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[CEDEC 2014]「龍が如く」の名越稔洋監督が,スマートフォンの台頭する日本のゲーム市場を語る。基調講演「これからのゲームとゲームクリエイター」
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講演は,セガの取締役 CCOである名越稔洋氏が,スマートフォンが台頭する今後のゲーム市場とゲームクリエイターのあり方,そして自身の代表作である「龍が如く」シリーズに,どのような姿勢で取り組んでいるかなどを語るものだ。
例えば東京ゲームショウでは,オープニングムービーなどとは別に来場者の興味をひくであろうトレイラーを用意するなど,プロモーションプランは早い段階で考えておく必要があるようだ。
名越氏は「本音を言えば,数年かけて1作を作りたい気持ちもあるが,映画『男はつらいよ』シリーズのように毎年新作を公開することがサービスになっている」と語った。
また,「龍が如く」のようなアクションアドベンチャーの開発では,ゲームとシナリオを分けて考えることができないと語る。なぜなら「こういうゲーム体験を提供したいから,盛り上がるシナリオが必要」「シナリオのここが面白いから,ゲームとして遊ばせる」といったように,両者が相互に影響し合うことで成立するジャンルだからだ。
途中にはさまざまな試行錯誤があり,一つのアイデアがうまくいかないため,別のアイデアが必要となったり,あるいは考えたアイデアが次回作に持ち越されたり,さらには,まったく別のタイトルに採用されたりすることもあるという。「龍が如く」シリーズは,そのようにして作品を重ねて来たわけだ。
それは,スマートフォンのこれまでの普及速度と,今後のシェアの伸びを見越した結果であり,名越氏は「かつて映画が,テレビに取って代わられたときと同じようなもの」と表現し,「テレビで培われた要素が,映画に取り入れられた例もあるので,コンシューマゲームとスマートフォンのゲームの関係も,同じようになっていくのではないか」とした。
こうした状況の変化に対応するには,ライフスタイルの変化に敏感になる必要があると名越氏は述べる。ライフスタイルの変化とは,「技術」と「サービス」の変化であり,それがいったん利便性の高いほうにシフトしてしまうと,もう元に戻ることはないというのだ。
例えば,かつて音楽を聴きたければライブ会場に出向くか,自宅にオーディオセットを用意するしかなかったが,現在は,スマートフォンで音楽を楽しんでいる人も少なくない。名越氏は,「いる場所を失ったオーディオセットが,再び場所を取り戻すことはないだろう」とし,やがてコンシューマ機も場所を失い,スマートフォンでゲームを遊ぶ層が何倍にも増えることが容易に想像できると語った。
ならば,名越氏は近い将来,コンシューマゲームの開発を止めてしまうつもりなのかというと,そうではない。名越氏は,自身がコンシューマゲームを介して人々に“感動”を提供することで社会貢献をしていると話し,人々が人生を豊かに生きるため,手軽で利便性の高いスマートフォンのゲームと,それとは違った感動を与えてくれるコンシューマゲームの双方があっていいとする。結局は,誰に向けてどんなサービスを提供するかが重要となる。
それでは,環境の変化の中で,ゲームクリエイターはどうあるべきか。
ソーシャルゲームが勢いよく台頭し,GREEやDeNAといった企業が目立っていた頃には,従来のゲーム開発のスキルはもう必要ないという意見もあったが,ハードウェアの進歩によってスマートフォンゲームのジャンルが多様になるのに伴って,そうしたスキルが求められるようになってきた。
実は,名越氏がセガに入社した1989年当時にも似たようなことがあり,その頃はゲームにアートのスキルは必要ないと言われていたが,ハードの表現力が高まった現在は,むしろ他社タイトルとの差別化のためにアーティスティックな要素が必須となっている。名越氏は「ゲーム業界では,この25年間,同じようなことが繰り返されてきた」と振り返った。
また49歳になる名越氏と,物心ついたときにはインターネットのブロードバンド環境が存在していた若い世代とでは,物ごとに対する考え方も違うという。
例えばセガに入社したいという学生に,ほかにどんな企業の入社試験を受けたかを聞くと,以前なら同じゲーム業界の企業名が返ってきた。ところが今は,食品会社など,まったく別業種の企業名が挙がることが普通になっているそうだ。
これについて名越氏は「今では,ゲーム業界がオープンになり,“面白そうな業界”というカジュアルなイメージが世間に浸透している」とし,ゲーム企業としても,さまざまな層から人材を求めていかないと,新しい環境にマッチしたビジネスを展開できないのではないかと述べた。
名越氏は,ネットの評価だけで判断を下すことについて,「自ら感動する場を避けているようなもの」とし,「そんな人間が,他人を感動させるようなものを作ろうなどというのは,ちゃんちゃらおかしい」と表現。実際に料理を食べてみて,世間はまずいと言っているけれども,自分は美味いと思ったとしたら,そのズレを体験することこそが,大事な勉強であるというわけだ。
