連載
NHK「ゲームゲノム」Season2 第9回は和風ホラーゲームの先駆者「零」シリーズ。元乃木坂46の堀 未央奈さんも迎えて,その怖さを見つめる
MCは歌手/ダンサーとして活躍している三浦大知さん。ゲストには零シリーズ全作品のディレクターを務め,シナリオとゲームデザインを担当した柴田 誠氏と,元乃木坂46の堀 未央奈さんを迎えて,「怖さを見つめる」をテーマに,同作の魅力と開発の狙いが語られた。
零シリーズとは?
零は,2001年12月に発売されたPlaySation 2用ソフト「零〜zero〜」に端を発するホラーゲームシリーズだ。当時,まだコーエーと経営統合する前のテクモが手掛けた作品で,現在までに5作品が世に出ている。
当時は1998年に和風ホラームービーの「リング」が大流行。さらには2000年の「呪怨」,2002年の「仄暗い水の底から」と,同ジャンルを代表するような作品が矢継ぎ早に生まれていた時期だった。
ゲーム業界でも「バイオハザード2」(1998)などホラーゲームブームが流行の兆しを見せていたが,和風のホラーゲームはあまり目立っていなかった。そんな中で登場したのが,この零である。
シリーズでは一貫したゲーム体験が提供されており,リングや呪怨にも通じる和風ホラーの世界観と,カメラを使って幽霊と対峙していくゲームシステムが大きな特徴だ。
カメラは幽霊の姿を捉えて魂を封じ込め,ダメージを与えるという重要なアイテムだが,本来は逃げたくなるような恐怖の対象である幽霊と正面から向き合わねばならないという,ある種の矛盾をはらんだ側面を持つ。そして恐怖の対象に向き合い続ける体験がプレイヤーにもたらすものは何なのか,というのが今回のテーマである「怖さを見つめる」に深く関わってくる。
ここからは,番組の内容に沿って,いくつかのキーワードと共に零の魅力に迫っていこう。
KEYWORD1 見えざる気配に恐怖する
シリーズ第1作「零〜zero〜」の主人公は霊感の強い少女,雛咲深紅(ひなさきみく)17歳。突如失踪した兄であり唯一の肉親でもある真冬の行方を追って,兄が残したメッセージを頼りに捜索を始めると,廃墟となった屋敷にたどり着くが,そこで奇妙な心霊体験にあって屋敷に閉じ込められてしまう。
プレイヤーは行方不明の兄を見つけて屋敷から脱出することが目的となるが,その行く手を阻むのがどこまでも続く闇である。手がかりを求めて屋敷を進むプレイヤー。しかし明かりは時折見かけるろうそくと,主人公が持つ懐中電灯のみと心もとない。また,どこまでも続くような廊下や,先の見えない曲がり角といった日本家屋独特の構造も,プレイヤーの恐怖を掻き立てるのに一役買っている。
情報収集のために屋敷内を物色すると,屋敷の周辺で起こった殺人事件の切り抜き記事などが見つかる。しかし,そういったアイテムを調べようとすると,幽霊の妨害が始まる。プレイヤーキャラクターは幽霊に触れられると魂を吸われて体力が減っていくので避けねばならないが,幽霊は実態がないため障害物や壁などはお構いなしだ。さらには瞬間移動なども使いながら,主人公に襲いかかってくる。
番組では,ディレクターの柴田氏が開発時のポイントを惜しみなく紹介した。まず,幽霊が出るまでの何も起きない時間を怖くするためにプレイヤーの知覚のギリギリをつくというのが,鍵だったという。
「見えそうで見えない,聞こえそうで聞こえないというのを積み重ねていくと,人間は自分の五感の限界をちょっと上げようとして,合わないチューニングを合わせようとする。それが何かを(恐怖を)感じている瞬間だろうと思った」(柴田氏)
そういう観点から,同作では全体的に画面を明るくせず,暗闇の中に何かが浮かび上がってくるかもしれない,といった状態を意図的に作り出していたという。
「CGがどれだけ発達しても(人の)想像力には叶わない。頭の中で怖いと思うことが一番怖い状態」(柴田氏)
そのほかにも,和風ホラー特有の湿度を感じるようなプレイテンポを保つことを重視したそうだ。そのこだわりはキャラクターの移動速度で表現されており,まとわりつく湿気を感じられるような速度に調整したとのこと。
確かに和風ホラー好きには,この独特なぬめっとした感覚,湿度感というのは,言語化するのが難しいものの共通認識としてあるのではないだろうか。
KEYWORD2 見えない霊を捉える
本作において幽霊に対するプレイヤーキャラクターの対抗手段は,カメラで心霊写真を撮ることだ。プレイヤーキャラクターは物語序盤で霊の姿を捉えられる不思議なカメラを入手するので,霊が出現したらそのカメラで捉えてシャッターを切る。通常のプレイ時は三人称だが,カメラ操作時は主観視点になるので視界が狭くなり,この効果で恐怖感が増幅されるという。
カメラで霊を捉えることに成功すると,魂を封じ込めて霊にダメージを与えられる。できる限り近くでその姿を捉えると大ダメージになるのがポイントで,恐怖の対象である幽霊から遠ざかってはいけないというジレンマが,システムで表現されている。
柴田氏はどんなホラーゲームでも敵が出るとびっくりするが,そのあとは「よし戦うぞ!」と気持ちが撃退するモードに入ってしまい,それは(ホラーゲームとして)少し損だと考えているそうだ。
