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VR&AR技術「Windows Holographic」をサードパーティに開放したMicrosoftの狙いとは? 台湾でのイベントから同社の戦略を読み解く
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印刷2016/06/08 15:47

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VR&AR技術「Windows Holographic」をサードパーティに開放したMicrosoftの狙いとは? 台湾でのイベントから同社の戦略を読み解く

MicrosoftテクニカルフェローでHoloLens開発スタッフとして知られるAlex Kipman氏が,Windows Holographicのサードパーティに対する開放の説明を行った。キーワードは「Go beyond the screen」(スクリーンの先へ)
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 去る2016年6月1日,COMPUTEX TAIPEI 2016(以下,COMPUTEX)に合わせて行ったイベントでMicrosoftは,同社が開発した仮想現実(以下,VR)や拡張現実(Augmented Reality,以下 AR)向け技術「Windows Holographic」をサードパーティに開放すると発表した(関連記事)。
 しかし,このMicrosoftによる新施策の狙いや目指すところについては,よく分からないという読者も多かったと思う。そのフォローアップとともに,背景にあるMicrosoftのサードパーティ戦略についてまとめたい。


Windows Holographicの狙いと複合現実の意味


 現在のMicrosoftは,PCからゲーム機まで,同社の提供するOSプラットフォームのコアを「Windows 10」の下に共通化して,同一のアプリ実行環境とアプリストアを整備しようとしており,この仕組みは「Universal Windows Platform」(UWP)と呼ばれている。同社が開発中のAR対応型ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)「HoloLens」もまた,このWindows 10エコシステムの一部であり,共通のUWPアプリが動作するようになっている(関連記事)。

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 ただ,現在のHoloLensは,2016年3月末に開発者向けキットである「Development Edition」の提供が開始されたばかりで,価格も1台3000ドルと非常に高価だ。そのうえ購入にあたっては,Microsoftに対してHoloLens対応アプリの開発に関する提案書を送って受理された場合にのみ許可が下りるという許可制となっており,さらに案件1つにつき最大2台までの購入となっている(そのうえ,現状では基本的に米国とカナダの開発者のみが対象)。
 一般ユーザーが実際にHoloLensの世界を体験可能になるのは,2017年以降と予告される製品版の正式ローンチを待たなければならないだろう。

 HoloLensの正式ローンチにあたっては,製品はより洗練されて,値段も多くの消費者が手にしやすいものになると考えられる。ただ,Microsoft 1社のみがハードウェアを提供していたのでは,さまざまなユーザーニーズへの対応や供給力の面から問題があり,今後のプラットフォーム普及に支障が出る。そこでプラットフォームを開発することでサードパーティのメーカーに対応ハードウェア開発を促し,来たるべきローンチの日に備えて市場を盛り上げていこうというのが,前回報じたサードパーティへの開放の狙いだ。

Windows Holographicのサードパーティ一覧。プロセッサメーカーやPCメーカーなど13社が名を連ねている
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 さて,Windows Holographicのサードパーティ開放で興味深いのは,この技術に対応するのはHoloLensのようなシースルー型HMDだけでなく,Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」といった,視界をすべて被うVR HMDのようなデバイスも含まれている点だ。
 実際,この件が発表された基調講演のステージでは,HoloLensとViveを装着した2人1組のペアが,空間上で同じ仮想オブジェクトを互いに操作しながら共同作業を行う様子が紹介された。VR HMDであっても,HoloLensと同様の仕組みが利用可能であることを示していたわけだ。

壇上では,Viveを装着した男性(左)とHoloLensを装着した女性(右)が登場
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両者が共同でオートバイのデザイン作業を行うというデモが披露された。周囲が直接見えないVR HMDであっても,HoloLensと同じ仮想オブジェクトの存在する世界を共有できるのが,Windows Holographicというわけだ
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 HoloLensの場合,ゴーグルを通して見えるのは,現実の視界にホログラム状のオブジェクトが重ねて表示されたものとなる。このオブジェクトは,ユーザーが移動しても,現実世界のその場にオブジェクトが存在するかのように,固着して見えるのだ。この現実と仮想空間の中間にあるようなARの仕組みが,HoloLensの特徴だといえる。

 ただしMicrosoftは,HoloLensで実現される仕組みを「複合現実(Mixed Reality,以下 MR)」と表現しており,従来言われていたARとは明らかに区別している。MRといえば,現実の映像と人工の映像を混在させる技術としてすでに知られているのだが,ここでいうMRはかなり違った意味のものであるようだ。同社によれば,MRは物理現実(Physical Reality)とVRの中間に位置し,両者がミックスしたものだと説明する。HoloLensとVR HMDを装着した2人によるデモもそれを示したもので,現実に近いHoloLensと,完全に仮想世界として描き出されるVR HMDで,共通の体験が可能であることを示していたわけだ。
 つまり,AR HMD(≒HoloLens)とVR HMDのどちらからでもアクセスできる世界が,Windows Holographicで実現される「MR」ということなのだろう。

