer:
 確かにそうですね。

安田氏:
 じゃあ例えばオンラインセッションとライブのセッションが,まったく同じかと言われれば,それは当然「違う」んです。でも,これもまた良いことなんですよ。「違う」ということは,それだけ楽しみの幅が広がったということですから。僕らは今やオンラインセッションが楽しめるし,ライブのセッションも楽しめるようになったんです。同じことが,ボードゲームでも起きていると思います。そういう点で,いまから来年のSPIELが楽しみで仕方ありません。

4Gamer:
 お忙しい中,どうもありがとうございました。



 「世界のどこからすごいゲームが出てくるか分からない」という安田氏の指摘からは,デジタルゲームにおけるインディーズの盛り上がりと同じものを感じさせる。またデジタル技術の発展によって「コンピュータが人間を補助する」形でのアナログゲームは,これから大いに発達する可能性を秘めているように思えた。無論,それによって開発コストやメンテナンスコストの上昇が見込まれるのは痛し痒しではあるが。
 PCゲームの世界が刻々と変化し続けるように,同じ「ゲーム」のシーンを作っているアナログゲームもまた日々変化し続けている――そんなことを強く感じさせられるインタビューだったと言える。

自ら陣頭に立って来場者に応対する,冒険企画局の近藤局長(右端)
画像集 No.007のサムネイル画像 / [SPIEL'18]グループSNEの安田 均氏に聞く,2018年のアナログゲーム事情。キーワードは「ミステリ」「書き込み」「シリーズ化」

グループSNE 公式サイト

  • 関連タイトル:

    アンドールの伝説 完全日本語版

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