インタビュー
スクウェア・エニックスが“次世代のスマホゲーム”として世に送る「3594e-三国志英歌-」。ゲームに込められた数々のチャレンジを,プロデューサーに聞いた
このタイトルは,ゲームの題材としてもはや定番とも言える「三国志」をベースにした,3Dグラフィックスのスマートフォン向けRPG。主題歌と呂布のボイスにアーティストのGACKTさん,音楽に澤野弘之氏,イメージビジュアルに天野喜孝氏と,コンシューマRPG並みの豪華スタッフを起用している。
今回,4Gamerでは,三国志英歌のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの小菅慎吾氏に,同タイトルの開発経緯や,開発過程のチャレンジ,そして今後の展望について聞いた。
「3594e-三国志英歌-」公式サイト
「3594e-三国志英歌-」DLページ(App Store)
コンシューマゲーム並みの音と映像にこだわった
“次世代”のスマートフォン向けRPG
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは三国志英歌という名称の意味するところを教えてください。
“英歌”の意味は,“英雄”の“歌”。三国志では数百人にのぼる英雄たちが,壮大なドラマを繰り広げていきます。英雄達の思い(思想,信念,愛,友情など)を総括して,英歌と表現しました。
4Gamer:
“3594e”という数字の語呂合わせも特徴的ですね。
小菅氏:
実は,あまり特別な意味はないんですよ。格好いいんじゃないかと思いまして(笑)。
……映画「300 <スリーハンドレッド>」みたいな感じに受け止めていただけると,嬉しいです。
4Gamer:
なるほど。ひょっとして,“英歌”というのは“映画”,つまりジャンルの“シネマRPG”とも掛けているんでしょうか。
小菅氏:
いえ,そこはまったく関係ないんです。説明したとおり,“英歌”は“英雄”の“歌”と解釈してください。
4Gamer:
ちょっと深読みしすぎましたね(笑)。
シネマRPGということで,ムービーシーンも一つのウリになっているそうですね。
小菅氏:
ええ。ストーリーは章仕立てになっていて,各章の終わりにムービーが入ります。きちんと3Dモデルのキャラクターが動いて芝居をしますし,アクションシーンもあります。
4Gamer:
ストーリーは,三国志を最初からなぞっていく形でしょうか。
小菅氏:
そうです。当初は「三国志演義」の冒頭,つまり黄巾の乱に始まり,董卓や呂布のエピソードがあって,その少しあとまで入っています。もちろん,その後のストーリーも順次開発しており,雑誌連載のようなイメージで続々と配信していきます。
4Gamer:
ゲームはどんな感じで進行するんですか?
小菅氏:
ストーリーの各章は,複数のクエストで構成されています。クエストの道中はオートで進行し,遭遇する敵をタップで攻撃して,倒していきます。クエスト中は,キャラクターの掛け声などはもちろんのこと,ボーカル入りのBGMも流れます。
最終的にボスを倒せばクエストクリアとなり,それを繰り返して章をクリアしていきます。そして章の終わりにムービーが入るという形ですね。
三国志に詳しくない人も楽しめる,
華やかな“スクエニっぽい三国志”
そもそもの話になってしまいますが,題材として三国志を選んだのはどうしてでしょうか。
小菅氏:
まず,世の中の多くの人が知っている,普遍的な題材がいいだろうと考えました。例えばスクウェア・エニックスでは,オリジナルストーリーのRPGを数多くリリースしていますが,ゼロから認知を得ていくのはなかなか難しいんですよ。
4Gamer:
確かに,各社とも新規IPの認知度を高めるのには苦労されていますね。
小菅氏:
そういった状況のなか,学校の歴史の授業で取り上げられるような戦国時代や三国志であれば,多くの人が知っています。また詳しい人に対しては,各キャラクターの説明をする必要もありません。僕が「戦国IXA」を制作したときも,同じような考え方で企画を立てたんです。
4Gamer:
ただ,三国志という題材は,かなりポピュラーですから,競合するタイトルも多いですよね。三国志英歌ならでは,という部分を教えてください。
小菅氏:
お話してきたように,3Dモデルのキャラクターや音などの表現のへのこだわりですね。またストーリーやシステムからも,これまで三国志を扱ってきたスマートフォン向けのゲームよりも,作り込んでいることを感じ取っていただけると思います。
4Gamer:
題材となる三国志へのこだわりはいかがでしょう?
