インタビュー
「ALIEN: ISOLATION」のリードゲームデザイナーにメールインタビュー。名作映画の“続き”はどのようにして作られたのか
※PC/PlayStation 3/Xbox 360版は日本未発売
SF映画史に金字塔を打ち建てた不朽の名作「エイリアン」の15年後を描いた本作は,未知の凶暴な生物の恐ろしさが存分に味わえることに加え,原作となった映画を緻密に再現した世界設定でも高い評価を受けている。詳しい内容については,これまでにお伝えしている記事をご覧いただきたいところだが,そんな映画の“続編”といえる「ALIEN: ISOLATION」はどのようにして作られたのだろうか。
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今回,Creative Assemblyに所属し,本作のリードゲームデザイナーを務めたGary Napper氏にメールインタビューを行ったので,その回答をお届けしよう。なお,発売後のタイトルについて尋ねるという記事の性格上,多少のネタバレ要素が含まれている。そのあたりはご了承いただきたい。
「ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-」公式サイト
「ALIEN: ISOLATION」のリードゲームデザイナー,Gary Napper氏(Creative Assembly) |
「ALIEN: ISOLATION」は,映画と世界設定を共有するだけの外伝(スピンオフ)ではなく,直接ストーリー上のつながりがある“続編”です。どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか。
Napper氏:
我々が真っ先に目標として掲げたのは,プレイヤーがただ1体のエイリアンによって狩られようとしている,その緊迫感を再現することでした。これは,原作である映画「エイリアン」が非常にうまく表現していた部分であっただけに,我々にとっても大きな目標となりました。
次の課題は舞台を決めることでしたが,原作のメカニカルで工業デザイン的な世界設定を意識しなければならないというのは早い段階から分かっていました。ただ,ゲームは映画よりも長い尺になるので,より大きな舞台が必要となりました。
また,主人公が女性になったのは,誰かが決めたわけでなく,チームの共通認識として「そうなるべき」との思いがあり,最終的に最も自然な選択肢として落ち着いた感じです。
4Gamer:
映画「エイリアン」の15年後を舞台に設定したことで,シリーズの歴史の一部となりましたが,権利元の反応はいかがでしたか。
Napper氏:
我々のプロットに対して,20th Century Fox様は非常に前向きで喜んでくれました。これほど暖かく受け入れてもらえたのは,主人公のアマンダ・リプリー(映画「エイリアン」の主人公であるエレンの娘)が母親と似た状況に置かれる設定だったからではないかと思います。
4Gamer:
アマンダを主人公に据えた理由を教えてください。
Napper氏:
先ほどの回答と重複しますが,当初から主人公を女性にしたいと考えていました。主人公が決まっていないプロトタイプの段階では,仮のモデリングとして衝突実験用マネキン人形の女性版を使っていたんです。
主人公の人物像を検討していく過程で,アマンダ・リプリーという登場人物が浮上しました。映画の公式設定でも軽く紹介されていた程度で,そのキャラクターがちゃんと取り上げられたことはありません。
アマンダの登場によって,我々の創造力が大いに刺激されました。彼女を物語の柱にするアイデアが広がるにつれて,「ALIEN: ISOLATION」の方向性に合致するとの実感を増し,ゲームの世界に溶け込ませることができたのです。
4Gamer:
アマンダのキャラクターデザインにおいて,とくに意識したことはありますか。
Napper氏:
アマンダは母親がいない環境で育ってきたため,自分なりの道を作っていく必要がありました。さらに,母親が一体どのように失踪したのか,本人は結末を知らされていません。キャラクターをデザインしたとき,自立心が強い性格,そして意欲的な意志を持たせることにしました。
また,ゲームの舞台となる宇宙ステーションにおいて,ドアや端末,ダクトなどをこじ開けたり,封鎖したりするエンジニア能力を持たせる必要がありました。
母親同様,過酷な状況に置かれてしまったとしても,どんなに辛い条件を強いられても,最後まで決してあきらめないキャラクターとなったのです。
4Gamer:
プレイヤーを付け狙う「エイリアン」の描写において,とくに意識したことはありますか。
Napper氏:
原作の映画では,実際にエイリアンがスクリーンに映っているのは3分程度です。しかし,ゲームでは当然ながらもっと長く登場します。そのうえで,エイリアンには圧倒的な存在感,脅威,獰猛さを再現する必要がありました。
