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[GDC 2015]SCEが「Morpheus」新型試作機を公開。西川善司が開発スタッフに技術仕様を聞いてきた
新型Morpheusはどこが進化したのか?
従来のMorpheusでは,5インチで解像度1920×1080ドット,対応フレームレート60fps対応の液晶パネルを採用していたのに対し,新型Morpheusでは,解像度こそ据え置きながら,5.7インチで対応フレームレート120fps対応の有機ELパネルに変わったのが,大きな変更点だ。
液晶画素の応答速度はmsオーダーなのに対し,有機ELはμsオーダー。つまり,新型Morpheusの描画応答速度は桁違いに速くなるということである。
仮想現実(以下,VR)では,シーン内のオブジェクトが動かなくとも,ユーザーの頭が動くだけで映像も動くことになるため,極めて高いフレームレートと描画レスポンスが要求される。その点,新型Morpheusでは,高品位なVR実現に必要なスペック要件に対し,順当にディスプレイパネルの性能を高めてきたというわけだ。
ここでいうシステム遅延は、ユーザーからの入力が、ホスト機となるPlayStation 4(以下,PS4)で処理されて,新型Morpheusの有機ELパネル上で描画完了するまでの所要時間に該当する。
新型Morpheusでも,映像および音声プロセッサを内蔵したプロセッサボックスが組み合わされるが,ここでの遅延はないとのことである。
ちなみに,新型Morpheusにおける有機ELパネルのドットピッチは約386ppi。かつてソニーは,ディスプレイ技術学会であるSID 2012(Society for Information Display 2012)で,500ppi程度のRGBサブピクセル構造を持った有機ELパネルの製造は行える見通しを発表していた。なので,もう少し解像度を上げられる可能性もあるにはあるが,PS4の描画性能を考えると,「1920×1080ピクセル,120fps」というスペックに変更が加えられる可能性は低い。
頭部の動きや傾きを検出するため,従来のMorpheusには,加速度センサーとジャイロスコープセンサーが搭載されていたが,それとは別に,ユーザーの絶対位置を検出したり,頭部の向きや傾きを検出の補助として用いたりするために,LED発光ユニットも実装されていた。LED発光ユニットは,PlayStation Camera(以下,PS Camera)によって撮影され,「取得された映像」をPS4側で解析し,LED発光ユニットの傾きや大きさを評価して,ユーザーの頭部位置や向き,傾きを検出する仕組みだ。
新デモが4つ公開に。発売は「2016年上半期」と予告されるが,価格に関する言及はなし
今回の新型Morpheus公開に合わせて,SCEは,新しいVRデモも4つ公開した。
1つは,PlayStation Moveコントローラを使ったガンシューティングタイプのデモ「London Heist」,2つめは,従来版Morpheus用にも存在した海底探検デモ「The Deep」に,新たな海棲生物を追加した新バージョンだ。残る2つは,「プレイルーム」に登場するロボット「ASOBI」達と戯れることができるデモとなっている。
ギャングに拷問されるシーンから始まるバイオレンスアクション,London Heist |
あの海中探検デモ,The Deepが装いも新たに! |
ASOBIロボットのお家を探検 |
DUALSHOCK 4でASOBIをコントロールしよう |
さて,気になる発売時期だが,今回発表されたものがそのまま市販化されるのかと思いきや,「2016年上半期」と,けっこう先になることがアナウンスされている。なお,価格に関する言及はなかった。
実際にMorpheusを体験してのインプレッションは,稿をあらためてお届けしたいと思う。
MorpheusとPS4にまつわる疑問について
開発スタッフに聞いてみた
発表会場では,Morpheusの開発部隊に所属するスタッフと話す機会があった。最後に,その内容をQ&A形式でまとめておこう。「A」には筆者による解説や考察を交えているので,その点はご承知置きを。
Q:
Morpheusはフレームレートが120fpsというが,PS4から1920×1080ピクセルの120fps出力はできるのか。A:
PS4のHDMI端子はHDMI 1.4a対応となる。HDMI 1.4aだと,120Hz出力は1280×720ピクセルまでしか対応できないわけだが,実のところPS4のHDMIトランスミッタは,「3GHz HDMI」あるいは「HDMI 1.4b」と言われる高速伝送に対応し,1920×1080ピクセルの120Hz出力を行える。
PS4のAPUに統合されるGPUが「Graphics Core Next」(以下,GCN)ベースであることはご存じのとおりだが,GCN世代では,最初期モデルとなるRadeon HD 7000シリーズから,“裏モード”として1920×1080ピクセルの120Hzに対応していたという歴史がある。なので,今回「PS4が1920×1080ピクセルの120Hz出力に対応」と言われると,納得できる部分ではある。
Q:
Morpheusが120fps対応で,PS4も1920×1080ピクセルの120fps出力が可能なのはいいとして,そもそもPS4にそれだけのレンダリング性能はあるのか。A:
ゲームコンテンツに依存する。複雑なシーンのゲームや,シェーダヘビーなゲームタイトルでは,おそらく60fpsがメインターゲットとなるはずだ。実際,今回公開された4つのデモのうち,ネイティブ120fpsなのはASOBIロボット達をDUALSHOCK 4で操るデモのみ。そのほかはすべて,ゲーム側では60fpsで,PS4側の「Morpheus SDK」で120fps化されている。
Q:
ということは,60fpsで実装して,120fps化するタイトルが多くなる?A:
リッチなグラフィックスを採用したゲームの多くはネイティブ60fpsとなる見込み。
ただし,新しいMorpheus SDKでは,60fpsゲームを自然な形で120fps化するポストプロセス的な機能が搭載される。すでに完成しているグラフィックスエンジンに挟み込むミドルウェアのような感じで使うと,ゲームデベロッパ側が何もしなくとも120fps化されるようだ。イメージとしては,テレビに搭載されている補間フレーム挿入型の120Hz倍速駆動技術とよく似たものになる。
ちなみに,テレビの補間フレーム生成は,フレーム相関性を解析して画素単位の移動ベクトルを算出してから補間フレームを算術合成するが,新型Morpheusに合わせて登場した新版のMorpheus SDKで実現される機能は,もっとシンプルだ。具体的には,すでにレンダリング済みのフレームを,「表示時点における頭部の向きや位置」に適合するよう,変形したり,表示位置をずらす処理を行ったりするだけである。
ということなので,画面の端に黒の未表示領域などが見えたりすることもあり得るのだが,VRの場合,意識して見ているのが視界中央となるため,ほとんど気づかないだろう。
もし,この未表示領域をどうしても見たいという人は,首を左右に小刻みに振るといい。
なお,SCEはこの技術を「Temporal Reprojection」(時間再射影)と呼称している。本質的にはOculus VRが「Oculus SDK」で提供している「Time Warp」と同じものである。
Q:
その120fps化品質は?A:
人によって評価は異なるかもしれないが,かなり自然に見える。
頭部の位置や向きは1000Hz(=1000fps)で取得されており,ある瞬間のフレームを描画するとき,Morpheusは,表示時の時間軸に適合するであろう視界を予測して描画する。そしてその描画結果を実際に表示する直前にも頭部の位置や向きを取得して,前述のTemporal Reprojection処理も合わせる。こうすることで,60fpsから極めて精度の高い120fps映像が生成されるという仕掛けだ。
もちろん,キャラクターの演技自体は60fpsで行われるため,キャラクターの動き自体が120fps相当になったりはしない。しかし,ユーザーの頭部の動きに連動して動く視界は,比較的,正確な120fps表示となる。
Q:
MorpheusのサラウンドサウンドはHDMIから出力されるのか。A:
MorpheusのプロセッサボックスにはUSB端子が用意されており,PS4とUSB接続できるようになっている。また,プロセッサボックスには3Dサラウンドサウンドプロセッサが搭載されているので,PS4からUSB経由で定位情報などとともに送られてきたサウンドは,このプロセッサで処理してサラウンドサウンドとして再生できる。また,HDMI経由で入力された5.1chや7.1chのサラウンドサウンドを再生することも可能だ。
ゲームでは前者が基本になる見込みだという。
SCE公式Webサイト
GDC公式Webサイト
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