小菅氏:
そこは,それほど強くないかもしれません。中には三国志らしくないような表現もあります。たとえば呂布の甲冑が,少し西洋テイストだったりしています。
4Gamer:
そこに特別な理由があるのでしょうか。
小菅氏:
本格的な三国志世界に寄せすぎてしまうと,どうしてもハードルが高くなってしまうんですよ。もともと三国志に詳しい方にとってはそちらのほうが嬉しいとは思うのですが,それほどでもない方やスクウェア・エニックスの新作RPGとして注目してくださる方にも遊びやすいように配慮しています。これもこだわった部分ですね。
4Gamer:
つまり,間口を広げるためのアレンジを加えているということですね。
小菅氏:
そうですね。見た目で言えば“華やかな三国志”──言ってしまえば“スクエニっぽい三国志”に仕上がっています。
スマートフォンのスペックを
最大限に活かすゲームを目指した
4Gamer:
それでは,3Dグラフィックスや音にこだわった理由について,あらためて教えてください。競合タイトルとの差別化のため,というお話もありましたが。
まず,このプロジェクトを立ち上げたのが,約1年半ほど前の話です。当時は「パズル&ドラゴンズ」の話題で世間が持ちきりで,スクウェア・エニックスとしても次にどんなゲームを出せばいいのか模索していたんです。その過程では,これまであったゲームを参考にするものや,新しい試みに取り組むものなど,さまざまなプロジェクトが生まれました。
そしてこのプロジェクトには,次世代のスマートフォン向けゲームを目指そうというミッションが下りました。
4Gamer:
最もチャレンジングなプロジェクトという扱いになったと。
小菅氏:
はい。当時はこの先,スマートフォンのスペックが上がり,携帯ゲーム機と変わらないくらいの処理能力を持つだろうという予想がありました。そうなると,スマートフォンのゲームでも,3Dグラフィックスが主流になるだろうと。
そこで1年半後のタイミングで,競合他社が付いて来られないレベルの3Dグラフィックスのゲームを目指すことにしたんです。
4Gamer:
最初に高い目標を設定したわけですね。
小菅氏:
また3Dグラフィックスを使うのであれば,2Dとは違い,さまざまな演出ができます。三国志英歌ではまだ実現できていませんが,プレイヤーキャラクターのカスタマイズも可能になるでしょう。そういったように,先々の展開を考えたときに,3Dグラフィックスは必須だったんです。
また3Dでイベントシーンを表現できるなら,SEなどの音にももっと力を入れたいと考えるようになりました。
4Gamer:
そこで音に着目した理由はなぜですか?
小菅氏:
ビジネスの話になってしまいますが,いわゆる“売れるキャラ”というのは,主に「強い」「イラストがいい」ことが大きな理由です。そしてもう一つ,「ファンになってもらった」キャラも人気が出ます。
それでは,どうやってファンになってもらうかというと,そのキャラのエピソードを通じて,笑ったり泣いたりといったさまざまな表現を見せるのが一番なんです。その観点から,ボイスにはこだわろうと。
また音楽へのこだわりという意味では,そこは“スクエニのゲーム”ですから,中途半端にはできません。
4Gamer:
確かに音楽は,往年のスクエニファンが大きな期待を寄せる部分です。
小菅氏:
音楽は,最初から澤野弘之さんにお願いしようと決めていました。アニメ「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」で,初めて澤野さんの音楽を聴いて「この人はすごい」とファンになりました。それから澤野さんは「機動戦士ガンダムUC」や「進撃の巨人」などを手がけられるなど,皆さんご存じのとおり大活躍されているけです。僕も長年機会を伺っていて,今回,音楽の重要性が高い本作を制作することになり,ようやくお願いできるチャンスを得たというわけなんです。
4Gamer:
なるほど。ただ1年半前というと,それこそ澤野さんはアニメの仕事などでお忙しい時期ではありませんでしたか?