そのため,プロトタイプの段階でエイリアンを徹底的に検証し,環境やプレイヤーキャラクターのサイズに合わせて,身長を大きめに調整しました。プレイヤーが感じる恐ろしさをうまく表現できたと思います。
4Gamer:
エイリアンは「ビッグチャップ」と称されるタイプですが,鳥のように曲がった脚はゲームオリジナルですね。
Napper氏:
何度も検証を繰り返した結果,エイリアンがゆっくりと船内を巡回しながら,どんな状況であっても人間を狩れるようにする。そして,いざというときには高速で移動して獲物を仕留められるようにする必要がありました。
しかし,原作どおりの脚部のデザインでは,エイリアンが持つ恐怖を引き出せないという結論になったのです。また,原作の体型で高速に走らせると,エイリアンらしい自然なモーションではなく,いきなり疾走しているように感じてしまう。とっさに飛びかかって,一瞬で廊下を走り切るような瞬発力を持たせるために,エイリアンの脚を改造することにしました。その結果,エイリアンのリアリティや凶暴性を高められました。
4Gamer:
映画では,エイリアンが高速で動き回る描写はありませんでした。これを表現するのは,大変な作業だったのではないでしょうか。
Napper氏:
確かに原作ではそのようなシーンがありませんが,動体探知機のディスプレイに映るドットだけでも,エイリアンが高速で移動している印象が視聴者に伝わってきます。つまり,エイリアンに対する一般的なイメージは「素早く,凶暴な殺戮生物」のはずです。そう気づいたときに,映画の視聴者が体験した「見えないエイリアン」をゲームでも実現する必要があると分かったのです。
「ALIEN: ISOLATION」では,プレイヤーが宇宙ステーションを探索しながら,エイリアンに近付くという自由度がありますので,非常にトリッキーな作業でした。
4Gamer:
「ALIEN: ISOLATION」のジャンルは「ステルスアクション」といえますが,このようなゲームデザインを選んだ理由を教えてください。
Napper氏:
原作におけるストーリー展開や緊迫感の在り方は,サバイバルホラーそのものだと思います。映画が持つ独特の雰囲気や美学をゲームで再現しようとする試みの中で,ゲームプレイもその方向性に追従することになりました。武器があるのに敵に対してあまり効かない,エイリアンに対して火炎放射器だけが有効,端末をハッキングすると安全なエリアに進めるなど,こうしたゲーム性は「ALIEN: ISOLATION」において極めて自然なものです。同じ状況に陥れば,生き延びるために誰もが試みるであろう行動を表現できたと思います。
4Gamer:
レベルデザイン(難度やステージの設定)において苦労されたところはありますか。
Napper氏:
「ALIEN: ISOLATION」では,宇宙ステーション内を自由に移動できます。一度訪れたエリアもあとから訪れることができ,最初は恐る恐る探索していたエリアに強い武器を持って戻ることが可能です。
しかし,どこに出没してもおかしくないエイリアンが存在する以上,ある通路では敵が襲ってこない,イベントも発生しないからといって,手を抜いた設計にはできません。その通路にはエイリアンと遭遇した場合の対抗措置を用意する必要があり,身を隠せる物陰,移動可能なダクト,ハッキングできるドアなどが必要です。レベルデザインのチームにとって壮大なタスクになりましたが,うまくやり遂げてくれました。
4Gamer:
三人称視点ではなく,一人称視点を採用した理由を教えてください。
Napper氏:
開発の初期段階では,三人称視点を用いたプロトタイプで試行錯誤を繰り返しました。その件については,弊社クリエイティブディレクターのAlistair Hopeが,今年のGDC(Game Developers Conference)で映像を公開しています(関連記事)。
一人称視点と三人称視点,その違いを検証した結果,ゲームの世界に視点が近くなる一人称視点のほうが,より衝撃的でインパクトが強いことに気づいたんです。最終的に一人称視点を採用しましたが,その判断に後悔することはありませんでした。
4Gamer:
プレイヤーが銃を撃ちまくって敵を倒すシュータータイプにする予定はなかったのでしょうか。
Napper氏:
一切ありませんでした。力強いヒーローになってエイリアンを次から次に殺していくゲームではなく,生き延びることだけに重きを置いた体験を得ることが我々の目標でした。撃ちまくって敵を倒すゲームはたくさん存在しているので,「ALIEN: ISOLATION」では恐怖とステルスを重視し,映画「エイリアン」ならではの体験を実現することに注力したのです。
4Gamer:
映画公開当時(1979年)のSF考証をゲームに反映させるにあたり,苦労はありましたか。
Napper氏:
そんなになかったと思います。なぜなら,最初から明確な方法論を構築し,目標を設定して,その中で構想を重ねることができたからです。
