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[COMPUTEX]VESA規格の「Adaptive-Sync」登場でG-SYNCはどうなるのか? NVIDIAのG-SYNC担当者に聞いてみた
一部の高リフレッシュレート対応製品を除き,ディスプレイ機器は基本的に,毎秒60回の表示を行う60Hz――正確には59.94006Hz――で動作している。つまり,表示側は60Hzの固定レートで映像表示をしようとしているわけだ。
ところが,GPUのグラフィックスレンダリングは,シーンの複雑性やシェーダー負荷の高低という要因によって,必ずしも毎秒60コマ(=60fps)の映像を生成できないことがある。60fpsよりも低いときには,ディスプレイ側に用意される60Hz周期の表示メカニズムとズレが生じることになり,表示がカクつく「スタッター」(Stutter)と呼ばれる現象や,映像表示が画面上の中途で分断されて行われる「テアリング」(Tearing,ただし日本では語義からすると誤読になる「ティアリング」読みが主流)現象が生じてしまう。
スタッターは,ディスプレイ側の60Hzと同期した状態(=Vsync有効)で,GPU側の描画フレームレートが低下してしまった場合に,一方のテアリングは,ディスプレイ側の60Hzを無視した状態(=Vsync無効)で表示しているときに,GPU側の描画フレームレートが60Hzからずれてしまうとそれぞれ生じる。
要するに,スタッターもテアリングも,ディスプレイ側がGPUの都合とは無関係に,固定表示レートで映像を表示していることが原因で起こるものだ。そのため根本的に解決するには,ディスプレイ側の60Hz動作をやめて,GPU側が映像を描画をし終えたタイミングで,その都度表示すればいい。これが,GPU主導のディスプレイ同期技術であるG-SYNCの基本的な考え方である。
詳細な内容は,G-SYNC解説記事を参照してもらいたい。
G-SYNCもVESAの「Adaptive-Sync」も技術起点は同じだった?
果たして,G-SYNCとAdaptive-Syncの違いは何か? GeForceはAdaptive-Syncに対応するのか? COMPUTEX TAIPEI 2014にて,NVIDIAでG-SYNCを担当するテクニカルマーケティングディレクターのTom Petersen(トム・ピーターソン)氏が,NVIDIAの公式見解を明らかにした。
まずはAdaptive-Syncだが,これは組み込み向けDisplayPort規格である「eDP」(embedded DisplayPort)にもともとあった「Ignore MSA」と呼ばれる仕様を,DisplayPort規格へ逆輸入する形で導入したものだ。
用語について簡単に説明しておこう。eDPとは,ノートPCの内部などで,マザーボードと液晶パネルをDisplayPortで接続するための規格である。グラフィックスカードとディスプレイをつなぐのに使うDisplayPortケーブルやコネクタは一切使わず,専用のフラットコネクタとフラットハーネスなどを用いるものだ。
Ignore MSA(MSA:Main Stream Attribute)とは,意訳すると「メインの映像ストリームが持つ属性情報を無視する制御」のことで,具体的には,GPUのような映像信号の送出元が,イレギュラーな垂直帰線期間や水平帰線期間をディスプレイ側に与えるための仕様である。もともとは,ノートPCなどで液晶パネルの省電力化を実現するために,リフレッシュレートを下げて表示できるようにと定められたものだ。
余談だが,一部のノートPCや映像機器では,Ignore MSAの仕組みを応用してディスプレイの24Hz表示を実現し,省電力と映像ソフトの忠実な再生を両立させたものもある。
話を戻そう。NVIDIAは,このeDP規格の立ち上げに参画しており,規格化に大きく貢献したと,Petersen氏は振り返る。
そんな流れの中でNVIDIAは,Vsync有効と無効を動的に切り替える「Adaptive VSync」を導入したのだが,ある日,NVIDIAのエンジニアが「よく考えたら,Ignore MSAの仕組みを使って表示時間をフレームごとに変えれば,『GPU主導の表示タイミング制御』を実現できるんじゃないか」と気が付いたのだという。