小菅氏:
非常に多忙であったにも関わらず,澤野さんにも事務所の社長さんにも本当に良くしていただいて,魂を揺さぶる楽曲を数多く制作していただきました。
50人規模のオーケストラによる録音を使用していますので,ぜひヘッドホンで聴いていただきたいですね。
GACKTさんや天野喜孝氏,
そしてベテラン声優陣も起用
4Gamer:
それでは,主題歌にGACKTさんを起用した理由も教えてください。GACKTさんは呂布のボイスも担当しているんですね。
英歌の要である,歌とボイスの双方ができて,しかもきちんとキャラを作れる方が必要でした。また,三国志英歌では呂布をクローズアップしようと決めていましたから,呂布に相当するオーラや威厳のある方,実在の呂布となって世界観を表現してくれる方……と考えていくと,GACKTさん以外には考えられませんでした。
4Gamer:
確かに,そうかもしれません(笑)。
小菅氏:
そして何より,NHK大河ドラマ「風林火山」でGACKTさんが演じたていた上杉謙信が,きちんとキャラが作り込まれていて格好良かったんですよね。ああいった,一人だけ抜き出しても話題になるような感じを作りたかったんです。そこでGACKTさんにお願いしました。
4Gamer:
GACKTさん以外の声優陣も,かなり豪華というか,実力派のベテランぞろいですよね。
小菅氏:
三国志英歌を企画するにあたって,僕と同じ30代前半の人達にきちんと刺さるゲームを作りたいという思いがありました。本作には,僕らの世代が子供の頃に大好きだったキャラクターを演じられた役者さんが数多く参加しています。
あれ? どこかで聞いたことのある声だな?と感じる人も多いと思います。豪華共演のキャラクターボイスを楽しんで下さい。
4Gamer:
楽しみにしています。
ところで,イメージビジュアルには天野喜孝さんを起用していますね。
小菅氏:
目指すところは,スクウェア・エニックスの看板タイトルである「ファイナルファンタジー」ですから,まずは天野さんに相談してみるべきだろうと考えた次第です。
とくに今回は,背景をメインに描いていただきました。天野さんの場合,ご本人もおっしゃっているのですが,キャラクターメインの絵が多いんですよ。
4Gamer:
背景がメインになったのは,天野さんの判断なんでしょうか。
小菅氏:
いえ,僕のほうからお願いしました。天野さんと言えば,眼力の強いキャラクターが印象的ですが,あえてバックショットにしたのも僕が決めたことです。
4Gamer:
それはどういった理由なんでしょう?
小菅氏:
僕はかつて,ニンテンドーDS版「ファイナルファンタジーIII」の開発に携わっていたのですが,あのときに天野さんが壮大な背景を描かれていたのが印象に残っているんです。それで今回も,可能であればと打診してみました。
SNS並みの機能を持ったチャットシステムを実装
将来的には画像の送信なども可能に
4Gamer:
そのほか,開発上でこだわった点などを教えてもらえますか。
ここまで3Dグラフィックスや音にこだわると,その処理のためにスマートフォン本体が熱くなりますし,バッテリーの消費も速くなりがちです。そこで,少しでも処理を軽くするべく,最後の最後までブラッシュアップを続けました。本当に地道な作業の繰り返しでしたね。
また音楽やボイスのデータが多いので,どうしてもゲームアプリ自体の容量が大きくなってしまうのですが,さまざまな部分で最適な圧縮をかけることで,何とか一般的なレベルに近づけています。
4Gamer:
3Dでキャラクターを作る場合,アップデートによる追加がいろいろとたいへんだという話を聞いたことがあるんですが,そのあたりはいかがでしょう?
小菅氏:
そうですね。追加の衣装を作るだけでも大変ですが,三国志英歌の場合,モーションも作らなければなりません。さらにイベントシーンのムービーもありますから,配信の何か月も前から準備する必要があるんですよ。ただ,そこはスタッフが気合いを入れて頑張れば実現できることですからね。
4Gamer:
例えば今後,コラボレーションで,ほかのアニメなりゲームなりのキャラを実装することがあるとしたら,かなり前から入念な準備をしなければならないわけですよね。
小菅氏:
そうですね。ただ逆に,衣装やモーション,ボイスを再現することによって,よりコラボ先のイメージに近いものを提供できるという考え方もできるのではないでしょうか。2Dのイラストだけだと,なかなかそうはいきませんから,非常に可能性が広がると思いますよ。
4Gamer:
なるほど。大変そうだからやめておこうと考えるのではなく,困難を乗り越えた先にある可能性にチャレンジしていくという姿勢なんですね。
小菅氏:
あまり,あとのことを考えていないだけかもしれませんけどね(笑)。
そうそう,チャットシステムにも力を入れているんです。
4Gamer:
と言いますと?