以上を踏まえ,名越氏は,豊かな考え方が生まれやすい環境の一つとして,同じ目的や似たような考え方を持つ仲間を探し,その人付き合いを深めていく中で,たまにデジタル要素を使って精度を高めていくことを勧める。これだけ情報があふれている世の中では,ともすればネットの情報に流されてしまいがちだが,実際の社会生活においては,(規模の大小こそあれ)人と人との集団で何ができるのか,お互いの持っているものを掛け合わせることが重要になると語り,それはゲーム開発においても同じであるとした。
また名越氏は,余談として,自身の仕事をするうえでの取捨選択にも言及した。名越氏の考えるもっともヒットする要素とは,「認知度が高く,誰もやっていないこと」だ。
名越氏は,仕事を「速さ」と「正確さ」の2軸で考えているという。一番いいのは速くて正確なことだが,これを実現するのはかなり難しい。一番悪いのはもちろん,遅くて不正確なことだが,仕事という性質上,狙ってこれをやるケースはないだろう。
そうなると「速いが,正確さに欠ける」「正確だが,時間がかかる」の二つが残るわけだが,これらはプロジェクトによって使い分ける必要があると名越氏は言う。
例えば試行錯誤する時間があるなら,いったん速めに仕上げて,もう一度やり直せばいい。逆に時間がなければ,ギリギリまで正確さを追求して1回で仕上げたほうがいいかもしれない。名越氏は,そのプロジェクトで何が求められるかをきちんと天秤に掛けることで,面白いことができるのではないかと話した。
ゲーム業界全体が世代交代して若返っている中,現場感覚を維持したり,世代間ギャップを克服したりするために配慮していることについて,名越氏は,仕事やゲームをするうえで,普遍的なもの──名越氏の表現では「道理」に逆らわないようにしているという。そうした道理は,長く経験している人間だからこそ他人に示せるものとして蓄積しておき,若手の成功率を上げることに活かしているとのことだ。
また,若手が「今,面白い」といっているものに自身で触れてみて,自分なりに「なぜはやっているのか」を分析することにも努めているという。そのアプローチは仕事で使うツールに対しても同じで,例えば「龍が如く」のトレイラーの最終的な仕上げは,自分の手で最新ツールを駆使して行っているそうだ。
これまでのゲーム開発の中でもっとも勉強になったのは,「失敗したとき」だったとのこと。名越氏によると,うまくいったときは自信がつくけれども,どこが要因になったかは分からない。その一方,失敗したときは,「同じ落とし穴にはまってたまるか」という気持ちになり,必死に勉強するという。そのため,数年で1タイトルを完成させるという大規模化したコンシューマゲームの開発より,1年に何タイトルも作るスマートフォン向けゲーム開発のほうが相対的に失敗の経験が多くなるので,得られるものが多いのではないかと話した。
作りたいゲームが作れないという人に対する名越氏からのアドバイスは,「そもそも作りたいものは作れない」というものだった。名越氏自身,これまでのゲーム開発では「作れるもの」や「世間のニーズに合わせたもの」を選んできたという。
名越氏によれば,プロとは,きっと売れるであろうというものを迷いなく選択できる存在であるとし,それでも作りたいものを作ろうとするのであれば,「売れるもの」と「作りたいもの」が一致する極めて少ないチャンスを死ぬ気で掴むほかないとした。そのチャンスを増やすためには,自分自身の興味の幅を増やしたり,質を高めたりすることも一つの手であると語る。
従来のビジネスモデルのまま,コンシューマゲームが,この先残っていけるのかという質問には,「残っていきづらくなり,数は減るだろう」と名越氏は述べた。また,スマートフォンゲームが採用しているアイテム課金制の「時間を買う」「Pay to Win」という考え方はまだ入り口に過ぎず,今後掘り下げていくことによって,「プレイヤーが何のためにお金を払うのか」という新しいキーワードが登場するだろうとの見解を示した。
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最後の質問は,「龍が如く」シリーズにおけるリーダーのあり方について。名越氏は,チームの規模が大きくなると,自身の考えていることが一人一人に伝わりにくくなるが,それを避けるために「分かりやすい人物」になることを心がけているという。
名越氏は,「龍が如く」のような,ある意味で特殊なゲームの開発では,怒っているなら怒っている,褒めるときは褒めちぎるといったように,誰の目にも分かりやすい行動を取ることが,リーダーの秘訣なのではないかと語っていた。
この質問に関連して名越氏は,初代「龍が如く」の開発当時をあらためて振り返った。名越氏は,ヤクザをフィーチャーしたこのシリーズを,「認知度が高く,誰もやっていないもの」として企画しており,ヒットを確信していたという。しかし周囲を説得するのは大変で,何をしたいのか,どんなゲームにしたいのかを,スタッフ一人一人に説いて回ったという。そうやって開発に入ったあとでも,セガ社内やチームの中から懐疑の声が上がり続けたが,それでもブレることなく開発を続けられたのは,自分がヒットを確信したうえで開発をスタートしたからだとして,名越氏は講演を締めくくった。
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