G-SYNCモジュールは,「eDPのIgnore MSA」の仕組みを応用してGPUと液晶パネル駆動基板の間を取り持つ,ブラックボックス(≒仲介人)であるわけだ。
そう考えると,G-SYNCの発想自体はAdaptive-Syncと変わらない。
一見対立しているように見えるG-SYNCとAdaptive-Syncだが,「Adaptive-SyncをNVIDIA流で先行実装した事例がG-SYNCと紹介することもできるだろう。
Adaptive-Syncの登場後もG-SYNC優勢は揺るがないとNVIDIA
Ignore MSAを使うAdaptive-Syncでは,今後ディスプレイメーカーとGPUメーカーが密に協力してのテストが必要になると,Petersen氏は指摘する。
ディスプレイメーカーが採用するスケーラーチップ(≒映像エンジンチップ)やパネル駆動モジュールが,Ignore MSAを使ったAdaptive-Syncにいつ対応するのか。対応するとして,GPUと問題なく協調動作できるのか。「ちゃんと形になるまでは相当な時間が掛かるのではないか」(Petersen氏)。
NVIDIAの立ち位置としては当然なのだが,面倒な部分はすべて専用モジュールで受け持つG-SYNCこそが,「GPU主導の表示タイミング制御」を実現するための特効薬なのだ,というのが同社の主張であるわけだ。
今回のような「NVIDIA対業界標準規格」という事例は,過去にも似たようなケースが存在した。
1つは3D立体視システムだ。DVI端子経由で実現する3D立体視システム「3D Vision」は,登場時こそ業界をリードしていたが,2010年頃から対応製品の登場が始まったHDMI規格標準の3D立体視伝送規格へと,事実上取り込まれる形になった。
ジャンルは違うが,GPGPUプラットフォームも似たような事例といえる。業界標準規格として「OpenCL」が提唱されたのに対し,NVIDIAがそれに先んじて独自のGPGPUプラットフォーム「CUDA」を展開したことにより,スーパーコンピュータの世界ではCUDAがデファクトスタンダードとなり,業界標準規格を凌ぐ独自規格として認められている。
その意味では,今回のG-SYNCが3D Visionのようにフェードアウトするのか,それともCUDA的に事実上の標準規格として君臨することになるのかは,注意深く見ていく必要があるだろう。
なお,G-SYNCを推進する立場にあるNVIDIAなので,Adaptive-Sync対応のGeForce Driverを提供する予定は,少なくとも現時点ではないとのこと。もちろん,DirectX 12などのグラフィックスAPIにAdaptive-Sync関連の要素が載ってきたりすれば,いくらなんでも拒めなくなるはずだが,そうならない限り,NVIDIAとしてAdaptive-Syncへ対応することはないのではなかろうか。
LED Visualizerが大幅アップデート
音楽に合わせて光ったり,負荷に応じて輝度が変わる
GeForce Experienceでは,リファレンスデザインを採用する一部のハイエンドグラフィックスカード用に,GPUクーラー上にある「GeForce GTX」ロゴに埋め込まれたLEDイルミネーションを制御する機能「LED Visualizer」が提供されており,これがアップデートされるだそうだ。
アップデート後のLED Visualizerでは,任意の音楽に合わせてLEDを点滅させたり,GPUの負荷に応じて輝度を変えたりできるようになるとのこと。単なる電飾から,インジケータ的な機能を持たせられるようになるわけだ。
新しいLEDの光らせ方設定メニュー。一番下に「Audio flashing」がある |
こちらはGPUの負荷に応じた輝度で光らせる設定を選んだ状態。 |
新しいLED Visualizerが実際にどう光るかは,動画で掲載しておこう。この遊び心溢れる最新版LED Visualizerには,Petersen氏のアイデアがたくさん活かされているとのことだ。
G-SYNC 日本語公式Webページ
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