小菅氏:
実は三国志英歌の中には,SNSライクなチャットシステムが入っているんです。はやりのスタンプも使えます。
スマートフォンのゲームでは,チャットシステムが用意されていても,あまり利用はされていませんよね。その一方で,LINEなどのSNSは頻繁に使います。そこでゲームの中に,一般的なSNSに似た仕組みを入れてみたらどうだろう? と考えたんです。
4Gamer:
そうまでしてプレイヤーにチャットをさせたい理由があるのでしょうか。
小菅氏:
僕らとしては,ゲームの中でコミュニケーションを取ることで,新しいお友達を見つけたり,交流を深めたりしていただきたいという思いが強いんです。しかし「戦国IXA 千万の覇者」もそうだったんですが,最初はなかなかチャットを使っていただけないんです。
また,さらに分析を進めると,チャットを使い始めたばかりのほとんどの方は,最初は顔文字を使って意思表示をしようとしていることが分かりました。そこでLINEのように,スタンプ機能を採用しようと考えたわけです。
4Gamer:
スタンプで,コミュニケーションのハードルを下げるわけですね。
小菅氏:
さらにこのチャットシステムは,将来的に画像の送信も可能となる予定です。なので三国志英歌のことみならず,さまざまな話題で盛り上がっていただきたいですね。
僕自身,戦国IXAを1プレイヤーとして遊んでいたときは,そのとき食べているものとか,他愛のないことばかり話していましたから。
送信できる画像は,三国志英歌のスクリーンショットだけですか?
小菅氏:
いえ,それだけでなく,スマートフォンで撮影した写真なども送れる機能が完成しています。ただそうなると,スクウェア・エニックスとしてさまざまなルールを整備しないといけませんから,皆さんに機能を開放するのは少し先になりそうです。
4Gamer:
PCオンラインゲームでも,撮ったスクリーンショットをゲーム内でほかのプレイヤーに送信するような機能はありませんから,実現するとかなり盛り上がりそうですね。
小菅氏:
そうなんですよ。ただ,新しい機能であるからこそ,ルールもきちんと定めなければなりません。なので,もう少しお待ちください。
1〜2か月後にはAndroid版も配信
レイド戦やクエスト配信などのイベントも
4Gamer:
それでは,三国志英歌の,今後のスケジュールを教えてください。
小菅氏:
まず10月29日にiOS版が配信されますが,そのあと1〜2か月以内にAndroid版をリリースする予定です。この場でお見せしているとおり,すでにAndroid端末で動作していますが,もう少し検証する時間をください。
また同じく1〜2か月前後で,対戦コンテンツを実装する予定です。こちらは,まだ仕様が確定していないので,情報公開をお待ちください。
さらにキャラクターや武器も追加していきます。キャラクターには当然ボイスが付きますし,武器には専用スキルを用意します。
4Gamer:
キャラクターや武器は,どのくらいの頻度で追加されるのでしょう。
小菅氏:
数までは言えないのですが,毎月何かしら追加します。キャラクターは,無料のものも有料のものも用意します。また武器は,ほとんどが頑張って遊んでいれば手に入れられます。
4Gamer:
イベントはどうでしょう。
小菅氏:
レイド戦を用意しています。これは最大5人のプレイヤーが協力して,マップ内に登場する敵を倒していき,条件を達成すると新キャラクターがボスとして出現するという内容です。ボスを討伐すれば,そのキャラクターを獲得できる素材などが手に入ります。
そのほか,ゲリラ的にクエストを配信して,それをクリアすると新キャラクターの素材を入手できるようなイベントも予定しています。
4Gamer:
ストーリーの追加は,どのくらいのペースで行うのでしょう。連載のような感じというお話でしたが。
小菅氏:
最初の追加は,配信開始から3週間程度経ったらと考えています。あとは順次,追加していきます。
4Gamer:
それでは最後に,三国志英歌を楽しみにしている人に向けて,メッセージをお願いします。
三国志に詳しくない方でもきっちり楽しめる内容に仕上がっています。僕個人としては,三国志における国同士,キャラクター同士の関係性が楽しいと感じています。三国志というテーマは,入るまでのハードルが高く,小難しい印象を与えてしまうので,本作では,そのハードルを下げる努力をしました。それはキャラクターの表現もそうですし,音楽にしても“いかにも中国”という感じは避けています。色使いも,赤や茶を使った三国志然とした形にはしていません。
一度入ってきてくだされば,「なるほど,スクエニが三国志をやるとこうなるのか」ということが分かっていただけると思います。どんな遊び方にも対応できるよう作りましたから,それこそチャットしているだけでも楽しんでいただけるのではないでしょうか。幅広く遊んでいただけると思いますので,ぜひご期待ください。
4Gamer:
さまざまなチャレンジが詰まったタイトルだけに期待が高まります。本日はありがとうございました。
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