また,1979年の映画撮影現場で制作できないものをゲームに登場させないというルールを設定しました。アイテムを作成するときに使用する部品,エイリアンやアンドロイドを迎撃するため武器の種類は,原作の設定に由来するもので,ゲームの世界に存在させることは自然にできました。宇宙ステーションの環境はプレイヤーを超常的に手助けするためのものではなく,あるべくしてある自然なものであり,その一方で容赦のないものにもなっています。
4Gamer:
ゲームに登場するアンドロイド「ワーキングジョー」は,映画にはないオリジナルの設定ですね。
Napper氏:
ワーキングジョーには,非人間的な感覚を持たせたかったと同時に,秘めた凶暴性を内包していることをプレイヤーに理解してもらいたかったのです。つまり,恐怖の対象となり得るものが,最初に敵か味方か,その認識を曖昧な形にしたかったのです。
ちなみに,ワーキングジョーを製造している,セヴァストポリ宇宙ステーションを管理するシーグソン社は技術レベルが低い企業です。そこで,ウェイランド・ユタニ社製の人間と見分けがつかないアンドロイドと品質面で競争するのを避け,あえてアンドロイドらしい外見で廉価版であることをアピールしているというわけです。この設定は,個人的にとても面白いと思っています。
4Gamer:
味方であるはずの人間が敵となるシチュエーションに驚かされました。
Napper氏:
セヴァストポリ宇宙ステーションには生存者がいるものの,エイリアンの到来によって全体的な秩序が乱れています。そのため,生き残っている人間は物資を略奪しようと凶暴化しているのです。
ただし,すべての民間人が凶暴というわけではなく,理由もなく攻撃してくるようなゲームにはしたくありませんでした。プレイヤーが近寄ると,民間人は警告したり引き返すように要請したりするので,これに従えば戦闘を回避できます。生存者達はあくまでも生き延びようとしているだけで,お互いに信用し合っていません。当然,部外者であるアマンダも信用されないというわけなのです。
4Gamer:
映画「エイリアン」を最初に見たときの感想をお願いします。
Napper氏:
自分はかなり若いときに見てしまったせいか,たとえば同じような状況に置かれた場合,一体どうすれば生き延びられるのかと子供ながらに悩んでいました。恐ろしいクリーチャーに怯えながらも,その存在感や謎に夢中でしたね。今でも映画を見ると,同じ感覚になれます。
我々が作ったゲームでエイリアンと遭遇したときに,その感覚が湧き起こるのですが,作り手としては誇りに思っています。
4Gamer:
映画と同じシチュエーションを再現した「オリジンミッション」で,とくにこだわったポイントがあれば教えてください。
Napper氏:
やはり,ゲーム内の環境における細部に対するこだわりです。オリジンミッションの舞台となるノストロモ号の設計は,映画のセットの設計図に基づいて構築しています。そのすべてを再現するため,映画のシーンを逐一参考にしつつ,ノストロモ号自体のパーツをそれぞれピックアップして組み込んでいったのです。
4Gamer:
もし続編を制作することになったら,どんな作品にしたいですか。
Napper氏:
ハハハ! 以前,別のインタビューで「続編があるならこうしたい」という話をしたのですが,あとで上司に散々怒られてしまいました。今回は「ノーコメント」にしてください。
4Gamer:
最後に,ゲームをプレイした人でもなかなか気づかないような「イースターエッグ(隠し要素)」があれば教えてください。
Napper氏:
宇宙ステーションでは,生存者達のIDカードがいたるところに隠れています。これを集めて,IDタグの写真をご覧になってください。おなじみの顔があるかもしれませんよ!
「ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-」公式サイト
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Alien: Isolation, Alien, Aliens, Alien 3 TM & (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. Twentieth Century Fox, Alien, Aliens, Alien 3 and their associated logos are registered trademarks or trademarks of Twentieth Century Fox Film Corporation. Alien: Isolation game software, excluding Twentieth Century Fox elements (C) SEGA. Developed by The Creative Assembly Limited.
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