Microsoftでは物理現実(Physical Reality)と仮想現実の中間的な存在として,MRを提唱している。その意味するところを説明したのが,ViveとHoloLensによる共同作業デモというわけだ
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HoloLensのデモ動画といえば,現実世界に仮想オブジェクトを重ねて表示するAR的なイメージを紹介することが多かった。しかし,今回のデモでは,HoloLensを身につけた登場人物が,仮想世界に紛れ込んだようなイメージが展開されている点が大きな違いであった
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ゲームの世界はディスプレイから飛び出す


 今回の基調講演ではほかにも,2016年7月に配信開始と噂されるWindows 10の次期大型アップデート「Anniversary Update」に関する最新情報や,拡大するMicrosoftとWindowsのエコシステムについての説明も行われた。

ゲーマー向けPCの話題では,PCだけでなくVR HMDもその一部として取り扱われていた。とくにViveに関する扱いが特別大きかったのは,台湾でのイベントだったからだろうか
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 昨今のPC市場は横ばいまたは縮小が続いており,スマートフォンにおけるWindowsの世界シェアもわずか数%にとどまっているという厳しい状況にある。だが,そんな状況でも引き続き急成長を見せているWindows搭載デバイスが,「2-in-1 PC」と「ゲーマー向けPC」であるという。
 ゲーマー向けPCに関する説明では,ハイエンドのデスクトップPCやノートPCだけでなく,ViveやRiftといったVR HMDも紹介が行われており,とくにデモでも用いられたViveは,大きくクローズアップされていた。

 PCの話題にVR HMDを組み合わせて魅力をアピールしているのと似ているが,最近のMicrosoftはPCの枠を超えてパートナーを獲得し,エコシステム拡大を目指している様子が散見される。これを支える仕組みが「China Technology Environment」(CTE)と呼ばれるものだ。主に中国の深センや台湾に存在する設計・製造メーカー(ODM(Original Design Manufacturer),またはEMS(Electronics Manufacturing Service)と呼ばれる)による製造業ネットワークを総称して,こう呼んでいる。
 Microsoftは,PCメーカーにWindows OSをライセンスする形で協業を行っており,これらPCメーカーは,「OEM(Original Equipment Manufacturer)」と呼ばれる。OEMの中には,自分でPCの設計と製造を行うメーカーもあるが,その多くは,実際の製造をODM/EMSへ委託していたりする。

Mike Quinn氏(Vice President,Global Device Sales&Partnerships-China,Microsoft)
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 MicrosoftでグローバルODMデバイスセールス&パートナーシップ担当バイスプレジデントのMike Quinn氏によれば,同社は2年ほど前から深センに常駐する形で,現地のCTEを構成するODM/EMSと,OEMとの仲介や支援事業を続けているとのことだ。

 深センエリアには,スマートフォンで知られたHuawei Technologies,ZTEといった地元企業のほか,海外大手メーカーも研究開発施設を設けており,さながら中国版シリコンバレーの様相を呈している。
 技術力も年々向上してきており,このCTEを通じて製品開発を行うことで,コスト削減だけでなく,市場への製品投入サイクルが従来の9か月から3か月程度まで圧縮できるメリットがあるという。

 日本で見られるCTE活用の顕著な成果といえば,過去1年ほどの間に10社近くが新製品を投入した「Windows 10 Mobile」搭載スマートフォンが好例だ。中には,「NuAns NEO」のトリニティやヤマダ電機といった,従来までPCやスマートデバイスをリリースしたことのない新規参入のOEMまでおり,MicrosoftがCTEと組んで製品開発を手厚く支援したことが,新しい製品を世に出すことに貢献していることがうかがえる。

OEMやODMなどデバイスパートナー同士を結びつけるイベント「LINC」でのひとこま。会場では数多くのPCに加えて,写真のようなAR型デバイスのプロトタイプ展示も行われており,製品化を目指していた
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 Microsoftによると,現在はPCが中心となっている同社のCTE活用も,今後は前述のようなVR/AR型のデバイスのほか,「IoT」のような組み込み機器まで,幅広い分野をカバーしていくという。
 普段は一般公開されていない,Microsoft主催によるパートナー同士の商談イベント「LINC」のイベント会場では,ODMによるVR/ARデバイスの展示が見られており,将来の商品化を睨んだ取り組みが水面下で進んでいることが分かる。

 おそらくは,Windows 10 Mobile搭載デバイスが一気に市場投入されたように,2017年以降はVR/AR型のデバイスがOEM経由で多数登場するだろう。しかも,そのうちの何社かは完全に新規参入のOEMメーカーになることが見込まれており,VR/AR型デバイスの市場は,非常に華やかなことになりそうだ。

Microsoftによる当該プレスリリース

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