「零では,ちゃんと(幽霊が)自分に近づいてくるのを待って,捉えなければならない。これでようやく恐怖がリニアになっていく」(柴田氏)
加えて,左右にフェイントをかけながら襲ってくる霊や,カメラを大きく揺らすことで撮影を妨害をする霊など,零にはさまざまな特徴を持った霊たちが登場する。そういった霊を相手に試行錯誤しながら対峙していくのが醍醐味といえるだろう。
ちなみに,零のアイデアは柴田氏が子供だった頃の実体験から来ているそうだ。氏によると,自宅の近くにある神社から家まで,道がまっすぐ続いており,そこからたくさんの人間の声が聞こえたことがあるという。そして,その声のほうを見てしまったら,連れて行かれるのではないかと恐怖を覚えたことがあるそうだ。しかしある時,柴田氏は父親から壊れたカメラをもらった。そのカメラをとおして幽霊を見ても,見たことにならないのではないかと考えたという。そこからカメラで幽霊に対抗するのはどうかというアイデアにつながったそうだ。
KEYWORD3 残された思いを汲む
幽霊を撃退するだけでなく,残された想いに寄り添うことが解決になることもある。シリーズ2作目の「零〜紅い蝶〜」の一幕では,主人公の澪と双子の姉,繭が怨霊のはびこる村で呪われた事件に巻き込まれる。その探索中に二人は離れ離れになり,姉が座敷牢に閉じ込められてしまう。そんな姉を救うために屋敷を探索する主人公の前に,少女の霊が現れるのだ。
少女の霊は襲ってくることもあるが,あまり積極的ではない。この少女はとある不運な事故が原因で屋敷内で亡くなってしまった地縛霊的な存在である。プレイヤーはその少女を屋敷内で探して,ときには写真を撮って退けつつもその思いを汲み取りながら,双子の姉を救うための鍵を見つけていく。
柴田氏は,幽霊も元々は人間であり,怨霊とはいえ悪い部分だけではない。何か理由があったり思いがあったり,伝えたいことがあったりというのを残しているので,そういったものにフォーカスしてキャラクターを作るようにしていると語った。
「(幽霊が)何を思ったのか,というところに共感し,解決するというゲームデザインにすることで,また違うホラーゲームになってくるなと思っていた」(柴田氏)
KEYWORD4 今なお抱える“願い”の先に
第5作「零 〜濡鴉ノ巫女〜」では,より怖さを見つめることで霊の思いを汲むだけではない新たな発見がある。この作品では,霊の残した思いを読み取れるシステムが実装された。これが主人公と霊の関係性を深めることになる。
このシステムの象徴となるのが,白菊というさみしい思いを抱えた霊との出会い。白菊は,かつて怨念のこもった山を封印するために箱に入り人柱となった少女だ。100年以上も成仏できず孤独な存在となった彼女には,忘れられない願いがあった。それは幼馴染の邦彦と結ばれること。生前は叶わなかった願いであり,白菊は今も箱の中で彼を待ち続けている。
そんな白菊と出会うのが邦彦の子孫である放生 蓮(ほうじょうれん)だ。白菊は蓮にかつての邦彦を重ねて二人が結ばれるという願いを叶えようとするが……幽霊と人間の恋は当然うまくはいかない。悲しいことにプレイヤーはカメラで白菊を撃退することになるが,その際に魂に触れて白菊の思いを垣間見る。
しかし白菊の本心は,戦いの中で彼女の言動に着目することで見えてくる。番組内では撃退するのとは別の方法で白菊の儚い思いへと迫る展開も紹介された。彼女の唯一の願いは,とても単純で簡単なものだった。
ゲストの堀さんは,零シリーズをプレイしたあとの感覚について,「良い小説を読んだあとのような気持ちになる」と評す。登場人物に思いがたくさんあって伝えたいことが数多くあり,自分の中で感情が変わっていくのが面白かったという。
三浦さんも,幽霊目線でのグッドエンディングがあるといった側面に触れることで,プレイヤーの気持ちが変化していくと語っていた。
柴田氏は,幽霊が残す思いは最終的には純粋なもの(願い)になっていくと話す。すべての幽霊の最後の感情を受け取ってエンディングを迎える,零をそういうゲームにしたいと思っていたそうだ。
最後に,今回の3人の感想をまとめておこう。
「(零は)ただ怖いだけではなくて自分の現実世界の考え方や生き方に変化を与えてくれたものの一つ。他人や自分の課題に向き合うのは簡単なことではないけれど,苦手なものにも向き合っていかなければならないと思った」(堀さん)
「(幽霊は)どうしても相容れない,違う時空にいる存在だが心を通わせることができる。怖さの先にそれがあるというのが零という作品の持つすごさだと思った」(三浦さん)
「零とは,記号としては存在しているけれど,無いことを表している。幽霊もそういうものなのではないか。幽霊がいて,その存在を見よう感じようと積み重ねていくことで,自分も変わっていくし,自分の中にこういう感情があったのだと気づいてもらえたらいいなと思う」(柴田氏)
2024年1月10日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で1週間見逃し配信あり
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